『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』 作:シキセ
「英稟も、ここに呼べ」
冬子が、一瞬だけ間を置いた。
「……両方、ですか」
「ああ」
「……かしこまりました」
────
英稟が先に来た。
扉を開けて、室内に冬子が座っているのを見た一秒があった。
「……」
英稟は何も言わなかった。俺を見て、それから冬子を見て、座った。
冬子が軽く一礼した。
「星宮様」
「……早雲殿」
二人の声が、静かに部屋に沈んだ。
────
「現状を整理する」
俺は今日の交渉を順に話した。セレスティーナへの謁見、三日の猶予。岳見参与との交渉、七耀陣返還と実権追認の要求、一週間の返答待ち。第三手——ルクシエルが昨日動いた事実の公式記録化、セレスティーナの証言が最後の鍵になること。
英稟が、ルクシエルの名が出た時に少し顔を上げた。七耀陣の話が出た時も。
「……七耀陣の返還を——符帝家に求めたのですか」
「そうだ」
英稟は何かを言いかけて、止めた。
「……はい」
冬子は眉一つ動かさず聞いていた。知っていることも、知らなかったことも、同じ表情で受け取った。
────
「本題を言う」
俺は二人を順に見た。
「俺はすでに符闘で、星宮英稟と早雲冬子を傘下に収めた。今日、それを符帝家に対して公式に認めさせる交渉を動かした。星宮領と早雲領——二国の実権を俺が持つ」
英稟が静かに答えた。
「……はい」
冬子が静かに答えた。
「……はい」
二人の「はい」は、質が違った。英稟のそれは既成事実を体で知っている「はい」だった。冬子のそれは計算の終点に立った「はい」だった。
「符帝家の布告が下りたら——二人を正式な妻とする」
今度は間があった。
英稟の頬が、わずかに赤くなった。それだけだった。
「……はい」
冬子は顔色を変えなかった。ただ、英稟の横顔を一秒だけ見た。それから前を向いた。
「……承りました」
「統治の形も言っておく」
俺は続けた。ここを曖昧にしたまま夜を跨ぐ気はなかった。
「二領の政は、これまで通りそれぞれの家が回す。星宮領は星宮の家臣団が、早雲領は早雲の家臣団が。俺は人事にも祭事にも手を突っ込まない。俺が握るのは盤面だけだ——符闘、外交、そして二領に跨る決定。それ以外はお前たちの領分だ」
英稟が、わずかに目を見開いた。
「……全てを、直接お取りになるのかと」
「全てを取る主は、全てに潰される。会社と同じだ」
言ってから、この世界には通じない比喩だと気づいた。だが、意味は伝わったらしい。冬子が細い目のまま、小さく頷いた。
「賢明なご判断かと。家臣団は、頭の挿げ替えには耐えますが、手足の挿げ替えには耐えません」
「家中には、いかがお示しになりますか」
英稟が聞いた。もっともな問いだった。符闘の結果で主が代わることは帝国法の認めるところだが、二つの名門の家臣団が納得するかは、また別の話だ。
「布告が先だ。旗が立ってから、人を動かす。順番を逆にすれば、忠義者ほど反発する」
「……浅葱は」
冬子が、初めて自分から名を出した。弟の処遇。当主の座を降りる家の、次の柱の話だ。
「使う。あれは領地の実務に向いている。腐らせるには惜しい」
冬子は一拍だけ黙った。それから、頭を下げた。
「……ありがとう、ございます」
その声だけ、実務の声ではなかった。
(これで骨組みは示した。肉付けは布告の後だ)
会議室の外に立たされ続けた男が、今、二つの国の骨組みを口頭で決めている。決定に誰の承認も要らない。俺の言葉が、そのまま組織図になる。
(あの頃の俺に見せてやりたい眺めだな)
暗い満足が、腹の底で静かに熱を持った。だが、酔うのはここまでだ。布告はまだ下りていない。盤面の駒が全部並ぶまで、勝利宣言は早い。
俺は二人を見た。
(早雲冬子——東境の組み符闘で星宮方と戦った大将が、今ここに座っている)
