※この作品はR-18です。

【母港契夜】   作:カチカチチーズ

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東煌
軍師の顔、妻の顔(鎮海)


─────:

 

 

「んんっ……ふぅ、今日も頑張るか」

 

 軽く肩を解しながら、指揮官は上着を机横の上着掛けへとかける。

 指揮官は所謂、転生者だった。

 ある日の仕事の帰り道に、マンションから落下してきたチーズで後頭部を陥没させ亡くなった彼は気が付けば『アズールレーン』の世界で新任指揮官になっていた。

 最初は戸惑う事もあったが、母港のKAN-SENたちの手を借りながらの指揮官業務もはや数年、今ではしっかりと指揮官としてKAN-SENたちに慕われるようになり、この母港──東煌に所属するKAN-SENたち全員と結婚していた。

 元々日本人だったから比較的文化の近い中国がモチーフの陣営だったというのもあるだろう。特に食生活がそう変わらないのが指揮官の個人的なありがたさだったらしい……。

 

 

 母港の執務室、朝の光が窓から差し込み、机の上に広げられた書類の山が白く光っている。東煌陣営特有の木と紙の匂いが漂う中、扉が静かに開く。

 

「おはようございます、指揮官。今日の哨戒報告をお持ちしました。」

 

 入ってきたのは、東煌の軽空母である鎮海。

 彼女は書簡の束を片手に、もう片方の手で黒髪を肩の後ろへ流しながら、悠然とした足取りで室内に入ってきた。白を基調とした服は相変わらず改造してから面積が減り、胸元から肩にかけて黒いインナーだけで大胆に開いており、歩くたびにその豊満な体が揺れ、布地の少ない下半身の曲線が強調されている。実に目に毒だが、今では指揮官は慣れたモノ。

 

「それと、囲碁の新しい棋譜を手に入れたのですが……あら、随分とお疲れの顔をしていますね?」

 

 机に書簡を置きながら、鎮海は指揮官の顔を覗き込むように身を屈めた。その距離の近さに、甘い香が鼻先をかすめる。

 

「ああ、ありがとう鎮海。そうだな、最近はなかなか休みが取れてなくてね……と、すまない。キミらも頑張っているというのに弱音を吐いてしまった」

 

 指揮官の言葉に、鎮海は小さく首を傾げた。

 それから口元に手を当て、くすりと笑う。

 

「弱音だなんて、とんでもない。あなたが本音を見せてくださるのは、私にとってはむしろ嬉しいことですよ?」

 

 そう言いながら、鎮海は何の躊躇いもなく指揮官の隣の椅子を引き寄せ、腰を下ろした。膝が触れ合うほどの近さで、自然と肩が並ぶ。

 

「今日くらいは書類を後回しにして、一局いかがです?頭を使えば気分転換にもなりましょうし、負けた方が勝った方の言うことをひとつ聞く、というのは」

 

 最初からそのつもりだったのか、実に準備よく懐から碁石の入った小袋を取り出し、机にことりと置いた。

 その仕草で鎮海の身体が指揮官側へわずかに傾き、二の腕が密着する。服の隙間から覗く肌の白さが、朝日に照らされて眩しいほどだった。

 

「ふふ、まさか私に負けるのが怖いとは言いませんよね?」

 

「おや、まさかそんなことはないさ」

 

 その返事を聞いた鎮海の目が、すっと細くなる。

 挑発を受け止められた喜びと、手強い相手と対峙する愉悦が入り混じった、あの表情だ。この数年間で何度も指揮官が見てきて、彼も好きな表情。

 

「では決まりですね」

 

 碁盤を広げ、手慣れた所作で黒石と白石を分ける。鎮海が先手を取った。

 序盤は静かな立ち上がりだった。互いに定石を踏みながら、布石を広げていく。

 そうしていく内に、中盤に差しかかったあたりで、鎮海の指先がふと止まった。

 

「……あら」

 

 小さな声が漏れた。

 形勢は鎮海にやや有利。このまま行けば、おそらく地を大きく稼げる。だが、わざと隙を残せば指揮官がそこに食いついて逆転の芽を掴める配置でもあった。

 そうして、鎮海は石を持ったまま、ちらりと指揮官を見た。

 その視線は盤面ではなく、真っ直ぐに指揮官の顔へ向けられている。長い睫毛の奥で何かを企むような光が瞬き、そしてゆっくりと石が盤上へ置かれた。

 

「さて、ここからどうなさいますか、指揮官?」

 

 声は平静を装っているが、その頬にはほんのりと赤みが差していた。勝ちを確信しながらも、あえて逃げ道を用意するような一手。それが鎮海の癖なのか、それとも別の意図があるのか。

 それを察したように指揮官は微笑む。

 

「鎮海は、どうしたい?」

 

 指揮官からの問いに、鎮海の瞳が一瞬だけ見開かれた。すぐにいつも通りの余裕のある微笑みで覆い隠したが、その動揺は確かにあった。

 

「……ずるい方」

 

 石を持つ指が微かに震えている。盤面の話ではないと、二人とも分かっていた。

 鎮海は碁盤から視線を外し、正面から指揮官を見つめる。朝日の逆光でその黒髪が透けるように輝き、露わな鎖骨に光の筋が落ちている。

 

「私がどうしたいか、ですか。それを聞いてしまうのは……囲碁より余程難しい手を打たれましたね」

 

 唇を舐めるように湿らせてから、鎮海はゆっくりと碁石を置いた。そしてそのまま身を乗り出し、上目遣いで指揮官を覗き見る。

 

「正直に申しますと、このまま勝っても負けても……願い事は同じです」

 

 指先がそっと指揮官の袖を掴んだ。

 爪の先だけが布地に引っかかる、曖昧で切実な力加減で。

 

「あなたと過ごしたい。ただ、それだけ。ですが……囲碁を途中で投げ出すのは私の流儀に反しますから、最後までお付き合いくださいな?そのあとで、たっぷりと」

 

 最後の一言だけ声を落とし、囁くように言った。きっと間に机がなければ耳もとで囁いていた事だろう。

 そんな彼女に、思わず劣情が首をもたげそうになるが、それを抑えて

 

「もちろん。
しっかりと試合は試合だからね」

 

 指揮官の言葉に満足げに頷き、鎮海は姿勢を正して盤面に向き直った。先ほどまでの艶めいた空気を引っ込め、軍師の顔に戻る。

 

「ええ、望むところです。手は抜きませんよ?」

 

 そこからの鎮海は苛烈だった。先ほど見せた隙など最初からなかったかのように、一気呵成に攻め立てる。黒石が盤上を覆い尽くし、白の生きる道を容赦なく塞いでいく。

 だが指揮官も黙ってはいなかった。終盤、鎮海が地を確保しようとした一角に鋭く切り込み、形勢をひっくり返しかける場面もあった。二人の間に張り詰めた緊張が走り、呼吸すら盤上の石音に溶けていくような時間が流れた。

