聖潔の青に抱かれて(ル・テリブル)
─────:
「────珍しいな、ル・テリブル。キミがプールに呼ぶなんて」
アイリス・ヴィシアの母港。
その敷地内にあるいくつかの施設、その中の温水プールへと指揮官は足を運んでいた。ちょっとしたプールリゾートと言って良いぐらいにそこそこの広さのある区画だ。普段から海へと出陣するKAN-SENにとっては海水ではないプールはがy区に羽を伸ばしやすいのか、夏場の非番はここで遊んでいるKAN-SENたちも少なくない。
無論、気にせずビーチで遊ぶKAN-SENもいるが、今回は割愛する。
母港の午後は穏やかだった。太陽が水面を焼き、プールサイドに並んだデッキチェアの上に長い影を落としている。塩素の匂いが鼻腔をくすぐり、遠くでは他のKAN-SEN達の水を叩く音がリズムを刻んでいた。
そんな中、ル・テリブルはプールの縁に腰を下ろしていた。
白と青のフリル付きビキニに、オーバーサイズの白いシャツを羽織った姿。濡れた金髪が首筋に張り付き、眼帯の下の頬がわずかに上気している。以前は大きな黄色の浮き輪も携えていたが今日は用意していないらしい。
「ええ、珍しいでしょう? このル・テリブルが指揮官殿を名指しで呼び出すなんて」
水面を眺めながら細い指でプールの水面をつついた。
波紋がゆっくりと広がっていく。
「でも、たまにはいいではありませんか。戦場では互いの背中を預け合う仲ですもの、こうした平時にこそ、距離を縮めておくのも悪くないかと」
そう言って振り返った横顔に、いつもの皮肉めいた笑みが浮かんでいる。けれどその瞳の奥には、普段のからかいとは少し違う、柔らかい光が混じっているように見えた。
ふと指揮官は気づいた。温水プールの他の区画にも数人のKAN-SENがいるがこちらの区画には近づいてこない。いつもなら気にせず突撃してくるKAN-SENの一人や二人はいるだろうに大人しい。どうやらル・テリブルが事前に何か手を回していたらしい。
二人きりの空間が、水音と陽光の中にぽっかりと口を開けていた。
「ははっ、なるほど。それは確かに。だが、他のみんなも……そうしたいようだが」
揶揄う様にそう告げながら、視線を他のKAN-SENたちへ向ける。
そうすれば、チラチラとこちらへ視線を向けるKAN-SENや、指揮官の視線に気づいて手を振るKAN-SENたちがちらほら、と。
どう考えても、こちらの区画には来ないが指揮官から来るのは問題ないだろう、と言いたげにふてぶてしい有様である。そんな彼女らの心中を察したか、指揮官は手を挙げて応えつつ、視線をル・テリブルへと向き直す。
指揮官が他のKAN-SENに手を振り返すのを、ル・テリブルはじっと見ていた。唇の端が微かに引き攣る。
「……あら。私の目の前で、随分と愛想がよろしいこと」
声色は平静を保っているが、足先がプールの中で苛立たしげに水面をつつく回数が増えた。
「あの子たちも抜け目がないですね。こちらに来る口実を指揮官殿に作らせようだなんて。まあ、あの程度の小細工、このル・テリブルの策略に比べれば児戯にも等しいですが」
そう言いながらも、彼女は立ち上がり指揮官の手首を掴んだ。伝わる体温が、水で冷えた肌よりもずっと熱く───
そのままプールの中へ引きずり込むようにル・テリブルはブールへと身を投げた。
「ほら、いつまでもあちらに気を取られていないで。せっかく二人で来たのですから」
水飛沫が上がり、彼女のシャツが透ける。薄い布地の向こうに浮かぶ輪郭を気にする素振りもなく、眼帯の奥の目が真っ直ぐに指揮官を射抜いていた。
「……それとも、私がいるのに他所を見る余裕がおありで?」
「うわっ!?…………すまない、ル・テリブル」
