まず第一に、
性的な場面があるので未成年の方はご遠慮ください。
設定で読めないようにするので、年齢を偽ったうえで読む等の行為はお辞めください。破った際の責任は持ちません。
えっちなのが苦手な方も読むのはお控えください。
♢
こちらは『プリンプリン物語』の二次創作であり、ファンが勝手に書いたお話です。
メインキャラクターが成長した後のお話なので、
公式と関係のない者が設定をねつ造、その後のストーリーを書くことに嫌悪感を持っていらっしゃる方にはおすすめできません。
【その後のねつ造、ネタバレ注意】
『プリンプリン物語』のレギュラーキャラの生い立ちと、成長後の展開を勝手に想像で書いています。
最終回や他の国々のエピソードのネタバレ注意。
及び「プリンプリンの出自」について、独自の解釈・ねつ造を含みます。
過去投稿の『あの海のリンリン』・『過去と未来を行き交うふね』と世界線が同じなので、この二作を読んでいないと、
『この人たちだれ!? どうしてこうなった!?』
となること請け合いです。
単独で読まれる際には『こういう設定なんだ』ぐらいで受け止めていただければ助かります。
ついでに書いておくと今回のお話が
『ボンボンとの馴れ初め』
になるので、ボンプリ街道まっしぐらな内容が目白押しです。
いちおう列挙しましたが、
『無理だァーッ!』
という人は回れ右しましょう。お互いのためです。
【独自設定(子世代)】
「プリンプリンとボンボンの息子」が登場する世界線(『あの海のリンリン』、通称リンリン時空)と繋がっています。
リンリンがのっけから登場します。
【キャラクター解釈】
プリンプリンがヤキモチを妬いたり、ボンボンが自分を病的に好いてくれていることに喜びを覚えてしまって恐れたり、生々しい反応を見せます。
『こんなのプリンプリンじゃないよー!』
となる方もいらっしゃると思われるので、嫌なヨカンがしたら辞めておきましょう。互いのためです(二度目)
あと、モンキーが原作でおじいちゃん猿なのでプリンプリンが大人になる過程で弱っていく様子が書かれています。
これも悲しくて受け入れられない方がいらっしゃると思うので、ここで注意書きしておきます。
【オリジナルキャラクターの登場】
物語を進行させる上で、オリジナルキャラクターが多く登場します。
プリンプリンに普通にお母さんがいます。詳しくは『過去と未来を行き交うふね』を読んでください(宣伝すんな)
なので、
『これ、プリンプリン物語の二次創作なの……?』
となる方がいらっしゃっても無理のない内容です。
【カップリング】
ボンプリ120%です。
他の男性キャラ(べべル、トントン、ケーチャップ)が『かつてプリンプリンが好きだった』という情報は出てきますが……。
今回のお話ではプリンプリン自身が、
『ボンボンが好きだ』
と認識しているので、他CP推しで他解釈が受け入れられない方には結構キビしい内容です。
それでも大丈夫な方のみ、以下よりどうぞ。
1、
リンリンが喜んでくれてよかった。
アルトコ市とは別の、懐かしい街並みの港町へ旅行に出かけた。
プリンプリンとボンボンは結婚して九年目の夫婦。リンリンは八歳の男の子で、ふたりの愛の結晶。
プリズムのふわふわで柔らかな髪に、とび色のくりくりとした瞳。笑うとちっちゃな八重歯が覗くのが愛らしい。
モンキーの息子であるお猿さんのキッキを連れ、街のあちこちを駆け回ってはしゃいでいた。
その後を祖母が追いかける。
祖母――アイリーンはプリンプリンの実母。
十九年前の旅路の果てに出会えた、本当の家族。プリンプリンと同じ銀髪にとび色の瞳の優しいお母さん。
『遊泳国家マリーン』最後の王妃だが、今は娘夫婦と共に暮らす女性だ。
子育てに奔走するプリンプリンを支えてくれている。
家族みんなで出かける旅行は過去の冒険とは違って幸福に満たされていた。
リンリンは水族館が特に気に入ったらしく、図鑑で読んだ魚を見ては名前を言い当てて遊んでいた。