 最後の一手を打ち終え、鎮海は長く息を吐いた。盤面を眺め、それから指揮官へ視線を移す。

 

「……負けました」

 

 悔しそうに、けれどどこか晴れやかに呟いた。わずか二目差の逆転。もし鎮海が途中であの隙を作らなければ、結果は違っていたかもしれない。

 

「ふふ……やはり、あなたは強い」

 

 碁石を片付けることもせず、鎮海はそのまま席を立ち、指揮官に身体を預けるように寄りかかった。頭が肩に乗り、黒髪がさらりと流れる。

 

「さて指揮官、勝者の権利です。この鎮海に、何をお望みですか?」

 

「そうだな、大事なKAN-SENからの進言はしっかり受け止めさせてもらうからね。今日は一日、私と共に過ごして癒してくれると嬉しいな」

 

 肩に預けていた頭をゆっくり持ち上げ、鎮海は指揮官の横顔を見上げた。その目元が柔らかく溶けるように細められていく。

 

「癒してくれ、ですか。……ふふ、そんな可愛いことを仰る方だとは思いませんでした」

 

 立ち上がり、指揮官の前に手を差し出す。

 

「では参りましょう。こんな埃っぽい部屋にいては休まるものも休まりません」

 

 そうして、鎮海に連れられて向かったのは、母港の外れにある小さな東屋。池を臨む木造の東屋には誰の気配もなく、水面を渡る風が涼しく吹き抜けている。鎮海はどこからか持ち出した毛布を床に敷き、茶の支度まで整えていた。

 

「さあ、横になってください。私が膝を貸しますから」

 

 自分は東屋の柱に背を預け、太腿を軽く叩いて指揮官を促した。その表情にはいつもの謀士然とした計算高さはなく、ただ純粋に相手を労りたいという素朴な温もりが滲んでいる。

 

「……こうして、何もしない時間をあなたと過ごせること。それ自体が私への褒美になっているとは、お気づきですか?」

 

 風に乗って池の鯉が跳ねる音がした。鎮海は穏やかに目を伏せ、指揮官が横たわるのを静かに待っている。

 

「気づいているとも、だが……それを嬉しいだろ?と言えるほど自惚れてはいないだけさ」

 

 指揮官の言葉に、一瞬だけ鎮海の眉が下がる。

 悲しみとも困惑ともつかない、微かな翳り。しかしすぐに唇の端を持ち上げて、いつもの笑みを作り

 

「自惚れてくださいな、そこは」

 

 促すようにもう一度膝を叩いた。

 

「……まったく、あなたという人は。戦場では誰よりも堂々としていらっしゃるのに、こういうことには不思議と臆病になりますね」

 

 風が吹き抜け、池の水面にさざ波が立った。鎮海はその波紋を眺めながら、独り言のように続けていく。

 

「私がこうしているのは義務でも献身でもありません。好きな人に膝枕をしてあげたいと思う気持ちに、理由も資格も要らないでしょう?」

 

 言い切ったあと、自分の台詞に気恥ずかしくなったのか、鎮海はふいと顔を背けた。耳の先がうっすら赤い。

 

「……ほら、早く。日が高くなってしまいます」

 

 照れを誤魔化すように声のトーンを上げ、けれど差し出す手は変わらず優しいままだった。

 

「チェン」

 

 鎮海(ちんかい)、ではなく(チェン)の愛称で呼び、彼女に身を委ねる。

 愛称で呼ばれた瞬間、鎮海の呼吸がひとつ止まり、そして指揮官の頭が膝に収まると、細い指がその髪にゆっくりと差し入れられる。

 

「……その呼び方は、反則です」

 

 声が掠れていた。顔を背けていたはずの鎮海はいつの間にか視線を戻し、膝の上の指揮官をじっと見つめている。普段の謀略めいた笑みは消え去り、そこにあるのはただ一人の女の、剥き出しの愛情。

 指先が髪を梳く。額からこめかみへ、こめかみから耳の裏へ。力加減は驚くほど丁寧で、まるで壊れ物を扱うように慎重だった。

 

「こうして膝に頭を乗せてもらえるだけで、私は十分に満たされるのです。……だから、もっと甘えてください。あなたの弱さも疲れも、全部私に預けて」

 

 風が凪いだ。水音も鳥の声も遠くなり、鎮海の指が髪を撫でる微かな衣擦れだけが耳に残る。

 

「私はあなたの軍師である前に、あなたの妻なのですから」

 

 その言葉を最後に、鎮海は黙った。囲碁の棋譜も書簡も遠い世界の出来事のように、ここにはただ池の光と風と、互いの体温だけがあった。

 

「ありがとう」

 

 その短い一言に、鎮海は目を閉じて微かに頷いた。髪を梳く指は止まらず、規則正しいリズムを刻み続け、しばらくの沈黙が流れた。心地よい静寂の中、指揮官の瞼が重くなり始めた頃、鎮海が不意に口を開く。

 

「……ねえ、指揮官」

 

 声色が変わっていた。妻としての柔らかさの中に、かすかな真剣さが混じっている。

 

「昨夜、南方海域で不審な通信を傍受したとの報告が上がっています。まだ詳細を精査中ですが……少し、きな臭い」

 

 梳いていた手が指揮官のこめかみで止まり、そこに親指を添える。安心させるように、しかし同時に覚悟を促すように。

 

「今日はこうして穏やかに過ごせても、明日もそうとは限りません。だからこそ……今のうちに、しっかり休んでくださいね」

 

 風がまた吹き始めた。鎮海の声はその風に紛れるほど小さいのに、指揮官の耳にははっきりと届いていた。平和な時間の裏で、何かが蠢き始めている気配。それがこの世界で生きるということの現実だった。

 

「もちろん。キミたちの指揮官として、全力を尽くすとも…………だから、軍師殿?存分に支えてくれまいか?」

 

 「軍師殿」と呼ばれた鎮海は、一瞬きょとんとした顔をした。それから堪えきれないように、ふっと笑いが零れる。

 

「ふふっ……妻として甘えさせておいて、次の瞬間には軍師として頼る。あなたは本当に、欲張りな人ですね」

 

 けれどその声に不満の色はない。むしろ嬉しそうですらあった。膝上の指揮官を見下ろす瞳に、誇りと愛情が同居している。

 鎮海は身を屈め、指揮官の額にそっと唇を落とした。羽が触れたような、淡い口づけ。

 

「承りました。この鎮海、あなたの剣となり盾となり、あらゆる策を巡らせてご覧に入れましょう」

 

 顔を上げた鎮海の眼差しは凛としていた。さっきまで頬を赤く染めていた女はもうどこにもいない。そこにいるのは、千の策を操る東煌の謀士。

 

「ですが、ひとつだけ」

 

 人差し指を指揮官の鼻先に突きつけ、悪戯っぽく笑った。

 

