「――お前のその下卑た視線、ここで潰しておきましょう」
ライダーの冷徹な声と共に、鎖付きの短剣が音速を超えてランスの眉間へと殺到する。
キィィィィン!!!
ランスはカオスを軽く片手で振り上げ、その軌道を難なく弾き飛ばした。
「がははは! いいぞ、セクシーねーちゃん! それくらい活きが良い方が、ベッドで組み伏せる甲斐があるというものよ!」
「ラ、ライダー! 何をしてるんだ、早くその変質者を殺せ! そいつの首を跳ねろ!」
慎二が桜の後ろに隠れながら、ヒステリックに喚き散らす。
「間桐慎二、そこまでよ」
凛が冷酷に指先を慎二へと向けた。
「アンタのライダーがどれだけ敏捷に優れていようが、あの緑のバカの『理不尽』には絶対に勝てないわ。大人しく降伏しなさい」
「うるさい、うるさい! 僕が、間桐の正当な後継者である僕が、そんな男に負けるわけがないんだ!」
「……やれやれ。お嬢さん、忠告は無駄のようだ。――投影、開始(トレース・オン)」
アーチャーが干将・莫邪を両手に構え、ライダーの退路を塞ぐようにステップを踏む。
「マスター(士郎)、私はあのライダーを抑えます。貴殿はサクラを安全な場所へ」
セイバーは「奇跡の土鍋」を一旦士郎に押し付けると、不可視の剣を構えて前線へと躍り出た。
「待て待て待てい! お前ら、俺様の獲物に手を出すな!」
ランスは全身から黄金の気力(オーラ)を爆発させ、地面を爆裂させながらライダーへと突進した。
「――『他者の封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)』!」
ライダーが即座に跳躍し、間桐邸の敷地全体に赤い結界の魔方陣を展開しようとした、その瞬間。
『無駄だわい、セクシーねーちゃん! 儂の呪いの前では、そんなお洒落な陣など一瞬でパリンよ!』
カオスの刀身から放たれたドス黒い呪波が、展開されかけた結界の術式を一瞬で「透過」し、完全に霧散させた。
「なっ……魔術そのものが、霧散した……!?」
目隠し(魔眼殺し)の奥で、ライダーが初めて驚愕に目を見開く。
「がははは! 隙だらきだぞ!」
ランスは一瞬でライダーの懐へと潜り込むと、カオスの峰(?)で彼女の腹部を強烈にぶち抜いた。
ドガァァッ!!
「くっ、あ……!」
防壁概念を無視した衝撃がライダーの現界を激しく揺るがし、彼女はその場に崩れ落ちた。
「ライダー!?」
慎二の顔が、今度こそ恐怖で完全に引きつる。
「よし、まずはセクシーちゃんを一人ゲット! 次は……おいワカメ、そこをどけ! サクラちゃんは今日から俺様の(夜の)お世話係だ!」
ランスが下劣な笑顔で、怯える桜へと大きな手を伸ばした、その時――。
「――そこまでにしてもらおうかね、異界の王よ」
間桐邸の薄暗い洋館の奥から、カサカサと不気味な音を立てて、一人の異形の老人が姿を現した。
禿げ上がった頭に、枯れ木のような肉体。その皮膚の下を、無数の「刻印虫」が蠢いているのが透けて見える。
間桐の真の支配者――間桐臓硯(ぞうけん)だった。
「ひっ、お、おじいちゃん……!」
慎二が腰を抜かしてへたり込む。
「ほう……アインツベルンの城を半分消し飛ばし、英雄王のエアすらねじ伏せたという噂は本当のようじゃな。だが、この儂の虫たちを相手に、その大雑把な暴力がどこまで通じるかな?」
臓硯が不気味に嗤うと同時に、洋館の地下から、文字通り空を埋め尽くすほどのドス黒い「吸血虫」の群れが、羽音を立てて湧き出してきた。
「うわっ、何これ!? すっごい気持ち悪いんだけど!」
イリヤが本気で嫌そうな顔をして一歩下がる。
だが、ランスは、そのおぞましい光景を前にしても、鼻で笑うだけだった。
「がははは! ジジイ、お前趣味が悪すぎるぞ! そんな汚い虫ども、俺様の気合で一瞬で焼き尽くしてくれるわァァァッ!!」
「がははは! そんなシケた羽虫ども、俺様の『ハイパー気力』の摩擦熱だけで消し炭にしてくれるわァッ!!」
ランスが足元の大地を爆裂させると同時に、全身から噴き出す黄金の気力塊(オーラ)が、まるで小型の太陽のごとく周囲の闇を強烈に照らし出した。その凄まじい熱量と圧力に触れた瞬間、空を埋め尽くしていた吸血虫の群れが、パチパチと嫌な音を立てて一瞬で焼き払われ、ただの黒い灰へと変わっていく。
「な、何じゃと……!? 儂の虫どもを、ただの『気合』で……!?」
間桐臓硯の醜悪な顔が、初めて驚愕に歪んだ。
『ひゃっはー! ジジイ、驚くのは早いぞ! お前の中央にいる本体の虫の居場所、この魔剣カオス様には丸見えだわい!』
魔法ボックスの中からカオスがゲラゲラと笑う。カオスの持つ「あらゆる因果や防御を無効化する呪い」は、臓硯がどれだけ無数の虫に魂を分散させていようが、その「本質」を正確にロックオンしていた。
「よし、そこをどきやがれジジイ! 美少女の寝室(と夜のベッド)の邪魔をする奴は、100回死んでも許さーーーん!!」
「『超スーパー鬼畜・武烈斬(ぶれつざん)』!!!」
ドッパーーーーーン!!!
