TSうすほそ転生魔族ちゃんが人間の男に救われて一緒に暮らす話。 作:ソイレント・グリーン
申し訳程度の番外編。えっちなし。
「あ…あぁ…ぁ…」
ぼくは地面にへたり込んだ。
お母さんが次元を割るような絶叫を上げている。雷は樹木のように天へ伸び、実体を持たない嵐の肉体は解けて大気へ還っていく。
お母さんは絶命したのだ。
まだたった2週間…それだけしかお母さんとお出かけできてないのに…。
「ふぃ〜…マジで骨が折れたぜ、骨ねぇけど」
「ワタシ、モウ、ニドトコナコトシナイヨ…」
「ボロもヘルプ助かったわ、サンキュな」
「ワタシ、エンゴシテタダケ、ガンバタノ、ホトンドオヴァニ」
目の前で談笑しているコイツら…コイツらがお母さんを殺したんだ。
1人はずんぐりとした銀の鎧を纏う魔王オヴァニ。
もう1人は冷えた溶岩の肉体をもつ魔人ボロ・ゴコス。
「こン後呑みいかね?いい酒があってよォ、龍峰のクソジジイどもぶっ殺して掻っ払ったんだけどどうよ?」
「オサケ、イマムリ、オクサンオカンムリヨ」
「ちぇ〜!クソつまんねぇな!!妻帯者は自由じゃなくてクソだわ!」
こいつら…絶対許さない…。特に…オヴァニ、あいつは、お母さんにトドメ刺しやがった…!ぼくが、やりたかったのに…!
オヴァニを無言で睨んでいると、気がついたみたいで声をかけてきた。
「てめェももう帰れよ!どこの誰だかしんねェけど見せもんじゃねェぞコラ」
「ワタシ、モウカエルカラネ」
噂通りだけど、こいつ…チンピラすぎ…。魔王の風格は、無いね…。
「ぼくが…!」
「ああ゙?」
「ぼくが、お母さんを…殺したかった、のに…!!」
「知らねェよ!!ぶっ殺すぞ!!」
今ならコイツも、消耗してるかも?やってみるか。
「混成入力…!」
ぼくの姿にノイズがかかり、肉体が変質していく。あの子と戦ったときに得た、ぼくのもつ最高の力。それに、あの時よりも今は余裕がある。
ぼくの姿を見て、オヴァニはそのジャック・オー・ランタンみたいな適当な顔に青筋を浮かべた。
「舐めてんじゃねェぞ…!!」
幽霊相手なら…聖性を使えばいい。最初から必殺を狙っていく。
ぼくは左腕に触手を纏わせ、その一本一本から聖なる楔を出現させた。これで貫くっ…!!
奴も魔力を燻ぶらせた。
「アストラル…!」
何か技を放ってくるみたいだ。悠長に大きく息を吸い込んでいる…先に潰す…!
ぼくは出せる最高速度で背後に回り込み──
「ッ砲ッッッ!!!!」
「はぇ…!?」
一瞬にして青白い閃光に包まれた。
口腔から放たれた弾丸は、あの子の風よりもずっと速かった。これが大魔族…。お母さんから逃げられてたから、正直甘く見ていたんだと思う。
ぼくはそのまま数kmふっ飛ばされた。
「ケッ!!!ガキが調子に乗ってっからだよバーーーカ!!」
なんて声が飛ばされる直前聞こえて、絶対コイツは殺してやろうと思った。ぼく…ガキじゃない、し…!!!
◇
…………。ぼくは木の陰からバカ魔王を見ていた。
「おい」
………。
「……オイッ!!」
……………。
「ってめェ何時まで着いてきてんだよめどくせぇなァ!殺すぞゴらァ!?」
「じ、じゃあ…殺せばいい、じゃん…!」
バカ魔王の顔がビキビキ…と歪み、魔力が漏れ出ている。怒ってるの…わかりやすい…。
「んで俺様がてめェの指図聞かなきゃいけねェ゙んだよッッッ!」
バカ魔王はツバを吐いて、ズンズン歩き始めた。
コイツ…強いけど、ばかだ。気にしないでさっさとどっか行けばいいのに…。
しばらく着いていくと、大陸内でも治安が悪いと有名な暗黒街についた。やっぱり、こういう所を拠点にしてるんだ…。
「うす!!」
「お久しぶりっす!お頭!」
会うやつ全員がバカ魔王に頭を下げてる…。あいつは適当な返事をして、大通りから路地裏に入っていった。あんなとこ入ってどこいくんだろ…。
そーっと覗くと、なんか地下へ続いてる階段を降りている。肩とか頭とか、壁にがんがん当たってるじゃん…。
なに、ここ…ええと…“ゴースト…タウン”…? クラブ…かな?おそるおそる階段を降りた。
「おーすお前ら!帰ったぜぇ」
「おつかれ〜」
「大仕事でしたねボス」
クラブっていうか、ライブハウス?あいつ、誰かと話してる…。
「ボロの奴もいたんだろう…?いつぶりだろうな…」
「おーいたぜ、でもあいつ嫁さんに頭上がんなくてダメだわ、つまらん」
全員がゴースト系で、なんかパンクな服を着ている…。というかこいつら、あれだ…オヴァニの作った、あー…なんだったっけ…『環偉流怒・犯陀悪頭《ワイルド・ハンターズ》』とかいう、めちゃくちゃださい暴走族の、メンバー…。
全員が猛者…。ロン毛で顔が隠れているやつは…ルティモお姉ちゃんよりつよい…。
「そんで〜…あの子は誰なんです?」
!!!
