※この作品はR-18です。

『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』   作:シキセ

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第九十一話 限界

栞が書類を持って来るのは、いつも夜の最後だった。

 

その日の分の写しを整えて、俺の執務室に置いて、下がる。それが栞の一日の終わりで、俺の一日の終わりでもあった。

 

扉が叩かれた。

 

「……書類をお持ちしました」

 

「入れ」

 

栞が入ってきた。机の端に書類を置いて、まっすぐ立った。

 

「……今日の分は、以上です」

 

「そうか」

 

「……世一さん」

 

「なんだ」

 

「……栞として、触れてほしいです」

 

あれから、栞は毎晩これを言った。

 

言えと言ったのは俺だ。栞は一晩も欠かさなかった。言うたびに声の揺れが減って、言葉の重さが増えた。最初は願いだった。途中から、確認になった。自分が栞であることの。

 

「今日で何度目だ」

 

「……数えていません」

 

「嘘だな」

 

「……十一度目です」

 

「そうか」

 

俺は筆を置いた。

 

栞の顔を見た。頬が赤い。息が浅い。もう俺が陽の気を流す必要もない。この部屋に入って俺の前に立つだけで、栞の体は勝手に火が点くようになっている。

 

「……世一さん」

 

「なんだ」

 

「……もう限界です」

 

栞の声は、揺れなかった。

 

「お願いします」

 

「……」

 

「毎晩言って——毎晩まだだと言われて——それでも言い続けました。言うたびに、増えました。触れてほしい気持ちだけが、増えて——今日はもう、それしか、ありません」

 

「仕事はどうした」

 

「……終わらせてから来ました。そういうところだけは、ちゃんとしました」

 

「そうか」

 

「……はい」

 

俺は立ち上がった。

 

栞の目の高さまで、距離を詰めた。栞は動かなかった。小さい体だ。頭一つ以上、俺より低い。

 

「栞」

 

「……はい」

 

「来い」

 

「——っ」

 

栞の息が止まった。

 

「……い、いいん、ですか」

 

「二度は言わない」

 

「……はいっ」

 

返事だけが先に出て、足が半歩遅れた。

 

私室の灯りを一つだけ点けた。

 

栞が部屋の真ん中に立っていた。手の置き場所を探して、結局体の前で揃えた。

 

「……あの」

 

「なんだ」

 

「……私——作法は、習っています」

 

「作法」

 

「……帝宮で。いずれ伴侶を迎える日のために、と。……閨での挨拶、衣の預け方、体の預け方、声の——抑え方。手順は全部、頭に入っています」

 

「そうか」

 

「……ですから、その——粗相のないように、務めます」

 

「栞」

 

「は、はい」

 

「それは全部忘れろ」

 

「……え」

 

「声は抑えるな。手順は俺が決める。務めるな」

 

「……つ、務めては——だめなんですか」

 

「今夜のお前の仕事は、感じることだけだ」

 

「……っ♡ ……はい」

 

「立っていろ」

 

俺は栞の前に立った。

 

右手を上げた。栞の目がその手を追った。

 

頬に、触れた。

 

「——っ♡」

 

それだけで、栞の膝が落ちかけた。

 

「……あ——っ♡ ……い、今の——なんですか——っ♡」

 

「触っただけだ」

 

「……っ♡ 頬——ですよ——っ♡ 頬だけで——こんな——っ♡♡」

 

「三月ぶんだ」

 

「……っ♡」

 

「触れずに三月、火を点け続けた。その分が全部残っている。今夜は全部拾う」

 

「……ぜ、全部——っ♡」

 

指先を頬から顎へ滑らせた。

 

「……っ♡♡」

 

首筋へ。

 

「——っ♡♡ ま、待って——待ってください——っ♡♡ 首——首はだめ——っ♡♡」

 

「なぜ」

 

「……声が——出ちゃう——っ♡♡」

 

「出せ」

 

「……で、でも——っ♡♡」

 

「この棟には誰も来ない。苑子が今夜は下げている」

 

「……っ♡ ……用意——されてたんですか」

 

「そうだ」

 

「……いつから」

 

「お前が十度目を言った日からだ」

 

「……っ♡♡ ……ずるいです——それ——嬉しいのが——先に来ます——っ♡♡」

 

首筋を指の腹でなぞった。

 

「——っ♡♡♡」

 

栞の体が跳ねた。俺は空いた腕で腰を支えた。細い。腕の中に丸ごと収まる。

 

