『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』 作:シキセ
学園に潜り込んでから、一週間が経った。
金に困っていない、ということに、まず体が慣れなかった。
星宮邸の台所は潤沢だ。遠海は港の街で、朝の食卓には鮮度のいい魚介が並ぶ——白身の刺身、貝の味噌汁、炙った干物。こちらの世界のものが自分の舌にどう届くかは未知数だったが、旨いものは旨かった。夜もよく眠れていた。分厚い壁と重い建具の寝室は静かで、朝まで目が覚めない。
性欲も、英稟とルクシエルがいる。一週間で、体がそれを当然だと覚えてきた。
問題は、満たされるほどに、もっと先が欲しくなることだった。
「世一様はまだ遠慮なさっています」
ある夜、ルクシエルが言った。俺の腕の中で、翼を静かに畳みながら。
「今のあなたには、星宮家を超えたものを手にする素地があります。遠海市だけでは、もったいない」
甘い声で、しかし甘くない事実を言う。だから始末に負えない。
俺は天井を見上げながら、その言葉が体の奥に沈んでいくのを感じていた。
遠海学園は、俺の想像をはるかに超えるほど、巨大で複雑な権力構造を持つ場所だった。
表向きは近代的な教育機関だ。制服を着た若い符士たちが廊下を行き交い、教室では符闘の理論や式符の扱い方を学んでいる。しかしその実態は、学園内での符闘の勝敗が階級と権力に直結する、一種の縮図だった。
上位の符家の子弟が幅を利かせ、格下の家の者を従えながら、ゆるやかな序列を形成している。
星宮英稟の立場は、その序列の中でも相当に高いものだった。
「星宮家の跡取り」として知られる英稟は、校内でも一目置かれる存在で、あからさまに絡んでくる者はいない。
しかしその裏では。
「世一様……ここは人が通ります……っ♡ ひぁっ♡」
放課後の校舎裏、半壊した石塀の陰に英稟を押し込み、その軍服のズボンを腰まで引き下ろし、下着の中へと指を這わせてやると、凛々しい顔立ちが瞬く間に蕩けていく。
「だったら声を抑えろよ、英稟。星宮の跡取りが、こんなところでぬちょぬちょ濡らして喘いでるのが聞こえたら、立場がないだろ」
「う……っ♡ だって……世一様の指が……っ♡ くふっ……! 奥まで来るから……♡♡♡」
「そうか。じゃあもっと奥を掻き回してやる」
「ひぃっ……♡♡♡ だ、だめっ……そこは……あぁんっ……!♡♡♡」
処女を散らされてから一週間で、すっかり俺の指遣いに馴染んだ英稟の秘所が、くちゅくちゅと濡れた音を立てながら締め付けてくる。
その顔から軍人の仮面が完全に剥がれ落ちて、泣き顔で快楽に身を委ねる姿が、たまらなく好きだった。
しかし今日は、少し早めに切り上げる必要があった。
「英稟、今夜俺は星宮邸に戻る。お前はルクシエルと一緒に来い」
「……星宮邸、ですか?」
「ルクシエルから話がある。お前を抜きには進められない」
英稟は乱れた息を落ち着かせながら、服を直して俺の隣に立った。その表情は、快楽に蕩けていた数秒前から一変して、凛としている。
このギャップが、英稟という女の面白いところだ。
「……世一様のご命令とあらば」
低くて澄んだ声でそう答え、彼女はまっすぐ前を向く。
耳元が、かすかに赤かった。
星宮邸は、遠海市の外れに建つ旧家の屋敷だった。
木造と石造りが混在した、武家屋敷のような古い建物に、現代的な魔力防衛の結界が幾重にも張り巡らされている。
俺たちが戻ると、ルクシエルはすでに屋敷の奥の広間に、大きな地図と数枚の文書を広げて待っていた。
「お帰りなさいませ、世一様。英稟さんも」
「待たせたか」
「いいえ。少し調べていたことがあったので」
ルクシエルの碧眼が、静かに地図の上を滑る。その瞳の奥に、ほんわかとした優しさとは別の、冷えた光があった。
英稟は地図を覗き込み、眉をひそめる。
「これは……星宮家の所領、そして周囲の符家の地図。なぜあなたがこれを」
「英稟さんが世一様の手駒になった以上、星宮家の情報を整理するのは当然のことです。そして」
ルクシエルはにこにこと微笑みながら、一枚の文書を指先でとんとんと叩いた。