英稟も同じことを考えているはずだった。考えているのに、何も言わなかった。
「何か言いたいことはあるか」
英稟は首を振った。
冬子が口を開いた。
「第三手の証言確保——明日、審判官への接触から始めます。セレスティーナ殿については、三日の猶予が明けた後に世一様から直接お動きいただくのが最も効果があります」
「ああ」
「……以上です」
実務だった。最後まで、実務だった。
(この女は感情を——場所を選んで仕舞う)
「二人とも、残れ」
英稟が顔を上げた。冬子の目が、わずかに動いた。
「……二人、ともですか」
冬子が、確かめるように言った。
「ああ」
英稟が、冬子を一度見た。冬子は表情を変えなかった。
それだけのことが——何かを確定させた気がした。
「……かしこまりました」
冬子が、静かに頭を下げた。
英稟は何も言わなかった。ただ、その頬がわずかに上気していた。
「こちらへ来い」
二人が並んだ。
星宮英稟と、早雲冬子。
一国の主だった女が、二人、俺の前に並んでいた。
「一国の主だったんだろう、二人とも」
どちらも答えなかった。
「競ってみろ。どちらが俺の役に立てるか」
英稟が、一瞬だけ冬子を横目で見た。
冬子は正面を向いたまま、一度だけ目を伏せた。
「……失礼いたします」
冬子が先に動いた。計算だった。英稟が先に動くと思って、その逆を取った——俺にはそれが分かった。
英稟の目の色が変わった。
(この女は——競争心がある)
英稟が膝をついた。冬子の隣に。
二人分の手が、同時に俺の帯へ伸びた。英稟の指は迷わず結び目を解き、下衣を寛げる。冬子の指は一拍遅れて、それに倣った。まだ力を持ちきっていないものが、二人の視線の先に晒される。
「世一様」
英稟の声の方が、熱があった。英稟が先に顔を寄せ、両手で幹を支えて先端に唇を這わせる。冬子もそれを横目で見ながら、細い指を根元に絡めた。
────
二人が並んでいた。並んで、それぞれの舌を這わせていた。
英稟は慣れていた。体が知っていた。指の動かし方も、舌の這わせ方も、声の抑え方も。これまで積み上げてきたものが全部、形になって出てきた。
冬子は観察していた。英稟の動きを一度だけ確認して、自分の舌の運び方を組み立てていた。
(こんな時まで、盤面を読むか)
「英稟」
「……はい」
「そっちの方が丁寧だな」
英稟の動きが、わずかに強くなった。
(感情で動く)
「冬子」
「……はい」
「早雲の大将としては、随分と従順だ」
「——っ」
冬子の細い目が、初めてわずかに動いた。
(プライドに触れた)
英稟がそれを横目で見た。見た瞬間、英稟の動きがまた変わった。必死になっていた。
(一国の主が二人、俺の前で必死になっている)
「どちらも——大したものだ」
どちらでもなかった。二人を同時に言っていた。二人ともそれが分かって、どちらも黙っていた。
奉仕は長く続いた。
英稟は感情の全部を指と唇に乗せていた。熱を孕んだ瞳で俺を見上げ、怒張の先端を小さな舌で「れろ……れろ……♡」と丁寧に舐め上げては、根元を両手で支えて愛おしそうに咥え込む。これまで仕込まれてきたものが、全部、形になって出てきていた。
冬子は格調を盾にしながら、その盾の内側で少しずつ熱を上げていた。最初は「失礼いたします」と頭を下げた格式が、舌を這わせるうちに崩れていく。英稟の動きを横目で確認し、それを上回ろうとして——気づけば、確認することそのものを忘れていた。
「ぅ……っ、世一様……ぁ……♡」
冬子の喉から、抑えそこねた甘い息が漏れた。
英稟の息が荒くなり、冬子の動きから計算が抜け落ちた頃。俺は二人の髪を、左右の手で掴んだ。
「いい。今度は俺が与える番だ」
「……っ」
英稟が顔を上げた。唇の端から銀色の糸が引いていた。冬子も顔を上げた。細い目が、潤んでいた。
「並んで横になれ」
二人が、並んだ。
星宮英稟と、早雲冬子。一国の主だった女が、二人、俺の左右に身を横たえていた。