TSうすほそ転生魔族ちゃんが人間の男に救われて一緒に暮らす話。 作:ソイレント・グリーン
何かちょっとシリアス()が続いてしまう…。
本来の趣旨と少し変わっているような気もするので、シリアス苦手な方は読まずとも大丈夫です。
えっち描写…なし…!(血涙)
ごめんなさい…。
「え、えーと…つまりその、あの子には恋人がいて…今はかなり平和に暮らしている…と」
「うん」
ぼくはガラちゃんの所に戻り、発見したあの子の事を説明した。えっちなことについては話さなかったけど…。
「ガ、ガラちゃんの方は…結構上手くいってるみたい…だね…」
そう言うとガラちゃんは何故だか百面相し始めた。なんだろ、何かあったのかな…。
「クォーツさん…あたくし…あたくし!好きな人ができましたわ!」
「……ぇ?」
好きな…人?…ここで?…誰を、好きに…人間?
「あ…そ、そうなんだ…」
「責めたり…しませんの…?」
責めるって…なんでだろ、だって。
「そ、その人も一緒に…連れてくんでしょ…?」
ぼくの放ったその言葉に、ガラちゃんは止まってしまった。どうしたんだろう。だって、そう言う計画のはずだ、集めた人々にはゾンビ作戦の囮になってもらうと。
ガラちゃんの技能で人を集め…ぼくの技能で姉妹たちに変身させ…何人も使って、何回も変身させて…一瞬の隙を作るゾンビ作戦…。
ガラちゃんは口をパクパクさせて、言葉が出ないみたいだった。
「そ、れは……それは……」
その時だった、小屋の外に強い魔力の反応。初めて感じる魔力だ。ぼくはすぐに姿を屈強な男へ変化させた。
「ガラにゃんいる〜?」
聞いたことのない声。誰だろうと思いガラちゃんに目を向けると、彼女はわたわたと玄関のカーテンを開けて客人を歓迎した。
「リ、リリス様!お会いできて光栄ですわ…っ!」
声が上ずってる。なるほど、恋をしたのは女性相手だったんだ。
彼女は入ってくるなり、ぼくの姿を見て、おっ、と少し驚き、近づいてきた。
「君がガラにゃんの護衛やってるクォっちくん!?からだデカ!すごいねぇ~!」
「うっす」
ひと目で分かった。強い。
彼女は筋肉触って良い?と聞いてきたので了承し、触らせる。これで彼女の姿もコピー完了…。
「今からさ〜!ガラにゃんとお茶すんだけど、クォっちもする?」
「いえ…俺ぁ遠慮させてもらいやす…」
そう言って小屋を出ようとする。ガラちゃんの恋路を邪魔とかしたくないからね。
だが、リリスと呼ばれた彼女とすれ違う瞬間、その背中にある大鎌を見てしまった。
これ…あの子の鎌だ…。思考がぐるぐるしている。あの子は戦うことを放棄した?いやそもそもこの鎌は決して優れたものではなく、じゃあ奪った、そんなことできるはずない、この女はあの子と交流がある…?って事か…。じゃあ、この女は参加させられない。多分良い仲なんだ。あ、じゃあコピーしといて良かった…多分色んなことに使えるよね…。
ぼくはそんな事を考えながら、計画実行場所を探しに出かけた。
「え、えとぉ〜その〜あの〜」
帰ってきたとき、ガラちゃんはとてつもなく挙動不審になっていた。
「リリス様をぉ…計画に参加させるという…お話なのですが…」
「う、うん、アレはやめたほうが、良いよ…うん…」
「え?」
目をまん丸にして驚くガラちゃん。その反応…やっぱりガラちゃんは気づいていなかったんだ…。
「リリスちゃん、が背中に着けてた鎌…あれ…あの子の鎌だよ…」
「おファッ!?」
彼女を騙してあの子を殺させるのは骨が折れる…流石に遠くに行ってもらったほうがいいか…。
「ぜんっぜん気づかなかったですわ…!」
「う〜ん…さ、流石だね、ガラちゃん…」
「いや全然褒められてないですわ〜!!」
