――――古代遺跡最下層。
ルドラサウムの居座る大空洞、ランスがルドラサウムの玩具として異界に転送されたあと、ランスの引き連れてきた軍隊は全て地上に強制送還され、大空洞は静けさを取り戻していた。
ルドラサウムの前に、黒い塊のような浮游体が現れる。
顔と思われる部分はルドラサウムと似通った造形をしていて、体には4つの人面のような模様がある
「ローベン・パーン…? どうしたの?」
「創造主、何故あの個体をあの世界に送ったのですか? 大陸を統一したとは言え、作った私から言わせればあのような脆い個体群の一つでは、余り良い結果を期待出来ないのですが…。
私が別の強力な個体を用意してもいいのですよ」
三超神の一体、ローベン・パーンは自らの創造主、ルドラサウムの行動に疑問に思い、自分の代行を申し出る。
自らの作りだした個体への試練など、わざわざこのような大掛かりな手間などかけなくてよかったのだ。そのようなことは、もう一体の三超神、プランナーが率先して行ってくれるからだ。
異界に進出するという、未知の挑戦というのもある。ローベン・パーンが慎重になるのも無理はなかった。
「いーよ、あのぷちぷちの個体で。…そっちのほうが面白いじゃん。…くす。
…それに、さいしょから一気に強い個体で攻め込んだらつまんないでしょ? …だから決めたの、さいしょは、ばれないぐらいにゆっくりゆーっくり侵略して、最後にバーンて全部ぼくの世界にしちゃう。きーめたー」
「創造主がよろしいのならばこれで。
――では、私はその準備に取り掛かります」
ただ確認がとりたかったのか、ローベン・パーンはそう言うとあっさり引き下がり、すっ、とルドラサウムの前から姿を消した。
「…あは、…ははははは……。…たのしみだなぁ…侵略…くす……。ぼくが作った世界もまた戦争がいーっぱい始まったし、やっぱり混乱は最高だね。やっぱり混乱だよ…混乱…くす」
地上に戻ったランスの軍は、エンジェルナイトの攻撃による被害の復興活動をしていたが、ランスを失い狂乱したリア・パラパラ・リーザスの無謀な行動が祟り、彼方此方で内乱が起こり、分裂、崩壊し、再び大陸は秩序を失い悲劇と混乱に包まれていた。
魔法大国ゼスは、王ランスがいなくなったことによりリーザスを離れたガンジーによって再び再建され、ヘルマンも、もともと独立を企てていたパットンによって復活を遂げた。
リーザス王国は各地の反乱によって軍は大幅に縮小し、もはや最初期の自国内を守衛するのが精一杯だった。嘗ての世界統一を果たした頃のリーザスの姿など見る影もなかった。
「エンジェルナイト達の攻撃で食べ物とかもたくさんなくなちゃって、慌ててるけど、…ここに新しい世界が増えたらどうなるのかな? …くす……くすくす。」
広い大空洞のなかを、ルドラサウムの無邪気な笑い声だけが響いていた。
*
―――遠坂邸。
結局あれから朝までランスに抱かれ続けた凛は、途中で失神してしまいランスによって居間のソファーに寝かされていた。
(今、何時かしら…)
壁に掛けられている時計は既に、中時を示し、学校の登校時刻をとっくにオーバーしていた。
目が覚めた凛はソファーから起き上がり、周りを見渡す。
壊れた家具と室内、そして未だに残るあの臭いによって、まだ朝起きたばかりで上手く機能していなかった凛の脳が再活動を始め、昨夜までの出来事を強制的に再認させられる。
凛は、昨夜の己のサーヴァントによる凶行によっていまだ痛む腰を抑えながら立ち上がり、自分の直ぐ傍らで寝ていたランスの横に立ち、見下ろすように見つめる。
(いつつ……、なんでこんな奴が私のサーヴァントなのよぉ……)
凛は気持ちよさそうに大口を開けて寝ているランスにガンドでも叩き込みたくなったが、そうするとまたこの鬼畜な男が何をするか分からなかったので、一先ずこの男が寝ている内にシャワーを浴びることにした。
