⭐︎性的な描写に入ります
ホテルに戻るとバイキングのディナーでお腹を満たした。
昨日まではソファとベッドまで無限に距離があるように感じられたが今夜は部屋が狭く感じる。
寝巻きに着替えて、灯りを消した。
大きな窓の冷たさを手に感じながらプリンプリンは夜景を眺める。
ずいぶんと近代的になったがオサラムームーには電燈もまだ少なく、都会よりも星がよく見えた。
古くからの住居で各家庭が火の灯しているのも見える。
家屋の先にある海は月を反射して、冴えざえとした輝きを湛えていた。
プリンプリンが海を見つめていると後ろから抱きすくめられる。
細い腰に両腕を巻きつけられ、背にぴたりと長身を沿わされた。
ボンボンが耳元で尋ねてくる。
「……まだ海を見ていたい?」
幼いころからの付き合いだから、プリンプリンが海が好きだと知っている。
黙って眺めているのをいつまでも付き合ってくれたこともある。
だが今夜はどこか様子が違う。
「ううん。もう寝る?」
聞き返すとボンボンが首筋に顔を埋めてきた。
何となくプリンプリンも予感していた……今夜は何か、二人にとって特別なことが起きるのだと。
「プリンプリン。まだ寝たくない」
額も頬も火照ったまま彼は言った。
ほんの少しだけ上げた顔。碧い瞳に灯った、静かな炎。
「ずっと、この日を待っていた。
言ったら嫌われるんじゃないかと思って、言えなかった。でも……」
どもりながらもボンボンが言うのに口を挟まず聞いていた。
汗ばんだ手を上から包み、続けるようにうながす。
ボンボンが痺れを切らして畳みかけてきた。
「もう限界だ。きみが欲しい。
好きだ」
求められたプリンプリンは顔が熱くなる。
だがボンボンの息づかいが細い首をなでると、頭の芯がどろりと溶けるような心地だった。
胸の下で震える腕に高鳴りがきっと届いている――。
「わたしも好きよ」
やっとの想いで応えたのを口火に、噛みつかれそうな勢いで首筋に唇を這わされた。
抑えきれなかった声が漏れると舌が耳もとまでツウとのぼってくる。ピアスを外した耳たぶにキスされると熱が込もる。
脚に力が入らず、窓に両手をつけば腰に回されていた腕がそっと胸へ上がった。
ひときわ大きく背を跳ねさせるも手のひらで柔く覆われ、心臓が波打つのを隠せない。
「プリンプリン」
名前を呼ばれても返事できる余裕もなかった。
ようやく落ち着き、肩で息をしているところを抱え上げられる。焦点の合わない目でボンボンを見つけ、その首に手を回した。
昨夜はひとりきりで眠ったベッドへゆっくりと下ろされる。
涙でにじんだ視界の中、ボンボンが寝巻きのTシャツを脱いだ。夕方のビーチと同じ、たくましい男性の体。
プリンプリンが両脚を擦り寄せると、ネグリジェの裾が膝からすべり落ちる。南国特有の熱気が直接肌を蒸らす。
プリンプリンの頬に、鎖骨に、白い柔らかな髪がかかった。
昼よりも深いキス。
口づける間に腰を抱かれ、ひとつひとつの箇所を確かめるように愛でるように撫でられた。
これまでボンボンにイヤらしい触れ方をされたことは、なかった。
友人が口々に『それはヘンだよ』などとはやし立てたが、プリンプリンは『彼は優しいんだから』の一点張りだった。
優しいから怖いことをしてこない。そういう欲求だけで自分に触れることはないんだよ、と。
説明しながら自分に言い聞かせてきた。
今ですら遠慮がちに触れてくるのだから彼の優しさは本物だ。
彼がとうに大人になっているのは知っていた。知っていて一線を越えさせなかった。
越えてしまったら最後、自分のすべてを差し出すことになるから。
きっと後戻りできないから。
身も心も彼のかたちをした空白が出来上がり、その不在を一人では決して埋められなくなる。
ただ、プリンプリンは彼の手の温もりを全身で感じ取りながら思い知らされた。
もうとっくに互いの中で相手の空白が出来上がっている。
だから離れがたく、こうして求めるしかないんだ。
むき出しの脚に引っかかっていたネグリジェが胸元まで捲りあげられる。
裸の胸が外気にさらされると玉のような汗が光っていた。
呼吸とともに上下するのを湿った視線で追われ、プリンプリンは羞恥に顔を背ける。
「さっ、触る……よ?」
ボンボンから上ずった声で問われると、目をギュッとつむってコクコクとうなずいた。
下から輪郭をなぞられる。指先が上がってきて頂きに触れ、硬くなっているソコを押されると腰が浮いた。
男の人のわずかにささくれ立った指の腹の質感が、性差を伝えてくる。
手のひらで心臓のごと包まれて、
「すごい、ドキドキしてる……」
と頬を寄せて告げられた。
「ボンボン、は?」
プリンプリンが蚊のような声で聞いたらボンボンも、
「おれもだよ。ほら」
手を取られ、左胸まで持っていかれる。