ひーん!と嘆きながらもどこか安堵しているガラちゃん。だけど、うーん…この調子で難民たちを計画に使うことできるのかなあ…そう思って彼女に聞いてみた。
「ガ、ガラちゃん…難民のみんな…使えるの?」
さっきまでテンションが上がっていたガラちゃんは、ひゅっと息を呑んだ。リリスちゃんの件でも感じていたけど、やっぱりガラちゃんはこの人たちに情が湧いてしまったんだ。そんなの、あまりにも無駄なのに。
「何か…できないんですの…?」
「な、何かって?」
「だって!ここの人たちはみんな、救いを求めてやってきてる人たちですのっ…!そんな人たちを使うなんて…たっ!例えば悪人だけをあつめたり〜…」
非効率…それにわざわざ人心を集めた意味も無くなる。
「そ、そんなこと…してる暇ないよ…」
「うぅっ…」
目をぎゅっと瞑って苦しそうな顔をする。ガラちゃんの良いところでもあり、悪いところでもある。彼女は貪欲でなさすぎる。自分のことをもっと考えるべきだ。
仕方がないから、あの言葉を使うことにした。
「ぼ、ぼくたちがやらないと…お母さんがくるよ…?」
ガラちゃんの目が見開かれた。そりゃそうなるだろう。ぼくはガラちゃんの耳元に近づいた。
「ぼくたちが…失敗、したら…お母さん…も、もう我慢できなくて狂乱する、と思う…」
「お、お母さんが狂乱したら…ぼくも、ガラちゃんもこ、殺されるし…」
「こ、ここの皆も、拠点内の皆も…リ、リリスちゃんも」
「ぜ、全部壊されちゃう、よ…あの子を殺すため、だけに…」
「ま、魔界の神殿、だって…!お母さんがいないと…侵略されちゃう、かも…」
それは確信に近い予測だった。
お母さんは、嵐の精霊の力によって変質した身体を、神殿で自己封印している。だから動けなくて…しょうがなく、仕方がなく、ぼくたち『娘たち』を差し向けてる。
けど…『娘たち』の実質的な最後の刺客である僕たちが失敗したら、お母さんは自己封印を解いてあの子を殺すためにやってくるだろう。
自己封印を解いたお母さんの肉体は…たぶん嵐そのもの…理性さえ吹っ飛んで触れるものすべてを壊し殺す厄災と化す。
正直ぼくはそれでもいい…。だけど、他の人からしたら最悪の結末なはずだ。まぁ、ぼくたちが失敗したとしても、そうなるだろうけど…。
「わ、かりましたわ…やる…やります…」
「う、うん…ありがとう…ガラちゃん…」
その言葉が聞きたかった。準備はできてるから、すぐにでも実行しよう。ぼくはガラちゃんの頭を撫でた。
「皆様…お集まりいただいて…ありがとうございますわ…」
今、ガラちゃんの周りにはたくさんの難民が集まっている。これからぼくたちは、この人たちに嘘をつき、贄になってもらう。
いきなり集められたことに、難民たちは困惑している。
「数週間前…あたくし達がこの場所に来たのには、理由があります」
「あたくし達の故郷は、魔界からやってきた恐ろしい魔族に、滅ぼされたのです…そして今、その魔族はこの場所に現れ、再び災いを振り撒こうとしています…」
あたりがざわめいた。
「かの魔族は、人の多い場所を狙います…奴が来れば、人は勿論、建屋も、大地すらも不毛になります…」
「な、何が目的なんですか…その魔族は…」
一人の難民が震えながらそう尋ねた。ガラちゃんは感情を殺しながら返事をする。
「己の愉悦のためにほかなりません、奴は殺戮と…破壊を…愉しんでいる…」
ガラちゃんが苦しそうに言うと、難民たちはしんと静まり返った。お葬式の時みたいな、絶望と悲しみが入り交じった空気。
「逃げたい人は…お逃げください…ですが…どうか…どうか少しでも力になっていただける方がいらっしゃるのであれば…!どうか力を…!」
頭を地面に擦り付けるほどに下げて、懇願する。難民たちは、誰も返事をしない、しばらくの静寂が広場をつつみ込んだ。すると、ポツリと誰か声を発した。
