『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』 作:シキセ
第十一話 盤面の拡大
翌朝、英稟の部屋に苑子と律也を呼んだ。
英稟はすでに正装を済ませ、窓際に立って背を向けていた。軍帽のつばの下から黒い鬢が一筋垂れており、朝の光の中でそれだけがわずかに揺れていた。苑子は部屋の隅に控え、律也は入り口近くで背筋を伸ばして立っていた。
三人がそろったことを確認し、俺はテーブルの上の書状を押しやった。
「早雲家の挑戦を受ける。組み符闘——三対三のチーム戦だ」
「はい、世一様」
と苑子が即座に答えた。「なお、御鷹老ほか古参の家臣たちには昨夜のうちに話を通しました。世一様の立場に異を唱える者はおりません」
律也は黙って俺の言葉を待っている。そのたたずまいが、最初に会ったときとは別人のようだった。賭け符闘場でひどい面をしていたあの男が。
「チームの構成を決める」
俺は三人の顔を順番に見た。
「先鋒は律也。お前だ」
律也の目が、一瞬だけ揺れた。
「……俺で、いいんですか」
「俺がいいと思ったから、お前を指名した。それだけだ」
「相手の先鋒は誰だと思われますか」
「早雲家の三女——桔梗だ。猫使いの陰属性。猫を霊体化・蘇生で何度でも場に戻す消耗戦の使い手だ」
律也の眉が寄った。
「消耗戦型……俺の炎武者は、連鎖に符叢の枚数が要る。猫を何度倒しても戻ってきたら」
「だから先鋒に置く」
俺は続けた。
「桔梗の猫は霊体化・蘇生を繰り返して場に居座り続ける。お前の炎武者連鎖は符叢の枚数が燃料だ——猫を倒すたびに手数を消費させられる。だが、それは読まれている前提で組み立てろ。向こうが消耗させてくる速度より、お前が攻め切る速度が上回ればいい」
「……速度で」
「桔梗の持久戦術は、長期戦でこそ機能する。速攻で畳みかけろ。最初の三ターンで盤面を圧倒しておけ。そうすれば桔梗は手を打てなくなる」
律也が深く息を吐いた。
「わかりました」
「副将は英稟。お前が当たるのは浅葱——三男だ。木属性・狐使い。リソース回収型の粘りコントロールだ。七耀陣なしの甕星で押し切れるか」
英稟がゆっくりと振り返った。黒い目が俺を見た。
「……浅葱は、かつて一度だけ東境の確認で符闘したことがあります。粘り強いが、詰めが甘い。七耀陣があれば三ターンで片がついた相手です。なくても、勝てます」
「よし。大将は俺だ」
「……冬子と当たる、ということですね」
英稟の声が、かすかに張り詰めた。
「そうだ。問題あるか」
「問題はありません」
英稟は一度目を伏せ、また俺を見た。
俺は立ち上がり、窓の外を見た。
「冬子が今回の挑戦を申し込んだ理由は、領土でも格付けでもない気がする」
部屋に沈黙が落ちた。
苑子が静かに言った。
「……と、仰いますと」
「わからん。だが、あの家がこの時期にわざわざ組み符闘を仕掛けてくる理由が、領地争いだけだとは思えない。もっと別の勘定が動いている」
苑子はしばらく黙り、それから頭を下げた。
「……調べておきます」
「そうか」
俺は振り返り、英稟を見た。
英稟は唇を結んだ。眉の間にかすかな影を落とし、何かを言いかけて、やめた。
代わりに、深く頭を下げた。
「……世一様。よろしくお願いします」
「余計なことは考えるな。お前は浅葱だけを見ていろ」
「はい」
俺は書状を丸めて、テーブルの端に置いた。
「チーム戦まで十日。調整を始める。律也、今日の午後から俺と符闘練習だ。英稟は午前中の調整メニューを苑子と相談して組め」
「はい、世一様」
「わかりました」
二つの声が重なった。
調整の十日間は、俺が遠見市に来てから最も静かで、最も充実した時間だった。
