※この作品はR-18です。

『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』   作:シキセ

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第十七話 見舞いじゃない

観察封印から、二日が経った夜だった。

 

昼の間は、動けた。エーデルガルトを軸に据えた符叢の組み直し。律也と英稟の調整。東境戦までの残り日数から逆算した動線の再設計。やるべきことを並べて、順番に潰していけば、思考は回る。

 

問題は、夜だった。

 

灯りを落とした自室で、机の上の一枚が目に入る。青い免紙の貼られた、冷たい紙。見ないと決めても、視線が勝手にそこへ戻る。手に取っても、何も返ってこないと分かっているのに。

 

指先で免紙の縁をなぞりかけて、やめた。

 

その時、扉が控えめに叩かれた。

 

苑子なら声をかけてくる。英稟なら名乗る。どちらでもない、遠慮がちな叩き方だった。

 

扉を開けると、学院の外套を頭から被った小柄な影が立っていた。

 

「……お前か」

 

澪だった。フードの奥から、水色の髪が一房こぼれている。

 

「入れて。誰かに見られる」

 

「燎はどうした」

 

「寝てる。……前と同じ。黙って抜けてきた」

 

俺は半歩引いて、彼女を通した。澪は部屋に入ると、フードを外して部屋の中を一度、ぐるりと見た。視線が机の上で止まった。

 

青い免紙。それが何を意味するか、符士なら一目で分かる。

 

「……本当だったんだ」

 

「どこで聞いた」

 

「下町の符闘場は、その話で持ちきり。三国の査察団が星宮の邸に入ったって。天使の式符に、封印が下されたって」

 

澪は外套を脱ぎ、椅子の背にかけた。それから、俺の顔を正面から見た。

 

「燎が言ってた。『あいつ、あの天使を取り上げられたらしい』って。軽い言い方だったけど……あの馬鹿、本当は気にしてた。声のトーンで分かる。だから——」

 

「だから?」

 

「…………腑抜けてるんじゃないかと思って。様子を、見に来ただけ」

 

澪は目を逸らした。

 

「心配とか、じゃない。この前の、借りがあるから。それだけ」

 

「借りの覚えはないが」

 

「あるの。……私が勝手に、そう決めてるの」

 

俺は小さく息を吐いて、ベッドの縁に腰を下ろした。

 

澪はしばらく立ったまま、もう一度、机の上の免紙を見た。それから部屋の隅、いつも白金の光が滲んでいた辺りを見た。

 

「……本当に、いないんだ」

 

噂で聞いた話と、目の前の空っぽの部屋は、重さが違うと言いたげだった。

 

「いない」

 

短く答えた。それ以上の言葉が出てこなかった。

 

澪の目が、わずかに揺れた。前に来た夜、この部屋にはルクシエルがいた。俺の傍らで笑って、澪の背を支えて、耳元で囁いていた。あの白金の気配が、今夜はどこにもない。部屋が、こんなに暗かったかと思うほどに。

 

「ひどい顔してる」

 

澪が言った。

 

「そうか」

 

「そうよ。強がってる符士の顔なんて、見飽きるほど見てきたから分かる。燎もね、負けた夜はいつもそういう顔で『平気だ』って言うの。あなたのは、もっとひどい」

 

言い返す言葉を探して、やめた。この女の観察眼は、初めて会った倉庫の夜から一貫して冷静だ。取り繕うだけ無駄だった。

 

「……で、様子は見ただろう。満足したか」

 

「してない」

 

澪は俺の正面に立った。頬が、じわりと赤くなっていくのが符灯の薄明かりでも分かった。

 

「……座ってて。動かないで」

 

「何のつもりだ」

 

「元気づけて、あげる」

 

澪は俺の膝の間に、ゆっくりと膝をついた。

 

「勘違いしないで。一回だけ。借りを返すだけだから。あなたが腑抜けたままだと……その、なんていうか……調子が、狂うから」

 

言いながら、澪の指が俺の帯にかかった。手つきはぎこちない。前の夜は、俺とルクシエルが全部を導いた。自分から脱がせるのは、初めてなのだろう。指先が二度、結び目で滑った。