「リリスさん…リリスさんは、今どこへ?彼女なら…!」
「………リリス様は、別件で魔獣の討伐に向かっていらっしゃいます…すぐにはこちらに着けないでしょう…」
「あぁ…そんな…」
ぼくが仕込んだ偽の依頼で、リリスは今全くの逆の方角にいる。ぬかりはない。
再び絶望が広がりそうな空気の中、突然だった。
「お、俺は…俺はガラナ様に救われました……自分のことだけ考えてたクソ野郎だったのに…皆と一緒に生きることの美しさを教えてもらった……お、俺は!俺は参加します!やらせてください!」
特徴のない顔の青年がそう大声で宣言した。
それが起点となったのだ。
「お、俺もやるぜ!ガラナ様がやってきてから、まだ生きてぇと思えたんだ…!ここで魂燃やさなきゃ嘘だぜ…!」
「私も!私もやるわ!まだガラナ様への恩が返せてないの!」
たくさんの難民たちが声を上げる。これだ、これを待っていた。もちろん全員ではない、だがそれでいい。むしろ強く若い者が多いならば、それで大丈夫だ。
もう広場は大盛り上がりである。だが対照的に、ガラちゃんの顔は曇っていた。
「ガラナ様!我々は何をすれば…!」
ガラちゃんは呼吸を整えて、ぼくの方を見た。
「彼、には。皆様に強力な力を与える術があります…その力で…」
「そ、そんな力が!すげぇ!」
「なんですかぁもっと早く言ってくださいよガラナ様ぁ!」
「あっ…でも、そこまでつよい力ってわけじゃなくて…」
ここまで勢いよく動き始めた流れを、ガラちゃんの静止で止められるわけには行かない。ぼくはみんなを案内し、コピーした力を貼り付けていった。
ほぼ計画通りに進んでいる。リリスちゃんという切り札もある。
ぼくは立ちつくすガラちゃんに振り返ることなく、難民たちを連れて行った。
◇◇(↓キョウ視点)
リーヴとのエッチがうまくいってから、俺たちはしばらく和やかな時間を過ごした。姉たちも来なくなったし。
そして何度かエッチもしたが、その度にリーヴは上手くなってる。今ではキスだけで頭の中とろっとろのめろっめろにされて、イカされたり…コイツの成長具合が恐ろしい…。
そして今日は2人で山菜採りをしていた。
「おっ!これ!ムキタケじゃないか?」
木の根元でリーヴがテンションを上げている。
「なんだそれは」
「えっムキタケ知らないのか?そこそこ高級食材なんだぞ」
「高級…」
その上腕二頭筋みたいなキノコがか…?なんて考えていた時だった。南西の方角で、異様な魔力を感じた。意外と近場か?歩いて20分くらいのところだな…。
姉…なのか?分からない…だがこれは、十中八九誘っている…。
俺はリーヴに声をかけた。
「リーヴ」
「ん?どうした」
「ちょっと行ってくる」
「お、おい!」
そう言って俺は飛び立った。
そこは森の中の少し開けた場所だった。
だが…
「何も…無い?」
魔力の痕跡はかすかにあるものの…何かかあるわけではない。
気の所為、なんてことはないはずだ。その瞬間。
「おっ」
木々の隙間から黒い雷が襲い来る。
とっさに両腕を構えて防いだが、何だこの威力は?余りにもお粗末すぎる…。
続けて二方向からの雷。今度は叩き落とした。
放たれた方角に向かおうとした瞬間。ごおっと音をたて、辺りの雪が舞い上がり、ドーム状に俺を取り囲んだ。
何だ…誰がこんな…。
ひとまずこの雪は吹き飛ばそう。俺は風を収束する。だが発動しようとした瞬間、雪のドームの壁を突き抜け、何かが飛来し、俺は思わずそれに目を向けてしまった。
「……羽?」
白い…少し光を反射している…ってこれは──
カッッ!!!
「くっ…!」
羽から発散される凄まじい閃光。思わず目を閉じてしまった。この光!これはシャミッツの…!