元々プールに入る予定がなかった指揮官は、ル・テリブルや他のKAN-SENたちと違って夏場の会社人といったワイシャツにズボン姿というおよそプールに来るような格好ではない。そんな着衣水泳じみた格好になりながら、指揮官はル・テリブルを正面から抱き寄せる。
これなら大人しく水着でも着て来ればよかった、と思いつつ謝罪する。
抱き寄せられた瞬間、ル・テリブルの身体が強張った。が、それはほんの一拍のこと。すぐに細い腕が指揮官の首に回り、濡れた胸板に額を押し当てる。
「……ふふ。素直でよろしい」
ワイシャツ越しに伝わる指揮官の心臓の音を聞くように、しばらく黙ったまま動かない。周囲のKAN-SENたちが歓声を上げる気配がしたが、今の彼女の耳には届いていないようだった。
水中で二人の足が絡む。着衣のまま飛び込んだ指揮官のズボンは既に重く沈みかけていたが、そんなことは些末な問題だった。
ル・テリブルが顔を上げる。眼帯に覆われていない右の青い瞳が、至近距離で指揮官を見つめた。陽光を受けた金色の睫毛が影をつくり、その奥に潜む感情を読み取るのは容易ではない。
「ですが指揮官殿、服のままでは泳ぎにくいでしょう?このル・テリブル、脱がせて差し上げましょうか」
悪戯っぽく笑いながら、指揮官の返答を待つつもりはないのか、その指先はもうボタンの一つ目にかかっていた。冗談なのか本気なのか、判別がつかない境界線の上を軽やかに歩くように。
「いや、これ脱いだら普通の下着だぞ!?」
ボタンにかけた指がぴたりと止まった。それから、堪えきれないとばかりに肩を揺らして笑い出す。
「ふふふ……下着。ええ、構いませんよ?このル・テリブルの前で恥じらう必要など、とうに無いでしょうに」
笑いながらも指は離さない辺りが彼女らしい。
からかいつつ、退路を塞ぐ。いつもの手口だ。
だが不意に真顔に戻ると、水の中で一歩後ろに下がった。悪戯の時間は終わりとでも言うように。
「ご安心を。遊ぶためだけにお呼びしたわけではありません」
濡れて透けたシャツの裾を摘み、絞るように水気を切りながら。
「最近、出撃続きでしたでしょう。あなたも、私も。だから……少しだけ、息抜きがしたかったのです。二人だけで」
視線を逸らす。プールの水面に映る空を眺めるその横顔は、皮肉屋の仮面が剥がれかけて、ひどく無防備に見えた。すぐに気づいたように咳払いをして、再び余裕のある笑みを貼り直す。
「……なに、湿っぽい話ではありませんよ。ただ、こうして水の中であなたの体温を感じるのも悪くないと思っただけです」
「可愛いことを言うじゃないか」
その一言が耳に届いた瞬間、シャツを絞る手が止まった。右目が見開かれ、口元が何か言い返そうと動いたが、言葉が出てこない。
「……」
数秒の沈黙。水面の揺れだけが音を立てる。
皮肉屋が言葉を失う姿というのは、なかなか見られるものではない。ましてや、それがこのル・テリブルともなれば。
やがて、耳の先まで赤くなっているのが水滴のせいだけではないと悟ったのか、濡れた手で自分の頬を隠すように押さえた。
「っ……そういう不意打ちは、卑怯ですよ指揮官殿」
声が上擦っている。いつもの慇懃な調子はどこへやら、まるで舌の置き場を見失ったように口を開閉させてから。やっと、
「……可愛い、ですか。このル・テリブルに向かって。可愛いと」
けれどその目は怒っていなかった。むしろ潤んで、水底の光を反射してきらきらと輝いている。空いた手がそっと指揮官の濡れたシャツの袖を掴み、引き寄せるようにして。
「もう一度、言ってくださいますか。……誰にも聞こえないように」
「可愛いよ、俺のル・テリブル」
俺の、という一語が空気を変えた。周囲の喧騒が嘘のように遠のき、二人の間だけに濃密な沈黙が降りる。
掴んでいた袖から手が滑り落ち、指揮官の掌に自分の指を絡めた。水の中で、震えている。
「……ずるい、ですよ」