「……あ——っ♡♡ 立てな——立てないです——っ♡♡」

 

「なら座らせる」

 

寝具の上に下ろした。栞が俺を見上げた。目の焦点がもう揺れている。

 

「栞」

 

「……っ♡ は、はい」

 

「口を開けろ」

 

「……っ♡ ……こう、ですか」

 

口をつけた。

 

「——んっ♡♡!」

 

小さい口だった。浅く合わせて、離した。

 

「……っ♡♡ ……く、口——って——こんな——っ♡♡」

 

「どんなだ」

 

「……溶けます——っ♡♡ ……もう一回——してほしいです——っ♡♡♡」

 

「言えたな」

 

「……言うのは——毎晩——練習しましたから——っ♡♡」

 

もう一度、深くした。舌を入れると、栞は最初戸惑って、それから拙く応えてきた。

 

「……んっ♡♡ ……ん——ふ……っ♡♡♡」

 

離すと、糸が引いた。栞が真っ赤な顔でそれを見て、両手で口を覆った。

 

「……っ♡♡♡ ……いま——すごい音——してました——っ♡♡」

 

「する音だ」

 

「……そう、なんですね——っ♡♡ ……知らないことばかりです——っ♡♡」

 

帯に手をかけた。

 

「——っ♡」

 

「嫌なら言え」

 

「……嫌じゃ、ないです。……ただ——あの——」

 

「なんだ」

 

「……私——小さいです。……小夜より——ずっと。……がっかり、しませんか」

 

「しない」

 

「……即答——っ♡」

 

「脱がすぞ」

 

「……は、はい——っ♡」

 

帯を解いた。着物を肩から落とした。

 

白かった。細くて、薄くて、胸はほとんど平らだった。栞が両腕で隠そうとして、途中でやめて、腕を下ろした。

 

「……隠すなと——言われる気がしたので——先に、やめました」

 

「正解だ」

 

「……っ♡」

 

「よく見せろ」

 

「……っ♡♡ ……は、恥ずかしい——ですけど——はい——っ♡♡」

 

薄い胸に触れた。

 

「——っ♡♡♡ あっ——っ♡♡」

 

小さい先端はもう硬くなっていた。指先で転がすと、栞の腰が浮いた。

 

「……あっ♡♡ ……そこ——そんな、小さいところ——なのに——っ♡♡♡」

 

「感じるか」

 

「……感じ——ます——っ♡♡♡ 全部——世一さんの指が——動くたび——全部——っ♡♡♡」

 

「習った通りか」

 

「……ちがいます——っ♡♡♡ こんなの——教本に——なかったです——っ♡♡♡」

 

「教本があるのか」

 

「……あります——十二巻——っ♡♡ ……いま——一行も——思い出せません——っ♡♡♡」

 

反対側は口に含んだ。

 

「——っ♡♡♡! あぁっ——っ♡♡♡」

 

栞の両手が俺の頭を掴んで、押しのけようとして、引き寄せた。

 

「……だめ——だめです——それ——っ♡♡♡ 頭が——白く——っ♡♡♡」

 

腹を撫でながら下へ降りた。足の間に手が届いたとき、栞が短く息を呑んだ。

 

濡れていた。触れる前から、太腿の内側まで。

 

「……っ♡ ……ご、ごめんなさい——汚——」

 

「汚くない」

 

「……で、でも——っ♡」

 

「三月ぶんだと言った。これも全部そうだ」

 

指の腹で、割れ目をゆっくりなぞった。

 

「——あぁっ♡♡♡!」

 

ぐちゅ、と音がした。

 

「……っ♡♡♡ 音——音が——っ♡♡♡」

 

「毎晩執務室で鳴っていた音だ」

 

「……っ♡♡♡ 聞こえて——たんですか——っ♡♡♡ ……はずかし——恥ずかしくて——死にます——っ♡♡♡」

 

「死ぬな。これからだ」

 

小さな粒を探り当てて、指の腹で円を描いた。

 

「——っ♡♡♡♡! あっ、あっ——だめ——それだめ——っ♡♡♡♡」

 

「だめか」

 

「……ちがっ——だめじゃな——っ♡♡♡♡ よすぎて——だめ——っ♡♡♡♡ なにか——来ます——大きいの——来ちゃ——っ♡♡♡♡」

 

「来い」

 

「——っ♡♡♡♡♡!!」

 

栞の体が硬直して、それから細かく震えた。腰が跳ねて、俺の指を内腿が挟み込んだ。

 

