『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』 作:シキセ
帰還後の遠見は、新しい三人だけの家ではない。
冬子がいる。雪がいる。苑子が回し、律也が支え、セレスティーナが聖都との糸を握っている。朔と澄が、日ごとに重くなっていく。
大符闘祭で空けた穴は、帰ってからもまだ埋まっていない。調べ物と新入りの三人にかかりきりで、前からいる家の者たちを後回しにしてきた。ここらで、一人ずつ埋めに回る。
朝、執務室に入ると律也が書類を積んでいた。
「大符闘祭の間に溜まったものです」
「わかった」
律也が「……肩の具合は」と言った。
「問題ない」
「……右手はいつから使えますか」
「今日から」
律也が「わかりました」と言って下がった。
書類を開いたところで、扉に軽いノックがあった。
「……世一様」
セレスティーナだった。
「入れ」
扉が開いた。深紅の服はやめて、遠見の生活に合わせた落ち着いた色の着物を纏っている。屋敷ですれ違うたびに目には入っていたが、こうして向かい合うのは、帰還の夜の慌ただしい挨拶以来だった。手に書簡の束を持っていた。
「……改めて。お帰りなさいませ」
「待たせたな。座れ」
セレスティーナが俺の向かいに座った。書簡の束を机に置いた。
「聖都の状況をご報告します。現在の聖都駐在はイゾルデです。戒律改正と聖典翻訳は予定通り進んでいますが、組織改革——代議制への移行が難航しています」
「どこで引っかかっている」
「旧来の枢機卿の数名が、代議制を採用すれば自分たちの議席が減ると気付いて動き始めました。天声派内部でも『天声を聞いた者』の解釈に差が出ています。イゾルデが論争を引き受けていますが、根回しはイゾルデの苦手な領域です。次の交代でマリエンナが入ります」
「フィデリアは」
「今こちらに戻っています。次に聖都に上がる前に一度ご報告に伺わせます」
「そうしろ」
セレスティーナが少し間を置いてから「……カエリエルから伝言があります」と言った。
「なんだ」
「『おかえりなさい』と。……それだけです。ですが、あの子が自分の言葉で伝言を頼んだのは、初めてです」
俺は答えなかった。
「……言葉が、戻り始めています。前は、祝福の所作だけでしたから」とセレスティーナが言った。
「次だ。エリナの書状を開けて読め」
セレスティーナが書簡の束からエリナの書状を取り出して読み上げた。
マギニア国内の天声主義勢力のパージ状況。六名の枢機卿と十数名の聖堂関係者が審問にかけられ、符闘での決着を証明として処分が完了していた。
「末尾があります」とセレスティーナが言って、少し声を落とした。「……筆頭選帝侯派閥が、別の動きをしています。詳細はまだ追えていませんが、マギニア上層部が帝国符帝家の政変に何らかの形で関与している可能性があります。引き続き調べます、と」
「わかった。次」
「リタニア・ヴァンシュタインからの書状です。ヴァンダリアに帰国してからの定期の便で、これで三通目になります」
セレスティーナが読み上げた。ヴァンダリア帝国内部の学術符家の動向から始まり——中頃で声が一度止まった。
「……鋼輪領の紅炉家との往来が、この半年で増えています。表向きは学術交流ですが、符家の当主が直接動いている規模ではありません。紅炉家はヴァンダリアとの姻戚関係がある家です。何かが動き始めています、と」
セレスティーナが書状を置いた。
「……世一様」
「なんだ」
「エリナの報告とリタニアの報告が——繋がっています。マギニア上層部・ヴァンダリア・鋼輪領。帝国の廃位運動に三者が絡んでいる」
「そうだな」
「……お前が言うと整理が速い」
セレスティーナが「……枢機卿でしたから。この種の話には慣れています」と静かに言った。
「他にあるか」
「以上です」
俺は書簡の束を脇に寄せた。
「そこにいろ」
セレスティーナが「……はい」と言って、座ったままでいた。
「何か月だ」
セレスティーナが「……四か月と、少しです」と答えた。それから、穏やかな声のまま付け足した。「……帰られてからの日数も、数えてはいました」
「溜まっているか」
セレスティーナの表情が、穏やかなまま、奥に熱が混じった。