一言だけ、掠れた声で。それからル・テリブルは指揮官の肩口に顔を埋めた。金色の短髪から雫が落ち、ワイシャツの布地に染みを作っていく。
「そういう言い方をされたら……からかい返せないではありませんか」
くぐもった声は怒りではなく、もっと別の何かで詰まっていた。繋いだ手に力がこもり、爪が掌に食い込むほどに。
プールの向こう側で誰かが口笛を吹いた。見て見ぬふりを決め込んでいたKAN-SENたちの間に、そそくさと撤退する気配が走る。空気が読める連中だった。
しばらくそうしてから、ゆっくりと顔を上げた。赤い目尻、潤んだ瞳、けれど口元だけは不敵に歪めて───
「……いいでしょう。ならばこのル・テリブルも申し上げます。私の指揮官殿は、誰にも渡しません」
そして背伸びをするように、つま先立ちで指揮官の唇に自らのそれを重ねる。
唇が離れた後も、二人はしばらく動けなかった。水音すら遠い。陽炎が揺らめくプールの中で、ただ互いの呼吸だけが近かった。
ゆっくりと目を開ける。睫毛の先に水滴が光り、瞬きのたびに小さな雫となって落ちていく。
「……ふふ」
今度は照れ隠しではなく、心底満足したような笑いだった。繋いだ指をそのままに、親指が指揮官の甲を撫でる。
「せっかくのプールですのに、泳ぐ気が失せてしまいましたね。困ったものです」
遠ざかっていくKAN-SENたちの笑い声が微かに聞こえた。どうやら完全に空気を読んで退散したらしい。一部のKAN-SENの抵抗する声も聴こえた気がしたが気のせいだろう。
プールの壁に背を預け、指揮官を引き込むように空いた手で腕を引いた。密着した体の間で水が逃げ場を失い、二人の腹の間に小さな気泡を生む。
「ねえ、指揮官殿。このまま誰もいなくなるまで……ここにいましょう?」
見上げるその顔には、もう皮肉も仮面もない。ただ愛しい者の傍にいたいという、剥き出しの欲求だけがあった。
そうして、指揮官の腕をつかんだル・テリブルはプールから上がり急かす様に腕を引く彼女の見た目相応の振舞いに指揮官は思わず苦笑しながらプールを上がる。
腕を引かれるがままプール脇のチェアに並んで腰掛けると、タオルもないまま水が滴り落ちてビニールの座面に染みを広げた。遠ざかったKAN-SENたちは戻ってくる気配もなく、パラソルの影だけが二人を包んでいる。
隣に座った指揮官との間に隙間を作らず、肩が触れ合う距離を当然のように選んだ。太腿に伝う水の筋を気にもせず、足を組んで空を見上げた。
「いい天気ですね」
ぽつりと呟いた声は、いつもの芝居がかった調子から随分と抜け落ちていた。倦怠と安堵が混ざったような、気の抜けた声。
風が吹く。プールの塩素と潮の香りを含んだ風が、金の髪を攫う。遠目に見える波打ち際では誰かが残していった浮き輪が、風に押されてゆっくりと流れていった。
ふと、組んだ足の先を指揮官の脛に引っ掛けた。意図的なのか無意識なのか判然としない仕草。
「……ねえ、指揮官殿。今日のこの時間のこと、他の誰にも言わないでくださいね」
横目でこちらを見るその表情は、秘密を共有する子供のように無邪気で。
「このル・テリブルにも、あなたを独り占めしたい夜くらいあるのですから」
「まだ昼過ぎだけどね」
指揮官の言葉に一瞬きょとんとして、それから声を上げて笑った。
「もう、そういう揚げ足を取るところは相変わらず」
笑いの余韻で肩が震える。涙が滲んだ目尻を指先で拭いながら。
「夜でも昼でも、このル・テリブルにとっては同じことです。秘密というのは、いつだって心の中に灯るものでしょう?」
そう言いながら、組んでいた足を解いて指揮官の方へ身体を傾けた。チェアの背もたれに預けていた体重が片側へ移り、自然と指揮官に寄りかかる形になる。湿った肌同士が密着し、体温が溶け合っていく。
指揮官の腕に自分の腕を通し、当然のように身体を預ける。目を閉じて、風の音に耳を澄ませるように。