俺は姿勢を低くした。これは判断ミスだったな…。
ズ……、と地面に埋まる足。
「!?」
泥か!一瞬、一瞬だけ足を取られた。再び羽根がドーム外から飛来する。
「させん…!」
風の刃を飛ばし、光が発散される前に切り裂く。
泥から飛びだし、俺は宙空で収束した嵐を展開した。
あたりの雪のドームが散り、みしみしと木々がしなる。
「うわあっ!!」
っ!声…!あっちか!
声の方向へと駆け出す瞬間に、手足に何かが巻き付き、俺の動きは阻害されてしまった。
「なんだこれっ?」
鎖のような…触手のような何か。とてつもない数が手足に巻き付き、辺りの木に俺を拘束せんと絡み合っている。
この程度の足止め…なんの意味も無い。ブチブチと鎖を千切り、自分の周りに嵐の壁を展開した。もっと早くこれを使えばよかった…。
ぼうっ!
「は?」
地を走る炎。嵐の壁は、その焔を取り込んで──。
「あっちッ!」
熱い?俺が?
まずい、この炎ただの火じゃない、魔力を大量に含んでる。炎の渦と化していた嵐を解除した。
ちっ…炎によって視界を封じられていた瞬間に、罠を張られた…。地面一帯沼と化して、羽根が混じっている…。あれ踏んだらまた閃光弾発動かな?
まったくもってしゃらくさい。
「吹き飛ばすっ…!」
地面ごと抉るっ!風の塊を地面に撃ち込もうと構えた。
「ま、待てっ!」
!…聞き覚えのある声だ。ほんの少しだけ、気を取られてしまった。ふと視線を向けると、そこには俺が殺したはずのアレキサンドラが佇んでいる。
は?
本物…じゃん…どういう事だ…確実に殺したのに…。
「ぐっ…!」
背中に衝撃。何かに切りつけられた。ダメージと言うほどではないが、紙で指切ったみたいな…。ばっ、と振り向く。こいつ…フキだ!こいつも俺が殺した…!
蘇った…?でもそんなことあり得るのか。だがどちらにせよ。
「もう一度殺すだけだ!」
再び彼女らを殺すために、高威力の嵐を展開した。地面に異様な螺旋模様が刻まれ、木が割れ吹き飛ぶ。
いや…だが殺せなかった、逃げられた。フキは違和感のある挙動で後方へ吹っ飛んで行ったが…一瞬だけ見えた、奴の腹に巻かれた鎖、あれで後ろに引っ張られたんだ。なんだったか、あれも見覚えがある…そうだ、たしか五女…キリクの技能だ。
なるほど、俺が殺した姉たちが、また殺されに来たというわけだな。
「面白い」
だったら何度でも殺してやろう。
吹き飛ばした沼が再び四方から現れ、倒木もまとめて飲み込んでいる。俺は風のドームを作り、泥を全て退けた。泥の発生地点が複数あった…?おそらくマーシュの技能なんだろうが、まさか一人では無い…?