「……はい」
「そうか」
俺は立ち上がった。セレスティーナも立とうとした。
「座ったままでいろ」
止まった。
セレスティーナの正面に立って、顎を持ち上げた。
「……っ」
「口を開けろ」
「……世一様——ここは執務室で——」
「そうだな」
「……はい」
セレスティーナが口を開けた。
膝をついて、座ったまま咥えた。四か月ぶりのはずが、舌の使い方は忘れていなかった。ゆっくり根元まで収めて、喉で締めて、引いて、また収める。目を伏せた横顔は祈りの形に似ていた。
「……ん——っ♡ ……ふ——っ♡」
十分に潤ませてから、髪に手を入れて引き剥がした。
「立て。机に手をつけ」
「……はい——っ」
執務机に両手をついて立たせた。着物の裾を割って後ろから抱えた。
「……あ——っ♡」
セレスティーナが一声漏らして、すぐに唇を噛んだ。
「……声が——廊下に——漏れます——っ♡」
「知っている」
「……世一様——意地悪——っ♡」
ずぷり……。
「——っ♡♡」
四か月分だった。なかが引き絞るように締まった。全身が小刻みに震えた。
「……っ♡ 世一様——ずっと——ずっと待っていました——っ♡♡」
「そうか」
「……っ♡ 来てくれないのかと——思っていました——っ♡♡♡」
「帝都にいた」
「……知っています——でも——っ♡♡ でも——っ♡♡♡」
ぐちゅ……ぐちゅぐちゅ……。
「……っ♡♡ 世一様の——声を聞くだけで——もう——っ♡♡♡」
「我慢が効かなかったか」
「……っ♡ 効きませんでした——一人で——っ♡♡ 恥ずかしいですが——一人でしていました——っ♡♡♡」
机に手をついたまま、セレスティーナが頭を落とした。
ぬちゅ……ぬちゅぬちゅ……。
「……っ♡ 世一様のことを——考えながら——っ♡ それでも足りなくて——っ♡♡♡」
「何度した」
「……っ♡ 数えていません——っ♡♡ 毎晩——していました——っ♡♡♡」
「毎晩か」
「……っ♡♡ 申し訳ありません——でも——だめでした——全然——足りなくて——っ♡♡♡♡」
ぐちゅぐちゅ……くちゅ……。
「……っ♡♡♡ 世一様——いきそうです——っ♡♡」
「いっていい」
「——っ♡♡♡!」
セレスティーナが机に額をつけるほど頭を落として、全身を震わせた。
それを確認してから、深く押し込んで出した。
「……っ♡♡♡ 来てる——なかに——世一様のが——っ♡♡♡」
セレスティーナの震えが続いた。
「……っ♡ はじめて——ちゃんと——満たされた気がします——っ♡♡」
「そうか」
セレスティーナがゆっくりと身を起こした。着物を整えた。手が少し震えていた。
「……失礼いたしました」と言った。枢機卿だった頃と同じ声の落ち着き方で言った。
「フィデリアを呼んでおけ」
「……はい」
扉に向かいかけて、止まった。
「……お帰りなさいませ、世一様」ともう一度言った。
扉が閉まった。
律也が十分後に茶を持ってきた。
何も言わなかった。
書類の山に戻った。遠見の朝が静かだった。
────
夜の庭に出ていると、冬子が来た。
「……何を持っている」
「葡萄酒です」
「ここで飲むつもりか」
「よろしければ」と冬子が言った。「雲嶺のものを一本、持ってきました。世一様とまだ一度も飲んでいなかったと気づいて」
「そうだったか」
「はい」
縁側に腰を下ろした。冬子が隣に座って、瓶の栓を抜いた。
「霊峰の雪解け水で育てた葡萄から作ります。早雲家では代々、この赤で星を読む習わしがありました」
「酒で星が読めるのか」
「……感度が上がるんです。澄んだ気持ちになると言えばいいか——酔うというより、開く感じです」
「お前は酔わないのか」
「弱いです」と冬子は言った。「三杯が限界です」
盃に注いでもらった。一口飲んだ。
重い。渋みの後に、何かが広がる感じがあった。符気の残滓のようなものが舌の奥に来る。
「……なるほど」
「お気に召しましたか」
「悪くない」
「よかった」
冬子が自分の盃に口をつけた。静かに飲んでいる。
——しばらく、何も言わなかった。
庭の木が揺れる音だけがあった。
「朔はどうだ」
「元気です。苑子さんに符闘の絵を描いた紙を見せてもらって、夢中で食べようとしていました」