「ねえ……このまま少し、眠ってもいいですか」
返事を待つ前に、もう瞼が重そうに半分落ちている。連日の出撃の疲労が、安堵と共に一気に押し寄せてきたのだろう。指揮官の肩口に頭を預けたまま、小さく。
「……起きたら、まだいてくださいね」
「ああ、おやすみ」
ル・テリブルの寝息はすぐに聞こえ始めた。規則正しく、浅い呼吸。戦場では決して見せない無防備な顔が、すぐ隣にある。
陽が傾き始めていた。パラソルが伸ばす影が少しずつ角度を変え、二人の上を横切っていく。風に流れていた浮き輪はとうに視界から消え、プールには誰の姿もない。
どれほど経っただろうか。三十分か、一時間か。指揮官自身も昼寝に微睡んでいた中、ふと下半身に走る気持ちよさに急速に意識が浮上し始める。
「おや……ん、もう起きてしまわれたのですか?」
指揮官が視線を向ければ、指揮官の腰に跨るル・テリブルの姿が。
既にベルトは外され、下着も下ろしきられた其処にはル・テリブルの手で大きくさせられた第三の腕とも言うに相応しい程に育った長大の逸物。指揮官が寝ている間にじっくりと弄んだのだろう、びくびくと逸物が震えていた。
そんな彼女は悪びれる様子もなく、馬乗りのまま指揮官を見下ろしている。手にはまだ先走りの液が光っていた。
「おはようございます、指揮官殿。ふふ、よほどお疲れだったのですね……私が何をしても、起きやしないんですもの」
手の中でびくつく逸物を愛おしそうに見つめ、ゆっくりと根元から先端へ指を這わせた。
チェアが軋んだ。背もたれに体重を預けた指揮官と、その上に跨るル・テリブル。傍から見れば、もう戯れの域を超えている。
腰を浮かし、水着の布地をずらす。露わになった秘所はとっくに準備ができていたらしく、透明な糸が布との間に引く。
「寝ているあなたを起こすのは忍びなかったのですが……もう、限界で」
指揮官の胸に手をつき、先端を入り口に宛てがう。長大なそれを受け入れるには小柄な身体だが、その目に怯えはない。
「それに……こんな立派なものを目の前にして、触るなという方が無理な話でしょう?」
腰がゆっくりと沈み始める。
「アイリスの、KAN-SENとは思えない言い分だな………………いや、最近は割とオープンなの多いな……」
ル・テリブルを揶揄おうとしたが、よくよく考えれば今の彼女よりも過激な事を言う面々がいるのを思い出して、指揮官は口を閉ざしたそんな指揮官の姿にル・テリブルも思わず苦笑しながら、腰を沈ませていく。
挿入の最中に指揮官が黙り込んだのを見て、喉の奥で笑った。腰が沈むたびに声が途切れ、吐息と混ざる。
「ふふ……っ、何を、思い出して……あぁ……こんな、時に……っ」
奥まで収めきった瞬間、背が弓なりに反った。チェアの肘掛けを両手で掴み、荒い呼吸を整えようとするが、下腹を押し広げる圧倒的な存在感に身体の震えが止まらない。
風がパラソルを鳴らした。誰もいないプールに、金属の軋みと湿った音だけが響いている。額に汗が浮き、眼帯の紐がずれかけている。それでも腰を持ち上げ、再び落とす。ゆっくりとした、確かめるような律動。
「他の誰が何を言おうと……今この瞬間は、私のものです……この身体も……この声も……!」
金色の前髪が額に貼りつき、半開きの瞼の奥で右目が蕩けきっている。戦いの場で見せる鋭さなど微塵も残っていない、ただ快楽に溺れかけた雌の顔。
「ねえ……もっと、欲しいでしょう……?」
「欲しい、のは……キミ、だろう?」
駆逐艦、というのは一部を除けば小柄なKAN-SENが基本的だ。それはル・テリブルも同じであり─────小柄な駆逐艦たち特有のしめつけに指揮官は笑みを隠せず、しかし揶揄う様に反論する。
図星を突かれ、腰の動きが一瞬止まる。奥歯を噛み締め、悔しさと快感がない交ぜになった表情で指揮官を睨みつけた。
「っ……生意気、な……っ」