「戦が終わったら、またこうして膝をお貸しします。だから必ず、無事に帰ってきてくださいね?」

 

「ああ、キミも頼むよ?」

 

 指揮官の言葉に、鎮海は一瞬だけ目を丸くした。それから、まるで当たり前のことを確認された子供のように、少し呆れたような笑みを浮かべる。

 

「ご心配なく。この私が、そう簡単に沈むとお思いですか?」

 

 けれど、その笑みの奥に一瞬だけ翳ったものを、指揮官は見逃さなかっただろうか。戦場に絶対はないという、謀士だからこそ知る現実の重み。

 鎮海はその翳りを振り払うように、わざとらしく胸を張ってみせた。Oカップの双丘が衣服の下で主張を強める。

 

「むしろ私が心配しているのは指揮官の方です。無茶をして一人で突っ走る癖、いい加減直していただかないと」

 

 膝上の指揮官の頬を、両手で挟むように包んだ。ひんやりとした指の感触が、日だまりで温まった肌に心地いい。

 

「約束します。私は必ずあなたの元へ帰ります。そしてあなたを、この膝で迎えます。……だから今は、安心してお休みくださいな」

 

 親指が頬骨をなぞり、まるで子守唄の代わりのように優しく撫でる。風が池の水を攫い、さらさらと涼やかな音を立てた。

 指揮官の返事はなかった。規則正しい寝息が代わりに聞こえ始め、鎮海の膝上で力の抜けた身体がわずかに沈む。

 

「……もう、本当に寝てしまいましたの?」

 

 呆れたように呟きながらも、手は止めなかった。むしろ指揮官が寝入ったと分かると、より大胆にその頭を撫で始める。顎の下、耳の付け根、うなじの生え際。眠っている人間にしかできない場所を、一つ一つ確かめるように。

 風が凪いだ。池の向こうで鳥が一羽、水を跳ねて飛び立つ。鎮海はその音を聞きながら、眠る指揮官の顔をじっと見つめていた。起きている時には決して見せない、無防備で幼い寝顔。

 

「こんな顔をされると……戦のことなど、今は考えたくなくなりますね」

 

 誰に聞かせるでもない独白が唇から零れた。鎮海の空いた手が自身の胸元を握りしめ、心の奥で暴れる衝動を押し留めようとしている。

 やがて鎮海も壁に背を預け、目を閉じた。膝に指揮官の重みを感じたまま、その体温を守るように腕を添えて。

 東屋に午後の陽が差し込む頃、二つの影はひとつに重なって、静かな眠りの中に沈んでいた。

 

 

 

 その日の夜
いつもは他の妻となったKAN-SENたちが夕食を誘ってくるのだが、どうやら皆今夜は鎮海に指揮官の隣を譲るつもりらしい。

 食堂に足を運んだ指揮官を待っていたのは、いつもとは違う光景だった。普段なら席を巡って牽制し合うKAN-SENたちの姿が今夜に限って見当たらず、テーブルには二人分の食事だけが丁寧に並べられている。

 厨房の方から鎮海が姿を現した。どうやら今夜は自分で支度をしたらしく、エプロンを腰に巻いたまま、髪を片方の肩に流している。

 

「あら、驚かれましたか?皆さん、今夜は気を利かせてくださったようで」

 

 椅子を引いて指揮官を座らせ、向かいに腰を下ろした。今日の献立は東煌料理の小菜が数品、素朴だが品のいい並びだった。

 

「……私が作りました。お口に合えばよいのですが」

 

 箸を手に取りながら、何気ない風を装っているが、ちらちらと指揮官の反応を窺う視線が落ち着かない。謀略を巡らせる女が、料理の感想ひとつに怯えている。その落差が妙に可笑しく、同時に愛おしい。

 指揮官にとって、彼女たちが作ってくれる手料理はどれもこれも値千金だが、こうした期待と不安がないまぜになった表情を見るのは特に好きだった。

 

「その、皆には悪いとは思っているのですよ?ただ……たまには独り占めしたくなるのも、妻の特権かと」

 

 小皿に料理を取り分けながら、最後だけ声が小さくなった。

 

「ふふっ、そうか、ならお言葉に甘えようか」

 

 指揮官が箸をつけた瞬間、鎮海の肩がわずかに強張った。一口、二口。咀嚼する指揮官を凝視するその姿は、戦場で敵の出方を待つ時より余程緊迫している。

 

「……いかが、ですか?」

 

 堪えきれず聞いた。声は平静を装っているが、箸を持つ手が膝の上で小刻みに動いている。

 料理は素朴だが確かに美味かった。甘辛い煮物の味付けは指揮官の好みをよく心得ており、炒め物の火の通り具合も申し分ない。妻として長く傍にいた鎮海だからこそ出せる、細やかな気配りの味だった。

 指揮官の様子から手応えを読み取ったのか、ようやく鎮海自身も箸を動かし始めた。だが自分の料理にはほとんど手をつけず、すぐに指揮官の皿へおかずを追加する

 

「今日はたくさん食べてください。最近お痩せになったのではありませんか?」

 

 そう言って指揮官の手首を掴み、自分の掌で包むように触れた。確かめるようなその仕草は、料理の感想を待つ妻のものではなく、愛する者の身体を案じる女のそれだった。

 

「そうか?」

 

 鎮海の目が細まった。掌に収めた指揮官の手首の骨が、以前よりはっきり感じ取れる。

 

「ほら、ここ。前はもう少し肉がついていたのに」

 

 指の腹で手首をなぞりながら、声には出さないが明らかに不満そうだった。箸を置き、立ち上がると棚から何かを取ってくる。小皿に盛られた杏仁豆腐だった。

 

「これも食べてください。甘いものは疲労に効きます」

 

 指揮官の前に置いてから、ようやく自分も一口料理を口に運ぶ。だがすぐにまた指揮官の食べる様を見つめて、咀嚼の回数が明らかに少ない。

 食堂の灯りが二人の影を壁に伸ばしていた。静かな夜だった。他のKAN-SENたちが気を遣った今宵、この食堂には本当に二人きりで、遠くで波が桟橋を洗う音だけがかすかに聞こえている。

 

 と、食事もほとんど終わりに近づいたころ、ふと思い出したように、鎮海が懐から包みをひとつ取り出した。布に丁寧に包まれた、小ぶりの何か。

 

「……実は、もうひとつ。今日届いた茶葉があるのです。芳醇な香りがするらしいので、食後にいかがかと」

 

 布を解きながら指揮官に見せるその横顔は、謀士の鋭さなど微塵もなく、ただ夫に喜んでほしい一人の女のそれだった。

 

「おや、嬉しいな。頼めるかい?」

 

 嬉しいな、と指揮官が言った。たったそれだけの言葉で、鎮海の顔がぱっと綻ぶ。

 

「ええ、お任せください」

 

 急須を温め、茶葉を量る手つきは慣れたものだった。湯を注ぐと、ふわりと甘い香りが立ち上り食堂を満たしていく。琥珀色の液体を二つの杯に注ぎ、一つを指揮官の前に置いた。