「紙を食うのか」
「止めましたが、また手が伸びていました」
「……そういう時期か」
「そういう時期らしいです」
俺は二口目を飲んだ。
「お前はここに来てから苦労したか」
冬子が少し考えた。
「……世一様が帝都に行っている間は、遠見の屋敷が急に広くなった気がして——少し気が抜けました。苦労という苦労ではないですが」
「そうか」
「朔がいたので」と冬子が言った。「手がかかって、考える暇がありませんでした。それがよかったと思います」
「産んでよかったか」
「……はい」
即答だった。
「ここに来てよかったですか、という質問に答えるなら——来てよかったです。それは変わりません」
俺は何も言わなかった。
冬子が二杯目を注いだ。自分の盃も足した。
「……世一様は、飲み慣れませんか」
「酒は普段飲まない」
「なぜですか」
「酔うと手が鈍る。三手先の盤面が霞む」
「……今夜、符闘のご予定が、ありますか」
「ない」
「ないのに、ですか」
「符士はいつ盤の前に座らされるかわからん」
冬子が小さく吹き出した。呆れの混じった、柔らかい笑いだった。
「……世一様の頭の中は、半分くらい、いつも盤の上にあるんですね」
「半分は言い過ぎだ」
「……では、七割でしょうか」
「注げ」
冬子が笑ったまま注いだ。
「早雲では——父が毎晩この葡萄酒を一杯飲んでいました。星読みをするための儀式みたいなものです。私は子供の頃、その隣で父が読む星の話を聞いていました」
「何が見えていた」
「遠くのことばかりでした。蒼東道の天候とか、帝都の方角から来る何かとか——。近くにいる人のことは、あまり読めないんです。星読みというのは」
「不便だな」
「そうなんです」と冬子が言った。少し声が柔らかくなっていた。「三年前に世一様を見つけた時も、方角と気配しかわかりませんでした。顔も声もわからない。ただ、来る、とだけ」
「それで待っていたのか」
「……待っていました」
冬子が三口目を飲んだ。
「今夜は——よく見えます」と言った。
「何が」
「星が。この葡萄酒を飲んだあと、空が開く感じがします」
俺は冬子の横顔を見た。目が少し遠くなっている。
「朔の星は」
「……元気です。明るい星です。あの子はきっと、頑固な子になります」
「誰に似た」
「……どちらにでしょうか」と冬子が言って、またわずかに笑った。「世一様に似ていると思います」
「俺は頑固ではない」
「……そうですか」
信じていない顔だった。
「お前の星は何と言っている」
冬子が少し黙った。
「……あなたの隣にいます」と言った。「近すぎて、詳しくは読めません。星読みというのは、遠くのものほど鮮明に見える性質があって——自分のことや、すぐそばにいる人のことは、ぼんやりとしか見えないんです」
「ぼんやりと何が見える」
「……暖かい、とだけ」
俺は冬子の腹部に手を置いた。
「……っ」
「星が見えるか」
「……っ。見え——ます——っ」
「何が」
「……っ。近すぎて——わからないですが——世一様の——っ——」
「腹を撫でると見やすくなると言っていた」
「……そういう体質なので——わかっていて——っ」
「そうだ」
「……ずるい、です」
「そうだな」
冬子の盃が縁側に置かれた。
「……今夜は、ここで」
「そうする」
「……はい」
庭の木がまた揺れた。
雲嶺の赤は、三杯で冬子を開かせる。
十分だった。
縁側に膝をつかせて、庭に背を向けさせた。帯は解かない。裾だけを腰までたくし上げて、後ろから重なる。左手は腹に回したままにした。
「……待って——この体勢——星が——見えて——」
「見ながらしろ」
「……っ、ずるい——」
ずぷり……。
「……っ♡」
「静かにしろ」
「……っ♡ 庭が——っ♡」
「誰も来ない」
「……っ♡ でも——声が——出ます——っ♡♡」
ぐちゅ……ぐちゅ……。
「……っ♡♡ 世一様——お腹——さわったまま——っ♡♡♡」
「腹を押さえていないと体が倒れる」
「……っ♡♡♡ そうじゃなくて——っ♡♡♡ この体質を——知っていて——っ♡♡♡」
「知っている」
「……っ♡♡♡ 星が——全部——見えなくなります——っ♡♡♡ 近すぎて——っ♡♡♡」
「見えなくていい」