 

「……見ないで」

 

「無理を言うな」

 

ようやく寛げた下衣から、澪は俺自身を取り出した。まだ熱を持ちきっていないそれを、両の掌でそっと包む。細い指だった。符士の鍛錬でわずかに硬くなった掌が、確かめるように幹を上下する。

 

「……大きく、なってきた」

 

「当然だ」

 

「っ……いちいち、言わないで」

 

澪は顔を近づけ、先端に唇を寄せた。ちゅ、と音を立てて口づけてから、舌先で鈴口を舐め上げる。慣れない舌遣いだった。それでも止まらずに、裏筋を根元から先端までゆっくりと辿り、それから思い切ったように、口の中へ含んだ。

 

「ん……っ、ぅ……」

 

熱く濡れた口腔が、俺を半ばまで飲み込む。じゅぷ、と水音が立った。澪は目を閉じ、眉を寄せて、懸命に頭を前後させ始めた。深く含みすぎて、小さくえずく。

 

「無理はするな」

 

「ん……っ、う、るさい……」

 

口を離してそれだけ言い、また咥え直す。じゅぷ、じゅぷ、と音が繰り返される。両手は幹の根元を支え、口が届かない分を掌で擦り上げる。拙い。拙いが——この女が、誰に教えられたわけでもなく、俺のためにこれをやっている。その事実が、腹の底の冷えた場所に、じわりと火を入れた。

 

「……ねえ」

 

澪が口を離した。濡れた唇と先端の間で、唾液の糸が細く光って、切れた。

 

「なんだ」

 

「あんたが負けるのは、なんかヤダ」

 

睨むような上目遣いのまま、ぶっきらぼうに言った。言ってから、自分の言葉に自分で赤くなった。

 

「……理由とか、聞かないで」

 

「聞いていない」

 

「なら、いい」

 

澪はまた顔を伏せた。今度は先端に軽く吸いつく。ちゅ、ちゅ、と音を立てて何度か吸い、それから幹の横に唇を滑らせて、根元まで舌を這わせた。動きは相変わらずぎこちない。それでも、どこに触れれば俺の息が変わるか、一つずつ確かめながら覚えようとしているのが分かった。

 

「……あのさ。前の夜」

 

幹に唇をつけたまま、くぐもった声で言う。

 

「胸。いい形って、言われた」

 

「言ったな」

 

「…………ああいうこと言われたの、初めてだったの。だから……うれしかった。ばかみたいだけど」

 

言い切る前に、照れを誤魔化すように深く咥え込んだ。じゅぷっ、と大きな水音が立つ。頬をすぼめて吸い上げながら、潤んだ目が精一杯の強がりで俺を睨んでいた。

 

「……っは。この私が、ここまで、するんだから」

 

口を離し、唾液に濡れた幹を細い掌で擦り上げながら、澪は言った。

 

「絶対、負けちゃだめよ」

 

(——いい女だな、こいつ)

 

素直に、そう思った。

 

そして、気づいた。胸の底のどこかに薄く残っていた感触——アニメの主人公の相棒を、本人に隠れて抱いているという、引け目のようなもの。それが今の一言で、跡形もなく消し飛んでいた。

 

(もうこの女は、俺のものだ)

 

(燎には——絶対に、渡さない)

 

(……ここ二日で、初めてか)

 

盤面のことも、免紙のことも、頭から消えている。目の前の水色の頭と、口腔の熱だけがあった。

 

やがて、澪の様子が変わり始めた。

 

頭の動きに合わせて、腰が落ち着きなく揺れている。太ももを擦り合わせ、膝立ちの姿勢が保てなくなってきている。口の端から漏れる吐息に、甘いものが混ざり始めた。

 

「んっ……ふ……っ、ん……♡」

 

「澪」

 

名を呼ぶと、肩がびくりと跳ねた。

 

「触れているだけで、そうなるのか」

 

「……っ、ちが……」

 

「違わないだろう。回路が、また熱を持ち始めている」

 