イルカショーにも手を叩いて喜んで……。アイリーンはそれを見てまた微笑んでいて。
ボンボンも家族みんなを見守りながらはにかんでいた。
かつて祖国を探す旅に同行した少年のうちの一人。
今は、プリンプリンのかけがえのない夫。
白い柔らかな髪と透きとおる碧の瞳は当時とまったく変わっていない。
リンリンが受け継いだ八重歯も健在で、もう成人した男性なのにまだどこか少年のような笑顔の持ち主。
プリンプリンとボンボンは十五歳から、今は三十四歳と共に歳を重ねている。
まだまだ幸せな時が続くことを願いながら、きょうの旅路を終え、予約した宿まで戻ってきた。
「ママァ、パパァ。ぼく、もう眠いよ……」
お風呂からあがってポカポカなリンリンが目をこすった。寝ぼけまなこでキッキも隣で真似している。
祖母であるアイリーンが優しく語りかけた。
「リトルプリンス・リンリン、宿の方がもうベッドの支度をしてくれていますよ。
キッキと一緒に寝ちゃいなさいな」
そう言うアイリーンもすでにナイトウェアに身を包んでいる。
ボンボンとプリンプリンはまだ外出した時の格好のまま、備えつけのテレビを視ていた。
リンリンが舟をこぎながらコックリうなずく。
「うん……おやすみなさい、おばあちゃん。ママァ、パパァ」
「キィ……」
眠そうなリンリンとキッキがかわいくて、プリンプリンは思わず吹き出してしまった。
「おやすみなさい、リンリン」
「おやすみ」
ボンボンも告げて、リンリンのもとへ行こうとしたのだが……。
「おばあちゃんが、寝かしつけてあげましょうね」
とアイリーンが先に立った。
彼女は奥の暗い寝室へリンリンとキッキを連れていき、小さな声で子守唄を歌う。
ボンボンとプリンプリンは互いの顔を見合わせる。
旅先で母……ボンボンにとっては義母の手を煩わせてしまってバツの悪い気持ちになったのだ。
しばらくして奥から聞こえてくる子守唄が途切れるとアイリーンが戻ってくる。
彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「ふふ。リンリンとキッキは、もうぐっすり。朝まで起きないかもしれないわね。
でも夜に目覚めた時、だれもいなかったら泣いてしまうわ。わたしがここに残るとしましょう」
プリンプリンは戸惑うばかり。
いったい、母は何を考えているのだろう?
ボンボンも同じらしく義母の笑みをふしぎそうに見ていた。
「あの、お義母さん。それってどういう……?」
「二人だけで、すこし街を歩いてらっしゃいよ。たまにはそういう時間も必要です」
ニコニコととんでもないことを言われる。
プリンプリンは母の無茶ぶりに口から心臓が飛び出すかと思った。
「な、何を言っているの。リンリンもいるのに、そんなことできるハズないわ」
「だから、わたしが看ておきます。大丈夫、この子は手のかからない良い子です」
「お義母さん。気持ちは嬉しいですけど……」
「ボンボン。わたしの言うことが聞けないのですか?」
義母に圧力をかけられると息と共に言葉もヒュッと飲み込んでしまうボンボン。
実の娘であるプリンプリンが代わりに切り込んだ。
「で、でも。もう夜も遅いから……お店も閉まっちゃってるわ!」
「まだ九時にもなっていませんよ。それに夜景はまだまだこれからが見もの。
早く行きなさいな。こんな機会、めったきないんですから」
てこでも動かない頑固さは娘と同じ。とび色の瞳は笑っているが、目線は夫婦二人から離れない。
自分はこの人から生まれたんだなあ、と実感した。
仕方がないのでプリンプリンは母にリンリンを一時任せることにする。
「行くわよ、ボンボン。お母さん、こうなったら絶対に諦めないわ……」
「う、うん。夜景を見ながらそこらへんブラつこうか」
二人が上着を取り、ぞろぞろとドアまで並んでいく背中へ、
「ゆっくりしてらっしゃい」
とアイリーンが言葉をかけた。
プリンプリンは『まったく……』と言いながらボンボンと外へくりだした。
