【急募】悪徳領主募集。最低収入保証。寝取りやすい職場です。 作:よるのけだま
おまえ意外と強スキル持ちじゃねーか
113年7月16日 AM 9:52
アロレア地方・ラルトマン領・第8管区東。地方領主館。
「ポアンは?」と俺は尋ねる。
「午前中はお仕事じゃなぁい?」とママーが言う。「まあ屋敷にはいないかもしれないけど」
「殿下への確認はどうしますか?」とステアリーは言った。
「え、ポアンって決まってる感じ?」
まあ、犯人候補はそう多くない。
なにしろ、ポアンとステアリーのほかには雑用係が日によって1人か2人いるだけだ。ただ、ステアリーは昨日、ポアンとは確信していないようなことを言ってもいた。
「私視点では終わっています」とステアリーは断言した。
「スパイねえ」と俺はなんとなく言ってみる。
「そうなるわねえ。まあ、候補はひとりねえ」
というようなことを話しているときだった。
ティンダール殿下がポアンと
ティンダール殿下が部屋に入ると同時にステアリーとママーはさっと席を開けて、立ち上がる。
「おまえら仲いいよなー。こんな行政官と仲良い領主初めてだわ」とティンダール殿下。「これで人妻なんでしょ? マジで貸してもらっていい?」
ステアリーが青ざめている。
「殿下」と俺は言う。
「いやー、すごいバッチリ刺さってんだよなあ。まあでも、KGキレさせたらヤバイかもしれないし、我慢するわー。似たようなのいたら教えてね?」
「これは俺のなので、似た若いのがいたらすぐに」
ステアリーはちょっとムッとしている。
「やばいな、KG。この行政官かわいすぎる。これ38歳、人妻なんでしょ? なんの奇跡起こってんの? え、ちょっと口くらい貸してくんない、マジで」
「えっ……あの……お……お許しください……」とステアリーはちょっと泣いてしまう。
たぶん、いまセルフおあずけ中なので、かなり危ないと思っているのだろう。
こういうところが迂闊なのにかしこくてかわいい。万が一でも耐えられると思っているが、いまは万が一にしてもタイミングが悪いという冷静さが微笑ましくもある。本人からするとガチめのピンチなのだろうが。
「冗談だよ。ただこれ以上かわいいとさすがにKGにケンカ売ってでも食べるから」
「申しわけありません」とステアリー。
褒められているような、本気で権力者に圧をかけられているような不思議な気分である。
まあ、ヤバそうなら連れて逃げるくらいはしてもいいか。
いやでも、俺寝取ってるしなあ、万一、真剣にいちおうステアリーに確認しよう、と思う。いや、それはステアリーに怒られるというのはわかるのだが、ところで殿下はなんの用で来たのだろうか。
どさっとソファに座って、ティンダール殿下は言った。
「ポアン、裏切ってるぞ」と殿下は言った。「俺に情報流してる」
「ええ……言うんですか……」
「まあ、いまも俺の私邸に報告書を届けさせている」
「殿下いらっしゃらないじゃないですか」
「まあ時間稼ぎだよ」
「情報流してるのに、殿下がなぜ?」
「ポアンは好みだろう?」と殿下はこれまでのポアンの身の上話、つまり、よくわからないままに家族を殺され、メイドになり、ラルトマン家当主・バビロア=ラルトマンに1年ほど調教され、本邸中から性奴隷扱いを受けていた、ということをしゃべった。
まあ、俺はそこそこそのあたりのいきさつはポアンから聞いていたし、ステアリーとママーもちょくちょくは知っている。
ではなぜ、殿下がしゃべりにきたのか。それがわからない。
「おまえは救ってやりたいと思っている。救いたいと思ってるのはこの部屋の全員かもしれないがな」
「なかなか不幸じゃないですかねえ、とは」と俺は言う。
「1年調教されてるのにフェラしかしてなかったのがむしろ奇跡だろ。幸運とも言える」
「しっぽつけながら暮らしてたのはちょっとエロかったです」と俺は正直に答える。
「まあ、あれは親父の命令だぜ? どうしてもつねに発情させときたかったらしいよ。まあ、ポアンが被害にあいつづけてる限り、理不尽な略奪がないわけで、俺としてもかわいそうだけど、利がないわけじゃないから、って感じだったが」
「そもそもなんでこっちにポアンを派遣したんです?」