俺の陽の気に、この女の魔力回路は芯まで作り替えられている。奉仕のつもりで触れて、自分の火に薪を焚べていることに、途中から気づいていたはずだ。

 

澪は口を離し、濡れた唇のまま、俺を睨み上げた。目の焦点が、もう揺れていた。

 

「……今日は、私が、あなたを元気づける日なの。だから……」

 

「だから?」

 

「…………最後まで、させて」

 

俺は澪の腕を取り、引き上げた。ベッドに座った俺の膝の上に、向かい合わせに乗せる。制服を脱がせると、引き締まった符士の身体が薄明かりに晒された。薄く割れた腹の筋。しなやかな肩。そして、小ぶりだが張りの強い、形のいい胸。

 

「……っ、あんまり、見ないで。どうせ、小さい」

 

「前にも言ったはずだ。いい形をしている」

 

「〜〜っ、また、そういうこと言う……っ」

 

澪は真っ赤になって俯いた。それでも、胸の先端はもう硬く尖っていた。掌で包んで揉み上げると、張りのある膨らみが指の間で形を変え、澪の腰が跳ねた。

 

「あんっ……♡ や……敏感に、なって……っ」

 

「なっている、じゃない。したんだ。俺とルクシエルがな」

 

「〜〜っ、ばか……っ」

 

澪は俺の肩に掴まり、自分から腰を浮かせた。濡れそぼった入り口に、俺の先端をあてがう。それから、覚悟を決めるように一度息を吸って——ゆっくりと、腰を沈めた。

 

「あ……っ、あぁ……っ、はい、って……くる……っ♡」

 

熱く狭い内側が、俺を根元まで飲み込んだ。対面座位のまま、澪の全身が小さく震えている。二度目とは思えない締めつけだった。奥まで収めただけで、内側が絡みつくように蠕動している。

 

「動くぞ」

 

「だめ……っ、今日は、私が……っ」

 

澪は俺の肩を押して、ベッドへ仰向けに倒した。騎乗位。俺に跨がったまま、両手を俺の腹に置き、膝立ちの腰をぎこちなく前後させ始める。

 

「んっ……♡ あっ……♡ こう……っ、で、いいの……っ」

 

「聞くな。お前がやるんだろう」

 

「〜〜っ、うるさい……っ♡」

 

前後の揺れが、次第に円を描く動きに変わっていく。腰が上下に弾み始めると、結合部からぐちゅ、ぐちゅ、と濡れた音が規則的に立った。引き締まった太ももが、俺の腰を挟んで震えている。小ぶりの胸が、動きに合わせて小さく揺れた。

 

「あっ♡ あっ♡ やだ……っ、私ばっかり、気持ちよく……なって……っ♡」

 

「構わん。いい眺めだ」

 

「ばか……っ♡ あなたを、元気づけに……来たのに……っ♡ あっ、深……っ♡」

 

腰を落とすたび、最奥に先端が届く。そのたびに澪の背が撓り、水色の髪が跳ねた。健気に動いてはいるが、快楽に飲まれて律動が乱れ始めている。膝が笑って、リズムが保てない。

 

十分だった。

 

俺は身体を起こし、澪の背に腕を回して、そのままシーツへ組み敷いた。

 

「あっ……!? ちょ……っ、今日は私が、って……っ」

 

「元気は出た。ここからは俺がやる」

 

「〜〜っ、それ、ずるい……っ♡」

 

正常位で膝裏を押し上げ、深く突き入れる。ぐちゅん、と一際大きな水音が立って、澪の声が裏返った。

 

「ひぁあっ……♡ 奥……っ、いきなり……っ♡」

 

「二日ぶりに調子がいい。感謝しろ」

 

「なにそれ……っ♡ あっ♡ あっ♡ はげし……っ♡」

 

腰を打ちつけるたび、引き締まった腹の筋が波打つ。俺は澪の身体を裏返し、四つん這いにさせた。後背位。腰を掴んで引き寄せ、再び最奥まで貫く。

 

「んああっ……♡ この、かっこ……前も……っ♡」

 

「覚えているか」

 

俺は掌で、澪の尻を軽く叩いた。

 