だが反論する声に力がない。事実、ル・テリブル自身が一番よく分かっていた。小さな身体に収まりきらない長さを咥え込み、内壁が痙攣するように締め付けているのは、誰の意思でもなく身体が求めている証拠だった。
否定の言葉とは裏腹に、ル・テリブルの腰は再び動き始めていた。今度は先程より深く、速く。自らの弱さを認めたくないのに身体は正直に貪る、その矛盾が律動の乱れに表れている。
両手で指揮官の胸を掻く。爪が肌に赤い線を引いた。
「ええ……ええ、そうですとも。欲しいのはこのル・テリブルです。だから……っ、それがどうしたと……言うのです……っ!」
奥を突かれるたびに声が裏返り、チェアの脚が砂利の上で滑る。膝が笑い始めているのに止められない。止めたくない。
「あ、あぁっ……こんなの、賢姉に見られたら……死ん……で、しま……っ」
「っぅ、でも、この前……ファンタスク級のみんなで、一緒に、した……」
指揮官の余計な一言に、ル・テリブルは黙れと言わんばかりに自分の腰を叩きつけたル・テリブル自身も、いきなり強い快楽の衝撃で白目を剥きかけた諸刃の一撃だったが。叩きつけた腰がそのまま痙攣し、ル・テリブルの喉から声にならない悲鳴が漏れる。白目が覗きかけた瞳から涙が零れ落ち、口の端から唾液が伝った。
がくがくと震える膝で身体を支えきれず、指揮官の胸に崩れ落ちる。耳まで真っ赤に染まった顔を隠すように、首元に顔を埋めた。
「黙りなさい……黙って……あれは……あれは、賢姉が……勝手に……っ」
ル・ファンタスク級の姉妹で一緒に、というのは事実だった。ル・マランが「ル・テリブルだけに独占させるのは不公平でしょう?」と微笑みながら乱入し、そのまま流れで他の姉妹も参戦するという、アイリスの誇りもへったくれもない夜のことである。翌朝、ル・テリブルは三日間まともに姉の顔を見られなかった。
肩で息をしながら、それでも腰は離さず、むしろ深く押し込んだまま動こうとしない。意地なのか本能なのか。
「あの夜のことは……二度と口にしないでください……次言ったら……噛み千切ります……」
物騒な脅しとは裏腹に、中がきゅうと締まった。思い出しただけで身体が反応したらしい。
「ごめ、ん」
謝罪を聞いて、首筋に埋めていた顔をわずかに上げた。まだ赤みの引かない頬、潤んだ目。
「……よろしい」
許しの一言を吐いた直後、自分から唇を重ねる。浅く、ついばむようなキスを何度も繰り返しながら、止まっていた腰が再びゆっくりと動き出していく。
先ほどの衝撃で敏感になった身体は、もはや自ら動くことすら快楽を呼び起こす。それでもル・テリブルは腰を止めなかった。チェアの背もたれが限界を訴えるように軋む音が、静まり返ったプールに響いた。
唇を離し、額を指揮官の額にくっつける。互いの息が顔にかかる距離。
「ねえ……そろそろ、あなたも……限界でしょう?」
中で脈打つ感覚を感じ取っているのだ。締め付ける内壁が、射精を促すようにうねる。
「出してください……全部、このル・テリブルの中に」
腰が深く落ち、最奥で動きを止めた。震える手が指揮官の手を探り、見つけると指を絡めて握りしめた。
「一緒に……イきたい、です」
「ル・テリブル……!」
彼女の手を、指に自身の指を絡めていく。
繋がった指に力を込めた瞬間、二人同時に弾けた。チェアが大きく軋み、ル・テリブルの背が弦のように反り返る。声はもう言葉にならず、喘ぎとも悲鳴ともつかない音だけが喉から溢れ出たどぶっ、どびゅる、どぶぶぶっそんな音が聞こえそうな勢いでル・テリブルの小さな身体へと指揮官の精が吐き出されていく。
中に注がれる熱を感じながら、絡めた指が白くなるほど握りしめている。全身が細かく震え、注ぎ込まれる量に合わせるように内壁が何度も収縮した。
「あ、ぁ……っ、熱い……こんなに……っ」