2、
プリンプリンとボンボンは物心ついた時から友人だった。
赤ん坊のころ、公海で漁師に拾われたプリンプリン。
アルトコ市長が世界じゅうに呼びかけたものの、どこの国からも応答はなかった。そのため漁師のコミュニティの中、子どものいなかった老夫婦へ預けられた。
チャムチャムとハナハナ夫妻は突然できた娘を目に入れても痛くないほど可愛がってくれた。
だからこそプリンプリンも複雑な生い立ちながら真っ当に育ったのだろう。
ボンボンのような友だちの存在も大きかった。ボンボンは造船所に勤める技師の息子で、いつも海の近くで遊んでいた。
オサゲの父も漁師で似たようなものだ。
カセイジンだけは町の古書店の息子だったが、ボンボンやオサゲの共通の友だちだったので仲良くなれた。
いつのまにか三人と、プリンプリンと、一緒に公海で拾われたモンキーとで過ごすことが多くなった。
十五歳を迎えても彼らとの関係は変わらなかった。
プリンプリンの祖国を探す旅でも最後まで誰一人欠けることはなかったし、友情が変わることもない。
たとえボンボンがプリンプリンを『おれの恋人』だと自称していたとしても。
旅の前から、いつからか彼はプリンプリンを恋人と呼ぶようになっていた。
恋愛に対し、積極的でなかったプリンプリンはその都度『勝手言っているわ』と笑ったがボンボンはめげなかった。
行く先々の国でプリンプリンが殿方に求愛されればすぐにヤキモチを妬いて頬を膨らませる。
内心『かわいいな』と感じていた。
きっとあまりにもそばにいすぎて、友情と愛情がわからなくなっているだけだと考えていた。
やがて彼らは最果ての古都ラマーナへ辿り着き、プリンプリンの母アイリーンと出逢った。
祖国である『遊泳国家マリーン』がプリンプリンが生まれた年に海へ沈んだことも、そのとき教えられた。
哀しかったが、海のどこかにあるのだと信じることにした。
いつか見つかるのだと――。
しばらくラマーナで過ごしたあと、懐かしいアルトコ市へ彼女と帰国した。
育ててくれた老夫婦も実母を歓迎し、小さな家を工面してくれた。
それから失った時を取り戻すかのようにプリンプリンとアイリーンは共に暮らした。
母と娘がそろい、プリンプリンは心の空白が埋められていくのを感じた。
幸せな時間。
そこへちょっとした変化が訪れたのは十七の秋だった。
ボンボンと一緒に公園で話していた時のこと。
二人はもうすっかり大人に近づき、遊具で遊ぶよりもお喋りのほうが楽しい年ごろだった。
プリンプリンにも女の子の友人はいたが、やはり壮大な冒険を共にした友人は特別である。
ベンチで隣合って座っていたら、ふいに告げられた――。
『プリンプリン、そろそろ本当におれの恋人になってくれないか』
ヒラヒラ落ちる色づいた葉を目で追いながら、ボンボンは意外とあっさり言った。
後で聞いたが本心は『断られたらどうしよう』と不安だったらしい。
だからあんなにぶっきらぼうな言い方になってしまったのだ、と。
そんないじらしさに気づかず、プリンプリンはその場ですこし悩んだ。
ボンボンのことは好きだった。
でも、それが異性としての好きなのかはまだわかっていなかった。
幼いころから一緒にいて、彼の存在が当たり前になってしまっていた。
プリンプリンはその時、恋愛と友情の境がわかっていないのは自分のほうだと自覚した。
ボンボンは告白してくるぐらいにはプリンプリンを異性として意識しているのに。
きっと、もう友情のままではいられなかったのだ。
四人組の中でも背が低くて子どもっぽいオサゲも気になる女の子がいたようだし、カセイジンは旅先で出逢った女の子とずっと手紙のやりとりをしていた。
仲のいい女の子たちが恋愛の話に没頭しているのも知っていた。
周りの友だちはプリンプリンが思っているよりずっと思春期らしい思春期を送っていた。
プリンプリンだけが、どこか宙に浮いていたように思う。
まだ早い、まだ早い……それは、本当に?
