『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』 作:シキセ
翌日の夜、栞はいつも通り書類を持ってきた。
「……本日の分です」
「置け」
「はい」
置き方が、昨日までと少し違った。机の端ではなく、俺の手が届く場所に置いた。本人は気づいていないらしい。立ち姿の硬さが抜けて、声が半音低いところで落ち着いている。
一晩でこれだ。
「栞」
「……は、はい」
「顔が赤い」
「……昨日の今日で——その——お、お仕事の話を、してください」
「そうだな」
俺は文箱から一通を出した。
「近侍から文が来た」
栞の背筋が伸びた。一瞬で書記見習いの顔から、別の顔になった。
「……帝都の様子ですか」
「読むか」
「……お願いします。読んでください。私が読むより——世一さんの声で聞いた方が、落ち着いて聞けます」
「そうか」
俺は文を開いた。
「——廃立派は従弟殿の即位の儀の日取りを検討し始めた。ただし儀は整わぬ。皇宮の宝蔵が空であることに、連中がようやく気づいた。宝庫の探索が始まる。……以上だ」
「……っ」
「栞」
「……はい」
「宝庫とはなんだ」
栞はしばらく黙っていた。それから、静かに言った。
「……ここに、あります」
「……ほう」
「私の部屋に。……荷の底に、近侍が縫い込んでいました。遠見に着いた夜に、初めて教えられました。これだけは御身と離してはならないと」
「なぜ今まで言わなかった」
「……言うなと言われていました。誰にも、と。……でも」
栞が顔を上げた。
「……昨日、栞は世一さんのものになりました。なら——空夜の荷物も、隠しているのは、おかしいと思いました」
「……そうか」
「取ってきます」
────
苑子に棟を下げさせた。廊下の突き当たりに英稟だけを立たせた。
栞が抱えてきたのは、古い漆の箱だった。両腕でようやく抱えられる大きさで、角が擦り切れて、螺鈿の紋が半分消えかけている。見てくれは旅の道具箱だ。
だが蓋に手をかけた瞬間、わかった。
空気が変わった。
「……開けます」
蓋が開いた。
中は絹の仕切りで区切られていた。一枚ずつ、袋に納められた式符。九つの袋と、その下に脇札の束。
「符帝宝庫です」と栞が言った。「……歴代の符帝が継いできた、九柱の神符と、代々が添えた札」
俺は一枚ずつ検分した。
皇祖武神・建御雷。触れる前から、袋越しに圧が来た。実体化時に場の使役式を敵味方諸共に全て砕く。攻撃を独占する、帝国武神の頂点。
禁城布都御魂多々良。宝具符。装備した一体に戦力五を積む。神代の太刀だ。
皇城・天岩戸御門。約定符。場の実体化を互いに一体までに縛る、皇城そのものの結界。
宝命水鏡・八咫映し。黒曜黄泉原の勅封。青樹界宝蔵・常世苗。赫御日子の奉火。天命宝典・万象詔録。
そして——白陽神祇官・御璽守。
手が止まった。
「……白陽、か」
「……その札が、何か」
「いや。知った名に似ていただけだ」
袋に戻した。それはあとで考えることだ。
九枚。一枚ずつなら、どれもが国を傾ける札だ。世界大会の決勝卓でも、この格の札は一枚も見なかった。それが九枚、ひとつの箱に入っている。
「……率直な感想を言っていいか」
「……はい」
「シナジーがなさすぎる。よくこれで符帝家は千年保ったな」
「……っ」
栞が変な声を出した。
「ぶ、符帝家の宝庫ですよ……っ?」
「だから言っている。建御雷は出した瞬間、敵味方の場を諸共に砕く。立っている限り、攻撃は建御雷の独占だ。多々良を装備すれば他の全員が攻撃できなくなる。常世苗は勅封と同居できない。奉火を撃てばその手番は何もできない。——全部が全部、隣の札の足を踏んでいる」
「……はい」