ぱん、と乾いた音。瞬間、澪の中がきゅうっと締まった。

 

「ひゃんっ……!?♡ 〜〜っ、それ……っ♡ それ、だめ……っ♡」

 

「駄目じゃないだろう。前の夜に、そういう身体にした」

 

もう一度、反対側を軽く叩く。中の収縮が、はっきりと俺を締めつけた。澪はシーツに顔を埋めて、くぐもった声を漏らした。

 

「ずるい……っ♡ ほんとに、ずるい……っ♡ 叩かれる、たびに……お腹の奥、疼いて……っ♡」

 

「嫌なら止める」

 

「〜〜〜っ、……やめ、ないで……っ♡」

 

律動を速める。ぱちゅん、ぱちゅんと肌のぶつかる音と水音が重なり、澪の声がどんどん短く、高くなっていく。内側のうねりが強くなり、限界が近いのが分かった。俺も、長くはもたなかった。

 

「澪。出すぞ」

 

「……っ、いいから……っ、そのまま……っ♡ 前と、同じで……っ♡ 中……っ♡」

 

最奥へ叩きつけて、放った。

 

「あぁあっ——……♡♡」

 

澪の全身が大きく撓り、内側が痙攣するように俺を絞り上げた。熱が、最奥へ注がれていく。びく、びく、と余韻に震える背中を見下ろしながら、俺はゆっくりと息を吐いた。

 

頭の中が、静かだった。

 

黒いノイズも、あの六畳間の幻も、今は聞こえない。

 

澪はしばらくシーツに沈んでいたが、やがてのろのろと顔を上げ、肩越しに俺を睨んだ。汗で水色の髪が額に貼りつき、目は潤みきっていて、睨みの効果はまるでなかった。

 

「……元気、出たみたいじゃない」

 

「ああ。……そうだな」

 

自分でも意外なほど、素直な声が出た。

 

澪は身体を起こし、乱れた髪を手ぐしで直しながら、ぽつりと言った。

 

「あの天使がいなくても、あなたはあなたでしょ。私をこんな身体にしたのは、天使じゃなくて、あなたなんだから。……卑怯な手も、意地の悪い盤面も、全部あなたの実力なんだから」

 

「褒めているのか、それは」

 

「けなしてる。……三割くらいは、褒めてる」

 

澪は制服を着直し、外套を羽織った。フードを被る直前、机の上の免紙にもう一度だけ視線を落として、それから俺を見た。

 

「……次に、あなたが符闘場に立つ日。あるんでしょ、そのうち」

 

「ある。必ずな」

 

「見に行く。……別に、応援じゃないから。あなたが腑抜けたままじゃないか、確認しに行くだけ」

 

「好きにしろ」

 

「言われなくても、そうする」

 

澪はフードを被り、足音を殺して部屋を出ていった。扉が閉まる音は、来た時と同じくらい控えめだった。

 

俺はベッドに腰掛けたまま、机の上の一枚を見た。

 

免紙は冷たいままだ。白金の光も、甘い声も、まだ戻らない。胸の奥の空洞も、塞がってはいない。

 

だが。

 

(……三国の連中は、俺から杖を取り上げたつもりでいる)

 

杖がなければ立てない男だと、そう値踏みして、封をして、観測席に座った。

 

(残念だったな。俺の周りの熱は、カードを二枚封じた程度じゃ消えない)

 

アニメの画面の向こうにいたヒロインが、夜更けに抜け道を通って、俺の腑抜けを確かめに来る。俺が作り替えた身体で、俺を元気づけて帰っていく。

 

「あの天使がいなくても、あなたはあなたでしょ」——澪はそう言った。天使のカードに向かって言ったのではない。杖を取り上げられて震えていた、俺自身に向かって言った言葉だ。

 

杖を折れば男が消えると踏んだ連中に、教えてやる。折れたのは杖だけだ。盤面を読むこの頭は、まだ何一つ、折れていない。

 

指先は、もう震えていなかった。

 

俺は机に向かい、組みかけの符叢を広げた。東境戦まで、あと二日。陰の魔女を軸にした新しい動線には、まだ詰める場所が残っていた。

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