『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』 作:シキセ
契約に書いたのは仕事のことだけだ。夜のことは、どの紙にも書いていない。
そう決めてあった。だから小夜が執務室に来るのは、いつも契約の外の話だった。
昼過ぎ、執務室の扉がノックされた。
「入れ」
小夜が入ってきた。
「何の用だ」
「……その」
小夜が扉を後ろ手で閉めた。いつもの暗殺者の立ち方をしていなかった。足の指先が少しだけ内向きになっていた。
「何だ」
「……一人じゃ、足りなくて」
俺は書類から目を上げた。
小夜が目を合わせてから、少し逸らした。
「……部屋で自分でやってみたんですけど——その——世一さんにしてもらったのと全然違くて——」
「何回した」
「……えっ」
「何回した」
小夜が「……五——回、くらい——」と小さい声で言った。
「どこでした」
「……部屋で。夜に。一回は昼間も——」
「声は」
「……枕に顔をうめて——」
「そうか」
小夜が「……また、してほしいです」と言った。直接だった。小夜らしかった。
「急ぎの書類がある」
「……少しだけでいいです。邪魔しないので」
「机の下に入れ」
「……はい」
小夜が机の下に潜り込んだ。
俺は書類に目を戻した。
「……するんですか」
「お前が来た」
「……そうですね」
小夜が帯に手をかけた。
「……世一さん、続けてていいですよ」
「わかっている」
ぬちゅ……。
「……っ♡」
小夜が低く声を漏らした。
「声を立てるな」
「……っ♡ はい——」
書類に目を落としながら、小夜の頭が動いた。
ぐちゅ……くちゅ……。
「……っ♡♡ ん——っ♡」
「奥まで入れろ」
「……っ♡ んぅ——っ♡♡」
ぐちゅぐちゅ……。
喉の奥まで咥えてから、ゆっくり引いて、また咥えた。練習していたのがわかる動きだった。
「……っ♡ はぅ——っ♡♡」
「歯が当たっている」
「……っ♡ すみません——っ♡♡」
書類の一枚目を処理した。二枚目に移った。
くちゅ……くちゅぐちゅ……。
「……っ♡♡ ん——んっ——っ♡♡♡」
しばらくして、小夜の動きが少し乱れた。
「……っ♡ 世一さん——」
「なんだ」
「……自分のも——さわっていいですか——っ♡」
「好きにしろ」
「……っ♡ はい——っ♡♡」
ぬちゅ……ぐちゅ……。
「……っ♡♡ ん——っ♡ ここ——一人でするより——っ♡♡ 全然——違くて——っ♡♡♡」
「そうか」
「……っ♡ 世一さんのがあると——自分でしても——っ♡♡ もっと——もっとしたくなって——っ♡♡♡」
「欲が深くなったな」
「……っ♡ 世一さんのせい——です——っ♡♡」
「そうだな」
ぐちゅぐちゅ……。
「……っ♡♡♡ もう——いきそう——っ♡♡」
「まだ早い」
「……っ♡ でも——もう——っ♡♡♡」
「机から出ろ」
小夜が「……え」と言った。
「立て」
小夜が机の下から出てきた。唇が濡れていた。膝が震えていた。
「机に手をつけ」
「……っ♡ はい」
裾を割って、後ろから押し込んだ。
「——っ♡♡!」
小夜が声を立てた。
「声」
「……っ♡ む——り——っ♡♡」
「律也が廊下にいる」
「……っ♡♡ 知ってます——でも——っ♡♡ 世一さんが——奥まで——一気に——っ♡♡♡」
ずぷり……ぐちゅ……。
「……っ♡♡♡ あ——あ——っ♡♡♡」
立ったまま、机に手をつかせた後背だった。細い腰を左手で引き寄せて、根元まで収めて、そこで止めた。
「初めてから、まだ間がない。慣れたか」
「……っ♡ 慣れてない——です——でも——っ♡♡ 気持ちいい——です——っ♡♡♡」
「そうか」
ゆっくり引いて、ゆっくり戻した。口でしていた間に蕩けきった中が、浅い場所から順に吸いついてくる。二度、三度、同じ深さで往復してから、少しずつ奥へ進めた。
「……っ♡ あ——っ♡ 奥——ひろがって——っ♡♡」
「力を抜け」