栞の声が沈んだ。
「……その通りです。私は——この符叢で、勝ったことがありません」
「使ったことは」
「稽古で、何度も。……並べました。教わった通り、強い札から順番に。……並べるたびに、盤面が窒息して、負けました。相手は皆、途中から勝ち筋ではなく——私の自滅を待つようになりました」
「そうだろうな」
「……この札たちは、私の言うことを聞いてくれないのだと思っていました。符帝の器ではないから、と」
俺はもう一度、九つの袋を見た。
順番に。建御雷。多々良。御門。水鏡。勅封。常世苗。奉火。詔録。御璽守。
——待て。
もう一度見た。今度は「どう繋ぐか」ではなく「どれを切るか」の目で。
「……いや、違うな」
「……え」
「これは『揃える』符叢じゃない」
盤面が頭の中で組み変わった。
九柱は繋がらない。繋げようとする限り、永遠に繋がらない。だが——毎手番、八柱を眠らせて一柱だけを立てるなら。局面ごとに「今は誰の出番か」だけを裁くなら。
どの一枚も、単体で専用符叢の切り札級だ。つまりこの符叢は、毎手番「専用符叢の最強の一手」だけを撃ち続けられる。
代償はひとつ。残る八枚の最強札を、その手番、全部捨てて見せる胆力だ。
「栞。この符叢の使い方を教える」
「……っ。は、はい」
「心得は二つだけだ。一つ——全部出すな。毎手番、どれを出さないかを決めろ」
「……出さない、ものを」
「そうだ。二つ——最強札を捨てる勇気。それがこの符叢の代償だ」
「……捨てる……」
栞が九つの袋を見た。
「……建御雷を、捨てるんですか。局面によっては」
「局面によっては、九枚のうち八枚を捨てる。惜しんだ瞬間に窒息する。お前が負け続けた理由はそれだ。器の話じゃない。惜しんだだけだ」
「……惜しんだ、だけ」
栞がゆっくりと繰り返した。何かが腑に落ちかけている顔だった。
「……世一さん。ひとつ、言ってもいいですか」
「言え」
「……この符叢——帝宮と、同じです」
「……ほう」
「一柱一柱が最強で、誰も互いに譲らなくて。全員を同時に立てようとすると、全部が止まる。……外戚も、宰相も、諸家も、そうでした。符帝の仕事は本当は——誰を立てるかではなくて、誰を立てないかを決めることだったのだと、思います」
「……」
「私はそれを、ずっと避けてきました。裁断を求められるたびに、先送りにして。全員を立てようとして——全部を、止めて」
栞は箱を見たまま言った。
「……この符叢が私の言うことを聞かなかったのは、当たり前です。私は一度も、決めていませんでした」
俺は少し黙った。
十六の娘が、自分の千年の家業を符叢一箱から言い当てた。
「——概ね正しい」
「……概ね、ですか」
「決めてこなかった人間は、決め方を知らないだけだ。知らないことは覚えればいい。今夜から覚えろ」
「……はいっ」
────
試しに一手、やらせてみることにした。
宝庫から五枚を抜いて、初手の想定で栞の前に並べた。建御雷。天岩戸御門。多々良。脇札の祈りが二枚。
「初手だ。相手は不明。何を出す」
栞は長いこと考えた。指が建御雷の上で止まって、震えて、離れた。
「……天岩戸御門、だけ。……あとは、何も出しません」
「理由は」
「……御門は、場に一体しかいなければ札を引かせてくれます。相手の展開も縛れます。……建御雷を出したくなりますけど——出せば御門ごと場が砕けて、立っている限り、殴れるのは建御雷だけになります。多々良も、まだ装備させる相手がいません。だから——今は、御門だけ」
「なぜ震えた」
「……最強の札を手札で眠らせるのが——こんなに、怖いと思いませんでした」
「その怖さは消えない。消えたら終わりだと思え。怖いまま決めるのが、この符叢の操縦だ」
「……はい」
