※この作品はR-18です。

『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』   作:シキセ

16 / 118
(時系列:第七話~第八話の幕間)
ルクシエルのカードデザイン:
【挿絵表示】



番外編六 晩酌の夜、まどろむ体温

その夜、英稟は学院の寮に泊まりだった。星宮邸の別邸には、俺とルクシエルの二人だけだった。

 

書類仕事を片付け終えると、窓の外はもう暗かった。遠海の海鳴りが、遠くでかすかに聞こえる。

 

棚の奥に、煙銀亭で分けてもらった魔力酒の瓶が一本残っていた。桃色に透き通った液体が、ランプの灯りを吸って淡く光っている。

 

「ルクシエル」

 

「はい、世一様」

 

すぐに白金の光が満ちて、彼女が現れた。呼ばれた理由も聞かずに、ただ嬉しそうに。

 

「付き合え」

 

瓶とグラスを二つ、卓に置いた。

 

「……お酒、ですか?」

 

ルクシエルが小さく首を傾げた。

 

「お前、飲めるのか」

 

「天使に食事は要りません。でも――世一様と同じものを口にするのは、好きです♡」

 

彼女はグラスを両手で持ち、俺の隣に静かに座った。

 

特に用があるわけじゃなかった。今日を終えるついでに、そばにいてほしかっただけだ。それを言葉にするのは、少し気恥ずかしかったので、黙って酒を注いだ。

 

「乾杯、ですか?」

 

「そういうことにしとくか」

 

グラスを軽く合わせると、硝子の澄んだ音が鳴った。

 

魔力酒は、甘さの奥にじんわりとした痺れがある。一口飲むと、指先まで軽い浮遊感が広がった。

 

「……美味しいです♡」

 

ルクシエルは目を細めて、もう一口飲んだ。頬がほんのり赤らんでいる。天使にも酔いは回るらしい。

 

「今日は何もない日でしたね」

 

「そうだな」

 

「符闘も、交渉も、誰かを口説く必要もない」

 

「珍しいだろ」

 

「はい♡ だから――嬉しいです」

 

彼女は俺の肩に頭を預けてきた。重さはほとんどない。ただ、温かさだけが伝わってくる。

 

「元の世界では、こういう夜はなかったんですか?」

 

「なかったな」

 

会社の後、コンビニ弁当を買って、誰とも話さず食って寝た。積み上げた何かが誰かに見られることもなかった。今、隣にいる相手が俺の一言一言を、静かに聞いている。それだけのことが、まだ時々、現実感を失くす。

 

「今はお前がここにいる」

 

俺はそれだけ言った。

 

「はい。ここにいます♡」

 

ルクシエルがグラスを卓に置き、俺の手に自分の手を重ねた。

 

しばらく、どちらも何も言わなかった。海鳴りだけが、窓の外で続いていた。

 

「ルクシエル」

 

「はい?」

 

「お前のカード――昔、死ぬほど欲しかった」

 

ルクシエルが小さく瞬きをした。

 

「……カードとしての、私、ですか?」

 

「ああ。『黄金鎖の天使』ルクシエル。存在だけは知られてた。カードリストにも載ってた。なのに、現物を見た奴がどこにもいない。一部じゃ幻のURって呼ばれてた」

 

「……知りませんでした」

 

「発売から何年経っても、誰の手にも渡らない。大会でも見た試しがない。知る人ぞ知る、って言葉がそのまま当てはまるカードだった」

 

俺は手の中のグラスを回しながら、続けた。

 

「それでも、何度も考えた。もしお前が手に入ったら、どういうデッキを組むか。陽属性一本で組むか、混成にして展開速度を取るか。低レアの動線をどう繋げてお前を最速で場に出すか――何百通りも、頭の中で組み直した」

 

「……」

 

「結局、一度も現物を見ないまま、社会人になった。それでも――ある日、開けたパックにお前が入ってた。今思えば、あり得ない話だ。誰一人持ってないカードが、よりによって俺の手に」

 

ルクシエルが、少し間を置いた。

 

「……あり得なくは、ないんです」

 

「どういう意味だ」

 

「あのカードは――一枚も、刷られていませんでした」

 

俺はグラスを持つ手を止めた。

 

「……は?」

 

「情報だけは本物でした。ですが、実物は最初から一枚も存在しなかったんです。あなたのパックにあったのは……私が、あなたを選んだからです」

 

しばらく、言葉が出なかった。

 

「いつからだ」

 

「ずっと前からです。あなたが、私のことをまだ何も知らなかった頃から」

 

ルクシエルは俯いたまま、続けた。

 

「ずっとお伝えしていませんでした。手に入るはずのなかった私を、あなたはそれでも何百回も欲しがってくださっていた。私も――ずっと前から、あなたを選んでいました」

 

言いながら、ルクシエルが、何も言えなくなった。

 

顔を見ると――耳まで赤くなっていた。

 

閨でどれだけ乱れても、愛の言葉をどれだけ囁いても、崩れたことのない顔だった。全肯定の笑みの下に、いつも余裕がある。それが今――初めて、余裕を失っていた。

 

「……ルクシエル?」

 

「……っ」

 

「どうした。今更、口説かれるくらいでどうにかなる奴じゃないだろう」

 

「はい……それは、そうなんです……っ」ルクシエルは俯いたまま、声を絞り出した。「今のあなたに愛されることには、慣れているつもりでした。でも――」

 

「でも?」

 