「星宮家の現状には、いくつか問題があります。英稟さん、あなたも薄々感じていたのではないですか」
英稟の目が、わずかに揺れる。
「……先代が残した家臣の中に、あなたの支配を認めていない者がいる。そうですね」
「……そうだ」
英稟の声が、珍しく低くなった。
「先代……私の父は、男児を作れなかった。だから私を男として育てることを強いた。父の古参の家臣たちは、私が男装を捨てたことを知れば……星宮の血筋と家督を守るという名目で、私を廃して傍系の親族を担ぎ出す可能性がある」
「その傍系の人間が、どこに動くと思いますか?」
ルクシエルの問いに、英稟は少し考えてから答えた。
「……帝都の大符家か、あるいは……聖教の連中に接近する可能性がある」
「その通りです。そして」
ルクシエルは俺を見た。穏やかな笑顔のまま。
「世一様が星宮家を完全に掌握するには、英稟さんを通じた名目上の支配だけでは不十分です。先代の家臣たちを、直接世一様に従わせなければなりません」
俺はルクシエルの言葉を、静かに噛み砕いた。
確かにそうだ。英稟は屈服させた。だが星宮家そのものが俺のものになったわけじゃない。英稟の背後にいる老家臣たちが、俺の存在を認めなければ、星宮家の財産も権力も、砂の城に等しい。
「具体的には?」
「三つの手順を提案します」
ルクシエルは文書をめくり、整理された内容を示した。
「まず第一に、星宮家の古参家臣を洗い出し、それぞれの弱みを把握します。符士である以上、彼らも符叢(デッキ)の構成や、過去の決闘の記録が残っている。私が情報を集めます」
「第二に」
「英稟さんを通じて、星宮家の家督継承に関する文書を操作する。先代が遺した文書に、世一様の名を家の庇護者として加える手続きを、合法的に行います。英稟さんが当主として認められている今なら、可能です」
英稟が、微妙な顔をした。
「……合法的に、とは言うが」
「大丈夫ですよ英稟さん。私が一番綺麗なやり方を考えますから」
ルクシエルのにっこりとした笑顔に、英稟が押し黙る。
「そして第三に」
「古参家臣の中で、世一様に直接従わせるのが難しい者については……私たちが直接、対処します」
対処。
その言葉の意味するところを、俺はある程度わかっていた。
「符闘か?」
「あるいは、それ以外の方法も。世一様、あなたはURの使役を持っています。それ自体が、この世界では十分な権力の証明になります」
ルクシエルは地図を指先でなぞり、星宮邸の周辺にある、いくつかの小さな符家の位置を示した。
「星宮家の旧家臣の中に、独立して小さな符家を営んでいる者が三人います。彼らの中の一人、女将符士の三神苑子(みかみえんこ)は、先代の片腕だった人物で、星宮家の実権に最も強く口を出せる立場です。彼女を最初の標的にすることを提案します」
「三神苑子……」
俺は名前を繰り返した。初耳だ。アニメには出てきていない人物。つまりこの世界固有の人間。
「どんな奴だ?」
「英稟さん、教えていただけますか?」
英稟はため息をついた。
「……三神は、甕星流の傍流を修めた符士だ。父に長年従っていた女性で、年は三十代後半といったところか。腕は確かで、符闘での勝率も高い。そして……非常に厄介なことに、私のことを我が子のように思っている節がある。星宮の血筋と格式を誰よりも重んじる人物だ。だからこそ、よそ者である世一様が私を支配下に置いたと知れば——私への情と関係なく、激しく反発する可能性がある」
「なるほど」
「世一様を認めさせるのは、容易ではないかと……」
「でも」
ルクシエルがにっこり笑う。
「認めさせる方法は、必ずしも符闘だけとは限りませんから」
その笑顔の意味を、英稟はまだ理解できていないようだった。
俺はすでに、何となくわかっていたが。
「わかった。ルクシエル、引き続き情報収集を頼む。英稟、三神苑子の生活パターンと、彼女がどこに出入りするかを調べてくれ」
「……承知しました、世一様」
英稟がそう答えたとき、珍しく素直な声だったので、俺は少し驚いた。
ルクシエルが嬉しそうに笑う。