栞が御門の札を、指先でそっと押し出した。
その瞬間だった。
「……あ」
「どうした」
「……札が——少し、あたたかい……?」
俺は御門の札に触れた。何も感じない。ただの札の温度だ。
「気のせいだろう」
「……そう、ですよね。……でも」
栞が自分の指先を見た。
「……初めてです。この札たちが——嫌いじゃないと、思えたの」
────
札を箱に戻していると、廊下の奥から声がした。
「——栞ー? まだ起きてる?」
小夜の声だった。
栞が音もなく箱の蓋を閉めた。俺が上に文書函を重ねた。英稟が廊下に出て「栞は執務の写しの途中だ」と言う声がした。
「……あとで行きます、と伝えてください」と栞が言った。
足音が遠ざかった。
「……危なかったです」
「慣れろ。これからも隠し事は増える」
「……はい。……あの、世一さん」
「なんだ」
「……この箱、今夜からここに置いていただけますか。私の部屋より——ここの方が、安全なので」
「そうしろ」
「……それに」
「なんだ」
「……私の一番大事な隠し事が、二つとも、この部屋にあることになります。……そういうの、いいなと思いました」
「二つ?」
「……箱と——昨日の夜の、こと」
栞が一礼して、出ていった。
俺は箱を見た。
符帝の身柄と、符帝の正統性。両方が今、この棟にある。
廃立派が探しているものが、全部ここにある、ということだ。文の日付から逆算すれば、探索の手が諸道に伸びるまでそう長くない。見つかるのが先か、あの娘が符叢を握れるようになるのが先か。
——競争だな。
悪くない賭けだ。九柱の神と、決め方を覚え始めた符帝。それに、あの札の温度。
正直に言えば、守り切って終わらせる気は薄い。宝庫を握り切った符帝がどれほどの札になるか——それが見たい。保護とは別の場所で、俺はたぶん、嵐が来るのを少しだけ待っている。
俺の手には何も感じなかった。栞の指だけが、感じた。
気のせいなら、それでいい。
気のせいでないなら——この符叢が千年、符帝家から離れなかった理由も、そこにあるのかもしれない。
────
昼過ぎ、符商への用の帰りに市場を抜けた。
人混みの先に、見知った三人がいた。
栞の非番の日だ。風音と小夜が連れ出したらしい。八百屋の店先で風音が値切っていて、その横で小夜が肉串を齧っていて、栞が二人を交互に見て笑っていた。
俺は少し離れた軒下で足を止めた。声をかける理由もなかったし、邪魔をする理由もなかった。
栞の足元に、黒い猫がいた。
痩せた野良だ。栞が歩くと付いていき、止まると座る。栞が屈んで手を出すと、頭を擦りつけた。
小夜が肉串の最後の一切れを外して、猫の前に差し出すのが見えた。猫は一瞥もしなかった。栞の足に頭を擦りつけ続けた。
小夜が明らかに衝撃を受けていた。あの女が食い物を差し出して断られたのは、俺の知る限り初めてだ。
風音も屈んで手を出した。猫は風音の手前で止まり、迂回して、栞の後ろに回った。
三人が何か言い合って、栞が笑った。
遠目にもわかる、屈託のない笑い方だった。三月前、英稟の屋敷の客間で震えていた娘と同じ人間には見えない。
——順調だ、と思う。順調すぎるくらいに。
隣の乾物屋の店先で、主人と客が立ち話をしていた。
「——だから、帝都の親戚が言うにはさ。紅炉様の御用船が、最近やたらと川を上ってるんだと」
「景気のいいことで」
「景気の話ならいいけどね。関所の検めも増えたって。なんだか、きな臭いって言うんだよ」
「よしとくれ。こっちは遠見だ。帝都の火事は帝都で消してもらわないと」
俺は歩き出した。
火事は、こっちに来る。それを知っているのは、今のところこの街で数人だけだ。
茶屋に寄った。