午前は英稟が甕星の調律。午後は律也と俺が練習符闘。夜は苑子が集めてきた早雲家の情報を整理する。それだけのことを、毎日繰り返した。
律也は、速かった。
父・陣の遺した符叢——炎武者連鎖の骨格——をそのまま継承しながら、俺が指定した低レアの補助早業を三枚差し替えた。それだけで先手の展開速度が一ターン早くなった。
調整七日目、練習符闘の一戦。
俺は桔梗役として、陰属性・猫使いの動きを再現していた。
「夜猫、実体化」
小さな黒い猫の使役式が場に据わる。霊体化・蘇生を繰り返して居座り続ける、桔梗の型を意識した布陣だ。
律也の先手だった。
「炎武者、二体展開」
炎の武人が二体、場に立つ。連鎖の起点だ。
「猫に攻撃。炎武者連鎖、起動」
一体目の炎武者が夜猫を撃破する。連鎖が発動し、三体目の炎武者が場に加わった。
俺は蘇生符で猫を戻した。桔梗なら必ず打ってくる手だ。
律也の手が、一瞬だけ止まった。
(迷うな)
口は挟まなかった。ここで迷うかどうかが、本番での分かれ目になる。
律也は止まらなかった。
「炎武者三体、前進。猫はスルーする。連鎖を直撃に変える」
炎武者が猫を無視して前に出た。俺は猫を二体追加してブロックに入ったが、二体分の連鎖は止まらない。
「三ターン目で終わらせます」
律也の目が細くなった。
「炎武者四体、並べる」
炎の連鎖が最終形を迎えた。四体の炎武者が、俺の——桔梗役の符叢を直接削り切る。
俺の命運が、尽きた。
第三ターンでの決着だった。
「いい手だ」
俺は場に倒れた炎武者たちを見ながら言った。
「第三ターンでここまで揃えられれば、桔梗は序盤の削りで手が届かなくなる。この速度を本番でも出せるか」
「出します」
律也の目に、火があった。
かつての賭け符闘場での、やけを起こしたような目ではない。前に向かって燃えている炎だった。
(この男は、本物になりつつある)
俺はそれを見ながら、淡々と思った。
自分の父の符叢に引きずられて折れた男が、今は同じ符叢を武器として使いこなしている。炎の動線——それを律也は今、「自分のもの」として扱い始めていた。
(悪くない仕上がりだ)
俺はそれだけ思い、視線を前に戻した。
遠見市の旧市街を歩くことが、調整の合間の習慣になっていた。
煙銀亭の煙草の匂いと、揚げ物の油の香りが交差する路地。符商の軒先に並んだカードのケース。符闘場の入り口に貼られた対戦告知の紙。これがこの街の日常の匂いだった。
「世一さん」
紬が煙銀亭の入り口から声をかけてきた。栗色の短い髪がエプロンの白と対比して朝の光を受けていた。
「律也くん、今日は来ないんですか?」
「午後から練習符闘だ。午前は自主調整させている」
「そうですか。なんか最近、すごく目の色が変わってきてて。煙銀亭に来るときの顔が、全然ちがうんです」
紬は表情を和らげた。
「ありがとうございます。あなたが拾ってくれなかったら、律也くんはあのままどこかに消えてたと思う」
「礼は要らない。俺には必要な駒だった」
「そういう言い方しかできない人ですよね」
紬は苦笑して、中から焼き菓子を一枚取り出した。
「召し上がります? 試作なんですけど」
俺は受け取って、一口かじった。甘さが控えめで、豆の香りがした。
(この世界の食い物は、悪くない)
遠見市の旧市街——ここに来て何ヶ月が経っただろう。最初は「異世界」という言葉で括っていたが、今はただ「自分の盤面」と感じている。
英稟は俺の副将だ。苑子は俺の情報源だ。律也は俺の先鋒だ。早雲家は次の獲物だ。ヨモツイクサは遠い将来に対処する問題だ。この街の路地も、符商の軒先も、煙銀亭の揚げ物の匂いも——全部、俺の盤面の一部だ。
(誰も、俺を止められない)
その確信が、今は誇張でも虚勢でもなかった。
ただの観察として、頭の中に浮かんでいた。