「英稟さんも、すっかり世一様に慣れましたね♡」
「う……っ、そんなことはない」
顔を赤くした英稟を見て、俺は笑った。
「慣れたのは身体だけじゃないか? お前、さっきの校舎裏でも……」
「……っ、世一様。それ以上は、仰らないでいただけますか」
珍しく声が詰まった英稟の、耳の先がわずかに赤くなっていた。
——
その夜。
英稟が眠りに就いた後、俺はルクシエルと二人で縁側に出て、神符帝国の夜空を見上げていた。
現実世界と変わらない星の数だが、どこかが違う。魔力が空気に溶けているせいか、星がわずかに揺れて見える。
「ルクシエル」
「はい」
「三神苑子を攻略した後、どうする気だ」
ルクシエルは少し考えて、穏やかに答えた。
「古参家臣を一人ずつ、世一様の手駒に変えていきます。その過程で、星宮家の財産と権力が、名実ともに世一様のものになります。そして」
「そして?」
「この遠海市の中で、世一様が表立って動ける立場を作ります。今は英稟さんの従者というていですが、いずれは星宮家の当主後見人、あるいは星宮家を飲み込んだ上で、独自の立場を」
「大きなことを言うな」
「世一様には、それだけの素地があります。現実世界の知識とこちらの世界の符闘を組み合わせれば、並の符家では太刀打ちできません」
俺は縁側の柱に背を預け、夜空を眺めた。
ほんの一週間前まで、俺は借金まみれで毎日擦り切れながら生きていた。
それが今は、天使を手駒に持ち、古い武家の娘を屈服させ、一つの屋敷を根城にしてここにいる。
落差が、どこかまだ夢のようだった。
(……本当に、俺がここにいていいのか)
英稟の顔が頭に浮かぶ。あの凛とした背筋。あの名門意識。あの誇り高さ。三十三年間、俺はああいう人間の目に映ったことがあっただろうか。
なかった。現実の俺には、最初から何もなかった。
だからこそ——今こんな場所に立っていることが、どこかまだ怖かった。「お前みたいな人間が、ここにいていいのか」という三十三年分の刷り込みが、まだ抜けきれていない。
「——世一様」
ルクシエルが、気づけば俺のすぐ傍らに来ていた。
俺は振り返らなかったが、彼女の気配が伝わってくる。
「何を迷っていらっしゃるのですか?」
「迷ってない」
「……嘘をついてはいけません」
静かな声だった。責めるのでも、急かすのでもない。ただ、全部分かっています、という落ち着いた口調だった。
「世一様はずっと、誰かのために削られながら生きてきました。何も残らないまま消耗し続けて、それが当然だと諦めて」
「……」
「だから、今この場所を怖く感じているのでしょう」
ルクシエルの声が、低く、柔らかく、耳の奥に滑り込む。
「でも、違うのです。あなたが今日から手にするものは——奪ったのではなく、取り戻したのです。この世界があなたから横取りし続けてきたものを、ようやく返してもらっただけです」
「……返してもらった、か」
「欲するままに。遠慮せずに。世一様が望むものを、望むだけ、手に入れていいのです♡」
俺はしばらく黙って、夜空を見ていた。
(……そうか)
(取り戻す——だけの話だ)
「ルクシエル」
「はい、世一様」
「今夜は俺の隣にいろ」
ルクシエルはやわらかく微笑んで、俺の腕に頬を寄せた。
ドレスアーマー越しに伝わる体温が、あたたかい。
「世一様と、こうしているのが……一番好きです♡」
「お世辞は程々にな」
「本当のことです♡」
翼がふわりと広がり、俺の肩口を包むように巻きついた。
その重さが、心地よかった。
「……俺は今、少しおかしくなっているかもしれない」
口から、言葉がこぼれた。考えて言ったわけではなかった。夜風の中にルクシエルの羽の重さを感じながら、気づいたら声になっていた。
「おかしく?」
「英稟を抱いた後、苑子を引き込もうとしている。この世界の名門符士の女たちを、計算と力で征服している。これが——当たり前のことのように感じ始めている」
「それの、何がおかしいのですか」
「俺は元の世界で、ただの虫けらだったんだ。三十三年間、誰も俺を見ていなかった。それが今——」
「今、あなたは見られています」