ロン毛に気づかれた。このまま隠れていてもしょうがないので、おずおずと入り口から入っていった。
「てめェマジでしつけェな!」
「まあまあ落ち着いてボス…え~と君はどちら様かな?」
「ボダんとこのガキだ!!コイツ戦場からずっとついてきやがって…」
カウンターから下半身が虫みたいな女の人が出てきた。
「仇討ちじゃないの…?」
「ちげェ!自分で親を殺したかったんだってよ!意味わかんねェクソガキなんだよコイツ!!!」
「暴れるなら話は別だが、そうでないなら俺は歓迎するぜ、君も何か飲むかい?」
ロン毛はにこやかにグラスを取り出している。もしかして、ここの店員?そんなわけないか…暴走族、だし…。
「俺の名はカーレ。あっちでベース担いでるバンダナがマガトで、キーボードのとこのデブがスリーカウ、半身が虫でここのオーナーやってんのがバグ・マムさん、あっちのデカい骸骨がシャガだ」
「よう…」
「よろしくね〜ぃ」
「お酒は呑める…?ふふ…」
「カラカラ……」
なんか…バカ魔王に比べてこの人たちは、凄く優しそうな人たちだった。
「ぼ、ぼくは…クォーツ…」
「お前ら自己紹介してんじゃねェよ!!」
「つっても客でしょ?ボス…」
「よろしくね…クォーツちゃん…ふふ…」
ぼくはバグ・マムに連れられて席に座り、目の前にカクテル?みたいなのが置かれた…別に頼んでないんだけど…。
「サービスよ…」
サービスなんて、初めて…。
ちょっとだけ飲んでみた。……お酒の味とか、分かんないけど…まあ、おいし、い?かも…?
変な顔をしながら唸っていると、バグ・マムは吹き出した。
「へっ…変な顔…ごめんなさい、面白くて…お酒は嫌いかしら?」
「き、嫌いじゃない、けど…よく、わかんない…かな…」
「なんで君、ボスに着いてきたんだ?」
「こ、ころすため…」
一瞬の沈黙のあと、ぼくとバカ魔王以外の全員が大笑いしはじめた。…ま、変なこと言ってるのは…わかってるよ。大魔族を殺す、なんてほぼ不可能だし…。
「おい頭!あんた殺されちまうらしいぜ…!」
「っせぇなぁ!!やかましいんじゃボケェ!!」
「はー…面白い…もっとお話聞かせて欲しいわ…」
それからぼくは質問攻めにされて…どんどんお酒もまわってきて…話す必要のないことも話してしまった。自分の身の上話とか…。
でも、意外とこいつらは真面目に聞いていて、それだけは意外だった。
「なるほどねぇ…大魔族の娘ってのも、楽じゃないなあ」
「豪遊できるわけじゃないんだね〜ぃ」
奥の机に座っているバカ魔王は、心底つまらなそうにぼくの頭くらい大きなソフトクリームを頬張っていた。ゴースト系って、食べたものどこいくんだろ…。
「何処にも行くところ無いなら…うちにでも泊まる?広いし…迷惑にならないわよ」
「え…い、いや…いい…。住むとこなんて、どこでもいいから…」
バグ・マムがそんな提案をしてきたので断ったら、なんか食い下がってきた。
「どこでもいいなら、うちで良くない…?それに、近くに住んでいれば…オヴァニちゃんの弱点…知れるかもよ…?」
「!」
それは…知りたい…そんなものがあるのなら、だけど…。
「わ、わかったよ…お、お邪魔させて、貰う…」
「ふふ…良かった…」
「おい!!!もうくだらねェ話はいいだろぉがよォ!!早く始めンぞ!!」
びっくりした…!いきなりバカ魔王が大きな声で動き始めた。その様子を見て、他のメンバーもそれぞれ席を立った。何をするんだろ…?