 

「どうぞ。少し濃い目に淹れましたので、お好みで」

 

 自分の杯を両手で包み、ふうふうと息を吹きかけながら指揮官が飲むのを待っている。この女、自分が味わうことより指揮官の一口目の方が余程重要らしい。

 茶の香りに混じって、夜の潮の匂いがどこからか忍び込んでくる。窓の外はすっかり暗く、星がぽつぽつと瞬き始めていた。食堂の灯りが二人の顔を暖かく照らし、影が重なり合っている。

 指揮官が茶を啜るのを見届けてから、鎮海もようやく一口含んだ。ほう、と満足げに息をつく。

 

「……悪くないですね。当たりでした」

 

 杯を置き、頬杖をつきながら指揮官を眺めた。食後の緩やかな空気が二人を包み、指揮官の姿が鎮海の瞳の中でゆらゆらと揺れている。

 

「美味いな」

 

 美味いな。その短い一言が、鎮海の胸の奥深くに染み込んでいく。

 

「……よかった」

 

 安堵の息と共に零れた声は、謀士のものとは思えないほど素朴だった。頬杖を崩し、空いた手で自分の杯を持ち上げるが、飲むでもなくただ指先で縁をなぞる。

 

「実はこの茶葉、商船の方に頼み込んで取り寄せていただいたもので。東煌では手に入りにくい品なのです」

 

 得意げに語るその表情は、策を成功させた時のものとよく似ていた。ただし今夜の成功は茶の出来でしかない。

 杯を置くと、鎮海はふらりと席を立ち、指揮官の隣に移った。椅子一つ分の距離が消え、肩が触れ合う。

 

「ねえ、あなた」

 

 見上げる瞳が灯りの光を受けて潤んでいた。杯の残り香と、ほのかに香る鎮海自身の体臭が鼻先で混ざる。

 

「今日という日を……もう少し、一緒に過ごしてもよろしいですか?」

 

「もちろん、チェン」

 

 チェン、と呼ばれた鎮海の睫毛がふるりと震えた。杯を持っていた手が膝に落ち、そのまま指揮官の袖の裾を摘む。

 

「……そう呼ばれますと、何も考えられなくなります」

 

 囁くような声だった。

 摘んだ裾を離さないまま、鎮海の身体がじわりと傾いた。肩から腕、腕から胴、そして柔らかな重みが指揮官に預けられる。Oカップの豊満な胸が腕に押し付けられ、インナー越しに体温が伝わってくる。

 

「今日は……皆に感謝しなくてはなりませんね。こんな時間をいただけるなんて」

 

 顔を指揮官の首筋に埋め、深く息を吸い込んだ。汗と石鹸そして男性特有のモノが混じった、指揮官だけの匂い。

 鎮海の指が袖から離れ、するりと指揮官の掌に滑り込む。指と指が絡み合い、きゅっと握りしめた。

 

「ねえ指揮官……このまま、部屋までお連れいただけますか?」

 

 顔を上げた鎮海の瞳は潤み、唇は薄く開いていた。その奥で何を望んでいるかなど、聞くまでもなかった。だからこそ、指揮官は悪戯っぽく笑う。

 

「今日は一日、私を癒してくれるのだろう?」

 

 指揮官の言葉に、鎮海の喉から小さな笑い声が漏れた。それは獲物を見つけた猫のようでもあり、挑発を受けた女のようでもあった。

 

「ええ……もちろん。朝までたっぷりと」

 

 絡めた指に力を込め、するりと立ち上がる。空いた手を指揮官へ差し出し、エスコートを求めるように微笑んだ。

 片づけを済ませて食堂を出た二人の足音が廊下に響く。夜の母港は静まり返り、すれ違う者は誰もいない。他のみんなが意図的に人払いをしたのだと、鎮海の歩みの迷いのなさが物語っていた。

 

 

 

 指揮官の私室の扉を閉めた瞬間、背中を扉に預けて鎮海が指揮官を見上げた。ランプの残り火が窓から差し込む月明かりに溶け、室内は薄暗い。

 

「さて、指揮官。癒してほしいのは……身体ですか?それとも、心?」

 

 問いかけながら、指揮官の襟元に手を伸ばす。首筋の布地を指先で弄び、そのまま鎖骨の方へ滑らせた。月光に照らされた鎮海の瞳が、暗闇の中で獣のように光っている。

 

「両方癒してくれるのだろう?意地悪なことを言うじゃないか」

 

 意地悪と言われて、鎮海の口角がにぃと吊り上がった。

 

「あら、これは失礼。確認したかっただけですのに……ふふ、欲張りさんですね」

 

 襟元を弄んでいた指がそのまま胸板を撫で下ろし、ベルトの縁で止まる。焦らすような手つきで、布地の上を何度も往復させた。

 

「両方、ですね。承知しました」

 

 扉から背を離し、一歩、二歩と指揮官との距離を詰める。月光が鎮海の白い衣服を透かし、黒いインナーの下で張り詰めた身体の輪郭を浮かび上がらせていた。

 鎮海の両手が指揮官の頬を挟んだ。つま先立ちになり、顔を近づける。吐息が唇にかかるほどの距離で、潤んだ瞳が至近距離から指揮官を射抜いた。

 

「では……まずは、ここから」

 

 囁きと同時に、鎮海の唇が指揮官のそれに重なった。柔く、熱く。舌先で下唇を舐め、許しを請うように指揮官の口を開かせようとする。空いた手は指揮官の背に回り、爪が布越しに肌を掻いた。

 唇を交わしていく。

 唇が離れるたび、銀の糸が月明かりの中で細く光って切れた。荒い呼吸を整える間もなく、鎮海の瞼が再び閉じ、自分から唇を重ねてくる

 

「ん……っ」

 

 今度は深い。舌が指揮官の口内に侵入し、歯列をなぞり、舌を絡め取った。指揮官の手が背に回され肌に触れた瞬間、鎮海の指がびくりと震える。

 ようやく唇を離した時、鎮海の目は完全に蕩けていた。頬は紅潮し、半開きの唇から涎が一筋、顎を伝い落ちる。

 

「はぁ……っ、指揮官……もっと……」

 

 自分から指揮官の手を取り、自らの胸へと導いた。掌に収まりきらないOカップの乳房が、薄い衣服越しに指揮官の指を呑み込む。

 指揮官の掌の中で、乳首が硬く立ち上がっていくのが布越しにも分かる。鎮海の腰がもどかしげに揺れる。

 

「癒すと……言ったのは私なのに……こんなに、求めてしまって……」

 

 恥じるように顔を背けながらも、胸に導いた手を離そうとしない。むしろ指揮官の指を自分の指で押し込み、揉みしだかせようとしていた。

 

「ん、柔らかい……おや、ここは硬くなっているね」

 