「……っ♡ 抜いて——ます——勝手に——締まるんです——っ♡♡♡」
ぐちゅぐちゅ……ぬちゅ……。
拍を速めた。突くたびに小夜のつま先が浮いて、踵が落ちる。机の脚が床を擦って小さく鳴った。
「……っ♡♡♡ 世一さん——もっと——もっと奥に——っ♡♡♡」
机の上の書類が端に寄った。小夜の手が紙を押しやっていた。
「……っ♡♡♡ いく——いきます——っ♡♡♡♡」
「いっていい」
「——っ♡♡♡!」
小夜が机に額をつけて全身を震わせた。
それに合わせて、俺も奥で出した。
「……っ♡♡♡ なか——なかに——来て——っ♡♡♡」
小夜の震えが続いた。
「……っ♡ 初めて——なかで——されて——っ♡♡」
「そうだな」
「……っ♡♡ あつい——っ♡♡♡」
しばらくそのままでいた。
小夜がゆっくりと身を起こした。机に両手をついて、荒い息を整えた。
「……世一さん」
「なんだ」
「……また——来てもいいですか」
俺は書類を手元に戻した。
「仕事の邪魔をしない程度にな」
小夜が「……はい」と言った。
笑っているかどうか、後ろからは見えなかった。
「下がれ」
「……はい。失礼します」
扉が閉まった。
書類の二枚目を処理した。
────
それから数日、小夜は変わらず働いた。昼は裏路地の糸を手繰り、夕方には厨で肉串を齧り、夜はたまに執務室に来た。来ない夜もあった。来ない夜の理由は聞かなかった。聞かないことも含めて、契約の外の話だった。
市からの帰りに、ふと思い立った。思い立った、で済ませるには、少し前から頭にあった気もする。どちらでもいい。気が向いた。それで十分だ。
「今日は出かける。ついてこい」
小夜が「……どこへですか」と言った。
「来ればわかる」
遠見の市中に、小さな旅籠がある。
派手ではない。静かで、部屋が広い。符侯の屋敷ではなく、ここを使うことがある。
「……なんですか、ここ」
「旅籠だ」
「……なぜ旅籠に」
「今夜だけだ」
小夜が「……何が、今夜だけなんですか」と聞いた。
「普段のやり方をしない」
小夜が止まった。
「……え」
「入れ」
部屋は静かだった。
小夜が俺の少し後ろに立っていた。いつもより距離が遠かった。
「……世一さん」
「なんだ」
「……なんかおかしいです。今日」
「何がおかしい」
「……世一さんが——おかしいです」
「そうか」
小夜に向き直った。
「……っ」
「こい」
「……はい」
小夜が一歩近づいた。
俺は小夜の頭に手を乗せた。
「……っ」
引き寄せた。抱えた。
小夜の体が固まった。
「……世一さん——これ——」
「黙れ」
「……は——い——」
しばらくそのままでいた。
小夜の体から少しずつ力が抜けていった。
「……世一さん」
「なんだ」
「……いつもと——全然——違います——」
「そうだな」
「……なんで——今夜だけ——っ」
「気が向いた」
小夜が「……気が向いたら——こうなるんですか」と言った。
「そうだ」
「……もっと——気が向いてほしかったです——」
「贅沢だ」
「……贅沢、覚えたので。世一さんのところに来てから」
食事は一日三回。寝床は暖かいところ。あの日指を折って数えた条件の、ずっと先を、この娘はもう歩いている。
「そうか」
「……ふふ。出ました、そうか。……でも、今夜のそうかは、少し優しいです」
「気のせいだ」
「……気のせいにしておきます」
小夜が少しだけ俺に寄りかかった。旅籠の静かさが続いた。
「横になれ」
「……はい」
小夜が帯に手をかけた。その手を止めた。
「……え」
「今夜は俺がやる」
帯を解いた。衣擦れの音だけが部屋に落ちる。小夜は腕の置き場を失くして、胸の前で手を握ったり開いたりしていた。いつも自分から脱ぐ娘が、脱がされることに慣れていない。肩から布を落として、細い体を布団に横たえた。
いつもと違った。上から覆い被さって、顔を見た。
「……っ♡」
「顔が赤いな」
「……見ないでほしいです——っ♡」