しばらくの間、波の音すら聞こえないほどの静寂が二人を包んだ。やがてル・テリブルの震えが収まり、糸が切れたように指揮官の上に崩れ落ちる。繋いだ手だけはそのまま、離さなかった。
肩で息をつきながら、顔を指揮官の鎖骨のあたりに押し付けている。耳の赤さは引く気配がない。
「……出しすぎです。駆逐艦の身体には……収まりきらない量を……」
恨み言のようでいて、声には満ち足りた甘さが隠しきれていなかった。空いた手が繋いだ指の甲をそっとなぞる。
「…………はぁ、ふぅ、良いじゃないか。好きだろう?」
ル・テリブルを抱きしめながら、上体を起こす体勢が変わったことで、未だに硬さを保つ逸物がごりっと、抉るようにル・テリブルの奥を擦りあげる。
体勢が変わり、奥を擦り上げられた瞬間、繋いでいた手が跳ねた。甲高い声が喉を突き、背中が丸まる。
「ひっ……あ、ぁ……まだ、硬い……の……?」
抱きしめられたまま、逃げることもできない体勢。見上げた顔は完全に蕩けていて、いつもの慇懃さなど跡形もなかった。中では出したばかりの精液がかき混ぜられ、ぐちゅりと淫らな音を立てている。硬さを保ったままの逸物が収まるには、この小さな身体はあまりに狭い。
問いかけに答えられない。好きかと聞かれて否定できる身体ではなかった。内壁はきゅうきゅうと逸物にしがみつき、抜けることを拒むように締まっている。
「き、嫌いでは……ありません、けど……っ」
そこまで言って、自分の言葉の意味に気づいたのか、顔を指揮官の首元に押し付けて隠す。
嫌いではない。それはこの聖職者気取りの皮肉屋にしては、最大限の白旗だった。
「ありがとう、ル・テリブル」
騎乗位から、対面座位へと変えてル・テリブルを抱きしめる。腕を彼女の背で交差させて腰を掴めば抱えるように腰を跳ね始めていく。
抱え上げられ、突き上げられる。重力と腰の跳ね上げが合わさり、さっきとは比べ物にならない深さで奥を穿つ。
「あ"っ……!ま、待っ……この体勢……奥、に……っ!」
背中で交差した腕がル・テリブルを完全に固定していた。逃げ場はない。抱き上げられるたびに身体が浮き、落ちる勢いで最奥まで貫かれる。繰り返されるその衝撃に、声はもう制御を失っている。両腕を指揮官の首に回し、しがみつく。首元に顔を押し付けて声を殺そうとするが、漏れる喘ぎが湿った吐息となって肌を濡らしていた。
「ん、ぅ……っ、ふ、あぁ……っ……さっき、出したばかりなのに……こんな……激し……っ」
内壁を満たす精液が潤滑となり、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が絶え間なく響く。突かれるたびに白濁が泡立ち、結合部から溢れて太腿を伝い落ちていった。
「1回で、終わら、ないのは……!よく知って、るだろ?」
突き上げの合間に投げかけられた言葉に、首元で笑った。震える息が肌にかかる。
「えぇ……っ、よく、存じて……おります、とも……っ」
認めざるを得なかった。結婚してから何度この身体に刻み込まれたか、数えることすら放棄した。それでも慣れない。毎回、新しい傷のように身体の芯が疼く。
抱きかかえられたままのル・テリブルは、まるで人形のように揺さぶられていた。自重がすべて結合部にかかり、逃がしようのない快楽が下腹から脳天まで突き抜ける。首に回した腕に力が籠もる。腰が跳ねるたびに身体がずり落ちそうになり、その度に奥深くを穿たれた。
「でも……っ、だからと言って……手加減、しないのは……っ」
文句のつもりが、声が甘く裏返って説得力を完全に失っている。内壁がひくひくと脈打ち、二度目の絶頂が近いことを身体が正直に告げていた。
「また……っ、来て……しま……っ」
顔を指揮官の耳元に寄せ、懇願するように囁く。
「今度は……一緒に。お願い……」
「ダメだよ、ほら、もっとイッて」