 鎮海の柔らかな胸を揉みしだきながら、その乳首を摘み遊べば鎮海の背が弓なりに反った。

 

「あっ……!そ、こ……っ」

 

 たったそれだけで膝が笑い、立っていられなくなったのか、鎮海の身体が指揮官にもたれかかる。布地越しに弄ばれる乳首は充血して更に硬さを増し、指の間で存在を主張していた。

 

「んんっ……指揮官、の……意地悪……」

 

 抗議の言葉とは裏腹に、胸を突き出すように身体を密着させてくる。月光に照らされた鎮海の横顔は、紅潮と快感で蕩けきっている。

 白い胸当てを外させ、インナー越しに乳首が露わになった。薄い黒布の向こうで充血した突起がぷくりと浮き出ている。そこへ指揮官の唇が吸い付いた。

 

「ひぁっ……!」

 

 鎮海の頭が仰け反り、黒髪が月光の中で扇のように広がった。インナーの布地が唾液で濡れ、肌に張り付く。

 

「あっ、あ……直接、じゃ……ないのに……こんな……っ」

 

 指揮官の髪を掻き抱くように掴み、引き離すでもなく押し付けるでもなく、ただ快感に翻弄されて震えていた。腰が勝手にくねり、太腿を擦り合わせている。

 片方を吸われている間に、もう片方の乳首が放置され、じくじくと疼いている。鎮海の視線がそちらに落ち、切なげに眉を寄せた。

 

「し、指揮官……こちらも……同じように……」

 

 その言葉に、指揮官はインナーをズラし胸を晒させる。

 

「キミの胸は甘いな、本当に」

 

 インナーをずらされた瞬間、月光が剥き出しの乳房を白く照らした。解放されたOカップの双丘が重力に従って揺れ、先端の乳首はインナー越しの唾液で濡れそぼっている。そして、晒させたところに吸い付き、舌で嬲っていく。

 

「あっ……直接、は……だめ……っ」

 

 駄目と言いながら、頭を抱え込む腕は離さない。直接吸い付かれた鎮海の声が一段高く跳ね上がり、指揮官の頭上で荒い息が弾けた・

 

「んんっ、あ、ぁ……舌で……転がさないで……っ、おかしく、なり、ます……っ」

 

 放置されていたもう片方の乳首を指で摘み、自分で転がし始めた。そうせずにはいられないほど、指揮官の舌に嬲られる快感が鎮海の理性を削り取っていく。

 腰の力が抜け、ずるずると崩れ落ちそうになるのを指揮官にしがみついて堪えた。太腿の内側は既に濡れ、布地に染みを作っているのが月明かりでも分かる。

 

「し、きかん……下も……もう、限界……です……」

 

 恥じらいを捨てきれない声で、それでもはっきりと求めた。

 

「れろっ……んちゅ……んぁ…………鎮海、ベッドへ」

 

 ベッドへ、という指揮官の言葉に鎮海は従順に従った。足がもつれるのを必死に堪えながら寝台へ辿り着き、膝をつく。

 振り返った鎮海の目は完全に潤みきっていた。月光を背に受け、ズラされ胸の間に追いやられたインナーから零れるOカップの双丘が呼吸に合わせて揺れ、濡れた太腿の間で秘所が布地を透かして光っている。

 震える指で自ら白い垂れ布の裾を掴み、ゆっくりと持ち上げていく。露わになった黒い紐のショーツと下腹部は既に愛液で光り、ショーツ越しの秘所の薄い茂みが月明かりに艶めいていた。

 

「……こん……なに、なってしまいました。あなたのせいですよ……はぁ、はぁ」

 

 恥じらいながらも足を開き、指揮官を招くように手を伸ばした。

 

「ふぅ……さあ……癒してさしあげると言ったのに、先に蕩けてしまったのは私。ですから……今宵は指揮官のお好きなように」

 

 開いた足の間から、とろりと蜜が糸を引いて太腿を伝った

 

「鎮海を好きにしていいと言うのなら、充分癒されるとも」

 

 鎮海の開かれた足の間、紐のショーツを解いて秘所を露わにさせて吸い付いていく

ショーツの紐が解かれ、秘所が晒された。ぷっくりとした陰唇は充血して開き、内側の鮮やかな桃色が蜜に塗れて月光にてらてらと光っている。そこへ指揮官の唇が吸い付く。

 

「ひぃんっ……!あ、ぁああっ!」

 

 シーツを掴む指が白くなるほど力が入り、腰がびくんと跳ねた。吸い上げられるたびに中から蜜が溢れ出し、指揮官の顎を濡らしていく。

 開かれた太腿が痙攣するように震え、閉じようとする本能と受け入れたい理性がせめぎ合っていた。結局、理性が勝つ。震える手が指揮官の頭を押さえ、秘所へと導き直した。

 

「そこ……もっと、奥……っ、舌を……中にぃ……っ」

 

 懇願する声が途切れ途切れになり、謀士の矜持などとうに溶け落ちている。腰を小さく揺すり、指揮官の舌に自分から擦り付けていた。

 クリトリスを唇で挟まれ、吸い転がされた瞬間、鎮海の全身が弦を弾いたように仰け反った。

 

「ああぁっ……!そこ、そこ駄目っ……い、いっ……てしま……っ」

 

「イけ」

 

 じゅるじゅる、と音を立てて鎮海を弄んでいく。

 指揮官の命令が脳髄まで突き刺さった。舌が蠢くたびにぐちゅぐちゅと淫らな水音が響き、クリトリスを吸い上げられる度に視界が白く明滅する。

 

「あ、あっ、あぁっ……い……イぐぅっ……!!」

 

 腰が浮き上がり、指揮官の顔を秘所に押し付けるように太腿が締まった。びくびくと全身を痙攣させながら、絶頂の波が鎮海の身体を貫いていく。潮が指揮官の顔に噴きかかり、シーツに染みを広げた。

 

「はっ……あ……ぁ……」

 

 数秒の硬直の後、力が抜けてベッドに沈み込んだ。開いたままの足がひくひくと震え、涙の滲んだ目で天井を見つめている。呼吸が荒く、胸が大きく上下していた。

 しばらくして、余韻に蕩けたまま手を伸ばし、指揮官の顔を拭った。濡れた指先を見つめ、ふふ、と笑う。

 

「……本当にぃ、容赦の、ない方……」

 

 力の入らない身体を起こし、まだ下衣を纏ったままの指揮官の腰に手をかけた。震える指でベルトを解き、布地を押し下げていく。

 

「さあ……今度は、私が癒す番です」

 

 そうして、鎮海が手慣れた動きで脱がしていけば、指揮官の下着に張るテントが露わに。

 

「それじゃあ、頼むよ鎮海」

 

 露わになった指揮官の下着のテントを見て、鎮海の瞳が細まる。

 まだ絶頂の余韻で震える身体のまま、這うようにして指揮官の下腹部へ顔を寄せ、

 