長かった。三月ためた分が抜けていくように、震えは何度も波になって戻ってきた。

 

「……あ……っ♡♡ ……あ……」

 

栞の目から涙が零れていた。

 

——三月前まで、帝宮の奥で袖の先まで作法にくるまれて生きていた娘だ。

 

それが俺の指一本で崩れて、泣いて、達した。

 

頭は冷えたままだった。だが体の芯は違った。計算とは別の、もっと単純で古い場所が、低く熱を持ち始めていた。

 

「……いま……の……」

 

「達った、と言うことだ」

 

「……これが……っ♡ ……体が——ばらばらに、なるかと——思いました……っ♡♡」

 

「まだ序盤だ」

 

「……じょ、序盤——っ♡♡」

 

指を、今度は中に入れた。

 

「——っ♡♡! ……なか——指——っ♡♡」

 

狭かった。指一本でいっぱいだった。腹側の浅いところを、指の腹でゆっくり押した。

 

「……っ♡♡♡ ……そこ——へん、です——っ♡♡♡ なんか——へん——っ♡♡♡」

 

「変でいい」

 

「……あっ♡♡♡ ……まって——まってください——っ♡♡♡♡ さっきのと——ちがうのが——きます——っ♡♡♡♡」

 

「来い」

 

「……だめ——だめですっ——これ——でちゃう——っ♡♡♡♡ なにか——でちゃうから——はなして——っ♡♡♡♡♡」

 

「出せ」

 

「——っ♡♡♡♡♡!!」

 

ぷしゃ……っ。

 

熱いものが吹いて、俺の手首まで濡らした。

 

栞の腰が跳ねて、跳ねて、落ちた。

 

「……あ……あ……」

 

栞が呆然と自分の下を見た。敷布の色が、広く変わっていた。

 

「……っ」

 

顔から血の気が引いた。

 

「……そ——粗相を——」

 

声が割れた。

 

「……ちがうんです——これはちがくて——わたし——こんな——粗相なんて——一度も——っ」

 

本格的に泣き出した。さっきまでの快楽の涙とは違った。帝宮の作法で育った娘にとって、これは多分、この世で最悪の失態の形をしていた。

 

俺は栞を抱き寄せた。頭に手を置いて、ゆっくり撫でた。

 

「粗相じゃない」

 

「……で、でも——出——っ」

 

「潮という。女の体が気持ちよすぎたときに出るものだ」

 

「……し、お……」

 

「病でも粗相でもない。体が正直なだけだ」

 

「……ほんとう、ですか」

 

「本当だ」

 

撫で続けた。小さい頭だった。泣き声が少しずつ細くなっていった。

 

「……作法の先生は——教えてくれませんでした——こんなの」

 

「教える方も知らなかったんだろう」

 

「……っ。……いま、笑いました?」

 

「笑っていない」

 

「……絶対——少し笑いました」

 

「気のせいだ」

 

栞が俺の胸に顔を押しつけた。

 

「……はずかしくて——死にそうです」

 

「死ぬな。今夜二度目だ」

 

「……っ。……もう、めちゃくちゃです。習ったこと——ぜんぶ——役に立ちません」

 

「役に立たなくていい」

 

「……はい……っ」

 

「よくできた、栞」

 

「——っ♡」

 

頭を撫でたまま言うと、栞は泣き濡れた顔のまま、少しだけ笑った。

 

俺は自分の着物を脱いだ。

 

栞の目が、俺の中心で止まった。

 

「……っ♡ ……あの……それは……」

 

「入るか、と聞きたいのか」

 

「……は、入らないと——思います——物理的に——っ♡」

 

「入る」

 

「……即答——っ♡♡」

 

栞の膝を開いた。正常位。小さい体に合わせて、腰の下に枕を入れた。

 

先端を入り口に当てた。

 

「——っ♡」

 

「栞」

 

「……はいっ♡」

 

「痛かったら言え。やめないが、緩める」

 

「……やめないんですね——っ♡ ……はい。……言います」

 

「行くぞ」

 

「……世一さん——っ」

 

「なんだ」

 

「……私——今——栞、ですよね」

 

「そうだ」

 

「……栞として——もらってもらえるんですよね」

 

「そうだ。栞としてだ」

 

「……っ♡ ……なら——大丈夫です。来てください」

 

腰を進めた。

 

ずぷ……。

 

「——っ! ……く……ぅ——っ」

 

狭かった。先端が入っただけで、栞の全身に力が入った。

 

「……息を吐け」

 

「……は——……ぁ——……っ」

 