プリンプリンは考えた。
もし彼の告白を断れば、おそらくボンボンは今までどおりの友だちではなくなる。
彼は優しいから露骨に距離を置くような真似はしないだろうが、
『プリンプリンとは恋人になれない。
恋人でもない男が、あまりそばにいるのも彼女のために良くない』
と気配りぐらいはするようになるかもしれない。
いずれにせよ『恋人だ』とうそぶいても許される時期はとっくに終わっていた。
プリンプリンも、ボンボンが勝手なことを言っているなどと笑っている立場ではいられない。
だって彼は本当に『恋人になりたい』と言ってきたのだから。
答えなければならない――。
最終的にプリンプリンの背中を押したのは、自分の人生に今後もボンボンがいてほしいか? という自問だった。
この先ボンボンがいない人生を考えられるか? 歩めると思うか?
これまではナンとなく彼は自分のそばにずっといるものだと信じていた。
プリンプリンの人生でボンボンがいない時がなかったから……。
でも違う。
今後も一緒にいたいなら『お友だち』ではいられない。
だって二人は男と女で。
片方がすでに『お友だち』として見ていないのだから。
悩んだ末にプリンプリンは答えた。
『……いいわ』
まだ愛や恋もわからなかったけれど。
一つだけ確信していた。
ボンボンを失いたくない。
彼が欠けたら自分の世界は根底からひっくり返ってしまう。
最後は単純な気持ちで応じた。
ボンボン以上に短い返事だったのに、彼はその場で立ち上がり、すっかり舞い上がっているようだった。
『……本当に? ありがとう、プリンプリン!
おれ、きみのこと、今まで以上に大切にするよ。これからもずっときみを守る。
恋人として……ずっと、ずっと!』
それから手を取られて妙なダンスで落ち葉を踏みしめながら踊らされた。
周りの人がクスクス笑っていたのに、ボンボンは他人の視線などどこ吹く風だった。
こうして、木々の紅葉の中、二人は晴れて恋人どうしになったのである。
♢
十八歳になってから、プリンプリンはアルトコの小さな旅行会社で働きはじめた。
パリッとしたブラウスにビジネス用のジャケットを合わせ、ロングスカートをなびかせる。顔にかかる髪はバレッタで後ろで留め、まずは大人の女性の体裁を整えた。
かつて世界じゅうを旅したことで、各国のリアルな様子を肌で知っていることが役立った。
お客様の旅行の計画を手伝ったり、新しい旅行プランを立てたり――彼女は労働の苦労を味わいながらもやりがいも感じていた。
ボンボンも地元のタクシー会社に勤めはじめた。
免許もないのに他国でバイクや車を運転していたぐらいである。運転技術は申し分なく、安定した運転で客を目的地まで送っていた。
大人の仲間入りを果たしてからも二人の交際は続いていた。
その間、身体的な接触はなかった。まだ清い仲で友だちの延長といった様子だった。
プリンプリンの退社時刻になると、夜勤のある日以外はボンボンがいつもバイクで迎えに来てくれる。
『夜道が心配だから』
そう言っていたが本当はそれだけではないとプリンプリンは知っていた。
彼は、プリンプリンの勤める会社の男を牽制していたのだ。
毎日迎えに来るバイクの男。
すなわち恋人。
自分の女に手を出すなよ、と。
(過保護ね……)
バイクで揺られながらプリンプリンは思っていた。
ボンボンも背が伸びて、体つきもしっかりしてきた。後ろから腰に手を回すと彼の体温が伝わってくる。
夏の熱い風や、冬の北風が吹きつける中、帰り道は彼の背に身を預けた。
汗ばんだ背中やライダースジャケットのツルツルした感触を覚えている。
少しずつだが二人の距離が縮まっていた――。
そんなある晩、二人は男と女であることを確認しあった。
冬の帰り道、自販機前で話し込んでいた時だった。
プリンプリンは温かい缶コーヒーを買い、両手で暖を取っていた。
ボンボンはおしるこなんて可愛いものを飲んで、
「ナンで、底に溜まるとわかっていて缶にするんだろ?」
缶の底を叩き、舌先であずきを受け止めようとする。
十八にもなって子どもみたいな人だな、とプリンプリンは笑った。
実際ボンボンはまだ少年の面影を色濃く残していたし、何より予感があった。……カセイジンほどのものではないけれど。
たぶん、この人はいつまでも少年のようなんじゃないかしら?
