『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』 作:シキセ
宿に戻った夜。
観察封印は解除され、ルクシエルの原符からは、あの青い免紙が消えていた。手に取れば、白金の魔力が、また温かく応えてくる。指先を伝うその熱が、長く凍りついていた胸の奥を、じんわりと溶かしていく。
俺は自室で、符叢を机の上に広げた。
机の上に、符叢が二つ並んでいた。先頭にエーデルガルトの原符を据えた色衣の符叢と、ルクシエルの原符を戻した陽の符叢。陰の魔女と、陽の天使。この長い戦いのあいだ、片方は仕舞われ、片方は封じられていた二枚の主力が——今、どちらも俺の手元に揃っていた。
「……出てこい。二人とも」
部屋の影が凝集し、紫黒の粒子がエーデルガルトの輪郭を編み上げる。同時に、白金の光が立ち昇り、ルクシエルが実体化した。
天井の低い狭い自室に、陰と陽が、並んで立った。
空気が、ぴり、と張り詰めた。
「……あら」ルクシエルが、ほんわかと微笑んだ。「お留守のあいだに、お仲間が増えていたのですね。嬉しいです♡」
エーデルガルトの目が、すうっと細くなった。
「……戻ってきたのですね。あなたの、その光が」
「ええ。世一様を、ずっと支えてくださって、ありがとうございます。あなたがいてくださったから、世一様は——私のいない夜を、越えられた」
「礼を言われる筋合いは、ありません」エーデルガルトの声は、静かだったが、刃の冷たさがあった。「私は、世一様のために在るだけ。あなたの代わりを務めたのでも、留守を預かったのでもない。私は——私自身として、この方の隣にいます」
「ふふ。存じております♡」
ルクシエルは、その敵意を、柔らかく受け流す。全肯定の余裕は、揺らがない。そしてその余裕こそが——エーデルガルトの最も嫌うものだった。
「世一様」エーデルガルトが、俺を見た。「申し上げました。あの天使の光が、あなたを甘やかし、弱くしていた、と。——その考えは、今も変わりません」
「でも」ルクシエルが、翼を、ふわりと揺らした。「世一様は、もう、私の光がなくても立てるようになりました。あなたが鍛えてくださったおかげで。私が甘やかしていた頃の世一様では、もう、ないのです。——ねえ、世一様?」
二人が、同時に俺を見た。
陰と陽の視線が、俺の上で、火花のように交差する。
(……まったく、面倒な二人だ)
だが、不思議と——胸の奥の空洞は、もう、疼かなかった。
かつての俺は、ルクシエルの光がなければ眠れなかった。手駒の女を抱いたあとに残る冷気を、彼女の白金の魔力で埋めなければ、魂が形を保てなかった。あれは、依存だった。
だが、観察封印の夜が、俺を変えた。盤面を失い、眠れず、それでもストレージの奥から引っ張り出したエーデルガルト。あの陰の魔女が、支配でも依存でもない——戦友として隣に立つということを、俺に教えた。
(俺は今、二つの光を、両方とも——自分の意志で、選んで、手元に置いている)
「どちらも、俺のものだ」
俺は言った。
「ルクシエル。お前の光は、俺の空洞を満たす。エーデルガルト。お前の守りは、俺を正しく立たせる。——どちらも要る。どちらも、手放す気はない」
エーデルガルトが、ふっと、目を伏せた。
「……独占できないのは、不服です」一拍。「ですが——あなたが、その二つを"選んだ"のなら。私は、それを正しいと、認めます。あなたの選択は、いつでも正しいのですから」
ルクシエルが、嬉しそうに笑った。
「私は、構いません♡ 世一様の世界が、広がっていくのなら、いくらでも。——ふふ、エーデルガルト。あなたとは、長いお付き合いになりそうですね♡」
「……馴れ合うつもりは、ありません」
「つれないこと。でも、そういうところ、嫌いではありません♡」
エーデルガルトが、わずかに、眉を寄せた。だが、それ以上は、言い返さなかった。
陰と陽は、互いに相容れない。だが、同じ主の盤面で、共に在ることだけは——認め合っていた。それで、十分だった。
────
「——今宵は、お二人で」
エーデルガルトが、静かに言った。
その声に、嫉妬がなかったとは言わない。だが、それを面に出すことを、彼女は己に許さなかった。陰の魔女は、俺を一度だけ見て——いつもの言葉を、置いていった。
「正しく、お使いください。あなたの選択は、いつでも正しいのですから」
紫黒の粒子がほどけ、エーデルガルトは原符の形に戻り、符叢の先頭に収まった。
部屋に、ルクシエルと、二人きりになった。
「世一様」