「ダメ」という一言に目を見開いた。懇願を突き放され、絶望と快感が同時に押し寄せる。
「そん、な……っ、ひど……っ!」
抗議は最後まで続かなかった。腰が深く跳ね上げられた瞬間、ル・テリブルの全身が弾けたように強張る。二度目の絶頂が一度目よりも激しく身体を貫き、声すら出せずに口を開けたまま白目を剥きかけた。内壁が狂ったように収縮し、搾り取るように逸物を締め上げる。
びくっ、びくっと痙攣が続く。首を支える力もなく、指揮官の肩に崩れ落ちた。半開きの口から涎が垂れ、焦点の合わない目が虚空を見つめている。
「あ……ぁ……っ……」
壊れた玩具のように震える身体。それでも内壁だけは指揮官を離すまいと脈動を続けていた。
傾いている陽が二人の影を長く伸ばしていた。絶頂の余韻に浸るル・テリブルを抱えたまま、指揮官の腰はまだ止まっていない。一度で終わらないのは、この聖職者が一番よく知っているはずだった。
「そういえば、いきなりプールに引きずり込まれてびしょ濡れにされたし、寝込みも襲われたし、お仕置、ということで」
お仕置き、という言葉が絶頂の余韻でぼやけた頭にじわりと染み込む。まだ震えの残る身体で、かろうじて顔を上げた。
「お、しおき……?」
潤んだ目で指揮官を見つめる。反論しようとして、しかし口から出たのは全く別のものだった。
「引きずり込んだのは……あなたが隙だらけでしたから……当然の、報い……」
言い訳としては苦しすぎた。指揮官の腕を掴んでプールに引きずり込む駆逐艦が、どこに当然の権利を主張できるというのか。
だがル・テリブル自身も、それが通らないことは分かっている。余韻で力の入らない身体、涎の跡が残る顎、そしてまだ繋がったままの下半身。この状況で何を言おうと、説得力など生まれようがなかった。
「……でしたら、お手柔らかに……お願い、します……指揮官殿……」
いつもの慇懃さを取り戻そうとして、声の端が震えて失敗した。自分で言っておいて「しまった」という顔をしている。
プールサイドに長い影を落とす二人の姿は、遠目に見れば祈りを捧げている聖職者と信徒のようにも見えなくはないが、実態は程遠い。
「ははは、どうしようか」
そう笑いながら、指揮官は腰を動かし始める。
腰を動かされ、余韻も冷めぬ身体にまた火が灯る。肩がびくりと跳ねた。
「あっ……考えながら、動かないで……くださ……っ」
抗議も虚しく、対面座位のまま下から突き上げられる。一度目の精液と二度目の愛液が混ざり合い、結合部はぐちゃぐちゃに濡れそぼっていた。
笑う指揮官の顔を恨めしげに見上げる。が、その目はすぐに蕩けてしまう。
「もう……何を考えて……いるの、です……っ?」
聞きたくないような、聞きたいような。お仕置きの内容を自分から確認するなど、この聖職者にあるまじき失態だった。しかし口は止まらない。
「手加減なしで……笑いながら……こんなこと……されるのは……っ」
水着のフリルが腰回りでひらひらと揺れ、その下で起きていることの激しさとはあまりに不釣り合いだった。夕陽がもう一段傾き、空の端がオレンジから薄紫に変わり始めている。誰もいないプールで、水音と甘い声だけがいつまでも響いていく。
しがみついた手に力が籠もる。次の絶頂がすぐそこまで迫っていることを、身体が告げていた。
「また……来て……しまいます……っ」
「イけ、ル・テリブル」
名前を呼ばれた瞬間、最後の糸が切れた。背が弓なりに反り、繋いだ手がぎりぎりと軋むほど握りしめられる。
「っ、あ、ああぁぁっ……!」
三度目の絶頂。もう声を抑える余裕もなく、悲鳴じみた嬌声が夕暮れのプールに響き渡った。内壁が狂ったように収縮し、搾り取ろうとするように逸物を締め上げる。びくんびくんと身体が跳ね、噴き出した潮が結合部から溢れて二人の太腿を濡らしていた。
どぶっ、どぶぶっっ、どぶっ!