「親父が処女じゃないと勃たないって思ってるからだろ。いや、処女でも1年勃たなかったんだがな」と殿下は笑った。「あとはおまえが祝福者なのは親父も知ってるから、スパイ名目ならまあ、みたいな感じかな。ただまあ2、3ヶ月たったけどポアンは戻したいと思ってはいるらしくて、そろそろ戻すと思う」
「殿下がなんとかなさるんですか?」
「かわりにして欲しい仕事があるんだけどな」
「いつぞやの討伐依頼みたいなやつですか?」
「もうちょっと人間同士の話だから調整がいる」と殿下は言って人払いをした。「ふたり下がって?」
「もうねえ、きみの力を考えると俺はなるべく恩を売りたいから、買ってくれ」と殿下はふたりが退室したあと言った。「俺、じつは隠してるステータスあんだよね」
「あいにく、スキルの知識があまりなく」と俺は正直に言った。
俺のスキルはほぼ固有のオンパレードなので、他人のスキルにあまり興味が持てなかった。
いくつかママーが昔教えてくれたが、さほど真剣には覚えていない。
「星詠みの支配者持ちだ」と殿下は言った。
たぶん、ギリギリ覚えている。
これとこれとこれは強いわよぉ、みたいなことを言われた中に入っていた気もする。たぶん。
なんか、名前的にそれっぽいのがあった気がする。
「予知……とかでしたっけ?」
「しれっと言うよな、おまえ。まあ祝福者はいろいろ感覚はおかしいんだろうが。一般的には相当にレアなスキルだよ。予知というか、ほんの短い映像が見える」
「未来のですよね、当然」
「そりゃ予知だからな。ただ見るものは選べないし、状況もわからないし、その映像の時間が到来したことははっきりわかるが、それまではおおよその時期しかわからない。あくまで映像からなにが起こるか推測する必要がある。2度同じ映像は見られない。とまずまず不完全だが、それでもある程度の未来が見えるのは大きい」
「いくつかは映像を覚えてらっしゃるということですね?」
「そう。じつはおまえが前の領主が殺されたあと出てくるところを見ててな。だから、面談のときに雇うことになるんだろうとは思っていた」
「なるほど。けっこうアレですね」
「で、いまそのスキルでポアンがおまえのそばで赤ん坊抱えてんのがあってな。まあ、つまりこれはそういうことだろうと」
マジかよ。
ただそれ俺のネタバレでもあるが。
「それでわざわざ?」
「理由はふたつ。まずこの能力は逆らっても効果がない。というよりも、実現はされる可能性が高いが、俺がそれを実現させないようにすると、俺にペナルティがかかる」と殿下はシャツをたくしあげて脇腹を見せる。
大きな傷があった。
「まあ、これは
「大怪我に見えますが……このときはなにを?」
「まあ、近所のガキが結婚式あげてる様子があって、実験がてら女の方をめちゃくちゃにしたら、結婚式があったであろう日に、脇腹をなにかよくわからないものにえぐられた」
「なにかよくわからないもの。怖い話ですね」
「ちなみにだれかに話してそいつが邪魔しても同じように俺に返ってくる」
「……俺にとてつもない便宜をはかってくださるのは、そういうことですか」
「そうだ。リスクを考えると
「ひどい話だ」
「どうにも非対称だからな。これくらいでイーブンだろ、だからポアンはもらっておけ」
「いつからこうしようと?」
「あのふざけたチラシを持ってきたときからだよ。あんなもん、即処刑だよお、本来」
「まあ、ですよね」
【急募】悪徳領主募集。最低収入保証。寝取りやすい職場です。
応募するやつも採用するやつもイカれている。
つくった愉快犯が唯一まともな可能性すらある。
「ちなみにこれまで見た映像で実現されてないものはもうないから、俺はただのひとだけどな、いま」
「リスクが高いですね、やはり。殿下には俺がいてよかったと思っていただけるよう頑張ります」
「いいだろ。ポアンはいるのか? こっちで売るか?」
「無論、いただきますが、裏切りそのものはいただけませんので、数日待っていただきたく。うちの優秀な行政官——」
「ステアリーの件は冗談だ。冗談じゃないが俺がつまみ食いしたら人質じゃなくなるだろうが。手は出さない」
「では叔父貴、なにをすればいいんですか?」
「8管区にリスリルっていう魔法使いがいるんだがな」と殿下は初めての命令を下そうとした。