泥の中に隠されていた鎖が俺に向かって射出された。また拘束か、だが、その程度の強度ではこの風のドームは突破できない。
鎖の挙動が、くんっと曲がり、ドームに沿うように巻き付いていく。視界を塞がれる。搦手ばかりだな。
巨岩が砕かれるような音が響き、塞がれていたドームの上空から、雷が落ちた。だが今回は足止めにもならないような威力ではなく。
「!」
全身が痺れ、筋肉が強張る。これは…1本の雷撃じゃない…。何重にも束ねたものだ…。
俺に落ちた雷は身体から飛散し、沼にぱらぱらと着弾した。
ぼこぼこ…と泥が人の姿を形成してゆく。
スワンプマン…俺のコピー…。
一体一体は強くない、だが多すぎる。風を収束しようにも、その隙がない。っ…!鬱陶しい雷も飛んでくる。これかなり厄介だぞ…。だが、この程度で俺を狩れるとは思わないでほしい。
ボンッ!!と足の下に放った風で上空へ急上昇し、殆どの泥は振り払えた。少し遠方…見えた…かなりの数がいる。俺は空中で再加速し、そいつらの元へ突っ込んだ。
「う、うわああっ!来たぞっ!」
「ば、化け物…!」
何だこいつら…姿も声も、纏ってる魔力も姉どもなのに、発言と行動が弱者のそれだ。違和感を感じながらも、切り刻むべく俺は急接近した。
「ひっ…!」
その時だった。アレキサンドラの姿が陽炎のように揺らぎ、中から見たことのない男が現れる。は…?誰…?動揺した俺は、攻撃をやめてしまった。
「いっ今!今今!!」
周りを取り囲む複数の姉たち…なんとも異様な光景だが…彼女らは一斉に攻撃を繰り出した。だが、技量も何もないがむしゃらな攻撃、先ほどまでの連携が嘘のような出来損ないの攻撃だ。
殺さず…まずはこいつらが何なのか調べるべきか…。俺はそう思い、斬撃を含まない強風で全員を吹き飛ばした。
「ふぅ…って…全員の姿が…」
またも、陽炎のようなものに包まれた彼女らは、見覚えのない者たちに変貌、いやおそらく変貌ではなく、元の姿に戻っているのだろう。しかも人間…。
「みんなっ!!」
突然、すごく聞き覚えのある声が聞こえ、振り返った。
「リリス…」
どうして彼女がここに…、ここにいる奴らのことを呼んだということは、こいつらはリリスの知り合い?仲間か?俺一人も殺してないよな…?
その思考が隙となったのだ。
「今だよガラちゃん!」
リリスが叫ぶ。は?ガラちゃん?誰?
俺の近くの空間が揺らぎ、修道服を着た金髪の女が現れた。こいつは…?いや、何か…どこかで見覚えが…。俺の頭の中でだけ時間が遅くなっているような感覚。
その、必死な顔をした女は、俺の頭に触れた。
ぬるり、と何かが入ってくる。
「あっ…がっ…!」
まるで頭のなかに直接手を入れられているような感覚。脳の奥、秘密の部屋を撫でられて、包まれている。
「あぁ…ああ…」
その手の温もりが、何だか落ち着いて、優しくて、受け入れてしまいたくなる。見えなくなっていく、隠されていく。
「い、いいよ…!ガラちゃん…!」
誰かが何かを言っている。聞き取れない。
「だ…だめですわ!技能が暴走して…制御が効かない…!!」
自分がわからない。俺は、私は誰だったっけ…。
「いや…良い!そ、そのまますべての記憶を隠してっ!!それならここで殺せる!!」
すべてが見えなくなる瞬間、頭の中で声が聞こえた。
いつも聞く声。200年の私の孤独を癒やしてくれた声。
私に愛を教えてくれた声。
キョウ!!
俺は自分の頭に凄まじい蒼雷を放った。
「ぎ……ああ゙ぁあ…っ!!」
めちゃくちゃ痛い。でも止めるな。
「なっ何!?」
「ガラちゃっ…!!」
俺の頭に触っていた女は、その衝撃に耐えられず吹き飛んだ。
シナプスを駆け巡る雷光。パチパチと俺の頭を覆っていた心地良い手が弾けて消えて行く。
「一体…どういうことですの…!?」
激しい光が消えたとき、俺の頭からは煙が立ち上っていた。はたから見ると馬鹿みたいに見えたかもしれない…。
「お前…思い出したぞ、ガラリェール…だな…もう一人は…クォーツ…」
「なんで…記憶は秘匿したはずなのに…」
「電気ショックってやつだよ…まあ、もとに戻ったのはたまたまだけど…」
本当にたまたまだろう。電気ショックを受けて記憶がなくなるんだったら分かるけど、戻るとか俺も聞いたことないし…。
でも、ほとんどの電力と魔力を使ってしまった。もう大規模な破壊行為はできないな…。完全に消耗する前に、こいつらを殺す。
ちょうど2人は隙だらけだ。そりゃああんな奇行を目の前で見せられたら誰だってそうなる。
「まだ…終わってない…よ…!!」
後方に立つクォーツが叫ぶ。まだ何か…。
「!!」
木の影から、姉どもの姿をしたやつらが5人…鎖につながれたリーヴを引きずって来た。リーヴは負傷していた。
頭に血が昇っていく。限界だったはずの稲妻が、角に迸る。
殺す…。
「う、動かないで…!動いたらこの方を、この方を…殺しますわ…!」
リーヴに駆け寄ったガラリェールが、彼の喉元に爪を突きつけた。舐めるなよ…リーヴが殺されるよりはやく、お前らを殺してやる…!