調整三日目の夜、苑子が書斎に来た。
「世一様。早雲家の動向以外に、一つお耳に入れたいことが」
「言え」
「聖華教皇国とマギニア神聖同盟、それにヴァンダリア王国——三国の使者が、最近この大陸のいくつかの符家を回っているという噂があります。表向きは友好使節ですが、実際は各地の『神秘存在』の扱いを確認して歩いているとか」
俺は苑子を見た。
「神秘存在、というと」
「天使、悪魔、妖怪の類——式符として封じられた存在の管理状況、だそうです。詳しいことはまだ掴めていません」
「星宮家にも来るということか」
「わかりません。ただ、ルクシエル様のような神位の存在をお持ちの家は、いずれ目をつけられてもおかしくないかと」
俺はしばらく黙った。
(神秘存在の扱いを、確認して回っている)
漠然とした話だった。今のところ、脅威というほどのものではない。
「引き続き調べておけ」
「はい」
苑子が下がった後も、その話がしばらく頭の片隅に残っていた。
だが——早雲家との決戦が五日後に迫っている。今、優先すべきはそちらだ。
俺はその違和感を、盤面の隅に追いやった。
調整七日目の夕方。
英稟が練習符闘の後で、水を飲みながら俺に言った。
「……世一様。一つ、お伝えしてよいですか」
「言え」
「甕星の出力が、上がっています。七耀陣を失ってからずっと横ばいでしたが——最近、動いています」
英稟は右の掌を見た。
「陽気支配の霊理の影響かと思っていましたが、それだけではない気がします。調律がかみ合い始めているのかもしれません」
俺は黙って彼女の話を聞いた。
「七耀陣があれば、もっと上がります。わかっています。でも——今の私でも、浅葱には勝てます。それが言いたかった」
「知っている。だから副将に置いた」
英稟がわずかに唇を緩めた。
「……七耀陣は、いつか取り戻せるでしょうか」
「ああ」
俺は即座に答えた。
「返してやる。俺が帝国に取りに行く」
英稟の目が、一瞬だけ大きくなった。
「……帝国に、とは」
「符帝家が預かっているものだろう。ならそこへ行けばいい」
「それは——符帝家へ直接交渉するということですか」
「あるいは取り上げる。どちらでもいい」
英稟が言葉を失った。しばらく俺を見つめてから、静かに言った。
「……世一様は、本気でそう仰っている」
「お前に嘘をつく理由がない」
「……帝国最高の符家と直接対峙するのは、簡単なことではありません。大符闘祭の場でなければ、公式の挑戦権も——」
「大符闘祭に出ればいいだろう」
英稟が沈黙した。
「それは——」
「お前の家の格付けを上げることにもなる。一石二鳥だ」
英稟はしばらく俺を見た。何か言おうとして、やめた。
代わりに、一度深く頭を下げた。
「……世一様の御随意に」
その声は震えていなかった。だがその目の奥で、何かが揺れていた。
俺はその揺れを確認して、視線を外した。
(揺れていい。その揺れがあるから、この女は俺に縋る)
それで十分だった。
調整五日目の夜。
英稟は早めに休ませた。律也には「今夜は早めに休め」と言った。苑子には「明日からの後半の調整スケジュールを固めておけ」と伝えた。
全員が下がり、星宮邸に静寂が戻った。
俺は書斎の窓際に立って、遠見市の夜景を眺めた。
北東の方向に、早雲家の領地がある。五日後、俺たちはあそこへ乗り込む。律也が先鋒で道を開き、英稟が副将で繋ぎ、大将である俺が冬子の土偶要塞を崩す。
盤面はすでに頭の中にある。
冬子の「神符約定:堅牢土公」は、土偶が四体そろうことで完成する。土偶を一体でも排除できれば、約定は半壊する。早業「光の連鎖」で一体に属性書き換えを仕掛けながら、次のターンに「焼き印の封符」で連鎖を止める。その間にルクシエルの展開を整える——