当時のプリンプリンのこの直感は三十四歳になった現在も的中している。
ボンボンは未だに子どものようなところがあって、リンリンと並んで笑っていると同じ顔をしているから微笑ましくなる。
この時も舌先で缶の中身を探るなんてお行儀の悪いことをしてもナンとなく許せてしまっていた。
だが気を抜いていたら突然ボンボンが『痛い!』と喚いた。
「どうしたの?」
「舌切っちゃった」
舌を尖らせて顔をしかめるボンボン。
仄明るい自販機の前で見ると確かに赤い血がわずかににじんでいた。
「無造作に突っ込むからよ」
「ほーへーへ」
ボンボンの舌をよくよく見てみるが、小さなキズ以外に問題はない。
ホッとしてその肩に手を置いた。
「大丈夫よ。もう残りのあずきは諦めなさい」
「えー、ほっはいはふはい?」
舌を出したまま返事をするから何を言っているかわからず、プリンプリンはクッと喉で笑いを飲みくだす。
細めた瞳で見ていたが、しばらくするとボンボンの舌が妙に艶めいて映った。
ザラザラとした質感に、濡れそぼった表面が自販機の灯りを照り返している。
覗き込めば少年のころからの八重歯が咥内で尖っていた。
無言で見つめるとボンボンも視線に気づいたのか、急に舌を引っ込めた。
もごもごと何かを噛み砕くようなそぶり。目線が泳いでいる。
気まずい沈黙――。
自販機の稼動音だけ聴こえている。
ふと、ボンボンがプリンプリンの肩に手を置いた。
それだけでふたりは抱き合う形になり、顔を近づければ……。
容易に唇が重なる。
プリンプリンは目を見開いて、その一瞬を網膜に焼きつけてしまった。
ボンボンのまぶたが震え、まつ毛が影を落として、頬が上気するさまを。
生々しい光景に遅れて目を閉じる。
だが触れただけですぐに離れてしまった。
二人の間を縫う熱気が冷めてゆく。
目と鼻の先でボンボンが口を押さえていた。
やってしまった、とでも言うように。
いいかどうか聞きもしなかったクセして、終わったあとでこんな顔をするのはズルい。
プリンプリンがぼうっとして見つめていると、ボンボンと視線がかち合った。
碧の瞳が濡れている。
「プリンプリン。もうちょっと、したいなあ……ダメかい?」
問われてプリンプリンはゆっくりとうなずいた。
ボンボンの大きな手に肩を抱かれ、キョロキョロと周りを忙しなく見回したあとにバイクから下ろされる。
二人でそそくさと自販機裏に隠れると、再び唇を合わせた。
今度は一瞬でなく、咥内に舌が割り入ってくる。呼吸とともに入ってきた冷気がすぐに熱されて舌を絡めとられる。
プリンプリンは自分の体に異物が入ってきたように感じ、身構えた。
先ほどまで口の中は缶コーヒーの苦みだけだったのに、あんこの甘みとボンボンの舌先のケガからにじむ血の味が混ざり合う。
ファースト・キスはレモン味、だなんて信じていなかったが、メチャクチャになった味覚はロマンティックから程遠かった。
長い間、角度を変え、舌先を丹念に這わされ、じっくりと思考ごと奪われる。
ボンボンが離れた時、あまりに強く掴まれていた腕が痺れていたことにようやく気がついた。
