「がははは! 決まりだ! 城も手に入れ、金ピカもシバいた! となれば、次はさらなる美女の獲得こそが王たる俺様の義務というものよ! おい少年、この街にいる他のマスターとやらには、どんなイカしたちゃんねーがいるんだ?」
半分青空が見える応接間で、完治した肉体を誇示するように、ランスは豪快に笑いながら士郎の肩をバシバシと叩いた。
「い、いや……他のマスターって言われても、俺が知ってるのは……」
士郎が困惑して視線を泳がせると、ソファーで紅茶を飲んでいた凛の目が、一瞬で冷徹な「魔術師」のそれに切り替わった。
「ちょっと、衛宮くん。そういえばアンタ、学校で間桐慎二に『弓道場を貸してくれ』とか言われて怪しい陣を見つけてなかった? ……あいつの家、確か間桐(まとう)の魔術家系のはずよ。それに、慎二には……」
「あ。慎二の妹の、桜……?」
士郎がその名を口にした瞬間だった。
『おいおい、心の友よ! その『サクラ』とかいう響き、儂のアンテナにビンビン引っかかるぞ! 大人しくて健気で、ちょっと影のある薄幸の美少女の匂いがプンプンしやがるわい!』
魔法ボックスの中から、カオスがこれ以上ない下劣なテンションでカタカタと震え出した。
「何だとォッ!? 薄幸の美少女だと!? そんな最高のおかずを、あのワカメみたいな男の家に放置しておけるか! よし、ターゲットは『間桐の家』だ! 今すぐそこへ突撃し、ワカメをノックアウトしてその美少女を俺様のハーレムに連れ去るぞ!」
「ちょ、ちょっと待ち nasai よ! 何でそうなるのよ!」
凛が立ち上がって怒鳴るが、ランスの「美少女センサー」はすでに完全にロックオン状態だった。
「マスター(士郎)、間桐の家には、不穏な魔術の気配が漂っているのは確かです。……ですが、この男の動機があまりにも不純すぎて、騎士として同行するのに激しい精神的苦痛を覚えます」
セイバーは「奇跡の土鍋」を抱えたまま、心底嫌そうな顔でランスを一瞥した。
「まぁいいじゃない、セイバー。あのワカメ男――間桐慎二は、ライダーのマスターとしてこの街でコソコソ動いている可能性が高いわ。どのみち叩き潰さなきゃいけない相手よ。ランスを鉄砲玉としてけしかければ、間桐の魔術特性もろとも一瞬で粉砕してくれるわ」
凛は焦げたツインテールを執事のアーチャーに直してもらいながら、黒い笑みを浮かべた。
「お嬢さん……その、悪に悪をぶつけるような外道戦術、私は嫌いではないが、少年(士郎)の教育に著しく悪いぞ」
アーチャーが呆れ顔でため息をつく。
「お兄ちゃん、間桐の家(おじいちゃん)はちょっと陰気臭くて嫌だけど、あの緑のバカが暴れて壊してくれるなら、私は特等席で見物してあげるわ」
イリヤもまた、面白そうにクッションを抱え直してクスリと笑った。
「よし、野郎ども、出発だァァァッ! 待っていろよ、サクラちゃん! この俺様が今すぐ、その陰気な家から救い出して(ベッドへ)拉致してやるからな! がははは!」
金ピカ、ロリ、神代の魔女を恐怖のどん底に叩き落とした鬼畜王ランス。
彼の次なる標ターゲットは、冬木の闇に潜む陰湿なる魔術名門――間桐の家。
「おいお前ら、モタモタするな! 美少女が俺様の救いの手(と極上の夜)を待っているのだぞ!」
アインツベルン城を後にした混沌の行進は、朝の光が差し込む冬木市の住宅街へと突入していた。先頭を歩くランスは、全身から放つ黄金の気力(オーラ)を隠そうともせず、まるで自分の領地を散歩するかのように堂々と胸を張っている。
「ちょっとランス、せめて一般人の前ではその頭の悪そうなオーラを消しなさいって言ってるでしょ! 魔術の秘匿はどうしたのよ!」
