「さて、城も手に入れたことだし、次はこの城に相応しい極上の女をだな……」
ランスが脂ぎった手でソファーの背もたれを叩き、ニヤニヤと卑しい笑みを浮かべた瞬間、応接間の重厚な扉が音もなく、しかし絶対的な圧力をもって左右に開け放たれた。
「――ほう。他人の庭に不法占拠を極め、あまつさえその不浄な口で我が世の美を語るか。真に度し難いな、緑の雑種」
冷気の立ち込める朝靄を突き破るようにして現れたのは、黄金の甲冑を纏った人類最古の英雄王――ギルガメッシュだった。
その背後には、彼をこの城の隠し通路から手引きしたであろう言峰綺礼が、神父服の裾を揺らしながら静かに佇んでいる。
「ギルガメッシュ……! それに綺礼! なんでここが……!」
凛が即座にソファーから飛び起き、手元に魔力を集中させる。
「うふふ、驚くにはあたらないわ、遠坂の娘」
さらにその影から、空間をねじ曲げるようにして紫のローブを纏ったキャスターが姿を現した。「アインツベルンの結界がこれほど派手に物理破壊されていれば、霊脈を辿るなど造作もないこと。あの忌々しい魔剣と異界の王を排除するためなら、一時的に手を組むのも悪くないでしょう?」
言峰、ギルガメッシュ、そしてキャスター。
昨夜、衛宮邸を襲撃した「冬木最悪のイレギュラーたち」が、今度はアインツベルン城の心臓部において完全に結託し、ランス包囲網を形成していた。
「お兄ちゃん、下がって!」
イリヤが鋭く叫び、霊体化させていたバーサーカーを即座に再現界させる。漆黒の巨躯が、主を守るべく応接間の床を粉砕しながら立ちはだかった。
「……やれやれ、朝のティータイムを邪魔されるとは風情がないな。少年、ここは私が防衛線を張る」
アーチャーが干将・莫邪を限界まで強化投影し、セイバーもまた『風王結界』の暴風を室内に逆巻かせる。
だが、当のランスは、長テーブルの上で骨付き肉を口にくわえたまま、むかむかと燃え上がる怒りを隠そうともしなかった。
「あァ!? 金ピカ野郎に、怪しいフード女、それにあの陰気臭い神父まで揃い踏みか! お前ら、俺様がせっかく手に入れた新しい城(と、これからハーレムにする予定のメイドたち)の静寂を邪魔しやがって! 許さん、絶対に許さんぞ!!」
ランスは肉を飲み込み、魔法ボックスから魔剣カオスを引き抜いた。その瞬間、彼の身体から噴出した黄金の気力塊(オーラ)は、アインツベルンの極上の霊脈から魔力を無制限に吸い上げ、室内の装飾品を衝撃波で粉々に粉砕していく。
『おうさ心の友よ! こいつらは全員、お前の偉大なる歩みを邪魔する害虫だ! まとめてそのカオスの一撃で、魂ごと寝取って(消滅させて)やるわい!』
「――抜かせ、不遜者が。貴様のような害悪、一瞬たりとも我が視界に置くことすら不愉快だ」
ギルガメッシュの背後の空間が、陽炎のように赤く、そして黄金に染まる。現れた空間の歪みは、昨夜の比ではない。応接間の壁や天井を完全に埋め尽くす、数千の『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』が、すべての先端をランスへとロックオンした。
「神代の魔術の恐ろしさ、その身に刻みなさい!」
キャスターもまた、両手を広げて城の空間そのものを自らの「神殿」へと書き換え、無数の紫色の光弾を乱舞させる。
「――死ね、不浄の雑種めが!」
ギルガメッシュが傲然と腕を振り下ろす。
ドババババババババババババババババッ!!!
応接間の壁、天井、あらゆる空間から解き放たれた数千の宝具の雨が、文字通り視界を黄金の光で埋め尽くした。同時にキャスターの神代魔術光弾が空間を捻じ曲げながら、ランスの退路を完全に断つ。
「総員、私の後ろへ!!」
セイバーが『風王結界(インビジブル・エア)』の暴風を限界まで解放して士郎とイリヤを庇い、アーチャーは『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』を応接間のサイズに合わせて多重展開する。バーサーカーもその巨躯を盾にして、襲い来る光の奔流を受け止めていた。
だが、その大爆発の爆銘の渦中から、耳を聾するほどの咆哮が響き渡った。
「がははは! これだ、これだよ! このくらいの歯ごたえがなければ、城を奪い返す大義名分(?)にならんわなぁ!!」
ドガァァァァァン!!!