破り捨てられた自身の下着を回収し、ランスが起きないように静かに移動する。
(…うぅー、髪も服もそこら中にかけられてなんかパリパリしてるし最悪…。この服、気に入ってたのに)
着ていた赤い服はランスの精液によって彼方此方に染みが出来て黒ずみ、みるも無残な状態になっていた。履いているニーソックスも裂けて穴が空いている。
凛は取り敢えずそれらを一纏めにして、ゴミとして処分すると決めた。あの男の精液の臭いが染み付いたこの服の匂いを嗅ぐだけで、昨夜の行為を思い出すからだ。
凛にとって昨夜の行為は今すぐにでも忘却したい記憶だったのだ。よってまずは物理的記録を消去することにした。
(私の処女が奪われたんだから…、これで優勝出来ないと割に合わないわ。別に、聖杯に叶えてもらいたい願いなんてなかったけど、今出来た――)
物理的な記録を抹消しても、体に残った傷の根本的解決にはならない。
完全になかったことにするには、それこそまさに『何もなかった』ことにするしかないのだ。それを、手っ取り早く解決する方法が聖杯による過去の改竄だ。
「――私は私を取り戻す。そして、ランス……いえ、あんな男、アイツで充分ね。アイツを何とかいうこと聞かせて、この戦いを勝ち残る!」
凛は瞳を決意で燃やし、仁王立ちで拳を握りしめていた。
ただ服装は下着(ブラジャー)のみで、傍から見れば、とてもシュールな姿だったが。
「兎に角、今はシャワーね…」
凛は身体についた色々な体液の汚れを落とすために、今後どうランスを律するのかを考えながらシャワーを浴びるのであった。
――――――
シャワーを終えて、学校への連絡を済ませた凛はランスの居る居間に戻ってくると、そこには未だに大口を開けて熟睡しているランスがいた。
(――というか、なんでこいつサーヴァントの癖にこうもぐっすりと寝てんのよ…)
魔力回復など、よほどなことでもない限りそれほど睡眠を必要としない筈のサーヴァントが熟睡している姿を見て、凛がため息を零す。
それに凛は怒りを感じていたが、それは不必要なことを行う己がサーヴァントに対する怒りではなく、ただ自分に対してあのような所業を行ったにもかかわらず、未だにマスターの警護を差し置いて睡眠に没頭するランスに対する感情的な怒りだった。
ランスは通常の英霊と異なり霊体ではなく、生身の肉体を持っているので、仕かたが無いと言えば仕かた無いが、肉体的な疲労と言うより、日常的に行っていたごく普通の生理的な欲求に従った行為だったので微妙な所だ。
凛は怒りも募り、ランスを起こすために、僅かな復讐の念を込めてランスの腹を蹴った。
靴を履いているので、無防備に裸で寝ているランスにダメージを与えるのには凛の力でも十分だ。
「――ぐえっ!? 誰だ! この俺様の腹を蹴った奴は」
腹部を蹴られたランスは一瞬で意識を覚醒させると、上半身を起こし自分の傍らに立つ人物を見やる。
「いつつ、なんだ凛ではないか。 この俺様の腹をけるなんて何事だ、幾らかわい子ちゃんでも許さんぞ!?」
「何が、かわい子ちゃん…よ、マスターにあんなことした挙句にゆっくり熟睡なんて、いいご身分ね?」
凛はランスの態度に込み上げる怒りを抑える。
しかし、僅かに漏れたドスの効いた声は、それを聞く相手に私は怒っていますと伝えるには十分だったが、他人の感情にほとんど無関心なランスにはまるで効果はなかった。
ランスは何故凛が不機嫌なのか、と疑問に思っていた程度だ。
「何を言ってるんだ凛、俺様が世界の中心なのだ。絶対王なのだ。その俺様が好きなことをして何が悪い?」
「………もういいわ」
自分の恋人(?)を神に等しい存在に人質に捕られた者の発言とは思えないことを言い切るランス。