「ふ、ふふ……こんなに。私で、こうなって、くださるのですね」

 

 そのまま下着をずり下ろせば、反り返った男根が勢いよく跳ね出て鎮海の鼻先を掠めた。雄の匂いが立ち上り、鎮海の頬がさらに紅く染まる。

 何人もの東煌のKAN-SENたち、妻たちの処女を食い漁り、愛してきた剛直はまるで第三の腕と言わんばかりの長大だった
跳ね出した剛直の長大さに、鎮海の息が一瞬止まった。何度見ても慣れない、いや、見るたびに身体が疼く。何人もの妻を抱いてきたその逸物に、最初に貫かれた夜の痛みと歓びが蘇る。

 

「……何度見ても、惚れ惚れしますね」

 

 震える両手で幹を包み込み、ゆっくりと根元から先端へ撫で上げた。びくりと脈打つ熱が掌に伝わり、溢れた先走りが鎮海の親指を濡らす。

 その幹に頬擦りをすれば、剛直の熱が鎮海の頬に伝わり、それは指揮官にも鎮海のすべすべした気持ちいい肌の感触が伝わる
びくり、とそれだけで剛直が震える。

 頬擦りに反応して震える剛直を、鎮海の舌がちろりと舐め上げた。根元から裏筋を辿り、雁首の段差に舌先を這わせれば、口の中に雄の味が広がる。

 

「ん……っ、大きい……」

 

 両手で幹を支えながら、先端を唇で包み込んだ。じゅぷ、と音を立てて咥え込むが、長大なそれは口腔をすぐに満たしてしまう。それでも鎮海は怯まず、頬を窄めて吸い上げながら頭を前後に動かし始めた。

 口に収まりきらない部分は両手で扱き上げ、唾液を塗り広げていく。ずちゅ、ずちゅと淫猥な音が静かな寝室に響いた。

 一度口を離せば、唾液の糸が月光の中で幾筋も伸びて切れる。はぁ、はぁと荒い息の下で鎮海の瞳が上目遣いに指揮官を捉えた。

 

「あなた……気持ちいい、ですか……?」

 

 答えを待たず、再び深く咥え込んでいく。今度は喉奥まで受け入れようと、眉を顰めながらも頭を沈めていった。

 

「気持ちいいよ、鎮海」

 

 そう言って、鎮海の頭を撫でれば、咥え込んだままの鎮海の目がとろんと細まった。嬉しさが隠しきれず、撫でる手に自分から頭を擦り寄せていく。

 ずぷ、ずぷと頭の動きが加速した。褒められた犬のように従順に、けれど貪欲に。口内で舌を絡ませ、裏筋の敏感な箇所を重点的に舐り上げていく。

 一度口から引き抜けば、てらてらと唾液に光る剛直が鎮海の顔の前で脈打っていた。はぁはぁと息を切らしながら、竿に舌を這わせ、そのまま根元へと降りていく。玉袋を口に含み、ころころと転がす。

 

「んふ……ここも、張って……たくさん、溜まっているのですね……」

 

 上目遣いで指揮官を見上げながら、片手で竿を扱き、もう片方で玉を揉む。完全に奉仕に没頭した鎮海の姿は、普段の冷静な謀士の面影など微塵もなかった。

 再び先端に戻り、鈴口に舌先を突き立てて溢れる先走りを啜り取る。ちゅう、ちゅうと音を立てて吸い、そのまままた根元まで呑み込んでいく。

 深い奉仕を続ける鎮海の動きに、不意に指揮官の手が髪を掴んだ。それが合図だと、身体が覚えている。頭を固定され、そのまま腰を使われる体勢。ずぶりと喉奥まで突き込まれ、鎮海の嗚咽混じりの声が鼻から抜けた。

 

「んぐっ……おぶっ……ん、んんっ……」

 

 涙が滲み、呼吸もままならない。だが鎮海の両手は指揮官の太腿に添えられたまま、拒む気配は微塵もない。むしろ、もっとと言わんばかりに指が肌を掻いた。

 

「飲め」

 

 喉奥を突かれる苦しさの中、飲めという指揮官の言葉が脳を灼いた。太腿に添えた手がぎゅっと握りしめられ、鎮海の鼻から荒い呼吸が抜ける。

 びゅる、びゅると喉奥に叩きつけられる熱い奔流を、鎮海は一滴も零さず嚥下していった。ごくり、ごくりと喉が鳴り、大量の精が食道を流れ落ちていく。涙が頬を伝い、鼻からは白い泡が僅かに溢れたが、それでも鎮海の瞳は指揮官を見上げたまま離さなかった。

 最後の一脈動が収まるまで口を離さず、ずるりと引き抜いた口腔から精の残りが唇の端から垂れた。口を開けて見せれば、舌の上に白濁がまだ僅かに残っている。

 

「……全部、いただきました」

 

 それを飲み下し、ふぅと息をついた。唇を手の甲で拭い、まだ硬さを保ったままの剛直を見て目を丸くする。

 

「……まだ、こんなに」

 

 呆れたような、けれど期待に満ちた声。鎮海の身体はまだ疼いたままだった。イかされた一度では到底足りない。四つん這いになり、尻を指揮官に向けて突き出した。愛液で光る秘所と、きゅっと窄まった後孔が晒される。

 

「今度は……中に、ください」

 

 指揮官はそれに頷き、そのしっとりとした臀部を撫でながら、張りを確かめるようにして
そそり立つ剛直の先端をあてがい、押し込んでいく。

 あてがわれた熱がゆっくりと押し込まれていく。十分に濡れた秘所は抵抗なく受け入れながらも、その太さに内壁が軋むように締め付けた。

 

「あっ……あぁ……入って、くる……っ」

 

 シーツを握る指に力が入り、背中の筋が美しく浮き上がる。ずぶずぶと根元まで呑み込めば、子宮口に先端が触れる感覚に鎮海の腰が震えた。

 完全に繋がった状態で、はぁはぁと荒い息を繰り返す。内側から満たされる圧倒的な存在感に、頭の中が真っ白に灼けていた。

 

「全部……入りました……あなたぁ……」

 

 振り返り、涙と快感で蕩けた顔で指揮官を見た。その瞳には、もっと、という言葉が声にならずに浮かんでいる。

 

「お願い……動いて……くらさい、壊れるくらい……っ」

 

「おや、癒してくれると言ったのに私にさせるのかな?…………ふふ、冗談だよ」

 

 「冗談だよ」という言葉に、一瞬きょとんとした顔をした鎮海だったが、すぐにくすりと笑った。

 

「あら……いじ、わる」

 

 繋がったまま腰を自らゆっくりと動かし始める。引いて、沈めて、内壁で竿を扱くように緩やかなリズムを刻んだ。

 

「では……お言葉に甘えて、こちらから」

 

 四つん這いの体勢から腰だけをくねらせ、背筋を反らして指揮官を振り返る。動くたびにOカップの胸が前後に大きく弾み、汗の雫が谷間を伝い落ちた。

 