「キョウ…すまん…」
っ…!リーヴが苦悶の声を漏らす。そんな顔をするなよ、リーヴ。
クォーツが口を開いた。
「ぼ、ぼくたちの、言葉に…従ってもらう…じゃ、じゃないと…あの男を、殺す…恋人、なんでしょ…?」
…………恋人?恋人?リーヴが…俺の?
いや、違う…違う、けど…。
俺は、記憶の奥底で自分の気持ちに気付いてしまった。
リーヴが好きだ。愛している。大好きだ。だから…
俺は攻撃姿勢を解いた。
「よ、よかった…わかってくれた…みたい、だね…」
俺がリーヴを助け出せるとしても、少しでもリーヴの命が脅かされるリスクがあるのなら…リーヴが死ぬかもしれないのだとしたら、選べない…。
俺は膝をつき、首を項垂れた。
クォーツの白い大鎌が大きく振り上げられた。
「リーヴは殺すなよ」
「わかってるよ」
鎌が振り下ろされる。その時だった。
「リーヴ!!防げッ!!!」
全くの無意識だった。本能で鎌を掴んだ。血が滲む。
リーヴの声だ。
「死ぬな…!!」
死ぬなっ…て先に死にそうになってるのはそっちなのにさ。
「しゃ、しゃべらないでくださいまし…!!」
「嫌だ…!あいつには…俺が理由で死んで欲しくないんだ…!」
捕まった俺が悪いけどよ…!と自嘲気味に笑うリーヴ。
「あいつには…もっと幸せになって…満足して死んでもらわにゃ…!」
そんな男の必死な言い草に、自然と笑みが溢れた。
「俺が満足して死ぬには…お前と生きるのが条件なんだよ…!バカ…!」
リーヴに向かって、今出せる最高速で駆ける。
「っ!!ガラちゃんッ!!!」
間に合え…風に乗れ…!
ガラリェールの震える爪がリーヴに迫る。
だが、それがリーヴに届くことはなかった。
「む、無理ぃ…」
ガラリェールは泣いている。
「は?」
クォーツの唖然とした声が響く。
「リーヴっ!!」
俺は抱きつくようにリーヴに飛び込み、そのままリーヴごと一回転して、雪の上に着地した。
間に合った…!いや…運が良かった、のか。
「い、いってぇ…ほ、本当にすまん…キョウ…」
「謝罪はいい、これは俺が招いたことだ…!」
俺は満面の笑みで答え、そしてリーヴを守るため奴らに振り向いた。
◇◇(↓クォーツ視点)
………………え?いや…え?
あの状況から…負けるの…?…ぼく…。
頭の中が真っ白になってしまった。
もう完全に諦めた顔だった。
たとえあの子が駆け出しても、ガラちゃんが男を切りつければ、それで動きは止まってた。
でも、そうはならなかった。
ガラちゃんはなんて言ってた?
無理?
「ごめんなさい…!ごめんなさい…!でも…!でもあの瞳が…とっても良く似ていて…」
瞳…?何を言ってるのかイマイチわかんないや…。
ガラちゃんは泣いてる。よくわかんない。
ぼくはまけた…?名前のないあの子に?
名前のないあの子に負けたぼくは…いったい何になっちゃうんだろう?