「そうだ。ゆっくりでいい」

 

少しずつ進めた。途中で薄い抵抗があって、それを越えた。

 

「——っ……!」

 

栞の手が敷布を握り締めた。

 

「……入った」

 

「……ぜん、ぶ——ですか……っ」

 

「半分だ」

 

「……はんぶん——っ……う、嘘でしょう——っ」

 

「動かずに待つ。馴染むまでだ」

 

「……はい……っ ……世一さん……手——握っていて、いいですか」

 

「いい」

 

小さい手が俺の手を握った。力いっぱいだった。

 

しばらくそのまま待った。栞の呼吸が少しずつ深くなって、中の締めつけが緩んでいくのがわかった。

 

「……あの……っ ……なんか……変です……っ♡」

 

「どう変だ」

 

「……痛いのに……っ♡ 痛いのの奥で……別のが……っ♡ 動いて、ほしいような……っ♡♡」

 

「動くぞ」

 

「……はい……っ♡」

 

ゆっくり引いて、ゆっくり戻した。

 

ぐち……ぬち……。

 

「……あっ♡ ……あっ♡ ……っ♡♡」

 

「痛みは」

 

「……あります……けど——っ♡♡ 遠く、なって——っ♡♡ 近いのは——別の——っ♡♡♡」

 

「別の、はなんだ」

 

「……気持ち、いい……っ♡♡♡ ……言わせるの——意地悪です——っ♡♡♡」

 

「そうだな」

 

浅く、長く、繰り返した。栞の声が少しずつ形を失っていった。

 

丁寧語が一枚ずつ剥がれて、少女の声だけが残っていく。

 

剥がしているのは俺だ。毎晩言わせて、三月かけて火を点けて、今夜この手で剥いている。その実感が、腰の奥で直接、熱になった。

 

「……あっ♡♡♡ ……せいち、さ……っ♡♡♡ ……すご……っ♡♡♡ ……おく——あたって——っ♡♡♡」

 

「栞」

 

「——ひゃ……っ♡♡♡!」

 

「名前を呼ばれてどうした」

 

「……しまる——って——言わないで、くださ——っ♡♡♡♡」

 

「言っていない」

 

「……い、今——言いました——っ♡♡♡♡」

 

ぐちゅ……ぐちゅ……ぬちゅ……。

 

水音が濃くなった。栞の腰が、拙く、俺の律動に合い始めた。

 

「……せいちさ……っ♡♡♡ ……ちがうの——ぜんぶ——ちがうの——っ♡♡♡」

 

「何がだ」

 

「……ならったのと——っ♡♡♡ こんなにすごいなんて——だれも——おしえてくれな——っ♡♡♡♡」

 

「教本は忘れろと言った」

 

「……わすれました——もう——とっくに——っ♡♡♡♡ ……これ——これが——風音と——小夜の——いってたの——っ♡♡♡♡ ……やっと——わたしも——おなじ——っ♡♡♡♡」

 

「……あっ♡♡♡♡ ……も——だめ——また——来ます——大きいの——っ♡♡♡♡」

 

「何度でも来い」

 

「……っ♡♡♡♡ ……せいちさん——せいちさんっ——しおり——しおりを——呼んで——っ♡♡♡♡」

 

「栞」

 

「——っ♡♡♡♡♡!!」

 

中が強くうねった。栞の背中が浮いて、俺の腕の中で震えた。

 

達っている最中の中は、細かく痙攣しながら絡みついてきた。俺はそのまま律動を続けた。

 

「……ひ……っ♡♡♡♡ ……いって——いってる、のに——っ♡♡♡♡ ……とまらな——っ♡♡♡♡♡」

 

「最後まで付き合え」

 

「……はい——はいっ♡♡♡♡ ……きて——きてください——しおりの、なかに——っ♡♡♡♡♡」

 

——この中に出せば何が起こりうるか。この娘の腹に宿るものが、どんな意味を持つか。

 

わかっていた。避けられた。

 

避けなかった。

 

奥まで入れて、出した。

 

「——っ♡♡♡♡♡!!」

 

どく、どく、と注ぐたびに、栞の中が絞るように応えた。

 

灯りの火が、一度だけ、大きく揺れた。

 

風はなかった。

 

しばらく、繋がったままでいた。

 

栞の呼吸が整うまで、長くかかった。

 

「……せいち、さん」

 

「なんだ」

 

「……ことばが……もどりません……」

 

「戻さなくていい」

 

「……ん……っ♡」

 