ぼくが困惑した顔でキョロキョロしていたら、バグ・マムが、趣味よ…趣味、なんて言って、ギターを取り出す。え…?
「な、なに…?」
後ろでカラカラしている大きなガイコツ──シャガが、答えて?くれた。
「カラカラ…ロックロック…!バンドバンド…!」
ロック…バンド…。こ、こいつらバンドなの?暴走族なんじゃなかったの、かな…?
バカ魔王もギターを持ってきたみたいだが…明らかに小さい。おもちゃのギターみたいになってる…。
「ボス、そのカッコでやるんです?」
「わーってるよ、今脱ぐわ」
そう言ってバカ魔王は青い炎に包まれ、まるで焼け落ちるように鎧が消えていった。そ、それって身体じゃなかったんだ…そんなの、知らなかった…。
鎧の中から現れたそいつの本体は、灰色で肩ぐらいまでの髪に…木っ端貴族の男が持ってそうなよれた白いシャツを着ていて…。
「え……」
不健康そうな肌…、憂いを帯びた端正な顔立ち…そして何より…。
「お、お前も…ガキ…じゃん…!!」
まだ幼さの残った少年であった。背丈は、ぼくよりちょっと、ほんのちょっと大きいくらい…。
「……はあ゙あ゙あ゙あああぁぁああ゙ぁ゙!?!?!?!?」
ぼくの言葉を聞いて、少年はびっくりするくらい顔を歪めた。辺りの重力が強くなったんじゃないかってくらいのプレッシャーを放って、どう見てもぶち切れている。
「やっべ…!!」
「ひーっ!あっはっはっはっ!!ねー…もうむり…!」
「あわわ…」
カーレは焦り始めて、バグ・マムは笑い転げて、ほかの奴らは慌てふためいている。このプレッシャーは、大魔族にしか放てないものだろう…けどぼくは、この間までお母さんに追いかけられていたから慣れていた。
「てめェ゙マジでぶっころ○✕※──!!!」
「あ、あー!まってくれボス!これからセッションするんだろ!?ここぶっ壊れたらめんどくさいって…! き、君命知らずだな…!ボスはこっちでなんとかするから、ゆっくりしててくれ…!」
追い出したりしないんだ…。
「お、追い出したり…しないんだ…」
口に出しちゃった。
「ふー…ヴァニちゃんは熱しやすいけど冷めやすいからね〜…それに、ガキなのは事実だしっ、ぷっくくく…」
げらげら笑ってたバグ・マムが涙を拭いている。そんなに笑うこと…かな?
顔を真っ赤にして怒っていたバカ魔王も、カーレと他メンバーの必死の説得でなんとか落ち着いたみたい。ほ、ほんとに冷めやすい…。
「てめェ覚えてろ…終わったらマジ殺す…!」
後ろでカーレたちが一息ついている。ボスがこれだと、大変だね。バカは背を向けて大股で歩きながら、ステージの上に飛び乗った。
シャガ以外のメンバーも、それぞれの楽器を持ち、ステージに上っている。準備が整ったみたいだ。
音楽…ね…。お酒とおんなじで、あんまり興味はない…。
ドラムのところに座っているカーレがカウントを始めた。
「1、2、1 2 3 4 …」
音が弾けた。
感じたことない感覚が、腹の底に響く。
なに、これ…。
関心なんてない…なかったはずなのに…。
全て音が激しくぶつかり合いながら調和してるみたいな…。
目が離せなくて…。
メンバーはみんな笑顔だ。さっきまでガキと言われて顔を真っ赤にしてたあいつも…逆に今はガキみたいに笑っている。
あいつはステージの前面に置いてある、マイクに顔を近づけ、息をすこし吸い込み、歌を歌いだした。
「※×○×※○△△!!!××□○!!!※※!!!!」
ぼくは椅子から転げ落ちた。
って!め、めちゃくちゃ音痴…じゃん!!!
み、耳が壊れる〜…!!
演奏は良いのに…歌が壊滅的…!