「ぎ、ぎえええええええええっッ!?」
臓硯が命乞いをする暇さえなかった。カオスから放たれた黒金の凶悪な斬撃は、臓硯の枯れ木のような肉体だけでなく、彼が洋館の地下に隠していた「本体の刻印虫」、さらには間桐の血脈にこびりついていたおぞましい蟲術の呪因そのものを、概念ごと真っ向から一刀両断にした。
防壁無効、不死性無効。鬼畜王の理不尽なまでの暴力の前には、五百年を生きた魔術師の執念すら、ただの「美少女獲得の障害物」に過ぎなかった。
臓硯の肉体は、悲鳴と共に塵となって完全に消滅し、間桐邸を包んでいた陰湿な魔力の澱みが、嘘のように綺麗さっぱり霧散していく。
「お、おじいちゃんが……一撃で消された……? う、嘘だ、僕の、僕の間桐の歴史がァァァッ!!」
慎二は完全に恐怖で失禁し、白目を剥いてその場に卒倒した。
「……は? え? ちょっと待ちなさいよ」
遠坂凛は、あまりの展開の速さに顎が外れそうな顔で固まっていた。
「間桐の、あの執念深い老魔術師が……私たちの何代にもわたる因縁の怪物が……ただの、下品な下心の一撃で、完全に消滅したの……?」
「お嬢さん、深く考えるな。この男の前で『魔術の神秘』や『長年の因縁』を語るだけ時間の無駄だ」
アーチャーは干将・莫邪を消し、頭を抱えて深いため息をついた。
「……あ。なんだか、お腹の奥が、すごく軽いです……?」
臓硯の消滅に伴い、体内の蟲たちが完全に消滅した桜は、自身の身体に起きた奇跡的な変化に驚き、呆然と自分の胸元に手を当てていた。
「がははは! どうだサクラちゃん! あのむさ苦しいジジイもワカメも片付いたぞ! さあ、約束通り俺様の奴隷(ハーレム)として、今すぐこの城(アインツベルン城)へ――」
「待て、ランス!!」
ここで、それまで「奇跡の土鍋」を抱えてハラハラしていた士郎が、ついにランスの前に立ちはだかった。
「桜をそんな不純な理由で連れて行かせるわけにいかない! 桜、大丈夫か!? 今すぐ俺の後ろに――」
「がははは! 少年、お前は本当に往期が悪いな! 美少女は勝者の総取りと決まっているのだ!」
ランスが桜の腕を強引に引っ張ろうとした、その時。
「――あの、緑の、王様?」
桜が、どこかトロンとした、しかし妙に据わった目でランスを見上げた。
「私を、あの陰気なおじいちゃんから……助けて、くださったんですね……?」
「おうともさ! 俺様こそが世界で一番偉くて強くて鬼畜なランス様だ!」
「そうですか……ふふ、頼りになりますね……。私、こういう強引で、悪い男の人って……嫌いじゃありません」
桜の背後から、なぜか臓硯の蟲とは全く違う、ドロッとした漆黒の「影(聖杯の泥)」のようなオーラが、ランスの黄金の気力に当てられて、ものすごく嬉しそうにパチパチと波打ち始めた。
「さ、桜……!? なんかキャラが変わってないか!?」
士郎が戦慄する。
「ちょっと、桜! アンタ目を覚ましなさい! そいつはただの歩く性欲の塊よ!?」
凛が絶叫するが、桜はすでにランスの太い腕に自ら進んで抱きつき、うっとりと頬を染めていた。
「がははは! 見たかお前ら! サクラちゃんはすでに俺様の魅力にメロメロなのだ! よし、ついでにそこの倒れているセクシーねーちゃん(ライダー)も回収だ! 今日からアインツベルン城で毎日夜の大運動会(意味深)を開催するぞ!」
「マスター、流石にこれ以上の破廉恥は、この私が許しません……!」
セイバーが、ついに我慢の限界を迎えて不可視の剣を大上段に構えた。
間桐の闇を(私欲で)完全に消滅させ、なぜか闇落ち寸前だったヒロインまで秒速で手懐けてしまった鬼畜王ランス。
アインツベルン城に、さらに桜とライダーという極上の戦利品(ハーレム)を連れ帰ろうとする彼の暴挙によって、冬木の聖杯戦争はもはや「恋愛シミュレーション(鬼畜モード)」へと完全にジャンルを変えつつあった――。