白陽はいつもの席にいた。茶碗を両手で包んで、ぼんやりと窓の外を見ていた。俺が向かいに座ると、視線だけこちらに動いた。
「遅かったわね」
「用事がありました」
「そう」
符束が出てきた。始まった。
序盤は静かに進んだ。白陽の手は今日も無駄がない。俺は三手先の分岐を二つ用意しながら、それとは別のことを考えていた。考えていることが手に出たらしい。
「今日のあなた、半分しかここにいないわね」
「すみません」
「謝ることじゃないけど」
白陽は一手打った。俺の布石が一枚剥がれた。
「ねえ。最近、夜の空を見てる?」
手が止まりかけた。止めなかった。
「……いえ。夜は忙しいので」
「そう。もったいない」
「何かありますか、夜の空に」
「時々、にぎやかよ」
白陽は自分の手札を眺めながら、なんでもないことのように言った。
「星が揺れるの。風もないのに。ここ最近——そうね、月の変わり目あたりから、時々」
月の変わり目。栞を抱いた夜と、だいたい重なる。
「星が揺れる、というのは」
「見たままの意味。空気の揺らぎで星が瞬くのとは違う。もっと下手くそな揺れ方。大きなものが寝返りを打ったときの揺れ方ね」
「……大きなもの、とは」
白陽は答えずに一手打った。俺の山札が二枚削れた。
「あなた、式符って何だと思う?」
「神秘存在との契約の記録、と教わっています」
「半分ね」
「半分ですか」
「契約っていうのは、書いたら終わりでしょう。式符は終わらないの。あれは記録じゃなくて——通い路よ。心とあちら側の間の」
白陽は手札から一枚抜いて、卓の上に置いた。手番の一手ではなかった。ただ見せるために置いた。古い札だった。
「昔の人間はね、心が動くことと神が動くことを、分けて考えなかった。怒りが湧いたら、神が来たと言った。恋をしたら、神に通われたと言った。どちらも正しいの。同じ出来事に名前が二つあるだけ」
「……心の動きが、神の動きだと」
「そう。今の符士は代償だの属性だの、帳簿の付け方ばかり上手になったけど。根っこは変わっていないわよ。心が大きく動けば、符の中の神も動く。心が大きい人間ほど、大きく揺らす」
白陽は札を戻して、本来の一手を打った。
「符帝家なんて、その最たるものよ」
今度は手が止まった。
「あの家は、いちばん大きな神々と通い合う家系。だからあの家の子の心は、天気と同じなの。晴れれば国が晴れて、荒れれば国が荒れる。——昔はね、そういうものだった」
「……今は違うんですか」
「今のあの家は、蓋の閉め方だけ上手になったわね」
白陽は欠伸をした。小さく、口元に手も当てずに。
「重石で蓋をして、心を動かさないことで神を静めておく。窮屈なやり方。……でも蓋っていうのは、外れるのよ。特に——」
「特に?」
「幸せは、蓋の外れ方がいちばん静かで、いちばん大きい」
俺は自分の手番を打った。打ちながら、頭の別の場所で計算が走っていた。
緊張と重圧が蓋だった。それが遠見で、夜ごとに外れている。笑うたびに。抱かれるたびに。
「……白陽さん」
「なに」
「その揺れは、遠くからわかるものですか」
「私にはわかるわよ」
「あなた以外には」
白陽は初めて、手を止めてこちらを見た。淡い色の目だった。いつもより一秒だけ長く、俺を見た。
「——探しものをしている人間になら、わかるでしょうね」
それだけ言って、視線は盤面に戻った。
「もう一手よ」
俺の番だった。確かに俺の番だった。
俺はカードを選んだ。選びながら、選ぶのとは別の場所で、一つの仮説が組み上がっていくのを止められなかった。
考えたくない仮説だった。
帰り際、白陽が思い出したように言った。
「そういえば。今日、猫を見たでしょう」
「……なぜわかるんですか」