凛はランスと言う人物の全体像がだんだんと分かってしまい、肩を落としながら呆れると、バカバカしくなり、ランスの態度に怒ることを辞めることにした。
「…ふぅ、いいからさっさと服を着なさい。何時までそんな格好で居るつもりよ」
「む……、だけどこのまま服を着ると色々気持ちわるい。いったんシャワーを浴びたいぞ?」
ランスは体液で汚れた自分の股間を指さす。凛はランスの下半身を見ないようにして、ドアの方を指さし、浴室の場所を伝える。
「だったら、この部屋を出て左に行った先にあるからさっさと行ってきなさい…」
「なに怒ってるんだコイツ?」
凛の素っ気無い態度にランスはむかっときたが、取り敢えず辺りに散乱している服と鎧をまとめることにした。
『朝までお楽しみだったな心の友。儂も混ぜてくれてもいーのにー』
ランスが落ちている剣、カオスを拾うとカオスが声を発する。
「城で散々いろんな子とさせてやっただろうが」
『たまには一緒にヤるのもいーじゃん。今度は儂も混ぜてー、ね? 混ぜてー』
「ええい、黙れ馬鹿剣! 何が悲しくて俺がわざわざ貴様なんかと一緒にせねばならんのだ」
剣に向かって怒鳴るランス。
剣と会話するという異様な光景に愕然としていた凛だったが、目を醒ます様に首を振って意識を回復させる。
「剣が喋ってる……インテリジェンスソード? 初めて見るわ。精霊でも宿っているのかしら…」
剣に興味を持ったのか、カオスを近くで観察するために先ほどまでランスと一定距離を常に保っていた凛がランスに近づく。
やはり、こういった神秘に類することのために一時的にとは言え、自身を強姦した相手に近づけるところは、まさに魔術師だからなのかもしれない。
凛の精神的タフさも勿論あると思われるが、やはり魔術師の研究者としての意識が優先してのことだろう。
『美人さーん、儂ともやらなーい?』
しかし、凛のそんな研究者としての意識で向けた視線にも、その観察対象はお下劣な返答で還す。
凛は一瞬にしてその猥褻物に興味を失った。
ランスとの距離も元に戻っている。
(使い手が使い手なら、剣も剣てことね…)
「もうこれ以上エッチなこというな! 俺様まで引かれているだろうが!!」
『うおぉっ!』
ランスはカオスを壁に叩きつけるように投げ捨てる。
『捨てんでよー! 儂だって生きてるんだぞー!』
床に落下したカオスは自律的に起き上がると抗議の声をあげながら器用に跳ねてランスの元に帰ってきた。それをランスはしぶしぶと拾うと乱暴に鞘に仕まう。
その様子を不気味そうに凛が見つめる。
「自立で動くことも出来るのね…」
凛には刀身を屈伸させて跳ねる様子はなかなかに奇怪だった。
ランスはカオスとの会話で、まだ起きたばかりで暴走している自分の分身に気づくと、男らしい眉毛をぴくりとさせ、シャワー室に向かおうとする足を停止させる。
普段から起きたときにはシィルや城に居る従者などに朝の生理現象を始末せていたランスは、此処にその人物達がいなくても当たり前のように言い放つ。
「うーん…。カオスはいらんが、せっかくだしシャワーを浴びる前にもう一回やっとくか…、一発抜いておきたいしな。
――では凛やろ」
「イヤよッ!!」
「む…!」
勿論そんなランスの註文は聞いられるはずもなく、ランスが言い終わる前に凛は突き放すように拒否すると直ぐに部屋から出て行った。
「なんだ? 照れてるのか? あいつ…」
可愛いヤツめ、と呟くランス。
常人から見れば嫌われていると見ても間違いのない反応だが、自分が女性の理想で英雄で、自身と交わることが女性の幸せだと思っている男には、自分に惚れているが素直になれない女性としか捉えられなかった。
ランスは、凛の反応にどこかデジャブにも似た感覚を味わっていた。
(なんかどっかで合ったことあるような気がするなあ…。まあ、俺様の抱いた女の中に似たような奴がいたのかもな)
