TSうすほそ転生魔族ちゃんが人間の男に救われて一緒に暮らす話。 作:ソイレント・グリーン
完全に世界観補完みたいな回
私の名前はベリリ!冥府の管理を任されている巫女です!
ここ、冥府はすっごく退屈な場所なの。花はおろかぺんぺん草すら生えてない…。娯楽もないし、あるのはどこまでも続くジメジメした暗い荒野と、深い渓谷。はあ…つまんないつまんない。
それに仕事だって同じことの繰り返し。管理って言っても、上の世界から流れてくる彷徨う魂を鎮めて、無垢になったやつをアストラル界に流したり…新しい無垢な魂を産み出したり…。毎日がそれの繰り返しで、他の神達も一切顔を出したりしないの。
そんな日々に食傷気味になっている時だった。数万年生きてきて、初めての経験──運命の人との出会った。
彼は渓谷の淵に座っていた。
稲妻のような青白く光る美しい長髪を靡かせ、まるで指揮者みたいに、冷たい冥府の風の中心にいて風音を操っている。ここが台風の目なんだ。
彼は呆然と見惚れる私に気づいて、その美しい蒼い目を細めた。
「君は…?」
「はひゅっ…!わ、わわ私は…」
なんて美しい声なんだろう。こんな神様見たことはない、いや、神様ではないのかもしれない。
「べ、べリリ…!べリリですっ!」
「そっか…可愛い名前…だね」
彼は微笑んでいて…。
はわわ…褒められちゃった…!
私は一瞬にして恋に落ちた。
この人がいるだけで冥府に色がついた。この人がしゃべるだけで風は花の香を運んできた。この人笑うだけで大地が息づいた。そんな気がした。
「僕は…嵐の精霊」
「精霊…!」
精霊…神と似て非なるもの。星から生まれた意志のある超自然存在。それも、嵐となると相当力のある者なんだろう。
「あ、あにょ…!なんで冥府に、来たんですか…?」
「…気まぐれ? だからこの出会いは…運命かな」
運命!この人もそう思ってくれているんだ…!誰もいないけど…誰も来てくれないけど、見た目に気を使っておいてよかったぁ…。
彼は立ち上がり、私の髪に触れた。
「は、はえぁ…」
「髪…すごく綺麗な黒…」
彷徨う魂──亡者達を鎮めるために彼らと寝ることなど、数え切れないほどした。顔が近付くことなんて日常的な事で、ドキドキなんてあり得ないなのに…彼の顔が近くに来ただけで、ぽっかり空いた胸の穴に心臓ができて、動き出したみたい…。
私と彼は、情熱的な夜を過ごした。
夢みたいだった。自分の役割とか、存在理由とかも忘れちゃうくらい幸せな夜。彼のすべてが愛おしい。
数万年の孤独を、彼が癒してくれる。
彼は数日間ずっと冥府にいてくれた。いつまでいるの、と聞いたら『気が向くまで』だって。彼は風だ。誰も彼を縛ることはできない。素敵…。
仕事はちょっとゆっくりになってしまったけど…でもいいよね?私だって…冥府の巫女だって女の子なのだ。恋に溺れたっていいはず!
「ベリリの声…好きだよ」
「あっ…♡ 嬉しいっ♡ 私も精霊さまの声っ…だいだい大好きです♡」
この人の赤ちゃんが欲しい。
いつか彼も出ていってしまうのだから、せめて…。
「べリリ…僕のこと忘れないでほしいから、これをあげるよ」
「これは…?」
「僕の力で作った、雷の爪…僕がいなくなったあとも、君のことを守れるように」
嬉しいっ…!嬉しい嬉しい…!彼は私のことをちゃんと大切に思ってくれているんだ…!私が寂しがっていることに気づいてくれた!
私はキラキラと光る、彼の髪と同じ色の爪をうっとりと眺めた。私の心も身体も、すべては彼のものだ…!
そして、時間はあっという間に過ぎ去っていった。
彼は7ヶ月経ったあと、私に別れを告げて冥府から去ってしまった。
とても短い時間だったけど、今までの時間に比べたら最も価値のある時間だった。私はぜったい忘れない。
本当は出ていってほしくなかったけど、私には彼を止める勇気はなかった。それをしたら彼に嫌われてしまうのではないかと思ったから。だから、せめてお腹に彼の子が宿っていることを願って…送り出した。
いつかな…と彼との愛の蕾が花開くのを待ちわびた。
でも、いつまで経ってもお腹は大きくならない。
もしかして、だめだったのかな…。いや、私は地母神の破片からできている。望みさえすれば、亡霊から新しい魂を生み出すことだってできるんだ。子供はできやすいはず…。
まだ、まだ50年だ。たったの50年。まだ待てるまだ…。だけど…たったそれだけの時間が、それだけの孤独があまりにも…。
一人が辛いよ…。あの人はまた来てくれるかな?お腹の子はまだ大きくならないかな?
500年経った。いつもなら、退屈しながら淡々と仕事をこなしていた。長いと感じることすらなかった。ただつまらないだけ…でも今は。
2000年経った。彼は来てくれない。風は気まぐれ…だもんね?分かっているよ!お腹の子は、まだ、寝ている。仕事が手につかない。
2500年経った。魂があふれて煩い。だから食べてみた。そうだ、もしかしたらお腹の子が大きくならないのは栄養が足りてないからかも!そんなような話を聞いたことがある。私は魂を食べ続けた。
3000年経った。空…いや、冥府の天井から声が響いた。どこかで聞いたことがある声。これは空の神々の声だ。私の所業に腹を立てているのだろう。爪から雷を放ち、黙らせた。お腹は大きくなってきている。この調子で魂を食べていこう。
3500年経った。ここ最近、魂が流れてこない。どういうこと?地上は人が死なないの?それでは栄養が足りない…。
4000年経った。おかしいおかしい!魂が来ない!私は爪を天井に何度も突き立て、天井を突き破った。はじめからこうすれば良かったのかもしれない。
私は地上に向かって天井を掘り進めた。そうだ、どうせ出るならあの人にも会いに行こう。それで、一緒に生まれてくる子を育てるんだ。
大地が割れて、光が振り注ぐ。
これが今の地上ね。思っていたよりも、変わっていない。どうでもいい感じかも。
直後だった。天から封印結界が振り注いだ。身体全体を大地に縛り付けられるような重み。なにこれ?