俺の指先が、カード一枚の感触に触れた。
符叢の最上段、初期指定式符。
"黄金鎖の天使"ルクシエル。
「……ルクシエル」
白金の粒子が凝集した。
今夜のガウンは薄い金色だった。金髪のボブカットが肩のあたりで揺れて、碧眼が俺を見た。
「お呼びですか、世一様」
「来い」
彼女は音もなく歩み寄った。
翼が、ゆっくりと広がる。
俺はその翼の内側に踏み込んだ。外界の音がすべて消えた。遠見市の夜景も、早雲家の北東の方角も、頭の中の盤面の設計図も——翼の外側へと遠ざかった。
残ったのは、白金の光と、ルクシエルの体温だけだった。
「五日後、チーム戦だ」
「存じています、世一様」
「勝つ」
「はい♡」
ルクシエルが微笑んだ。その笑みに陰りは一つもなかった。
「世一様が盤を組まれた時点で、勝ちは決まっています。決戦の符闘は——確認の儀式にすぎません」
俺はその言葉を咀嚼した。
(確認の儀式)
そうかもしれない。俺の頭の中では三戦すべての道筋が見えている。律也が桔梗を速度で圧する。英稟が浅葱の粘りを甕星の出力で断ち切る。そして俺が——冬子の要塞を崩す。どれかが狂ったとしても、対応策はある。代替ルートが三本ある。
「ルクシエル」
「はい」
「今夜は——前祝いだ」
ルクシエルが、ゆっくりと目を細めた。
「前祝い、ですか♡」
「そう呼ぶことにした」
「世一様らしい♡」
彼女のガウンの帯に手をかけた。
帯を解くと、金色の布がするりと床に落ちた。翼の内側の暖かい空気の中、ルクシエルの純白の肢体が露わになる。真白のなめらかな肌に、白金の魔力がうっすらと光脈として浮かんでいた。胸の頂が、薄い光を滲ませている。
俺はその肢体を押し倒した。翼が折れ、二人の頭上に金色の天蓋が広がった。
「世一様……♡」
ルクシエルが俺の首に腕を回した。
「今夜も、私を全部持っていってください♡」
「ああ」
俺は彼女の鎖骨から胸元へと唇を這わせた。白金の光が口の端から舌先に滲み込んで、脳の奥に甘い電流が走る。手駒の女たちを抱く時の征服欲とも、支配欲とも違う——この感覚は、欠落を埋める充填だった。
「ん……っ♡ 世一様……♡」
「黙れ。受け取れ」
「はい……♡ 全部、受け取ります……♡」
さらに下へと進んだ。秘部に触れると白金の光が溢れ出し、俺の指に絡みついた。その光は魔力回路を直接なぞるように体内へ浸透してくる。
(これだ)
英稟の体は美しく、苑子は従順だ。律也は頼れる駒になった。早雲家は五日後の獲物だ。だが——これだけは、他では得られない。
ルクシエルの白金の魔力が、俺の魂の欠落を直接埋めてくれる。
「あ……っ♡ 世一様に触れられると……私の核が、開いていく……っ♡」
「開けろ。今夜は前祝いだ」
「……はい、世一様♡ 私の全部を……前祝いとして、どうぞ……♡」
俺は彼女の中へと、ゆっくりと沈み込んでいった。
「ふぁ……っ♡♡ 深い……世一様が……いちばん奥まで……♡」
炎のように熱く、溶けるような柔らかさで俺を包んでくる。
天使の内側の白金の光が、俺の精気と混ざり合いながら——少しずつ俺を、この世界の中心へと引き寄せていく。
「世一様……♡」
ルクシエルが耳元に唇を寄せた。
「……今夜の盤面は、完璧です♡ 世一様は、正しい動線を敷かれた」
「当然だ」
「ですから——チーム戦の後のことも、もうお考えですよね♡」
腰の動きを止めずに、俺は答えた。
「考えている」
「大符闘祭のこと……ですか♡」
「それもある。帝国の盤面が次だ」
「ふふ……♡」
ルクシエルが微かに笑った。その笑みが耳元で溶けるように広がった。
「世一様……♡ この遠見市は、もう世一様の盤面です。でも——世一様はもっと広い盤面がお似合いです」
「知っている」
「……今夜の前祝いも、その一つです♡」