栞が俺の胸に額をつけた。小さい体が、汗で貼りついていた。

 

やがて、ぽつりと言った。

 

「……栞は」

 

「なんだ」

 

「……栞は——世一さんのものに、なりましたか」

 

「なった」

 

「……そう、ですか」

 

栞の肩が、少し揺れた。泣いているのかと思ったが、違った。笑っていた。

 

「……嬉しい、です。……空夜が聞いたら、驚くと思います」

 

「他人事みたいに言うんだな」

 

「……今夜は、他人です」と栞は言った。「今夜のこれは、全部——栞のものです。誰にも、渡しません」

 

「……そうか」

 

「はい」

 

栞が、俺の胸に頬をつけたまま続けた。

 

「……それと——もう一つ、嬉しいことが、あります」

 

「なんだ」

 

「……夜に、風音と小夜が話すんです。世一さんの——こういう、話を」

 

「知っている」

 

「……っ。し、知っていたんですか」

 

「廊下は声が通る」

 

「……あとで二人に言っておきます」

 

栞が小さく息を吐いた。

 

「……私は、いつも聞くだけでした。二人が同じものの話をして、同じところで笑って——私だけ、輪の外にいました。相槌の打ち方だけ、どんどん上手になって」

 

「……」

 

「……帝宮でも、そうでした。みんなが知っていることを、私だけ知らない。私が知っていることは、誰とも分け合えない。……ずっと、そういう場所にいました」

 

栞が顔を上げた。

 

「……今夜から、私も同じ側です。風音と小夜と、同じ側。……次の夜話は、相槌じゃありません」

 

「言う気か」

 

「……内容は、選びます」

 

栞がまた笑った。今夜一番、無防備な顔だった。

 

「……世一さんのものになれたことと——同じくらい、それが嬉しいです。二人と、同じになれたこと」

 

「……そうか」

 

「はい。……変ですか」

 

「変ではない」

 

「……よかった」

 

「……世一さん。ひとつ、聞いてもいいですか」

 

「なんだ」

 

「……明日も、栞でいて、いいですか」

 

「いろ」

 

「……はい」

 

栞が目を閉じた。

 

すぐに寝息になった。よほど体力を使ったらしい。

 

俺は灯りを見た。

 

さっき、確かに揺れた。窓は閉まっている。風の入る隙間はない。

 

——気のせいだ。

 

栞の寝顔を見た。偽名で呼ばれて、偽名で抱かれて、これ以上ないほど満ち足りた顔で眠っている。

 

——神符帝国、現符帝。

 

この国で最も高い血だ。千年、神々の符叢を継いできた家の、今の当主。十五の名門が頭を垂れ、聖教国が国書の宛名に苦心し、ヴァンダリアが式符化を諦めた——その頂点が今、俺の腕の中で汗だくで眠っている。書記見習いの偽名で呼ばれて、泣いて、悦んで、俺のものになったと笑って。

 

どこの馬の骨ともしれない符士が、だ。

 

星宮の食客から始まって、符侯まで成り上がって——その先にこれがあるとは、さすがに考えていなかった。帝国の名門の者たちがこの光景を知れば、卒倒するか。いや、卒倒では済まない。国が割れる。

 

……悪くない。悪くない、どころではない。

 

腹の底で、暗いものが静かに満ちていた。この感覚に名前をつけるなら、征服だ。俺はそれを否定しない。否定するには、今夜は上等すぎる。

 

それとは別に——もっと単純な話もある。

 

作法しか知らなかった娘が、俺の手の中でみだらに変わっていく。今夜が最初の一枚で、これから何枚でも剥いでいける。あの崩れた声も、名前を呼ばれて締まる癖も、これから覚えていく全部も、俺が作る。血筋も政治も抜きにして——雄として、これほど滾る話はない。

 

明日からも変えていく。ゆっくり、徹底的にだ。

 

そして——中に出した意味も、わかっている。

 

この娘が孕めば、それは符帝の胤だ。帝位継承に絡まない道がない。外戚も宰相も廃立派も、その一事で盤面が全部ひっくり返る。俺は今夜、そういう札を自分の手で切った。三月かけて、計算通りにここまで来て、最後の一手まで計算の内だ。

 

だが「栞のものです。誰にも渡しません」——あの言い方だけは、計算の外から来た。空夜が栞に嫉妬するような、あの言い方は。

 

この娘の中で、栞はもう役ではない。

 

それでいい。

 

それが、いつか高くつくとしても。

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