城にいた頃に城下にいた民を攫ってまで何度もハーレムプレイをやっていたランスには、今更センズリなどする気も起きず、熱り立つ息子をそのままにシャワー室に向かった。
「まさか、こんな所で令呪を使うことになるとは思わなかったわ…」
ランスはシャワーを済ませて、鎧は着ずに下に着ていた服だけを着て脱衣所から出ると、外に待っていた凛に別の部屋に案内された。
凛はランスと今後の方針を話すために嫌悪感を抑えながら、向いのソファーに座り話しを始める。
最初に出た言葉はランスに対する嫌味となってしまったが、自身を犯した相手と会話をするのだから仕方ないともいえる。
「確か令呪って3回までしか使えないんだよな? 凛はバカだなあ」
「…………っ」
自分が原因だと一切考えないランスには無駄だったが。
凛は憤慨しそうな自分をなんとか抑え、話を続ける。ここでいちいち切れていては会話どころか文字どうり話しにならないからだ。
「――――まあ、そのことはもういいわ…。 あんた、剣を持っていたけど、貴方のクラスはセイバーってことで良いのよね?」
凛は念を押す様にランスに確認する。
召喚時のランスの姿は胸から肩を守る甲冑になびくマント、腰に差した剣、凛から見て剣士のサーヴァント、セイバーと判断するには十分だった。
セイバーは凛が最も望んでいたクラスのサーヴァントだ。近接最強と謳われるクラスの英霊ならば魔術師の自分でも後衛としての役目を果ことが出来、最強の布陣と踏んでいた。
忘れたいほどのアクシデントがあったにせよ、凛にとって最優のサーヴァントを引き当てられたことは喜ぶべきことだったのだ。
「クラス? セイバー? なんだそれは? 俺様は学生なんかではないぞ」
「あんたのサーヴァントとしてのクラスのことよ。聖杯からの情報で分かるんじゃない?」
「…ふむ」
ランスが自身のクラスについて考え始めると、直ぐに聖杯から情報が伝えられる。
(俺のクラスはと、……イントルーダー? なんだそれはかっこ悪い。超エリートスーパーキングならともかく、こんなのが世界の英雄たる俺様のクラスなんて有り得るか)
ランスは考えるのをやめると一気に吐き捨てた。
「知らん」
「は!? 知らん、じゃないわよ! クラスが分らないんじゃ、何が得意で何が弱点なのかも分らないじゃない!?」
凛は白を切ったランスにたたみかけた。
聖杯は召喚される英霊達を、それぞれの英霊に相応しいクラスに分ける。極端な例をあげれば、剣を扱うならセイバー、槍を扱うならランサー、弓を扱うならアーチャーと、それぞれに見合った物に割り振られる。
故に、そのサーヴァントのクラス名を聞けば何を用いて戦うのかがある程度予想できるのだ。
しかし、クラスが分からなければ、そのサーヴァントの戦法、戦術、スタイルの予想を立てにくい。
もっとも、ランスの場合はわかり易く剣を腰に差していたので、その剣を用いて主に戦闘を行うのであろう事はある程度予測できることだが。
凛も、何故剣を持っているのにセイバーではないのか、ということに憤っていた。
「だいたい、その剣を使って戦うんでしょう? ならセイバーじゃない」
「ふん、そもそも宇宙最強の俺様に弱点など存在しないのだ。ならクラスなんぞなくても何も問題ないわ!」
「あんたはそれでよくても、あたしが困るのよ! ああもう! なんだってあたしがこんな目に」
凛は優美な髪の毛を振り乱しながらしゃがみこんだ。その悔やむ姿は普段の常に優雅に凛とした姿は一片とも残っておらず、まるで就職に失敗した大学生のようだ。
しかし凛は直ぐに立ち上がると、再度ランスに質問を投げかける。
「そもそもランスって言ったかしら? そのランスって名前も聞いたこと無いわ、一体どこの英雄よ」
「ん? この俺様を知らんのか? 世界を統一して魔人領すら制覇したリーザスの王だぞ?」