「まだ私が、ただの一枚の式符でしかなかった頃から――データの向こうの、顔も知らない私を、そんなに欲しがってくださっていたなんて……っ」

 

「そこが引っかかるのか」

 

「はい……っ。今の私を好きだと言われるより――ずっと恥ずかしいです。あなたを選んだことがない頃の私まで、愛されていたなんて」

 

彼女の顔が、これまで見たことのないくらい赤くなっていた。戦闘でも、閨でも見せたことのない色だった。

 

「言葉にすると、ものすごく――恥ずかしいことを、言われている気がします……っ」

 

「悪かったか」

 

「いいえ……っ」

 

ルクシエルは俺の胸に、額をぐりぐりと擦りつけてきた。子供のような仕草だった。

 

「嬉しくて――どうしたらいいか、分からないだけです……っ♡」

 

その姿があまりに可愛くて、俺は思わず彼女の後頭部に手を回した。

 

「そうか」

 

「はい……っ♡ 世一様のその話――一生、忘れません」

 

俺は彼女の顎を持ち上げ、その赤い顔に口づけた。

 

深くはしない。ただ、甘さを分け合うだけの口づけを、何度も。

 

「ん……っ♡」

 

寝台に移る間も、手を離さなかった。ドレスアーマーの留め具を、ひとつずつ外していく。焦る理由が何もない夜だった。

 

「世一様の手、いつもよりゆっくりです」

 

「今夜はそういう気分だ」

 

「……嬉しいです♡」

 

白金の肌が、ランプの灯りの下で淡く輝いていた。俺はその肩に唇を落とし、鎖骨をなぞり、時間をかけて彼女の輪郭を辿った。

 

「んっ……ふ……っ♡」

 

いつもの喘ぎよりも、声が小さい。荒々しさを求めていないからだ。

 

指先で胸の先端に触れると、彼女の背中が小さく震えた。

 

「あ……っ♡ そこ、そんなに優しくされると……くすぐったいような、変な感じが……っ♡」

 

「嫌か」

 

「いいえ……っ♡ 好きです、こういうの……」

 

俺はゆっくりと彼女の脚を開き、指先で潤いを確かめた。急かす動きはひとつもない。

 

「んぁ……っ♡ 世一様……」

 

「まだ待て」

 

「……っ♡ はい」

 

指を沈め、ゆっくりと出し入れした。彼女の内側が、俺の動きに合わせて柔らかくうねる。

 

「はぁ……っ♡ ん……気持ちいい……ですけど……なんだか、焦らされてるみたい……っ♡」

 

「そのつもりだ」

 

「……意地悪ですね、世一様♡」

 

彼女は笑いながら、それでも腰を小さく浮かせた。もっと欲しいと、言葉より先に体が動いていた。

 

俺は指を引き、代わりに自分自身を、ゆっくりと押し進めた。

 

「あ……っ……あぁ……っ♡ 入ってきます……ゆっくり……」

 

「痛いか」

 

「いいえ……ただ、いつもより――全部、感じます……っ♡」

 

最奥まで進めても、動かなかった。しばらく、そのまま繋がった熱だけを分け合った。

 

「……こういう繋がり方も、あるんですね」

 

ルクシエルが、俺の頬に手を添えて言った。

 

「知らなかったか」

 

「はい。ずっと、あなたに必要とされることばかり考えていました。今は――ただ、ここにいるだけで、満たされています♡」

 

俺はゆっくりと腰を動かし始めた。強くはしない。波のように、緩やかに。

 

「んっ……あ……っ♡ ゆっくりなのに……奥まで、ちゃんと届いて……っ♡」

 

「これでいいのか」

 

「はい……っ♡ もっと、こうしていてほしいです……」

 

彼女の両腕が、俺の背に回った。しがみつくというより、ただ寄り添うような抱き方だった。

 

「んぁ……っ♡ あ……っ……世一様……好き……」

 

「知ってる」

 

「知ってても、言いたいんです♡」

 

ゆっくりとした律動を、長く続けた。急ぐ理由はどこにもなかった。彼女が小さく震えるたび、俺はそのまま抱きしめる力を強めた。

 

「んっ……っ♡ そろそろ……私……」

 

「まだいい。もう少し、このままで」

 

「……っ♡ はい」

 

長い時間をかけて、彼女の呼吸が少しずつ速くなっていった。声も、震えも、ゆっくりと高まっていく。

 

「あ……っ♡ ん……っ……世一様……もう……」

 

「いいぞ」

 

「んぁあ……っ♡♡ ……はぁ……っ♡」

 

大きな波ではなく、長く静かに続く震えだった。彼女は俺の胸に顔を埋め、しばらく動かなかった。

 

俺も、その波に合わせるように、ゆっくりと最後まで注いだ。

 

「……あったかい……です……っ♡」

 

ルクシエルが、蕩けた声で呟いた。

 

事が終わっても、どちらも動かなかった。繋がったまま、互いの体温だけを分け合っていた。

 

「世一様」

 

「何だ」

 

「今夜のこと、忘れないでください」

 

「忘れる理由がない」

 

「……ふふ、そうですね♡」

 

彼女は俺の胸に頬を寄せ、静かに目を閉じた。

 

胸の奥にある、あの冷たい空洞――英稟や苑子を組み敷いた後にいつも戻ってくるあの感覚が、今夜は一度も顔を出さなかった。

 

(ここだけは、削れない)

 

俺はルクシエルの髪をゆっくりと撫でた。

 

窓の外では、海鳴りがまだ続いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。