地獄の時間が5分くらい続き、やっと演奏は終わった…。
メンバーはステージ上で満足そうに話したりしてて、機嫌悪かったバカもすっかり忘れてしまっているみたい。
降りてきたデブ──スリーカウが汗を拭きながら話しかけてきた。
「ねぇねぇ今のどうだったのん?初見の人の感想が聞きたいね〜ぃ」
「え、演奏は…すごく、よかったけど…う、歌声ひとつで、全部だめになってた…!」
「あ~やっぱそうだよね〜ぃ…」
スリーカウは苦笑いしている。
「お頭歌下手なんだけど、自分以外がセンター取るのが嫌で譲らないんだ〜ょ…」
「え、えぇ…だ、誰も歌下手って…言わないの…?」
「言ってるんだけどね〜ぇ…」
やめないんだよね〜とウンウン唸るスリーカウ。あいつ…わがままなやつ…。でも、演奏は本当にすごかった。前からやってたのかな。
「貴方もやってみたい…?楽器…」
バグ・マムがギター?を差し出してきた。
興味はない…けど、誘われているなら、やってみよう…かな…。
ギターをそっと受け取って、いろんな方向から見てみて…ど、どうすれば…いいんだろ…そう思っていると、後ろから手を添えて、持ち方を教えてくれた。
「貴方は身体が小柄だから…ここを支えて…」
「こ、こう…?」
む、難かしい…。でも…結構楽しい、かも…。
「最初は誰だって出来ないもんだが…運よくここには経験者が多い、教えてやれるぜ…」
バンダナ──マガトがニヒルっぽく笑い、他の奴らも辺りを囲んでやいのやいのと教えてくれる。盛り上がっている後ろで、大あくびをしたあいつが眠そうな顔でメンバーに声をかけた。
「疲れたし俺様帰るわ〜」
「う〜す」
「次もよろしくなボス」
「じゃあね…」
意外とさらっとした別れ…。改めて、王と部下というよりも、リーダーとメンバーって感じだ。
それからぼくは、バグ・マム…マムと同居しながら、何故か音楽の練習をする日々を送った。
あいつのこともそこそこ知れた。元人間だったとか、幼い頃に死んだから見た目が成長しないとか、生前は別の名前があったとか…。
それから1週間が経った。
「おーす…って!!んでてめェがいんだよッ!!」
「よう、頭ァ…久しぶりだな」
「おはよ〜ぅ」
な、何だようるさいなぁ…。
この1週間、ぼくはここにずっと通いつめギターの練習をしていた。今までの人生で、一回もしたことのなかった趣味に打ち込む時間…無意味なことかもしれない、だが楽しかった。結構弾けるようになったし、ね…。
「この子かなり才能あるぜボス、あんたが来てない間にめっちゃ弾けるようになってる」
「知らねェ!!」
バカはギターを取り出して勝手に演奏し始めた。やっぱり、うまい、悔しいけど…。
「ふふ…私補欠になろうかなって…」
マムがそう言うと、バカは驚愕と苛立ちの混じった声を上げた。
「あ?!じゃあもう一人のギター誰がやんだよ!」
「クォーツちゃん良いかなって、ね…?」
「あ゙ぁ゙!?」
それはぼくも聞いてなかった。
「なんならボーカルもこの娘でいいんじゃない…?」
「こんなヒョロガキじゃ歌えねェだろ!!」
むっ…!お前よりは歌えるはずだよ…!いや…そうだ、ぼくの姿じゃなくて、シャミお姉ちゃんの姿なら…。
1つ上の姉であるシャミッツは、アイドルみたいな事をしていて魔界でも随一の人気と歌声を持っていた。あの子に殺されちゃったけど…。
ぼくの身体はノイズに包まれ、次の瞬間にはシャミッツに変わっていた。その姿をみたバカは、口を開けたまま動かなくなってしまった。お、お~い…?
「??????」
「ダメね…ショートしてるわ…」
「な、なんで…?」
「ファンだったのよ…結構強火のね…」
そうだったのか…。意外とミーハーなんだね。ちょっとからかってみよう。
「オヴァニくんっ☆いつも応援してくれてありがとねっ☆」
「み゜」
おもしろ。
マムはケタケタ笑っている。
「ハッ……!て、てめェ…その姿やめろや!」
「え〜☆なんでぇ☆あたし、久しぶりに歌いたいなぁ〜☆」
「お譲り致します」
ちょろ〜…。正気に戻ったバカは混乱しながらも悔しがっている。他のメンバーは、ぼくがボーカルになると言う話をすんなりと受け入れていた。確かに、バカの歌声よりはマシだろうしね…。
ぼくはその日から真ん中で歌いながらギターを弾くことになった。
音の重なりが楽しい。歌を歌うのも、楽しい。演奏をしている時は、バカを殺すという目的も忘れてしまう。
そしてひと月ほどが経った。
After 2 も書きたい(えっちあり)