TSうすほそ転生魔族ちゃんが人間の男に救われて一緒に暮らす話。 作:ソイレント・グリーン
今回エロなしどころか主人公すら出ないというお茶濁し回です。スミマセン…。
魔界。穢れなき都市、その中心に聳えるギャラリーパレス──それはボダの娘、十一女、『秘匿』のガラリェールが住まう居城である。
その城の絢爛さたるや、魔界随一。あらゆるものがその様に憧れと畏怖を抱き、放つ光輝にひれ伏す。
だがその城の主、ガラリェール本人は…
「ずぅえええったい!!嫌ですわッッッっ!!!!!」
半狂乱になっていた。
「しかしお嬢様…ボダ様直々のご通達を拒否するなど…」
「だってだって!アレキお姉様もマーシュお姉様も!ルスカお姉様だってみんな帰ってこないじゃない!!」
ボダからの通達、それは末の妹の殺害命令だった。
直接戦闘が得意な姉たちは既に殺害に向かっていて、帰ってこない…これってつまりそういうことですわよね?
「絶対!無理!勝てませんわ!そもそもあたくし達姉妹のほとんどを相手に勝った子なのよ…!?1人でなんてむーりー!!!」
「私共もおります故!必ずや勝利を…」
「あなた達が1万人いようと勝てる相手じゃないわよ!!」
ガラリエールは恥も外聞もなくジタバタし、部下の男を困らせていた。
そんな時だった。
「ん~~?私がいても〜無理かな〜?」
何だかとても久しぶりに聞いた声。でも絶対忘れるはずがない声。部下の男は警戒心を高め、攻撃の姿勢を構えた。
赤い燃えるような長髪に、グラマラスな体型…竜のような角が一対頭部から生えている。本来この場所にいるはずがない彼女こそが。
「ルルルっ…! ルティモお姉様っ!?」
私たち『娘たち』の長女にして最も強い、『炎魔』ルティモである。なんでここに!?彼女は今ゴルガーンとの戦争に参加しているはず…。ガラリェールの口から発されたその名前に、部下の男は顔を青くさせてすぐにひれ伏した。
「おっおっ…お姉様も…その、一緒に来てくださるんですの…?」
恐る恐る聞く。その言葉にルティモはふふっと微笑んだ。
「ガラちゃん一人でやるなんて無茶かなーって思って、来ちゃった」
「ま、まあっ!とっても心強いですわっ!!あたくし一人なんてむりむりのむりだと思ってましたの!でも、その…前線は大丈夫なんですの…?」
「ちょっとだけ休暇をとったのよ〜前線は他のみんなが保っててくれてるから大丈夫〜」
「休…暇…?」
その言葉にガラリェールはピタリと止まった。
「…?どうかした?」
「あ、あなたは…あなたはっ!」
プルプルと震えるガラリェールに流石のルティモも困惑を隠せない。
「あなたはルティモお姉様じゃありませんわッッ!!!」
ズビシッ!といきなり指を刺す。
「ルティモお姉様はワーカーホリックですのっ!ちょっとだって休暇を取るなんて致しませんわっ!あなたは誰っ!?」
「…………………」
下を俯くルティモの顔は、影に覆われて全容を見ることができなかった。その緊張感に部下も息を呑む。
突然、ルティモの姿が陽炎のように揺らぎ、姿が変わり始めた。
白い髪がもさっと現れ、高身長だった身体はみるみるうちに小さく、細く薄く、白く変化している。
完全に姿が変わった彼女は、閉じていた瞳を開き、へにゃっと自信なさげな笑顔を浮かべた。
「え、えへへ…実はぼくでした…」
「クォーツさん!?」
その正体は十女、『空白』のクォーツであった。
クォーツさんの技能は、自らの“空白”に、コピーした対象の像を貼り付ける事で、姿、性質を再現するものだ。他に変身能力を持つ魔族でも、彼女レベルの精度は不可能である。
なるほど、だから偽物だと一目で気づけなかったのか…。
「クォーツさんあなた…ルティモお姉様の姿も持っていらしたのね…」
「う、うん…結構前に貰ったんだ…この姿じゃないと戦えないから…」
「クォーツさん…クソ雑魚ですものね…」
クォーツは娘たちのなかでも自力が最も弱い。正直上位魔族としては恥というくらいだ。だがその能力の便利さによって諜報員として大いに役立ち、その一点で評価されている。変身元から半分くらいの力しか再現できないんだけどね…と彼女は苦笑いした。
…でもそれだと結局末の妹に勝てる火力は無いのでは?