黄金の気力塊(オーラ)を爆発させ、爆煙を突き破って飛び出してきたのは、全身から血を流しながらも、その目を爛々と凶悪に輝かせたランスだった!
流石に数千の宝具の直撃と神代の魔術を完全に無傷でやり過ごすことは不可能だったが、アインツベルンの濃厚な霊脈から吸い上げ続ける魔力が、彼の肉体を崩壊と同時に「超高速再生」させていた。
『いくぞ心の友よ! あの金ピカの蔵の術式、儂の呪いで今こそジャミングしてやるわい!』
カオスの刀身が、どす黒い呪いの波動を撒き散らしながら激しく脈打つ。
「おおおぉぉぉッ!! 『超スーパー鬼畜・斬空(ざんくう)の構え』――からの!!」
ランスは弾丸のごとき踏み込みで、ギルガメッシュの眼前へと肉薄した。応接間の高級絨毯が、彼の足圧だけで完全に消し飛ぶ。
「『ハイパー鬼畜アターーーーック』!!!」
ドッパーーーーーン!!!
「――なっ……!?」
ギルガメッシュの目の前に展開されていた、物理攻撃を完全に遮断するはずの不可視の防壁が、カオスの「あらゆる防御概念を無効化する呪い」によって、まるで薄い氷のように粉々に砕け散った。
黒と黄金が混ざり合った最悪の斬撃が、ギルガメッシュの黄金の甲冑を真っ向から捉える。
ギィィィィィィン!!!
凄まじい衝撃波がアインツベルン城の応接間を完全に吹き飛ばし、天井が崩落して朝の光が容赦なく降り注いだ。ギルガメッシュの身体が、強烈な衝撃によって壁をいくつも突き破り、外の庭園へと叩き付けられる。
「バ、バカな……!? 英雄王の防壁を、生身の腕力だけで叩き割ったというの……!?」
空間転移で辛うじて瓦礫の下敷きを免れたキャスターが、信じられないものを見る目で絶叫した。
「……信じがたいな。英霊の理(システム)そのものを力ずくで書き換えているようだ」
言峰綺礼すらも、その感情の失せた目に微かな驚愕の光を宿し、静かに後退を始める。
「がははは! どうだ金ピカ野郎! 俺様のカオスの味は格別だろう!」
ランスは崩落した天井から差し込む朝日に照らされながら、カオスを肩に担いで不敵に笑う。その姿は、およそ正義の味方とは程遠い、凶悪な「魔王」そのものだった。
「おのれ……おのれおのれおのれ……!! 雑種風情が、この我に二度までも不覚を取るかァァァッ!!」
庭園の瓦礫の中から立ち上がったギルガメッシュは、その端正な顔を激しい屈辱と怒りで真っ赤に染めていた。彼の周囲の空気が、これまでにないほど冷酷に、そして「終末」の気配を帯びて歪み始める。
「――よかろう。貴様はもはや、我が財宝を浴びせる価値すらない。世界ごと、その不浄な肉体を塵に返してやる」
ギルガメッシュが、その『王の財宝』の最奥から、一本の「奇妙な武器」を引き抜いた。
それは剣というにはあまりにも異形な、三つの円柱状の刃が回転する、神代の終末を告げる計略兵器。
乖離剣・エア。
「……っ!? 衛宮くん、あれはヤバい、マジでヤバいわよ!!」
遠坂凛がそれを見た瞬間、本能的な恐怖で声を裏返らせた。
「あれは世界そのものを切り裂く宝具よ! こんな至近距離で放たれたら、アインツベルンの森ごと冬木市が消し飛ぶわ!!」
「がははは! 面白い、世界を切り裂くだと!? なら俺様のこの『最強のハイパー気力』とどっちが強いか、勝負といこうじゃねえか!!」
ギルガメッシュの放つ「世界崩壊の風」と、ランスの放つ「理不尽な鬼畜オーラ」が、崩壊したアインツベルン城の境界で真っ向から激突しようとしていた。