「んっ……ふぅ……っ……こう、ですか……?」

 

 緩急をつけ、深く沈めたところで腰を回すように内壁を締め上げた。自分が一番感じる角度を知り尽くした、計算された腰使い。

 だがその計算も長くは持たなかった。自ら動くことで敏感な箇所に剛直が擦れ、快感が倍になって返ってくる。声が甘く上擦り、リズムが乱れ始めた。

 

「あっ……だめ、これ……自分で動くと……よけぃに……っ」

 

 そんな中、指揮官は動かず、鎮海に任せる。

 指揮官が動かないと悟った鎮海は、自分の腰だけで全てを賄わなければならなかった。汗が背筋を流れ、黒髪が肩に張り付く。

 

「んっ……はぁっ……あぁ……っ」

 

 腰を前後させるたび、ずちゅずちゅと結合部から淫靡な音が鳴る。角度を変えれば子宮口を突かれ、声を抑えることすらままならない。

 がくがくと腰が震え始めていた。二度目の絶頂が近い。けれど自分だけイくのは嫌だと、必死に腰を動かし続ける。

 

「しき、かん……っ……もう……一緒に……お願い……っ」

 

 懇願の声は涙混じりで、振り返った顔は完全に壊れた雌のそれだった。腰を深く落とし、ぐりぐりと円を描いて内壁全体で剛直を搾り上げるように締めつけた。

 

「ダメだよ。ほら、鎮海頑張って」

 

 頑張って、という残酷なほど優しい声に、鎮海の唇が歪んだ。

 

「いじわる……っ」

 

 涙を零しながらも、腰を振り続けた。ぱんぱんと尻が指揮官の太腿に打ち付けられる音が部屋に響き渡る。もはや恥じらいも体裁もかなぐり捨てた、ただ快楽を貪る雌の姿がそこにあった。

 

「あっ、あっ、あああっ……!もう、だめ……イき……ます……っ!」

 

 びくん、と大きく背が仰け反り、三度目の絶頂が鎮海を襲った。内壁が痙攣するように剛直を搾り上げ、ぎゅうぎゅうと脈動する。膝が崩れ、がくりとベッドに突っ伏す。

 荒い呼吸のまま顔を横に向け、涙で滲んだ目で指揮官を見上げ。

 

「……おねひゃい……しま、す……もう、あなたも……中に……」

 

 震える手で指揮官の腕を掴み、懇願する。これ以上焦らされたら本当に壊れてしまうと、その目が訴えていた。

 腰を思いっきり打ち付けることを返答とした
鎮海の腰を掴み、荒々しく腰を打ち付け解れた中を何度も掻き回していく。

 

「ひぁあっ!!」

 

 掴まれた腰が逃げることも許されず、打ち付けられるたびに身体ごと前に押し出される。ぐちゅぐちゅと掻き回される結合部から白い泡が飛び散り、ベッドのシーツを汚していく。

 シーツに顔を押し付け、声を殺そうとするが無理だった。突かれる度に獣のような嬌声が漏れ、掴まれた腰の下で尻肉が波打つ。

 

「あっあっあっあっ……!すご……おぎゅぅ、あひゃって……っ!」

 

 ぱんぱんという肉の打ち合う音と水音が重なり、部屋を満たす。イったばかりの敏感な内壁を容赦なく抉られ、絶頂の波が引く間もなく次の波に呑まれていく。

 腕の力も抜け、腰を掴む指だけに支えられている状態で、ただ犯されるままに喘いだ。涎がシーツに垂れ、瞳は焦点を失っている。

 

「も……もう……あひゃま……真っひろ……っ」

 

「まだ、私は出してないよ」

 

 腰を押し付け、身体を倒して鎮海の胸を背後からわしづかむ
激しい動きから細かな動きへと変わっていく。胸を鷲掴みにされ、背中に指揮官の体温が密着する。激しさから一転、細かな動きで奥を抉られれば、別種の快感が神経を焼いた。

 

「ひっ……あぁ……ん……っ」

 

 激しく突かれるより、むしろこのゆっくりとした蹂躙の方が堪えた。一突きごとに子宮口を擦り上げられ、じわりじわりと快感が積み上がっていく。

 わしづかまれた胸が指の隙間から溢れ、乳首を指で挟まれれば背筋がぞくりと震えた。耳元に指揮官の吐息を感じ、それだけで内壁がきゅうと締まる。

 

「りゃして……ください……中、に……ぜんぶ……っ!」

 

 もはや言葉を選ぶ余裕もなく、本能だけが口を動かしていた。自分から腰を押し付け、密着したままぐりぐりと回す。ぱくぱくと口を開閉し、声にならない喘ぎが漏れた。全身が小刻みに震え、四度目の絶頂がもうすぐそこまで迫っている。

 

「イく、イぐ……イってひまい、みゃす……っ」

 

 きゅうきゅうと、指揮官の剛直を締め付けながら貪欲に淫らに先端へと吸い付いていく子宮口を何度も細かくノックしていけば、欲しい欲しいと口が緩んでいく。

 子宮口がこつこつとノックされるたび、身体の芯から震えが走った。まるで口づけをせがむように、子宮が勝手に先端へ吸い付いていく。

 

「ほひぃ……ほしいです……っ、おぐにぃ、ください……っ」

 

 涙と涎で顔がぐしゃぐしゃになりながら、それでも鎮海の内壁は貪欲に剛直を締め上げていた。ひくひくと痙攣しながら吸い付く子宮口は、もはや理性の管轄外で、雌としての本能だけで動いている。

 背後の指揮官の吐息が変わったのを感じ取った。腰の律動が僅かに深くなり、力が込められていく気配。

 

「あ……くる……?ひて……っ!」

 

 自らも腰を押し付け、一ミリも逃がさぬように密着した。胸を揉む指に自分の手を重ね、ぎゅっと握りしめながら最後の瞬間を待つ。

 がくん、と鎮海の全身が強張った。四度目の絶頂と同時に、注ぎ込まれる熱を子宮で感じ取る。

 

「あああぁぁっ……!熱い……中、いっぱい……っ!」

 

 びゅっ、びゅるびゅるるっ、そんな音が聴こえそうな勢いで鎮海の子宮へと精が注がれていく。

 びくびくと痙攣しながら、一滴も零すまいと内壁が搾り取るように蠢いた。

 腰が震える
だが、外れないように先端を強く押し付けながら、精を吐き出していく。先端を強く押し付けられたまま、注がれる精の熱さに鎮海の意識が白く弾けた。

 

「あぁ……っ、出てる……まだ、こんにゃに……」

 

 びくんびくんと腰が跳ね、搾り取ろうとする内壁の律動が止まらない。子宮に直接注がれた精が溢れかえり、結合部からとろりと白い雫が垂れ落ちた。

 そのまま力が抜け、ベッドに崩れるように倒れ込んだ。指揮官もそのまま背後から覆いかぶさる形になり、二人の荒い呼吸だけが重なっていく。

 しばらくして、かすれた声で。

 