ルクシエルが静かに言った。「この世界の全員が、あなたを」
翼が少し、締まった。俺の肩口が温かい羽の厚みに包まれる。
「世一様が狂っているとは思いません。ただ——少しずつ、変わっているのは本当です。かつて閉じていたものが、この世界で一枚ずつ開かれているのですから」
俺は無言でルクシエルの翼の感触を確かめた。ドレスアーマーの下の体温。羽の細かい軸が、掌に触れてくる。
「……お前は、ここにいてくれるか。ずっと」
「世一様が求める限り、どこにも行きません♡」
その言葉が、何か薬みたいに効いた。頭の奥の雑音が、すっと遠ざかった。
(……これがなければ、今夜眠れなかったかもしれない)
そう思った自分に気づいて、俺は少し笑った。ルクシエルへの依存が、すでにここまで来ている。それを怖いとは思わなかった。ただ、認めた。
——
翌朝から、動き始めた。
まずルクシエルが独自のルートで情報収集に入り、俺は英稟から三神苑子の動向を聞き出した。
英稟の話によれば、三神苑子は週に二度、遠見市の古い符闘場に足を運んでいるらしい。そこで古参の符士たちと懇親の符闘を行うのが、長年の習慣だという。
「三神は……その符闘場で、かなりの地位を持っている。ある意味、符士たちの社交場を仕切る立場です」
「じゃあ、俺がその符闘場に乗り込んで、三神に挑戦状を叩きつければいいか?」
「……正面突破ですか。悪くはないですが、返り討ちになる可能性もあります。三神の符叢の中身は私にも全部は把握できていない」
「ルクシエルのこの手にがある限り、まず負けないが」
「ですが、三神には甕星流の秘符も複数あると聞いています。侮れない相手です」
英稟が珍しく慎重な声で言うのを聞きながら、俺は少し考えた。
確かに正面から符闘で叩き潰しても、古参の家臣たちを従えるには弱い。勝ったとしても「よそ者に負けた」という感情が残れば、反抗の芽は消えない。
「ルクシエルは何か別の手を考えていると言っていたな。あいつの案を聞いてみるか」
——
その日の夕方、屋敷に戻ったルクシエルから、思わぬ情報がもたらされた。
「三神苑子さんには、一つ弱点があります」
「何だ?」
「息子がいます。十八歳で、学園にも通っていない。家督を継ぐでもなく、符士としての修練も中途半端なまま、遊んでいる息子。三神さんは、その息子のことを非常に心配しています」
英稟が目を細める。
「……息子の存在は知っていた。が、三神苑子がそこまで気にしているとは」
「公式の符闘では負けない苑子さんですが、息子の件については、かなり追い詰められているようですよ。息子さんが最近、遠見市の裏社会と接点を持ち始めているらしくて」
ルクシエルは笑顔のまま、さらりと続けた。
「もし世一様が、その息子さんの問題を解決してさしあげたとしたら……苑子さんが世一様に一定の恩義を感じることになりますね」
「恩を着せて引き込む、か」
「恩を着せるのは、符闘で叩き潰すよりも、ずっと強い縛りになります♡」
ルクシエルはにっこりと微笑んだ。その穏やかな笑顔の奥に、どこまでも冷静な計算がある。
「……あなたは本当に、恐ろしい天使ですね」
英稟が、半ば感心したようにそう言った。
「ありがとうございます♡ 世一様のためなら、なんでもできます♡」
「褒め言葉のつもりではありません」
「でも世一様は嬉しそうな顔をされていますよ?」
「そんな顔はしていない」
笑いを堪えながら、俺は立ち上がった。
「わかった。三神の息子の件から入る。英稟、息子の名前と、どこに出入りしているか調べられるか」
「……できる。ただ」
英稟が、少し言葉を選ぶように間を置いた。
「世一様。一つ確認していいですか」
「何だ」
「あなたは……この世界で、何を目指している? 星宮家の財産だけが目的なのですか? それとも……」
真剣な目だった。
男装の麗人が、俺をまっすぐ見つめている。
俺はしばらく考えてから、正直に答えた。
「元の世界に帰れる保証はないし、帰る気もない。あっちには借金しかなかった。こっちには」
俺はルクシエルと、英稟を交互に見る。
「少なくとも二人、俺の女がいる」