凛が周囲の目を気にして小声で怒鳴るが、ランスは「がははは! 王が歩く道を民草が見るのは当然ではないか!」と一蹴する。
「……諦めろ、遠坂。この男に現代社会の常識を説くだけ無駄だ」
士郎は相変わらず「奇跡の土鍋」を小脇に抱え、胃の痛みに耐えながら歩いていた。間桐の家が近づくにつれ、学校の友人である慎二、そして毎日のように衛宮邸に朝ご飯を作りに来てくれていた桜の顔が思い浮かび、複雑な胸中になる。
「マスター、間桐の邸宅から漂うこの空気……。これは、お世辞にも清廉な魔術師の家系とは言えませんね。非常に陰湿で、歪んだ魔力の澱みを感じます」
セイバーが不可視の剣の柄に手をかけ、鋭い視線で前方の洋館を睨み据えた。
やがて一行の前に現れたのは、周囲の住宅街から浮いたように佇む、重苦しい雰囲気の間桐邸。
「ふん、これがワカメの城か。リーザスの地下牢の方がまだマシな日当たりだぞ。おいカオス、美少女の気配はどこだ?」
『おうさ心の友よ! この奥だ、このドス黒い魔術障壁の向こうから、極上の『陰のある美少女のフェロモン』がビンビンに伝わってくるわい! 早くそのおぞましい門をぶち壊して、中の女をひん剥くのだ!』
「よし、おらぁッ!!」
ランスは挨拶代わりに、魔剣カオスを大上段から振り下ろした。
ドガァァァァァン!!!
間桐邸の頑強な正門と、張り巡らされていた吸血虫の結界が、カオスの「あらゆる防御概念を無効化する呪い」によって一瞬で消し炭となり、前庭のコンクリートごと派手に爆散した。
「な、何事だぁぁぁっ!?」
爆音と共に、洋館の玄関から飛び出してきたのは、案の定、髪をワカメのようにうねらせた少年――間桐慎二だった。その後ろには、紫色の長い髪をなびかせた、どこか虚ろな目をした美少女、間桐桜の姿もある。
「し、慎二! それに遠坂!? なんで衛宮まで……って、何なんだよその緑の変質者は! 僕の家の門をどうしてくれたんだ!」
慎二が顔を真っ青にして喚き散らす。
「がははは! お前がワカメか! 男のワカメに用は無い、そこをどけ! ……おお、お前がサクラちゃんか! 素晴らしい、カオスの見立て通り、実に見事な胸の膨らみ(と、俺様好みのドロッとした暗い目)ではないか! よし、お前は今日から俺様の奴隷129番だ!」
「え……? あの、どなた、ですか……?」
突然現れた緑の巨漢に胸を凝視され、桜は恐怖と困惑で一歩後ずさりする。
「ちょっと慎二! アンタ、やっぱり聖杯戦争のマスターだったのね! 大人しくサーヴァントを出しなさい、じゃないとこの緑のバカがアンタの家をアインツベルン城みたいに半分消し飛ばすわよ!」
凛がガンドの魔力を爪先に込めながら冷酷に言い放つ。
「くっ、バカにしやがって……! 遠坂も衛宮も、そんな野蛮な奴を連れて僕を侮辱しに来たのか! やれ、ライダー! そいつらを一人残らず切り刻んで、虫の餌にしてしまえ!!」
慎二の絶叫に応じるように、洋館の影から、妖艶な漆黒のタイトスーツを纏い、目隠しをした長身の美女――ライダーが、音もなく跳躍してランスの前に立ちはだかった。その手には、鎖で繋がれた不気味な短剣が握られている。
「がははは! おいおい、家政婦のメイドの次は、夜のベッドで大活躍しそうな緊縛風のセクシーねーちゃんか! 冬木の聖杯戦争、最高ではないか! よし、ワカメ! そのねーちゃんもまとめて俺様が寝取ってやるわ!」
『ひゃっはー! 心の友よ、あの女の太ももは最高だぞ! 儂の呪いでその服をシュレッダーにかけてやろうじゃねえか!』
最悪の欲望を爆発させる鬼畜王ランスと、間桐の闇を守る蛇の英霊ライダー。