「……ぜんぶ、受け止めまし、たよ……」

 

 振り返った顔には涙の跡が残り、蕩けきった笑みが浮かんでいた。震える指で指揮官の頬に触れ、そっと唇を重ねる。精を味わった後の口づけなど普段なら気にするはずだが、今はそんなことどうでもよかった。

 

「……癒しになったなら、良かったのですが。これでは、どちらが癒されているのか分かりませんね」

 

 くすりと笑い、繋がったまま指揮官の腕の中に収まるように身体を丸めた。

 

「そうだね
だから、ここからは好きにさせてもらうよ」

 

 そのまま寝バックで腰をゆっくり動かしていく
鎮海のうなじに、首筋に、背中にキスを落としながら。

 そうしてうなじに唇が触れた瞬間、ひくりと肩が震えた。寝バックの体勢で体重を預けられ、逃げ場のない甘さに鎮海の思考が溶けていく。

 

「……好きに、って───」

 

 抗議の言葉は続かなかった。首筋に落とされるキスに、ふぅと吐息が漏れる。さっきまでの激しさとは違う、じわりと染み込むような愛撫に身体が別の反応を見せ始めていた。

 ゆっくりとした腰の動きが、注ぎ込まれた精を奥へ奥へと押し込んでいく。ぬるぬるとした感触と共に内壁を撫でられ、快感が鋭さではなく深さで広がっていった。

 

「ん……っ……あ……」

 

 背中に落ちるキスのひとつひとつに、小さく声が零れる。まるで刻印を押されるように、触れられた場所が熱を帯びていった。シーツを掴んでいた手が力を失い、指揮官の腕に自ら手を伸ばす。

 

「……あっ、あっ、ゃ、ん、ぁ」

 

 激しく犯されるより、こうしてゆっくり愛される方が余程堪える。涙がまた一筋、枕に染みた。

 背に落とされる唇のひとつひとつが、焼印のように身体に刻まれていく。鎮海の指がシーツから離れ、伸ばされた手が指揮官の腕を辿り、やがて指を絡めていく。

 ゆったりとした律動に合わせ、枕に顔を埋めたまま小さな声が途切れ途切れに漏れる。背中を唇が這うたびに、絡めた指がきゅっと握りしめられる。

 

「ん……ふぁ……っ……そんなに、優しくぅっ、されたら……!」

 

 さっきまで散々犯されて泣き喚いていた女が、今度は別の涙を流している。じわじわと内側から満たされていくような快感は、波ではなく深い水底のように鎮海を包み込んだ。

 絡めた指を枕の下に引き込み、顔を横に向けて指揮官の方を見た。涙で睫毛が束になり、赤く染まった頬が枕に押されて潰れている。

 

「……あなたのこと、もっと好きになってしまう、ではありませんかぁ……」

 

 その声は笑みを含んでいたが、震えていた。

 

「いくらでも好きになっていいとも」

 

 腰をねちっこく、深く深く押し込んでいきながら、シーツに潰れた胸の中で硬くベッドに擦りつき決して小さくない快楽が走っていたところに指揮官の手が潜り込む
さっきと同じように胸と子宮を攻めていく。

 胸の下に潜り込んできた指に乳首を捉えられ、子宮を深く押され、同時に二箇所を攻められた鎮海の身体が弓なりに跳ねた。

 

「ひぁっ……!そ、れ……同時にされたら……っ!」

 

 シーツに潰れた胸が指で弄ばれ、ベッドに擦れていた先端の疼きが解放された。だが代わりに指で摘ままれ、引っ張られ、また別の刺激に変わる。上と下から挟み込まれる快感に思考が追いつかない。

 繋いだ指をぎゅうと握りしめた。さっきの激しい絶頂とは違う、もっと深い場所から湧き上がる波が身体を浸していく。涙が止まらず、嗚咽のような声が喉の奥から零れた。

「あぁ……っ、りゃめ……こんなの……おかしく、なる……ぅ」

 

 腰が勝手にひくひくと動き、もっと奥を求めて指揮官の動きに合わせようとしていた。絡めた指を枕に押し付け、ぎゅっと目を瞑る。

 声が掠れ、途切れ途切れになっていく。身体の震えが大きくなり、五度目の絶頂がもうすぐそこまで迫っていた。

 

「しゅき……好き、です……指揮官……っ」

 

「鎮海……出すぞ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、絡めた指を引き寄せるように強く握った。

 

「ひて……へんぶ、くらしゃぃ……っ!!」

 

 ぶびゅっ、どくどくっ、どぐんっ。精が吐き出されていく。

 子宮口がまたひくひくと先端に吸い付き、迎え入れるように口を開いた。もう身体のどこにも力を入れる余裕などなく、ただ全てを受け止めるために開いていた。

 びくん、と大きく身体が跳ね、五度目の絶頂と同時に注ぎ込まれる熱を感じ取った。声にならない声が枕に吸い込まれ、握りしめた指が白くなるほど力が込められる。

 

「っ……ぁ……」

 

 がくがくと小刻みに震えながら、内壁が搾り取るように蠢く。溢れる精が結合部から伝い落ち、シーツに白い染みを広げていく。

 しばらく震えが続き、やがてゆっくりと収まっていく。繋いだ指を枕の下で抱きしめたまま、はぁはぁと浅い呼吸を繰り返す。

 力の入らない身体をなんとか横にずらし、背中を指揮官に預けるように丸まった。肩甲骨の間に指揮官の息を感じながら、かすれた声で、

 

「……愛しています、指揮官」

 

 その言葉だけは、掠れても震えても、はっきりと響いた。

 

 

 

 翌朝、鎮海は微睡みから目を覚ます。

 柔らかな陽光が瞼を透かして、鎮海の意識がゆっくりと浮上する。まず感じたのは、背中から伝わる温もりと、自分を包む腕の重み。

 目を開ければ、見慣れた寝室の天井。身体のあちこちが鈍く痛み、特に腰から下は酷いものだったが、それすら昨夜の記憶を鮮明に呼び起こして口元が緩んだ。

 そっと首を回せば、まだ眠っている指揮官の寝顔がすぐそこにあった。起こさぬよう息を殺し、しばらくその顔を見つめる。乱れた黒髪が枕に散り、シーツが軽くずり落ちる。

 昨晩の情事の痕跡が身体中に残っている。首筋の赤い跡、シーツの皺、太腿に乾いた白い染み。それらを確認して、ふぅと小さく息を吐いた。

 

「……ふふ、癒すつもりが随分と酷使されてしまいましたね」

 

 独り言は誰に聞かせるでもなく、ただ穏やかだった。起き上がる気配もなく、このままもう少しだけこの時間を味わっていたいと、指揮官の腕の中で目を細めた。

 

 

 

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