英稟の頬が、かすかに赤くなった。
「……俺の女、か。随分な言い方だ」
「嘘ついても仕方ない」
「……はい」
英稟は視線を逸らし、小さく続けた。
「だが……それだけですか? 星宮家を乗っ取り、家臣を従え、学園に潜り込んで。それだけのことをする人間が、目的を持っていないはずがない」
鋭い。
さすがは符士の跡取りとして育てられた女だ。
「……まあ」
俺は少し笑った。
「この世界で、俺自身の場所を作るつもりだ。元の世界みたいに、誰かに踏まれたまま生きるのはもう嫌だ」
英稟は何も言わなかった。
ただ、微妙な顔をして俺を見ていた。
その目の中に、怒りとも羨望とも取れない、複雑な何かが揺れていた。
「……わかりました。息子の調査は私がやります」
英稟が踵を返した。その背中に、俺は声をかけた。
「英稟」
足が止まる。
「もう一つ命じることがある」
彼女はゆっくりと振り向いた。その顔に、警戒の色が浮かんでいた。
「……何だ」
「男装を脱げ」
一瞬、間があった。
「——いま、何と?」
「女の格好をしろということだ。今後、あの男性の制服は着るな」
英稟の目が細くなった。
「……それは、受け入れられない」
「なぜ」
「昨日も言ったはずです」
彼女の声が低くなる。
「父の古参の家臣たちは、私が男装を捨てたと知れば……星宮の血筋を守るという名目で、傍系の親族を担ぎ出す可能性がある。私の立場が弱まれば、あなたへの協力体制も崩れる。それが分からないほど、あなたは短慮なのですか?」
俺はゆっくりと立ち上がった。
英稟の言っていることは正しい。政治的なリスクとして、ほぼ正確な分析だ。
だから何だ。
「ルクシエル」
「はい♡」
「席を外せ」
「……了解しました♡」
ルクシエルが部屋を出ていく気配が消えると、俺は英稟に向かって歩いた。
彼女は一歩も退かなかった。その目に、警戒と——そのうしろに、かすかな予感を滲ませながら。
「世一様、私の言ったことが聞こえませんでしたか。政治的な——」
俺は返答の代わりに、その腕を掴んで引いた。
「っ——」
体勢を崩した英稟が、畳の上に膝をついた。俺はその肩を押さえてのしかかり、彼女を仰向けに組み敷いた。
「放してください——話を聞いていないのですか——」
「聞いた」
俺は男装の上着の帯に手をかけながら、静かに言った。
「お前の言ってることは正しい。古参は騒ぐかもしれない。傍系の親族を担ぎ出すかもしれない」
「ならなぜ——」
「それが何だ、という話だ」
帯を引いた。着物の合わせ目が開く。
「っ……! ——待て」
「俺が古参を全員黙らせる。それだけの話だろ」
「そんな簡単に言うな——ん……っ」
俺の指が、はだけた着物の内側に滑り込んだ。
白い肌に直接触れると、英稟の身体が、小さく震えた。
「……お前はここ数年、その男装に頼っていた。盾にしていた。だが、その盾が必要な時代は今日で終わりだ」
「……」
「お前を守るのは、俺の力だ。分かるか?」
英稟は答えなかった。
俺は着物の合わせ目をさらに割り、手のひらで彼女の腰を押さえた。
ぬちょ……。
その柔らかく温かい感触が、指に返ってきた。
「——っ」
「身体が正直だな」
「……それは、関係ない、です」
「そうか。では返事はまだか」
俺は指をゆっくりと動かした。
ぬちょ……くちゅ……くちゅ……。
「ぁ……っ、やめ……っ、話を——」
「話は終わった」
「終わってな——あっ……!」
英稟の手が、俺の腕を掴んだ。押しのけようとしているのか、引き寄せているのか、自分でも分かっていないような強さで。
そのまま、俺は着物の裾をたくし上げ、彼女の中心に雄を宛てがった。
「——待っ……」
ずぶ……っ。
「ぁ……あ……っ!」
「これで分かるか」
「……っ……っ……」
英稟の指が、畳をぎゅっと掴んだ。
俺はゆっくりと腰を動かした。
「っ……あ……あ……っ」
男装のまま、畳の上に組み敷かれた英稟が——その誇り高い顔を歪め、何度も息を詰まらせながら、俺の動きに合わせて小さく身をよじった。
「……や……世一様、こんな——んっ……!」
「怒鳴るか? 昨日みたいに」