ル・テリブルの中に2度目の吐精が注がれていく。
注ぎ込まれる精の熱に、三度目の絶頂がさらに引き延ばされた。ル・テリブルの喉から溢れ出る声は、普段の慇懃で皮肉屋な彼女からは想像もつかない、獣じみた低い唸りだった。
「ぐ、ぅ……っ、お、おぉ……っ……!!」
内臓を押し上げるような圧迫感に、眼帯のない右目からぼろぼろと涙が零れ落ちる。白目を半分剥いたまま、口は開いたまま閉じられない。舌先がちろりと覗き、涎が顎を伝って白いシャツの襟を汚す。
出し切るまでの時間が長い。どぶ、どぶ、と注がれる度にル・テリブルの腹がわずかに膨らむのが見て取れた。小柄な駆逐艦の子宮には明らかに収まりきらない量が注がれている。
ようやく声が戻ってきた頃には、まともな言葉など出てこなかった。ただ、ひゅうひゅうと荒い呼吸を繰り返し、指揮官の胸にずるずると崩れ落ちてく。
「は……っ、ぁ……ぁぁ」
震える指が指揮官の髪を掴む。力など入っていない、ただ縋りつくだけの仕草。
「……こわ、れ……まし、た」
「嫌だった?」
壊れた、と言った口で、問いかけには即座に首を横に振った。力のない仕草だったが、意思ははっきりしている。
「嫌なわけ……ないでしょう……ばか」
最後の一言だけ、敬称も丁寧語も剥がれ落ちた素の声だった。言ってから気づいたのか、耳がまた赤くなる。
しかし、訂正する気力も残っていないらしい。指揮官の胸板に頬を預けたまま、荒い呼吸が少しずつ落ち着いていく。
繋いだままだった手を、そっと指揮官の指の上にずらす。力はないが、触れていたいという意思だけは伝わる手つき。
「おし、おき……にしては……随分と、甘い内容でしたね」
いつもの調子を取り戻そうとする声は掠れていて、まるで説得力がない。腹の奥にまだ残る熱を感じながら、小さく息をついた。
「帰りましょう……このままでは、夏と言えど……も本当に風邪をひきます。あなたが」
自分ではなく指揮官の心配をしているあたり、結局この聖職者はこういう生き物なのだった。
「戻ったら続きかな?」
ぴくり、と指揮官の胸に預けていた身体が強張った。数秒の沈黙のあと、ゆっくりと顔を上げる。
その顔は呆れと期待が半々に混ざった、なんとも形容しがたい表情をしていた。
「……まだ足りないと?」
声は咎めるようだったが、瞳の奥にちらつく熱は消えていない。自分でもそれに気づいているのか、ふいと視線を逸らした。
プールの水面に映る夏の日差しが乱反射する。肌に張り付いた水着も乾き始め、潮風が汗を冷やしつつあった。このまま長居すれば本当に身体が冷える。
立ち上がろうとして、足に力が入らずよろめいた。とっさに指揮官の肩を掴んで体勢を保つ。
「……仕方ありませんね。立てないのでは帰れませんし」
言い訳を用意するのが妙に早い。杖を拾い上げ、プールサイドに手をかけながら振り返る。
「ただし。部屋に着いたら、まずシャワーです。汚れたままベッドに入る趣味はありませんので」
それは暗に「その後なら構わない」と言っているに等しかった。
耳だけが赤いのはきっと絶頂や日差しのせいではないだろう。
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