「リーザス? そんな名前の国聞いたことも無いわ。世界を統一したって言うならかなり有名なはずだし、あんた嘘ついてんじゃないでしょうね」
ランスへの信用がだんだんと下がってきた凛は、ランスの発言に信憑性がなくなってきていた。
信用どころか信頼も糞も最初に強姦された時から失っていたのだが。
「嘘なわけないだろうが! リーザスを知らんとは、どこの田舎だここは!!」
『ちょっちまて相棒』
王ということを疑われ怒鳴り声をあげ憤慨するランスにカオスが話しかける。
「なんだカオス。今俺様は気分が悪いのだ。くだらん話なら生ゴミの日に捨てるぞ?」
『儂と心の友の中ではないか。
――――それより、そこの嬢ちゃんがリーザスやお前を知らんのは此処が異世界だからではないか?』
「異世界…、そういえばあのくじら野郎がそんなこといっていたな」
ランスはカオスの助言でルドラサウムとの会話を思い出す。
凛はランス達の会話を聞いて、異世界を別の意味で捕らえていた。
「異世界ってねえ…、まあ、あんた達過去の英雄にとっては今の世界は異世界みたいなもんなんでしょうけど」
ランスは凛を無視して、独り考えに没頭し始める。
(ふむ…。シィルを人質に取られたとはいえ、このままあのくじら野郎の操り人形になるのは御免だからな。シィルを助け出すのは当然として、せっかく異世界に来たんだ、ここでまた俺様の軍を作って今度はあのくじらにも負けないほど強い軍隊を作ればいいのではないか? 聖杯戦争に勝てばシィルも取り戻せるしな。で、こっちの世界で最強の軍隊を作り英雄の様に元の世界に帰って来る。ついでにこちらの世界の美人を全部俺様のものにする。がははは! 我ながら完璧な作戦! 俺様が優秀すぎて少し怖いぜ…)
ランスは自身が考えた計画を勝手に感動しつつ、やれやれと自分の天才さに呆れていた。自分で。
凛はいつまでも自己泥酔しているランスにガンドを放ち強制的に現実に目覚めさせる。
「ぐお! 行き成り何をする!!」
「あんたが何時までもあたしを無視して惚けているからでしょ? それより、あんた対魔力は全然ないのね。良いことが分かったわ。戦闘には困るけど、これからは襲われずに済みそう」
「いつつ、凛、お前魔法使いだったのか」
痛む箇所を摩りながら質問するランス。
ガンドとは言え、凛の高い魔力密度から拳銃弾並みの破壊力を持ったものになっているはずなので、その一撃を受けて平然と立っているので魔人や神の撤兵と生身で戦ったランス宛らと言える。
凛も口には出さないが少なからず感心はしていた。
(ふーん。どこの英雄だか知らないけど、英霊は英霊ってことね。魔術的防御があるわけでもなさそうだし、少なくともただただ人間とはやっぱり違うか…)
「魔術師よ。とにかく、あんたがどこのマイナーな童話だか神話の英雄だか分からないけど、そうなるとこれからの計画を立てたりするのに困るわね。…調べてみるしかないか」
「ふん、相手がどんな相手だろうが英雄王たる俺様に敗北などありえんわ」
凛の今後を案じる発言にランスが胸を張って答える。
「はいはい。それは分かったから、あんたこれからは自分のことはセイバーって名乗りなさい。剣を使うみたいだし丁度いいじゃない」
「なんでわざわざ名前を隠さねばならんのだ?」
「名前を知られれば、それだけで敵に弱点を教えるようなものじゃない。まさか堂々と名乗るつもりだったわけじゃないでしょうね?」
凛はじと目でランスを見る。
今までの態度から導き出されるランスの性格から、間違いなくそうだと確信していた。
「だから俺様に弱点なんかないって言っているだろうが。もういい、俺様少し外に行って散歩してくる。異世界がどんなものか興味があるしな。ついでに女の子もゲットだ!」
「――あっ、ちょっと!待ちなさいよ!」