「怒鳴れ……ません……っ、っ……」
「だろうな」
パンパンパンパンパン……っ。
「あ……っ! あ……っ! あ……っ!」
「英稟」
「……っ……!」
「返事をしろ」
「……っ……! わ……わかり……ました……っ!」
「何がわかった」
「……男装、やめ……ます……っ、だから……もっと……っ」
英稟の口から、最後の言葉が半ば無意識にこぼれ落ちた。
それに気づいたのか、彼女は唇を噛んで目を逸らした。
俺は深く最奥まで打ち込み、その場で止めた。
「……世一、様……」
「もっと、何だ」
「……言いたくないですっ」
「そうか」
ゆっくりと腰を引き、もう一度叩き込んだ。
「っ……! ——もっと……動いて……っ、お願い……っ」
「それが返事か」
「……そう……です……っ」
——
しばらく後。
英稟は乱れた着物を直しながら、低い声で言った。
「……言いつけの通り、男装をやめます。星宮家の家督手続きは私が行います。でも、それだけです」
俺は英稟の意図について少し考えた後で答えた。
「……いいだろう」
英稟は立ち上がり、帯を結び直した。その顔は平静を取り戻しているが、耳の先がまだ赤かった。
「……古参家臣が反発したら、責任は世一様にありますからっ」
「知ってる。くどいぞ。お前をこれから守るのは、男装じゃない。俺だ」
「……わかりました」
彼女は部屋を出ていった。
英稟の背中を見送ると、ルクシエルが静かに戻ってきた。俺の隣に近づいた。
「英稟さん、少し揺れていましたね」
「そうか?」
「はい。世一様のことを……単純に憎いとは思えなくなっている。でも素直になれない。難しいところですね♡」
「お前は分析が好きだな」
「世一様の役に立てますから♡」
ルクシエルは俺の手を取り、柔らかく笑った。
「ねえ、世一様。今夜は私だけを見てくれますか?」
「英稟は?」
「今夜は休ませてあげましょう。彼女なりに、いろいろ考えることがあると思いますから」
俺はルクシエルの手を引き、寝室へと連れていった。
「お前が俺を独り占めにしたいだけじゃないのか」
「うふふ♡ でも世一様も、私のことが好きでしょう♡」
「……お前は、自分に都合よく解釈しすぎだ」
「都合よく解釈するのではなく、正確に読んでいるだけです♡」
寝室に入り、俺はルクシエルを布団の上に押し倒した。
金糸のボブカットがシーツの上に広がり、透き通るような碧眼が、熱っぽい潤みを帯びて俺を見上げる。ドレスアーマーの隙間から、豊満で真っ白な胸の谷間が零れそうに自己主張していた。
「世一様……♡」
「今夜はゆっくり可愛がってやる」
「はい……♡ 世一様のお好きなように……すべて、あなたのものですから……♡」
俺は彼女の身体を慈しむように、ドレスアーマーのファスナーをゆっくりと降ろしていった。金属が擦れ合う音が静かな寝室に響き、ファスナーが開くたびに、驚くほどきめ細かく白い肌が露わになっていく。
ドレスアーマーを剥ぎ取ると、そこにははち切れんばかりの豊かな膨らみが姿を現した。淡いピンクに染まった先端が、すでにツンと硬くなり、俺の視線を捉えて離さない。
「ひぁっ……♡ 世一様の手が……冷たくて、気持ちいいです……♡」
俺は彼女の豊かな片丘を手のひらで包み込み、ゆっくりと揉みほぐした。手の隙間から溢れ出す圧倒的な柔らかさに、背筋がゾクゾクと震える。
「冷たいのが好きか」
「世一様の手なら……温かくても冷たくても、何でも好きです……♡ 世一様の触れ方一つで、私の身体はこんなに熱くなってしまいますから……♡」
隠すことを知らない女だった。
俺は彼女の先端を指先でくりくりとなぞりながら、もう一方の手で彼女の太ももを割り、その中心へと指を滑らせた。そこはすでに、俺への愛念と快楽の予感だけで、透明な蜜液をたっぷりと溢れさせていた。
「んぅ……っ♡ 世一様……そこ、もう触ってくれるのですか……っ♡」
「ほら、お前こそ随分と早いな。指を入れる前からこんなに濡れてるぞ」
「だって……世一様のお顔を見ているだけで、頭の中がとろけそうになって……蜜が止まらなくなってしまうのです……っ♡♡」