「顔に書いてあるわけじゃないけど、なんとなく。……猫はね、境目の獣よ。人と、人でないものの境目が緩んでいる場所に寄るの」
「緩んでいる場所」
「あるいは、人」
白陽は茶碗を置いた。
「かわいがってあげなさい。猫が選んだなら、悪いものではないから」
────
夜、書き物を終えて廊下に出た。
女たちの居間の前に、灯りが残っていた。
「——で? で? それで?」
小夜の声だった。
「……だ、だから——その先は、言いません。内容は選ぶと決めているので」
「そこからが本題では」
「本題だから選ぶんです」
俺は廊下の柱の陰で足を止めた。盗み聞きの形だが、この位置は俺の屋敷の廊下だ。誰も咎めない。咎める者がいるとすれば話している三人だけだ。
「……でも」と風音の声がした。「よかったね、栞」
「……はい」
「最初に来た頃さ。栞、笑わなかったよね」
「……そう、でしたか」
「笑ってたよ。口では。でも顔が笑ってなかった。礼儀として笑ってる顔だった。……私、ああいうの見るとわかるんだ。符闘場で負けた後、ずっとああいう顔してたから」
「風音さん……」
「今は違う。今の栞は、顔から先に笑う。……だからさ、その、なんだ。よかったね、って」
「……はい。……ありがとう、ございます」
沈黙があった。柔らかい沈黙だった。
「ところで栞。どうでした? 世一さん」
「小夜っ!?」
「情報収集です。私の担当なので」
「……ど、どう、というか——」栞の声が裏返った。「く、比べる相手が、いませんので——わかりません、けど——」
「けど?」
「……せ、世界が、変わりました」
「ほう」
「ほう、じゃありません! 言いませんからね、これ以上は! あっ——夜長、だめです、膝に乗るなら爪を——」
にゃあ、と猫の声がした。
「夜長もこう言っています。この話はここまでです」
「猫を盾に使った」
「使いました」
三人が笑った。
栞が、声を上げて笑った。
初めて聞く笑い方だった。息を吸って、こらえて、こらえきれずに崩れる笑い方。作法の外側の、ただの十六の娘の笑い声だった。
——その瞬間だった。
廊下の行灯が、ふ、と揺れた。
風はない。俺は灯りを見た。焔が一度大きく傾いで、戻った。
居間の中で、猫が短く鳴いた。さっきまでの甘えた声ではなかった。何かを見上げる声だった。
そして——執務室の方向から、音がした。
音、と呼べるかどうかの、かすかなものだった。鈴を布でくるんで振ったような。札束が一斉に、わずかに、身じろぎしたような。
俺は執務室に戻った。
文書函の下の漆箱。異状はない。封も無事だ。
蓋に手を置いた。
——温かい。
指先でわかる程度の、だが確かな温度だった。九柱の神符が、さっきまで誰かの手の中にあったような温度をしていた。
居間の方から、まだ笑い声が続いていた。壁と廊下を挟んで、ここまでは届かないはずの声が、なぜか届いた。
蓋の温度が、その声に合わせて、脈のように上下している気がした。
「……気のせいだ」
口に出して、やめた。
もう使えない言葉だった。三度目だ。灯り、札の温度、そして今夜。三度重なったものを気のせいと呼ぶのは、計算ではなく逃避だ。
仮説はある。組み上がってしまった仮説が。
心が動けば、神が動く。心が大きい人間ほど、大きく揺らす。幸せは、蓋の外れ方がいちばん静かで、いちばん大きい。
そして——探しものをしている人間になら、わかる。
俺は漆箱から手を離した。
窓の外に、遠見の夜空があった。星は静かだった。今は。
——符帝家は、いちばん大きな神々と通い合う家系。
白陽の声が耳に残っていた。あの家の子の心は、天気と同じ。
晴れれば国が晴れる。
なら——あの娘が今、生まれて初めて晴れているとして。
その晴れ間は、どこまで見えている。