「……っ♡♡♡ はい——っ♡♡♡ 今夜は——見えなくて——いいです——っ♡♡♡」
ぬちゅ……ぐちゅぐちゅ……。
「……っ♡♡♡ いきます——また——っ♡♡♡!」
「声」
「……っ♡♡♡♡ ごめんなさい——出てしまいました——っ♡♡♡♡」
そのまま奥で出した。
「……っ♡♡♡♡ なかに——っ♡♡♡♡」
しばらく静かだった。
縁側に並んで座ったまま、しばらく何も言わなかった。
冬子が「……葡萄酒が余りました」と言った。
「捨てるか」
「……もったいないので、明日飲みます」
「そうしろ」
「……世一様は」
「俺はいい」
「……今夜は一杯だけでしたね」
「十分だ」
冬子が「……そうですか」と言って、また少し笑った。
庭の星が、静かにそこにあった。
────
昼間、雪が「……澄を苑子さんに預けてきました」と言った。
「何の用だ」
「用があるから預けてきました」
「何の用だ」
「……世一さんに会いに来ました」
俺は書類を置いた。
「来い」
執務室を出て、私室に移った。雪は黙ってついてきた。襖の閉まる音を確かめてから、口を開いた。
「……帰ってきてから、ずっと忙しそうでした」
「そうだな」
「……寂しかったですよ」
「そうか」
「……そうか、じゃないです」
「すまなかった」
雪が「……謝られても」と言った。「怒ってないですよ。怒ってはない——けど——」
「けど」
「……寂しかったんです。それだけです」
「そうか」
雪が「……もう一回言ったら怒ります」と言った。
「わかった」
雪が俺の前に座った。
「……世一さん、触ってください」
「待つ気はないのか」
「……ないです」
「そうか」
「……また言いました」
「悪かった」
雪が「……もういいです」と言った。「早く触ってください」
膝の上に抱え上げた。向かい合わせに座らせて、着物の合わせから手を入れる。四か月分の飢えは、指を這わせただけで腰が跳ねるほどに溜まっていた。
「……っ、はや——」
「早くと言った」
「……言いましたけど——っ♡」
濡れきったのを確かめてから、腰を落とさせた。
「……っ♡」
「声が大きい」
「……誰もいないので——っ♡」
「そのために澄を預けてきたのか」
「……っ♡ そう——です——けど——っ♡♡ 言わせないでください——っ♡♡」
ずぷり……。
「——っ♡♡!」
「抑えると言った」
「……っ♡♡ 大符闘祭の間——ずっとなかったんです——っ♡♡♡ 少しくらい——いいじゃないですか——っ♡♡♡」
「そうだな」
「……っ♡♡♡ 世一さん——っ♡♡」
「なんだ」
「……もっと——深くしてほしい——です——っ♡♡♡」
「そうするか」
「……っ♡♡♡ はい——っ♡♡♡♡」
ぐちゅ……ぐちゅぐちゅ……。
「……っ♡♡♡ 世一さん——世一さん——っ♡♡♡」
「なんだ」
「……なんでもないです——ただ——言いたくて——っ♡♡♡♡」
「そうか」
ぬちゅ……ぬちゅぬちゅ……。
「……っ♡♡♡ いきます——っ♡♡♡ 世一さん——世一さん——っ♡♡♡♡」
「いっていい」
「——っ♡♡♡!」
雪が全身を震わせた。そのまま俺に抱きついてきた。
「……っ♡♡♡ 世一さん——っ♡♡」
それを確認してから出した。
「……っ♡♡♡ なかに——来た——っ♡♡♡」
雪がしばらく抱きついたままでいた。荒い息がゆっくり落ち着いていった。
「……泣いてないですよ」
「言っていなかった」
「……泣きそうになっただけです」
「そうか」
「……怒ってないですけど——こういう時に——なんか——出てきます」
「そうだな」
雪が少し間を置いてから「……世一さん」と言った。
「なんだ」
「……澄に、また下の子を作ってあげてください」
「そうするか」
雪が「……すごく軽く言いますね」と言った。
「そうか」
「……でも——嬉しいです」
雪がゆっくりと離れた。顔を見た。泣いていなかった。泣いていなかったが、目が少し赤かった。
「下がれ。澄が起きる」
「……はい」
雪が「……ありがとうございました」と言った。
「礼を言うことか」
「……言いたいです。言わせてください」
「そうか」
雪が立ち上がった。扉の前で振り返った。
「……お帰りなさいませ、世一さん」
「ただいま」
扉が閉まった。