「来てくださって本当に申し訳ないんですが…あたくしとクォーツさんが組んでもあの子には勝てないんじゃ…?」
「うん」
勝てないんじゃん!いやまて、もしかしてまだ助っ人がいるのかしら…。
「助っ人がまだいるでしょって思ってるかもしれないけど、えへへ…もういないよ」
そう言ってピースするクォーツさん。
「じゃあ勝てないじゃん!」
思わず机を叩いてしまった。部下の男がなだめている。いけないわ…淑女たるものこんな事をしては…いやさっきすでにジタバタしてたしもういいかしら。
そのガラリェールの反応に、クォーツは何故か不敵に笑った。
「ぼくたちで倒せないならさ、倒せる人のところに連れてっちゃえばいいんだよ…」
え…連れて行く?
「どういうことですの…?」
怪訝な顔で彼女を見上げる。
「お母さんのところに、連れてくんだよ…ぼくたちで無理でもお母さんなら…」
「そ、それこそ無理じゃありませんの?あの子人界に引きこもっちゃってますのよ?説得なんてしようとした瞬間に頭ポーンですわ!」
それに、結界もあるんでしょう?と続ける。あの結界だってどうせあの子が作ったものに違いない。
「結界に関しては…たぶん大丈夫だよ…これ、見ててね…」
そう言ってクォーツは目を閉じ、再び体を陽炎につつみ込んだ。
そして陽炎がなくなったとき現れたのは、末の妹──狂飆であった。
「えっええ!?どうして、どこでその姿を!?」
「お母さんの神殿であの子と戦ったとき、コピーしておいた。この姿であれば、結界に干渉できる」
確かに結界を張った本人であれば、出入りの条件をどうこうすることは不可能ではない…もちろん結界全てを解除するなんてことは不可能だろうけど、確かに通り抜けられるはずだ。
「説得の方は…出会ってすぐはしない。すぐに説得するのは殺されるだけだと思う、だからガラちゃんの技能を使う」
「えっ…あたくしの技能を…?」
ガラリェールの技能は『記憶の秘匿』である。彼女はこの技能を使い、沢山の人のネガティブな記憶を秘匿し続けてきた。結果、ガラリェールは穢れを祓う乙女と呼ばれ、彼女を崇める者たちによりこの都市が出来たのだ。
「ガラちゃんの技能で『姉妹と敵対していたこと』と『お母さんに命を狙われていたこと』を秘匿する」
「でも…それがあの子にとってネガティブな記憶…なのでしょうか?」
ガラリェールの技能はそこまで万能なものではない。本能に付随した行動の記憶や、ポジティブな記憶は秘匿することができない。条件はネガティブな記憶のみである。
「そこは正直賭けになるが…命を狙われていたのは少なくともネガティブな事だし、敵対…心の底では我々姉妹を殺したかったのだとしても、それはネガティブな歓喜…だと思う」
「そうですかね…?」
ちょっと楽観的に考えてるんじゃないのかしら…と思ったけど、あたくしたちは搦手な能力なだけで頭がいいわけではないから…こんな事しか思い浮かばない…。でも…
「そもそもどうやってあの子に触れるんですの?あたくしの技能はクォーツさんのものと同じで触らないと発動できませんわ」
「これを見ろ」
そう言ってクォーツは部下の男に触れた。男も困惑しているが、次の瞬間彼の身体は陽炎に包まれ…なんと姿がルティモお姉様に変わったのだ!