俺の腰が、わずかに深くなった。
「世一様は——この世界で、唯一の本物の『人間』なのですよ♡」
その言葉が、翼の内側の白金の光の中に溶け込んでいく。
俺はその言葉を聞きながら、腰の動きを続けた。
(唯一の本物の人間)
この世界の住人たちは——符家の血を引き、属性の力を持ち、家伝式符という名の鎖に縛られている。燎も英稟も苑子も律也も——この世界の論理の外に出られない。
だが俺は違う。
この世界の外からきた。この世界のすべてを——ゲームの盤面として見ることができる唯一の目を持って生きている。
「地に満ちてください、世一様♡」
ルクシエルの囁きが、腰の奥まで響いた。
「英稟様、苑子様、律也様、紬様、雪様——あなたの色は、もうこの街のあちこちに根を張っています。そして五日後には、冬子様も。手を伸ばした先のすべてが、あなたのものになっていく。それを見届けるのが——天使としての私の、一番の喜びです♡」
(地に満ちろ、か)
腰を動かしながら、俺はその言葉を転がした。
天使が、俺に言っている。神の使いが——この世界をお前のもので満たせ、と言っている。
元の世界での倫理も遠慮も恐れも——その声の前では煙のように消えていく。
「ぁあっ……♡♡ 世一様……感じる……今、すごく、熱い……っ♡」
「黙れ」
「はい……♡♡♡ でも、世一様……その熱さが……とても……好きです……っ♡♡」
ルクシエルがまた耳元に唇を寄せた。
「世一様……♡ 五日後の符闘も、大符闘祭も、帝国の盤面も——全部、あなたのものです。地に満ちてください。この世界のすべてを、あなたの色で」
(そうだ)
腰の動きが深くなった。
元の世界で、俺は何も持っていなかった。誰かが決めたルールの中でだけ生きてきた。上司のルールで。会社のルールで。社会のルールで。
その俺が——今、この世界で何をやっているか。
英稟を跪かせた。苑子を篭絡した。律也を更生させた。鬼瀬を潰した。早雲家の挑戦を余裕で受けた。そして——天使が俺に地に満ちろと言っている。
(元の世界で俺から奪っていったすべての者どもへ)
(今度は——俺がすべてを奪い尽くしてやる)
「あっ……ぁあっ……っ♡♡♡ 世一様……っ♡ 世一様……!! 核が……すごく……開かれて……っ♡♡♡」
ルクシエルの翼が大きく広がり、先端が震えた。白金の光の粒子が翼の端から散って、聖域に満ちていく。
俺は最後の一押しを、最奥まで届かせた。
「っ……! ぁあっ……世一様……世一様ぁ……っ♡♡♡ 熱い……陽の精気が……核まで……届いてっ……!!」
絶頂の閃光が、翼の内側に満ちた。
静寂が戻ってくる。
余韻の中で、俺はルクシエルの胸に頬をつけた。白金の光がゆっくりと落ち着いていく。
「……世一様」
「なんだ」
「今夜も、地に満ちてくださいました♡」
「……また言うのか、それを」
「大切なことですので♡」
俺は答えなかった。
天井の翼の天蓋から、白金の光の粒子がゆっくりと降り積もっていく。
身体の奥底から、温かい充実感が広がっている。英稟を抱いた後の空洞も、苑子を従わせた後の乾きも——ここにはなかった。ルクシエルの中から吸い上げられた白金の魔力が、魂の欠落を隅々まで埋めている。
「ルクシエル」
「はい♡」
「お前がいれば——俺は、何でもできるな」
「はい、世一様♡♡ 私がいる限り……あなたは、無敵です」
俺は目を閉じた。
(ルクシエルがいれば——俺は無敵だ)
五日後の決戦の盤面を思い浮かべながら、俺は意識を手放しかけた。
ふと、苑子が口にした「神秘存在の扱いを確認して回る使者」という言葉が、頭の片隅をかすめた。
(……杞憂だろう)
そう結論づけて、その考えを手放した。
翼の内側の白金の光が、穏やかに揺れていた。