「なぜ」
「……なんか——恥ずかしいです——っ♡」
「いつもより恥ずかしいのか」
「……いつもは——命令されてるので——っ♡ これは——違くて——っ♡♡」
俺は小夜の顎を持ち上げた。
「……っ♡」
口をつけた。
「——っ♡♡!」
小夜が「……っ♡♡ はじめて——されました——口に——っ♡♡」と言った。
「そうか」
「……っ♡♡ 世一さんから——するんですか——キスを——っ♡♡」
「今夜だけだ」
「……っ♡♡ わかりました——でも——もう一度——っ♡♡」
「言われてするのか」
「……っ♡♡ じゃあ——してほしいです——っ♡♡♡」
もう一度した。
小夜の体から力が抜けた。
「……っ♡♡♡ 溶ける——っ♡♡♡」
「そうか」
「……っ♡♡♡ こういうの——知らなかったです——世一さんが——こういうことを——するって——っ♡♡♡」
「たまにはする」
「……たまに——っ♡♡♡ たまにでも——いいです——っ♡♡♡」
膝を割って、正面から重なった。切っ先を合わせて、体重だけで沈めていく。
ずぷり……。
「——っ♡♡♡!」
「今日は急がない」
「……っ♡♡♡ はい——っ♡♡♡ ゆっくり——してもらえますか——っ♡♡♡」
「そうする」
言った通りにした。深く収めたまま、腰を回すように揺する。突かない律動に、小夜の息が細かく割れた。両脚が俺の腰に絡んで、踵が背を押してくる。
ぐちゅ……ぐちゅ……。
「……っ♡♡♡ 世一さん——世一さん——っ♡♡♡」
「なんだ」
「……気持ちいいです——っ♡♡♡」
「そうか」
「……聞いてくれるんですか——っ♡♡♡」
「今日は聞く」
「……っ♡♡♡ じゃあ——もっと——奥——してほしいです——っ♡♡♡♡」
「小夜」
「……っ!♡♡♡」
「声が大きい」
「……っ♡♡♡ 閨で——名前——初めて——っ♡♡♡」
「そうだ」
「……っ♡♡♡ もう一度——っ♡♡♡」
「小夜」
「——っ♡♡♡! だめ——いきそう——っ♡♡♡」
「まだだ」
「……っ♡♡♡ 意地悪——っ♡♡♡ でも——でも——好きです——っ♡♡♡♡」
「そうか」
ぬちゅ……ぐちゅぐちゅ……くちゅ……。
「……っ♡♡♡♡ 世一さん——世一さん——小夜——また呼んで——っ♡♡♡♡」
「小夜」
「——っ♡♡♡♡!」
小夜の全身が震えた。ぎゅっと抱きついてきた。
そのまま奥で出した。
「……っ♡♡♡♡ なかに——来た——っ♡♡♡♡」
しばらくそのままでいた。
小夜が「……世一さん」と言った。
「なんだ」
「……こういう世一さんも——好きです」
「そうか」
「……普段も——嫌いじゃないですけど」
「そうだな」
「……今夜だけですか」
「今夜だけだ」
小夜が「……わかりました」と言った。
存外あっさり引いた。引いてから、俺の胸に頬を戻して、小さく続けた。
「……ほんとは、毎晩がいいです。でも——毎晩だったら、今夜が今夜じゃなくなるのも、わかるので」
「わかるのか」
「わかります。肉串と同じです。毎日タレだと、タレの日が特別じゃなくなる」
「……肉串と一緒にするな」
「一緒ですよ。大事なものの話です」
理屈になっているようで、なっていない。なっていないようで、この娘なりに芯を食っている。俺は反論をやめた。
「……でも——今夜のことは——覚えておきます」
「そうしろ」
「……世一さん」
「なんだ」
「……もう一度だけ——名前——呼んでもらえますか」
「小夜」
「……っ♡ はい」
小夜が目を閉じた。
しばらく静かだった。
腕の中の重さを量った。拾った夜には串二本で転んだ、軽い体だった。今は仕事を持ち、銭を持ち、明日の話をする。重くなった分だけ、手放す気が失せていく。
今夜だけ、と言ったのは嘘ではない。明日にはいつもの形に戻す。戻した上で——気が向く夜は、これからも来るだろう。それがいつかは、俺が決める。決められる側に置いておきたくて、囲った女だ。
遠見の夜が、旅籠の外で静かに続いていた。