「えっええ!?クォーツさんあなた、自分以外に技能は使えないんじゃなかったんですの…!?」
「それは嘘だ。万が一のために隠していた。まあ、自分よりも弱い奴にしか変身はかけられないがな」
そ、そんな力が…唖然としているガラリェールに満足しながら、クォーツは自らと男の変身を解いた。
「ぼ、ぼくは姉妹みんなの姿を持ってるから…これで動揺を誘う…たぶんほかのみんなは殺されてるから…偽、ゾンビ作戦…する…!」
「変身させる方たちは…どこから?魔界から連れて行くんですの?」
「た、たぶんそれをしちゃったら…いくらなんでも結界を通ったときにバレちゃう…変身させるのは、現地の人間にする…多分みんなぼくより弱いから…」
色々と言いたいことは沢山あるけど、思ったよりも考えてるのかしら…と感心した。クォーツさんはふふ…と笑う。
「現地の人間たちを集めるのは…ガラちゃんのやくめ…人心を集めるのは…得意、でしょ…?」
そ、そんなわけないですわ〜この都市だって勝手にできましたもの!なんて言えるわけもなく、何も言わずにガラリェールはコクコクと頷いた。
「まあ…何はともあれ行ってみようよ…どうせ何もしなかったら、お母さんに殺されちゃうんだし…」
ネガティブな事言わないでくださいまし!と心のなかで叫びながら、なんだかんだ彼女らは人界へ向かうのだった。
◇
あたくし…ガラリェールと一つ上の姉、クォーツは人界に到着していた。結界も予定通り末の妹の姿ならば、通ることができた、気づかれてなければ良いのだけど…クォーツさんは、あたくしたちレベルの実力なら、魔力を限界まで抑えれば索敵に引っかからないって仰られていたけど…不安ですわ〜!!!
「こ、この格好は何ですの…?」
「そ、それは人間の聖職者が着る服…らしいよ…」
ふぅん…結構可愛いですわね…これ…。黒っぽくて…頭巾みたいなベール?を被った衣装は、あまり魔界でも見たことがないものだった。
「ぼ、ぼくの方は…こんな感じで強そうな男に化けるぜ。これなら護衛をつけた旅の巡礼者に見えんだろ?」
陽炎に包まれたクオーツさんは、自らの姿をスキンヘッドなムキムキマッチョマンに変貌させた。あっ…結構魔界では有名な荒くれ者ですわ…!
「人間たちの場所はどの方角か分かるんですの?」
「南の方にずーっといけば拠点があるはずだぜ」
クォーツさん…人界の情報も知ってるんですのね…流石ですわ。
「このまま歩いていけば3週間…いや2週間後には着くぜ」
「長すぎィ!!?食料はどうするんですの!?!?」
「絶食だぜ」
この子マジで頭おかしいですわ〜!!すると変身を解いたクォーツがいらずらっぽく笑う。
「え、えへへ…流石に嘘だよ…」
さ、流石にそうよね!安心した…なんか本気でやりかねないからビックリしましたわ…。
クォーツさんは姿を末の妹に変化させた。
「この姿なら、ガラちゃんを抱えても2時間くらいで着くはず」
に、2週間がものの2時間に短縮可能…!?いえ、変身の弱体化を考えたら、本来なら半分くらいの時間で着くって事ですわよね…?やっぱりあの子はあの子で規格外ですわ…
クォーツさんはあたくしを抱きかかえ、飛行しはじめた。
すごい速度ですわね…。というか、どこ見てもずーっと雪景色…綺麗だけど、人間ってもっといっぱいいるものかと思ってましたわ、だって“人界”よね?、クォーツさんはあたくしの様子に気がついたようだった。
「数年前までは国があり繁栄していたらしいが、戦争で滅んでからは人類は3割ほどに減ったらしい」
「えっ!?」
せ、戦争…結局どこもあんまり変わらないってことですわね…。
そんな事を考えていると、あっという間に2時間経ち、それらしき拠点が見えた…けど…。
「ん?結界が張られている?」
なんでしょう…薄い空気の膜みたいな…あの子が作った結界を、薄めたみたいな…。そして門の外側、結界が張られていない場所にも建物と言えないような小屋が立ち並んでいた。
「とりあえず降りよう」
クォーツさんは人間たちの拠点の近くにあった森に着陸し、姿を屈強な男へと変えた。
「ここからは人間の聖女としてやり取りしろよ?俺はあんまり喋らねぇからよぉ」
「ア、アドリブですの…?」
「ガラちゃんならできると信じてるぜ」
ガバガバですのよやっぱり!抜けてるのかちゃんとしてるのか分かんないですわ…でも背に腹は代えられないし、やるしかないのか…。
あたくしは緊張しながら人間の拠点近くまで歩いていった。
上から見えた掘っ立て小屋の間を抜けて歩いていると…あることに気づいた…。ここに住んでる人たち、めちゃくちゃ元気ないですわ…外にいるってことは…何か罪人とか…いや、難民とかなのかしら…?人間にはこの寒さはちょっときついでしょうね…。
暫く歩くと、門の前にたどり着く。門の前には門兵が2人立っていた。
「ご、ごめんください…その、ここが人々の集まる拠点、だと聞いたのですが…」
門兵さんたちは、あたくしの顔を見て少し頬を染めたあと、後ろのクォーツさんを見上げて息を呑んでいた。
「せ、聖職者かい…?もしかして旅をしてきたのかな?」
「そうなんですの…もうしばらく何も食べられていなくて…彼に道中守っていただけたので…魔獣からは逃げられたのですが…中には入れませんの?」
門兵たちは少しお互いでやり取りをしたあと、ちょっと待っていてください、と言い1人が奥へ入っていった。……外にいるこれだけの人が入れてないのに、あたくしたち入れるのかしら…。
すると門の奥から白髪の男が現れた。ここの責任者?