ランスは凛の制止を無視すると、高笑いを上げながらそのままずかずかと部屋を出て行ってしまった。
凛がその後を慌てて追いかける。
ランスはこの異世界という場所に実はかなり興奮していた。元々冒険者というのもあるのだろう、リーザス王として世界を統一したランスには大陸のことはほぼ把握してしまったので、新しい土地と言う新鮮感余りなくなっていた。
そこでこの異世界のまだ見ぬ迷宮や主に女性にわくわくしていたのだ。
なので凛の辛気臭いだらだらとした真面目な話はマリスとの国議を思い出させ、ランスは苛立ちを感じ、元々快楽に生きる男のランスは聖杯戦争の今後のことなどよりもまだ見ぬ未開の土地の探索を始めることにしたのだ。
リーザスの王だった時になんとか真面目にマリスと国議していたのは、国に縛られていたから嫌々行っていただけなのだ。
ランスはいつもの鎧を歩きながら着け終わると、後ろについてくる凛に振り返る。
「なんだ凛、わざわざ付いて来るのか? がはははは! なんだかんだ言ってもう俺様から離れられんのか」
「違うわよ! そもそもこの街をアンタに案内するのがこれからの予定だったのよ、これから戦うのに地形を知っておいた方が良いでしょ? だいたい、なんで私があんたに好き好んでついてかなくちゃなんないのよ」
「むむ…。可愛くない奴だなあ」
「うるさい。 じゃあ霊体化してついてきてちょうだい。 その格好じゃ今の世の中は目立つからね」
凛はランスを追い越し、そのまま早足で玄関に向かった。
その後ろを、凛の腰を眺めつつ実体化したままついて行くランス。
(むー、起きた時にやってないから少しイライラするぞ? 凛もさせてくれなさそうだしな、このまま襲ってしまおうかなー。でもあの魔法は痛いしな。いや、後ろを見せている今ならいける!)
あの魔術を放った腕さえ押さえつけてしまえば勝ちだと思い、ランスは羽交い締めにしようと、音もなく静かに凛の後ろに張り付くようにして近づく。
「むふふ…」
「…言っておくけど」
「ん?」
凛の肩を掴みかけたところでランスが動きが止まる。
「令呪にはあんたを自害させることもできるのよ?」
「なんだと!」
「次に強引に私のこと犯そうとしたら、…どうしようかしら?」
凛はランスに令呪が見える様に腕の裾をまくり、振り返って見せつける様にして突き出す。
ランスは凛を犯した時のことを思い出し、余裕の笑みを浮かべる。
「だが前は少し頑張れば何とかなったぞ?」
「それはあの命令が曖昧だったから。今度は違うわ」
凛はふん、と鼻を鳴らすとそのままランスに背を向ける。
ランスは今回はやばいと踏んだのかそれ以上動かなかった。
「俺様は王様だぞ?」
「そんなの私には関係無いわね」
「ぐぐぐ……卑怯だぞ…」
「どっちがよ! 分かったなら変な気起こさないでよね」
凛はそう言うと、ランスを無視して再び早足で歩きだす。
ただならぬ雰囲気を感じた凛は、ランスからの暴行に対抗するために分かり易く令呪による自害で脅して見たが、予想どうりあっさりとランスは引き下がった。
自分の命が確実に掛かってくるとなると、以外に弱気になるランスだった。
勿論、凛もランスを殺す気など無い。願望機足る聖杯にそれ程執着はないけど聖杯戦争を優勝したいという気持ちは本当だ。
ただこれ以上ランスに体を弄ばれることに我慢ならなかったから、あえてこのような脅し型をしたまでである。快楽主義のランスには効果抜群だったようだ。
ランスは暫く地団駄を踏んでいたが、とにかく一度諦めることにして凛に黙ってついて行くことにした。
(このままでは手がだせんぞ…。凛は感度も良かったしこのまま出来ないのは勿体ない。もう俺様に99%惚れてると思うが、あと1%たりんみたいだ。まあ、ハンサムな俺様を前に直ぐに自分からまた股を開いてくれるだろう。まだまだ可愛い子は一杯いるだろうしな!)