濡れる唇を拭いながらボンボンがぽつりと呟く。
「舌がピリピリする」
今さら気づいた、とでもいうように首をかしげて微笑んだ。
♢
その晩、プリンプリンは夢を見た。
旅のあいだによく見た懐かしい夢。
終えてからは一度も見ていなかったのに。
夢の中でプリンプリンは小さなおうちに閉じこもる子ヤギだった。
母の帰りを待ちながら他の子ヤギたちと暖炉の前で遊んでいる。
茶色い毛並みのお猿さんにじっと見守られながら。
歌を唄ったり、踊ったり。トランプやボードゲームをして家から一歩も出ずに過ごした。
外には怖いオオカミがいるんだよ、と言いつけられていたから。
外へ出ないで。
家に誰も入れないで。
誰が来ても信じてはいけない――。
プリンプリンは約束を守る良い子で、時折やってくるオオカミをすぐに見抜いては『お引き取りください』と返すのだ。
たとえオオカミが小麦の練り粉で真っ黒な手を染めていても。
チョークの粉を飲んで声を甲高くし、猫撫で声で呼んだとしても。
プリンプリンは『いいえ、あなたは怖いからおうちに入れられません』と断りつづけた。
お猿さんは『よくできたね』と毎度拍手してくれる。
他の子ヤギも見覚えある三人組で、そんなプリンプリンを褒め称えた。
中でも彼女にいちばん寄り添っていたのは真っ白くてふわふわな毛並みの、背の高い子。
『プリンプリンが言うなら、きっとそうなんだ。
お外は怖いところ。おうちにいるのがイチバンだね。
ずっと一緒に待っていようね』
聞き慣れた声でささやいてくる。
プリンプリンはすっかり安心してウンウンと首を振る。
『ええ。みんなといるのがイチバンだわ。
お母さんが帰ってくるまで、ここにいましょう』
すると子ヤギは手を繋いできてニッコリと笑った。
その口元に八重歯が覗き、普段はかわいらしく映るのに今夜ばかりは妙に尖って見えて、硬質な光が宿る。
久方ぶりの夢は、そこで途絶えた。
のどがゼエゼエ鳴って尋常ではない汗をかいている。
気持ちが悪いから体を拭こうとベッドから這い出た。チェストからタオルを取り出すと、足もとに何かが擦り寄ってくる。
「キー」
昔からプリンプリンの面倒を看てくれたモンキー。
祖国さがしの旅のころもすでにおじいちゃんだったがまだ動きが俊敏だった。
しかし、ここ最近はすっかり老いが進んで家にこもりきりだ。
子供のころはプリンプリンと一心同体だったのに、今では仕事から戻ってきた彼女をよぼよぼと迎えにくる。
その後、ご飯を用意してあげて、体をきれいにして、プリンプリンの自室にあるふかふかの布団が敷いてあるかごへ寝かせる。
それが現在のモンキーとの日常。
プリンプリンはタオルを取るより先にモンキーを抱き上げた。昔より痩せた体をぎゅうと引き寄せ、その毛並みへ突っ伏する。
人間の老人にも漂うすえた臭いがした。
プリンプリンはもう、モンキーにお世話をしてもらうような子どもではない。
モンキーがこんなに小さく感じるほど大きくなってしまった。
自分の中で何か取り返しのつかないものが失われたように思えて、自然と涙が頬を伝った。