「貴方たち…お名前を聞かせてもらっても構いませんか」
「ガ、ガラナですわ、こっちはク、クォ…クォっちですわ」
「クォっち……?」
やっべ!適当すぎましたわ!焦って思わずクォーツさんの方をちらっと見た。
「クォっちです…」
「そうか…変わった名前だな…ですがその、折角お越しになって頂いたところ大変申し訳ないのですが…」
申し訳なさそうな様子の男。やはり、入るのは難しいかしら…やっぱり外にこれだけ人がいるし…入るのを制限しているのかしら…。そんな時だった、もう一人奥から現れた。
「オイオイ!まぁさか聖職者サマを追い出すなんてことせんよなぁオルン?」
ずいぶん軽薄そうな声ですわ…。現れたその男は、黒髪短髪で、なんだか小物そうなヤツだった。ソイツはあたくしの姿を舐めるように見る。まるで品定めしてるみたいで全身不快感MAX状態ですわ!!
「それにそっちの兄さんはでかくていろいろ役立ちそうじゃねぇのよ、なぁ?」
「おい…!スナウ…話が違うぞ…!お前らの意見を考えて、難民の受け入れは保留にしているというのに…!」
「勘違いしてもらっちゃ困るぜ?俺は使えない奴らを入れるべきじゃねえって言ってんだよ。この聖女様たちが使えないように見えるってのかい?」
…コイツが彼らを外に追いやったって事ですわね…彼らのことは全く知らないけれど、ちょっと不快ですわ…。あたくしは思わず口を出してしまった。
「いえ、良いですわ、内に入れないというのであれば、彼らと共に過ごします。ご配慮いただきありがとうございましたわ。」
あたくしはくるっと踵を返した。
「あぁ…?んだよ…」
「ガラナさん…!クォっち殿…!すまない…!必ずやこの問題をなんとかしよう…!」
白髪の男は頭を下げているけど、今の状況を見るとあんまり期待できないですわっ!ぷりぷりと怒っていると、後ろから圧を感じた。あっ…!やばっ!ちょっと好き勝手しすぎましたわっ!ギギ…と振り返ると、クォーツさんはすごい目でこちらを見ていた。マジごめんですわ!
あたくしたちは難民の皆様に挨拶をしてから、外れの方にある残った小屋をお借りしましたわ。
クォーツさんは変身を解くなりため息をついた。
「はぁ…ガラちゃんのアドリブに期待してたけど、思ったより好きに動いててびっくりしたよ…」
「ご、ごめんですわ…!まじで!」
「で、でも、むしろこっちのほうがいいかもね…難民なんて悩んでることたくさんあるだろうし…明日のために自分を捨てる人も少なくない…はず…」
た、確かにそうかもしれませんけど…いえ、結果オーライですわ!
「ぼ、ぼくはこれから、あの子についての情報を集める…ね…」
そう言うとクォーツさんは姿を、四女『怪狼』フキお姉様に変えた。
「動物たちを使うんですわね…」
「あァそうさ、これで操った動物にコピペ被せられりゃラク何だが…そう都合よくは行かんわなァ…ま、行ってくるぜ」
クォーツさんは外に出て、森の中へ消えていった。えーと…あたくしの役割は、人心を掌握すること…でしたわね…。ど、どうすれば良いのかしら…とりあえず外に出て、困ってる人を助けるとか…あーもうわかんないですわ!ええいままよですわ!
あたくしは難民たちがなにに困っているのか、調べに出ていったのだった。
クォーツは見通し甘めの暗黒うすほそ
力関係的には、普通の人間 < 素のクォーツ < 強めの魔獣 < ガラリェール < 人間の上澄み < ルティモコピークォーツ < 姉妹たちの中堅 < リリス < アレキサンドラくらい。