彼の鼓動が脈打つのを感じた。
「怖い?」
心配するようなまなざしにプリンプリンは、
「ウン……でも、イヤじゃない……」
と答える。
ボンボンはちょっと困った顔で、
「難しそうだったら止めるから……」
と言ってくれた。
彼も手探りなのがわかって、プリンプリンは肩の力をすこしだけ緩める。
丁寧に了承を得られながら全身にキスの雨が降った。
唇と唇ではなく、あばらやお腹でボンボンの唇の感触がするのはふしぎだ。
すっかり色づいた胸の頂に口づけられると、背中から電流がビリビリと走り、思わず声をあげたほどだった。
初めての感覚にボンボンの髪を掴んでしまっても、熱っぽい視線をよこされて『大丈夫?』や『肩掴んでて』など気遣われるばかり。
いつしかプリンプリンは彼にぎゅうとしがみつき、甘い疼きをやり過ごそうとヒュウヒュウと呼吸だけに集中していた。
一点が濡れていることにも気づいている。
下着が……と心配していたらボンボンも察したのか、
「脱ぐ?」
と聞いてくる。
プリンプリンはかしこまって『はい』と返事した。
人から……男性の手で下着を脱がされるのは当然だが初めてだ。そんなところに触れられるだけで恥ずかしくて死にそうなのに、ゆっくりと下ろすからボンボンは意地悪だ。
実際はきっとそうじゃないとわかっているけれど……。
下着がつま先を過ぎて、ほとんど衣服の役目を果たしていないネグリジェだけになってしまう。
脚のあいだがスースーして心許なくて、プリンプリンは両脚をきつく閉じる。
だがボンボンの手が脚をすべり、
「大丈夫だから」
と頬に何度も唇を寄せられた。
付け根まで移動して子どもでもあやすように撫でられる。ただ、茂みを指先で弄ばれると、肩をビクリと震わせてしまった。
とうとう根負けして脱力したら手のひらが滑り込んでくる。
「ひゃぅ……」
変な声が出て、とっさに唇を噛んだ。
プリンプリンの蜜口にボンボンがいきなり触れることはなく、綴じめを指で往復するのみだった。
まるで扉の前でノックされているような感覚。
プリンプリンが荒い息で視線をさまよわせるとボンボンの碧い瞳が目の前にあった。
「……見ても平気?」
真剣な顔で言われる。
自分でもよく見えない秘所を好きな相手に見られるなんて、想像もつかない。
ベタついているし、きっととんでもないことになっているハズだ。
プリンプリンは戸惑いながら、
「ボンボンは……?」
と聞き返す。
彼はすぐに、
「おれは平気」
と言った。
不安が拭えなかったが、小さくうなずく。
ずっと隣にあったボンボンのまなざしが視界から消えた。上体を起こし、くっつきあっていたプリンプリンの両膝に手を添える。
わずかに拡げられれば充分だった。
彼の目に自分の蜜口が映っている――痛いくらいまっすぐな視線が腰に甘い痺れをもたらす。
ボンボンが急に黙った。どうしたのだろう。
変……だったのだろうか?
そんなところ、人と比べたこともない。そもそもボンボンは他の女性のものなんて見たことがあるの?
男のひとなら本などで多少はあるかもしれないが……考えはじめると悪いほうへ悪いほうへと思考が傾いてしまう。
嫌がられたらどうしよう。
なぜ何も言わないのか。
こんなに恥ずかしい思いでいるのに――。
いつのまにか、これまでとは違う冷たい涙が頬を伝っていた。
嗚咽が漏れれば固まっていたボンボンがハッとなって見てくる。
「プ、プリンプリン⁉︎ どうして、え、と、イヤだった⁉︎」
すぐに両手を握られ、先ほどまでと同じく頬を寄せてくれた。
説明できないまま泣きじゃくっているとボンボンが背中を軽く叩いてくれる。
「怖いなら今夜はやめとこうか?」
答えられなかったが肯定だと判断されたのか『よしよし』なんて言われながら体を柔らかいタオルで拭かれた。
確かに怖かったが心のどこかで『そうじゃない』と感じていた。
ボンボンとそういうことをするのが嫌なのではない。
突然、自信がなくなった。
普段から周りに『きれいだね』と言われてきたので『自分は世間一般では美人なんだな』と思ってはいたものの。誰にも見られたこともない箇所を暴かれ、見られて沈黙されてしまうと。
こんな汚いところ見せてはいけなかったのではないか? と頭がいっぱいになって、胸が苦しくなった。
ボンボンはプリンプリンのネグリジェを整えたあと、隣で横になり、額をコツンとあててきた。
「焦らなくていいから。ウン……ゆっくりやろう。
おやすみ」
熱を出した時のように熱い。……どちらが?
本当にそれでいいの?
プリンプリンは次第に落ち着いてくるも、今度は後悔が波のように押し寄せる。
あんなにボンボンが優しく、順を追って進めてくれたのに。
ちゃんと言わなくていいの?
やめたいワケではない、と。