「現れたか…ベリリ…」
「シャ…マ……」
頭上から数万年聞いていなかった声が響く。天の主。シャマ神。彼の率いる軍勢が私一人のために地へ降り立った。
「べリリよ…お前は冥府の管理を放棄し、あまつさえ廻るべき魂を貪り喰らった。もはや見過ごすことはできぬ」
「おご…、ぼ…あぎ……ぎ…」
何か言っているけど、耳に入ってこない。おなかが潰れてしまう。私の赤ちゃんが。
「貴様の役職は剥奪した。あの場所はすでに冥府ではなく、それゆえに貴様は地上へ出ることができたのだ…我らの目論見通りな」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
「ここで仕留めさせてもらおう」
煩い。私の邪魔をするものはすべて消えてしまえ。
爪が雷を纏う。まるで罅か、あるいは樹木のように広がる稲妻は、結界を一撃で打ち壊し、天の軍勢を貫いた。
「なッ…!ここまでになっていたか…愚か者めが…!」
シャマの赤熱した槍が、私の背中から腹まで貫通した。
ああああああああああ……!!
殺す!!
稲妻で焼き殺した軍勢の神核を吸い込み、圧縮──
「ばぁおッッッ…!!!!」
天地を別つ奔流を放った。
「ぐぁぁあっ………!!」
シャマは防ぎきれず、地平線の彼方まで吹き飛ばされた。死んでないけど、そのままにしておけば死ぬような致命傷になる。そうなるように呪いを仕込んだ。
邪魔者はいなくなった。そんなことよりも、赤ちゃんだ、あかちゃん…。
私は爪で自分の腹部を切り開き、中を見た。いない、いないいない。シャマの一撃で焼滅してしまったのかもしれない。
わあしの努力が…あいの結晶が…。
あ? そうだ、ここは地上だから…あの人の魔力を追えば…。
そうだ、何を絶望することがあるか。私は自由だ。この爪にしたがっていけば、絶対、あの人に会えるはずなんだ。
私は妨げるもの全てを壊して、殺してあの人の元へと向かった。爪は道を指し示してはくれなかったが、爪から感じられる魔力と同じ魔力が感じられれば…彼を見つけられる。
そしてついに、大陸の西の端で、見つけた。
「せ、せいれいさ」
「待っていろよ?いつか私も貴様と同じところに立ってやる!」
「ふふ…待っているよ」
あ?
だれその女。
剣を持って、女のくせに男みたいな鎧を着て、私みたいな黒い長い髪をしていて。
なんであの人の横にいるのだろうか。
楽しそうに話してる。ああ、そうか、そうなんですね。
私はその女に負けたんですね。あなたの心に残ることはできなかったんですね。
「ぎ」
空間に亀裂がはいるような絶叫。
あの人はいつの間にかいなくなっていた。あの女はミンチにしてやって、塵すら残さないように焼き殺した。灰は岩の下敷きにしてやった。女の仲間も皆殺しにした。
身体がほどける…。思考にまで雷が入り込むのが分かる。このままだと、私は消えてなくなる。それは嫌だ。
あぁでも、でも狂うほどに嫉妬してしまう。選ばれたかった選ばれたかった。
いいえ、ならばもう一度振り返らせればいいではないですか。
決心した。ぜったい、ぜったいもう一回私のところに来てもらうんだからね!
よし、今のこの負けヒロインの私の名は捨ててしまおう!神とも縁を切ったようなものだしね!そうだな…じゃあ、新しい名はボダ!古い神の言葉で、悲しみを意味するボダにしよう!
その後すぐに私は冥府…いや、旧冥府に神殿を建造し、自己封印を施した。
あの人を…もう一度振り返らせる。何が必要か。あの人は何も求めなかった。思えば私だけがもらい続けていたかも。うーん…あ、そうだ、ならば世界をあげよう。そうすれば、好きなものもすべて入っているはず。ナイスアイデアだ。
ならばまず、大きな勢力が必要だ。
体内に撃ち出されず残っていたシャマの軍勢の神核が少なからずあったので、それを核にして上位アンデッドを作り、最初の尖兵とした。捕らえた魔獣、魔族の魂を再形成し、アンデッドどもを作るが…使えない。
たまたま、炎の精霊を捕まえることに成功した。彼はおびえて抵抗していたから、優しくして子種を貰い、その後喰らった。私の直接の子なら、使えるはず。
そうして生まれた子…名は何だったか、とにかく火を使う彼女はかなり使えた。天の手先さえ退けた。
彼女のおかげでアンデッド以外にも私の勢力に加わるものが増え、いつの間にか一大勢力となっていた。
あの日殺したはずの女剣士が、岩女になって邪魔してきたのは完全に想定外だったけれど…奴のおかげで神々は石像になって二度と修復できなくなった。それだけは褒めてやりたい。
それから数千年。今では娘たちも12人に増えた。そして今、13番目の娘を妊娠している。なぜだろう、産まれてくる子が運命を握っている気がする。ワクワクする。
そしていつか、いつの日かあの人にもう一度…。
ま、最終的に会えずに死ぬんですけどね。