俺は指先を秘裂の奥へと滑り込ませた。
ぬちょ……ぬちょぬちょ……。
「ひゃぅぅっ……!♡ あ……っ! 世一様の指が……なかの、あついところに……っ♡♡♡」
「すごく熱いな、ルクシエル。指一本なのに、なかからぎゅうぎゅうと締め付けてくる」
「世一様の指を逃がしたくなくて……身体が勝手に、引き込んでしまいます……っ♡ れろ……れろ……っ♡」
彼女は俺の首に腕を絡め、耳元に吸い付いてきた。可変の翼がパタパタと小刻みに揺れ、甘く淫らな香りが部屋いっぱいに広がる。
「はぁ……っ♡ はぁっ……♡ 世一様、指だけじゃ……足りないです……。もっと、世一様の熱くて太いので……私を満たしてください……っ♡♡」
「焦るなと言ったろ。お前の口でも奉仕してもらうぞ」
俺は指を引き抜き、ベッドの端に腰掛けた。限界まで硬化し、張り裂けんばかりになった怒張を彼女の目の前に晒す。
ルクシエルは碧眼を輝かせ、嬉しそうに跪いた。
「はい……♡ 世一様の熱塊……喜んでお仕えします……♡ れろ……れろ……♡」
彼女は小さな舌を伸ばし、先端の割れ目から溢れ出る先走りの液を丁寧に舐め取った。それから、大きな怒張を両手で支え、小さな口をいっぱいに開けて咥え込んだ。
「んむ……っ、ちゅ……ごぷ……っ♡」
口内の熱い粘膜が、俺の肉棒を包み込む。彼女は首を前後に動かしながら、喉の奥まで深く咥え込み、舌で怒張の裏側を執拗に這わせた。
「んっ……ふぅ……れろ……れろ……ちゅ……っ♡」
「ルクシエル、上手いな……」
「世一様が気持ちよくなってくれるのが……私の、一番の幸せですから……っ♡ ごきゅ……んむ……っ♡♡」
彼女の惜しみない奉仕に、俺の怒張はさらに一回り太さを増した。
十分に温まったところで、俺は彼女を再びベッドに押し倒した。
「もう我慢できない。生でいくぞ」
「はい……っ♡ 世一様と……直接、繋がりたいのです……♡ 世一様の熱さを……そのまま、奥で感じていたくて……っ♡♡♡」
彼女は顔を真っ赤に染めながら、それでも視線を逸らすことなく、足を大きく広げた。
俺は自身の熱塊を彼女の入り口に押し当て、ゆっくりと体重をかけた。
ずぷり……。
「ふぁっ……! あ……っ! つう……っ♡♡♡」
何度重ねても、彼女の秘所は驚くほど狭く、俺の肉棒を締め付けて拒むように収縮する。だが、溢れ出る愛液が潤滑油となり、ぬちょりと音を立てて熱塊を最奥へと誘っていく。
「はぁっ……♡ 入りました……世一様の……おっきな肉棒が……奥まで……っ♡♡♡」
「ルクシエル、お前、すごく締まるな……!」
「世一様を……逃がしたくなくて……身体が勝手に……締めてしまいます……っ♡♡♡ ぬちょ……ぬちょって、おとがして……恥ずかしいですけど……すごく、うれしい……っ♡♡♡」
俺は腰を動かし始める。
ぐちゅっ……くちゅくちゅ……!
「んっ……あ……っ♡ 世一様、すごいの……動くたびに、なかが、あつくて……良くなっちゃいます……っ♡♡♡」
ピストンを速めるたびに、彼女の可変の羽がパタパタと小刻みに震え、甘い香りが部屋に充満する。
「あぁ……っ……♡♡♡ ん……っ……♡♡♡ もう……だめっ……イっちゃいます……っ♡♡♡ ……頭が……真っ白に……なっちゃいます……っ♡♡♡」
「俺も……出る……っ!」
「なかに……! 私のなかに、世一様の子宝水を……たっぷり出してくださいぃっ……♡♡♡」
激しく腰を叩きつけ、俺は彼女の最奥に向けて、白濁した精液をごぷっごぷっと勢いよく注ぎ込んだ。
「ん……くぅっ……♡♡♡♡」
ルクシエルは全身を激しくヒクつかせながら、蜜壺の奥底で俺のザーメンを全て吸い上げるようにして絶頂した。
何度もビクビクと締め付ける彼女のなかで、俺は出し尽くし、抱き合ったまま息を整える。
肌に伝わる確かな熱さと、シーツに広がる愛液の匂い。
しばらくして、俺はルクシエルを抱きしめたまま、眠りに就いた。
まだ、始まったばかりだ。
星宮家を完全に手中に収めるまで、やることは多い。
しかしこの世界には確かに、俺の居場所がある。
そう思うと、妙に落ち着いた気分だった。