お母さんはぼくを見てくれない。
「あ…が………」
頭のなかの、空 白が広がっていく。
「はっ………はっ………」
が…広がって…。
「負けた…………?」
が………どんどん大きくなって…。
「お、母…さん…………」
が………………。
そして、我慢していたものが溢れ出したとき、その空白に、グッチャグチャに何かが書き込まれた。
思考がまとまらない。ノイズが止まない。頭のなかに何かがたくさんいるみたいだ。
自分の名前がわからない。
「ク、クォーツさん…その姿は…」
ガラちゃんが青ざめている。どうしたんだろ。
「技能の暴走…?」
あの子が怪訝な顔をしている。まだ余裕そう。
僕は自分の手を見た。
獣と、鳥と、魚と、蛸と、竜と、人と、魔族と、妖精が、混じり合った、出来損ないのツギハギ。
身体の奥底から、色んなものを入れたスープみたいな、ドロっとした何かがせり上がってきて、今なら何でもできそうだった。
多分、これがぼくの本当の姿なんだ。
今なら殺せる。今なら奪える。
「お前、本当にクォーツなのか?」
クォーツ、クォーツ、誰だかわからないから、改めて名乗った。
「はじめまして ぼくは おかあさんの じゅうばんめのむすめ 」
◇
そこからの戦いは、そう長いものでは無かった。
ぼくは負けた。
あの子はもう限界まで魔力を消費して、ボロボロのはずだったのに、撃ち負ける、押し負ける。
ぼくは天地を裂く力を得たはずだ。
森を焼け野原にした。大地を打ち砕いた。空を落とした。
でも、負けた。どうしても勝てなくて、その一歩が届かなくて。僕はどんどん削れていって。
最後には、あの子の姿になって、鎌を振るった。
当然のように負けた。
あの子が持っていて、今の僕にはないものがあるのかもしれない。
僕は地面に転がっていて、空を見ていた。
「はぁ………はぁ………満足したか…?」
あの子が微笑みながら、倒れ伏すぼくにそう聞いてきた。
「……足りない……足りない………」
「そっか……」
この満ち足りなさはなんなんだ。全力を出して戦って、これ以上ないほど負けたのに…。
「きみが…うらやましい、よ……」
「だろう?今俺は幸せだ」
ぼくは幸せじゃないんだけどな…。
「お前は何が欲しいんだ」
えぇ?なに突然…。
「お、お母さんが…くれるもの、なら…なんでも…いいけど……」
「ふ~ん」
俺はアイツ嫌いだがな、なんてなんでもないみたいにぼやく。人が好きなものを嫌いとか言うな!
「お母さん、に…ずっと…みられてる、君が……うらやましい…」
言ってやった。
「それなら手っ取り早い方法があると思うが」
え?
「お前が俺になれ、そして魔界に戻れ。結界も解いてやる」
今のお前ならば、実力的にもすぐ殺されないだろ、なんて言ってる。
………たしかに。なんでもっと早く思いつかなかったんだろ……。
「お前は俺を魔界に連れ戻したんだ、そういう事にしといてやるから、さっさとガラリェールを連れて戻れ」
………ぼく、倒れてるんですけど…。
ガラちゃんの方をちらっと見ると、彼女は泣いていた。
「ゔぇえぇ゙!!こんな思いするなら、人界なんて来なけりゃよかったですわ…!!」
「おい」
あっ…ガラちゃんの頭殴った…。乱暴者だな…あの子。
「えぐ……えぐ………あたくしは人でなしですわ……!リリス様に合わせる顔がもうありませんわ……!」
「意味わからん」
「だって…だってこの人たちに酷いことしましたわ〜!もう死ぬでずわ〜!」
「死ぬのは勝手にしたらいいが、せめてこいつらの記憶消しておけ」
あ…そういえば、ガラちゃんも技能が成長してたっけ…。
「そ!そんなの無茶ですわ!あたくしが隠せる記憶は…!」
「俺のときできてただろう、じゃあ死ぬほどの思いをしてみるか?」
「ゔぇえええ゙ぇ゙え!!!やります!やりますわ!!!」
……なんか、思っていたよりもあの子はサバサバしている。結構追い詰めたと思うんだけど、あの子にとってはそうでもなかったのかな。
そうして、号泣しながらガラちゃんは難民たち一人ずつの記憶を消し、あの子はその様子をみながら鼻を鳴らすのだった。
戦闘描写はこの回で終わりです。
人によってはハッピーエンドではないかも…。
次で最終回にするつもりですが、エッチパワーが溜まってないのでえっち回は書くかも。