ランスはこれからのこと(女の子)を考えて再び気分がよくなり、下品な笑みを浮かべていた。
玄関に着いた。
外に出ると凛はもう一度ランスに向き直る。その額からは青筋が浮かんでいた。
「で? なんで霊体化してないのかしら?」
凛は外に出ても未だに鎧姿で実体化したままでいるランスに何度目になるか分らない苛立ちを感じる。
ランスは何のことかよくわからなかったので、そのままついて来ただけだが。
「よく分からんが、霊体化なんて出来んぞ?」
胸を張って答えるランス。
「あんたねぇ…、英霊って、ようは魂みたいな物でしょう? その身体だって魔力で維持してるんだから出来ないわけがないじゃない」
「魂? そんなもの、死人でも無いないのに出来るわけないだろうが」
「死人じゃない…? あ、そうか。実在しない童話や神話の中なら、そもそも死んでいない英雄だっているわけね。だから霊体になれないってことなのかしら…?」
凛はランスをみて自分なりの仮説を立てる。
しかし、ランスはルドラサウムによって英霊召喚に割り込んで召喚された存在なので、そもそも英霊でも精霊でも何でもないのだ。
ルドラサウムの大陸内では英雄であることは間違いないが、凛がそれを知ることはまだない。
「…はぁ、明日から学校どうしよう。まあいいわ、問題はそこじゃないし」
ため息が漏れる。
この問題は後で考えることにした。
「ん? 凛は学生だったのか?」
「ええ。 だけどあんたが霊体になれないから、今まで通り通うか考えていたところよ」
凛の言葉を聞いて、学校の女の子を美味しく頂くというグットなアイデアがランスに閃く。
男の先生にでも成りすまして女性徒をてきとうな理由で呼出せばチョロいだろう。なんなら俺直々に性についての実技でも――。
「ふむ…、それなら凛、俺様にいい考えがあるぞ。だから凛はいつも通りにするといい。がははは!」
「悪い予感しかしないけど…まあいいわ。それは貴方に任せる、私はいつも通りに通うから。
それより、霊体化出来ないんだからその鎧は脱いできなさい。剣は念のためそのまま持ってきて。なにか入れ物探してくるから」
「それなら必要ないぞ?」
そう言って魔法ボックスを取り出すランス。
魔法ボックスとは、魔法ハウスを応用した収納道具で大変高価だがアイテムを同時に1000個まで収納できる。
ランスは冒険中のアイテム収集などにこれをもっぱら利用していた。
魔法ボックスに鎧とカオスをぽいぽいと仕舞う。
「へぇ、それ便利ね。他にも宝具とかが入ってたりするの?」
「宝具かどうかは知らんが、便利な魔法アイテムとか武器なら入ってるぞ?」
試しに、リーザス聖剣を取り出すランス。
その剣に宿った魔力量に、思わず身構える凛。
「!…まさかとは思ったけど、まさか宝具を複数持っているなんて! あんたって何から何までむちゃくちゃね」
「ガハハハ!流石俺様」
(…こいつ、意外と当たりかもね)
口には出さないが、ランスを少し見直す凛。
宝具とはその英雄のシンボル。そのシンボルを複数も所持していることなどそうそう無いはずなのだが、ランスにはそのセオリーは通用しなかったようである。
「じゃあそれも街の案内が終わったら何があるのか教えてくれる? いろんな宝具があるならそれを使った作戦も考えられるわけだしね。持ってる切り札は知っておきたいの」
「うむ。構わんぞ」
「なら、行きましょ。このままだと日が暮れちゃうわ」
(『絶対差し押さえの札』は凛には隠しておかねばな)
先を歩き始めたリンのおしりを眺めなが思案するランス。
(リンのやつ、令呪があれば俺様が逆らえないと思ってるみたいだが、俺様には『絶対差し押さえの札』《こいつ》があるのだ)
『絶対差し押さえの札』とは、どんな契約でも無効にできる万能アイテム。魔法契約は勿論のこと、悪魔との魂を懸けた契約すら無効にすることができる。これによって、ランスは令呪による制約どころか、サーヴァント契約すら無効にすることができるのだ。
(『絶対差し押さえの札』があれば無理矢理襲ってエッチも出来るが、リンは可愛いくてあそこの具合もいいし、またやりたいからここはなるべく使わず和姦だな。そのために、なるべく言うこと聞いてあげて好感度アップだ!)
ムホホと鼻の下を伸ばしてだらしなく笑うランス。
――ランスと凛それぞれの思惑はあれど、今は同じ戦いに向けいざ歩き始める。