「――目覚めよ、天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」
ギルガメッシュが乖離剣エアを振り下ろすと同時に、三つの円柱状の刃が逆方向に超高速回転を始め、空間そのものを断裂させる赤黒い「世界の終わりの風」が凝縮されて解き放たれた。それは大気を、大地を、そして世界の概念そのものを噛み砕きながら、ランスを目がけて一直線に突き進む。
「お嬢さん、全員を私の後ろへ!!」
アーチャーが絶叫し、残された魔力のすべてを注ぎ込んで『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』の残る花弁を最大展開する。セイバーも士郎とイリヤを組み伏せるようにして地面へ伏せ、バーサーカーがその前に肉体の壁となって立ち塞がった。
だが、その全方位消滅の光の渦を正面から見据えながら、鬼畜王はただひたすらに、獰猛に笑っていた。
「がははは! 世界を壊す風だと? 上等だ! なら俺様は、その壊れた世界ごと、お前を力ずくで寝取ってやるわァァァッ!!」
ランスの全身から溢れ出る黄金の気力塊(オーラ)が、アインツベルンの霊脈を限界まで酷使し、真っ黒な魔剣カオスの呪いと完全に融合した。それは理不尽なまでの質量を持った「暴力的エネルギーの嵐」となり、彼の周囲の空間を強引に固定化していく。
「喰らいやがれ、金ピカ野郎! これぞ俺様の最高、最強、最悪の一撃――!!」
「『ハイパー鬼畜・ワールド・クラッシャー』!!!」
ドッパーーーーーーーン!!!!!
天地を裂く赤黒い終末の暴風と、すべてを力ずくでねじ伏せる黒金の鬼畜オーラが、アインツベルン城の庭園で真っ向から大激突した。
その瞬間、音が消えた。
あまりのエネルギーの質量に空間が耐えきれず、一瞬だけ世界が白黒に反転する。
次の刹那、アインツベルンの広大な森を丸ごと揺るがす、前代未聞の大爆発が巻き起こった。
ズガガガガガガガガガガガガァァァァァン!!!!!
「くっ……ああああああっ!!」
アーチャーの『ロー・アイアス』が全ての盾を瞬時に粉砕され、その衝撃波だけで彼自身が霊体化寸前まで吹き飛ばされる。バーサーカーの強靭な肉体も一瞬で数回分の命を消し飛ばされ、キャスターの神代の結界など紙クズのように引き裂かれた。
爆煙と光の奔流が収まり、激しい静寂が戻った戦場。
白亜のアインツベルン城の半分は文字通り跡形もなく消滅し、庭園は宇宙のクレーターのような不毛の荒野と化していた。
その中心で、両者ともに立っていた。
ギルガメッシュは、手にしたエアの回転を止め、信じられないというように自身の胸元を見つめていた。彼の誇り高き黄金の甲冑は完全に叩き割られ、そこから鮮血が止めどなく溢れ出ている。
「……馬、鹿な……。我が、乖離剣の出力を……生身の、それもただの欲の塊のような雑種が……相殺、しただと……!?」
一方のランスもまた、立ってはいるものの、その肉体はボロボロだった。全身の皮膚が裂け、黄金の気力が激しく明滅している。しかし、その手にあるカオスだけは、未だにどす黒い輝きを失っていなかった。
「ハァ……ハァ……がは、は……。どうだ、金ピカ……。世界を壊すオモチャよりも、俺様の、欲望のパワーの方が……一枚、上手だったなぁ……!」
『おいおい心の友よ、流石に儂の刀身もガタガタだわい……。だが、あの成金男の、心が完全に折れかかっておるぞ!』
「おのれ……おのれ、おのれぇぇぇっ!!」
ギルガメッシュは激しい屈辱のあまり、血を吐きながら『王の財宝』を開こうとするが、身体に受けたカオスの呪いが魔力回路を激しく阻害し、空間の歪みが維持できずに霧散していく。
「英雄王、ここまでだ。これ以上の戦闘は、貴方の現界そのものを危うくする」
影から現れた言峰綺礼が、珍しく険しい表情でギルガメッシュの肩を抱え、強制的に霊体化の術式を起動した。
「……キャスター、貴女も退きなさい。この異物の戦闘能力は、もはや聖杯戦争の枠組みで測れるものではない」
「え、ええ……。あんな化け物、付き合っていられないわ……!」
キャスターもまた、恐怖に顔を歪めながら、言峰と共に空間の歪みの中へと消え去っていった。
最悪の強敵たちが、ついに完全な敗北の味を占めて撤退していく。
「ハァ……終わった、の……?」
瓦礫の中から這い出てきた凛が、信じられないものを見る目で、クレーターの中心に立つランスを見つめた。
セイバーに守られて無傷だった士郎も、言葉を失ったまま、手元に残った「奇跡の土鍋」をぽろりと地面に落とした。
「がははは! 見たかお前ら! あの成金野郎を、ついに完全撃破してやったぞ!」
ランスはボロボロになりながらも、フンと胸を張り、勝利の雄叫びを上げた。そして、その不気味な目を、城のバルコニーで呆然としているイリヤ、そしてセラとリーゼリットへと向けた。
「よし! 邪魔者はいなくなった! 約束通り、今日からこの城のメイドも幼女も、全員俺様のハーレムの――」
「「「(魔力最大出力のガンド / 風王結界の鉄拳 / 投影・偽・螺旋剣の鈍器殴打)」」」
ドガァァァァァン!!!!!
「痛っていぃぃぃ魔女どもめらぁぁぁっ!!」
世界を救ったはずの鬼畜王は、次の瞬間、自分を庇ってくれたはずの味方(と、あきれ果てたアーチャー)の手によって、今度こそ半分崩壊したアインツベルン城の瓦礫の奥深くへと、派手に叩き込まれるのだった。