ルクシエルが、俺の首に、そっと腕を回した。白金の翼が、ふわりと広がり、二人を外界から包み込む。あの頃の夜と、同じ仕草だった。けれど——何かが、決定的に違う夜だった。
「……長かったです」
ルクシエルが、囁いた。
「あなたの符叢の内側から、ずっと、見ておりました。あなたが、私のいない夜を、眠れずに過ごすのを。冷たい空洞を抱えて、それでも歯を食いしばって、一日ずつ越えていくのを。——何度も、手を伸ばしたかった。封印の向こうから、あなたを抱きしめたかった。でも、できなかった」
「……ああ」
「でもね、世一様。私、見ていて——寂しくて、それ以上に、誇らしかったのです。あなたが、私という光がなくても、立てるようになっていくのを」
ルクシエルの唇が、俺の耳元に寄った。吐息が、首筋を撫でる。
「立てる人が、それでも、私を選んでくださる。命じられたからでも、縋りつきたいからでもなく——あなた自身の意志で、私を呼んでくださる。それが、どれほど嬉しいか……分かりますか?」
俺は、ルクシエルを抱き寄せた。
口づけると、白金の魔力と、夜の温度が、舌の上で混ざり合う。封印の冷たさは、もう、どこにもなかった。あるのは、忘れかけていた、あの溶けるような熱だけだった。
帯を解くと、金色の布が、するりと床に落ちた。
「……世一様」
ルクシエルが、自分から、俺の口を求めた。いつもは待つ彼女が——今宵は、先に。封印の夜のあいだ溜まりに溜まった飢えを、唇で訴えるように、深く、深く、貪ってくる。
「……んっ、ふぁ……っ♡——ずっと、ずっと、こうしたかった……っ♡」
口付けの合間に、白金の吐息が漏れた。俺の首筋に唇を滑らせ、鎖骨を、舌先でなぞる。細い指が、俺の胸元の衣に触れた。
「脱がせて……くださいます?」
俺が着物を落とすと、ルクシエルは胸板に顔をうずめ、頬を、すりすりと押し当ててきた。
「……温かい。あなたの体温が、やっと、私に——届いている」
俺はルクシエルを抱き寄せ、柔らかな乳房を両手で包んだ。翼の内側の暖かな空気の中、ルクシエルの純白の肢体が、灯りの中に晒される。真白のなめらかな肌に、白金の魔力が光脈として走り、胸の頂が、薄い光を滲ませていた。指の腹で頂を転がすと、光がいっそう強く滲む。
「ぁ……っ——そこっ、♡——んんっ♡」
口を移し、ぷっくりと尖り始めた先端を歯で軽く挟む。舌で押し転がすと、ルクシエルは背筋を大きく反らし、びくびくっと細い肩を震わせた。もう片方を指で捏ね上げながら、替わる替わる吸い上げると、白金の魔力が指先にまで絡んでくる。触れる面積ぶんだけ、魂の境界が、ほんのすこし、溶けていった。
「ぁぁ……っ♡——んっ、くっ……世一様の、舌が……っ、胸が、おかしく、なりそうで……っ♡」
手を下肢へ滑らせると、白金の蜜で、しとどに溢れていた。秘裂を指でなぞるだけで、とろりと糸を引き、内腿を伝う。観察封印の夜のあいだ、ずっと押し込めていたものが——今宵一気に溢れ出ているかのようだった。
「も、もう……指だけでも……っ——世一様っ♡」
指を一本、埋めた。中は、待ちわびていたように、ぎゅうっと締まった。もう一本加えると、白金の内壁が、ひくひくと絡みついてくる。
「ぁああっ♡——んっ、奥、奥……っ——もっと……っ♡」
親指で秘核を擦りながら奥を抉ると、ルクシエルは翼をばさりと広げ、高く細い声を上げた。
「んっ、んんっ——ぁっ♡——や……やっ……っ、こわれ……っ♡——世一様っ……っ♡——ぁああっ♡!」
一度、達かせた。翼の先まで震わせ、ぎゅうぎゅうと指を締め上げ、白金の蜜が溢れてくる。
余韻の中で、ルクシエルが——俺を、優しく押し倒した。
「……今度は、私に、させてくださいませ」
白金の瞳が、熱く、翳った。
唇が、俺の顎から喉、胸板、腹へと、ゆっくりと下っていく。封印の夜のあいだに溜めた思いを、一つひとつ確かめるように。帯に指をかけ、するりと解くと——ルクシエルが、顔を近づけ、そっと口に含んだ。
「……んっ、ふふ♡——これが、私の——世一様」
舌を絡め、唇で締め上げ、吸い上げる。淡い光を帯びた両手で根元を包み、丁寧に、丁寧に——奉仕の指が動く。先端から滲む苦みを、嬉しそうに舌先で拭い取りながら、
「封印の夜のあいだ——何度、こうしたかったか……♡」
翼の奥で、白金の吐息が甘く揺れる。絶えず動く舌が、裏筋を根元から先端へ向けてゆっくりと這い上がり、また含む。しばらく翻弄されていると、俺は我慢を切り上げ、ルクシエルを引き上げた。
「——来い」
「……はい♡」
その奥へ、押し入った。
「——ぁぁああっ♡——!!」
ルクシエルの中が、白金の光を脈打たせながら、俺を包み込んだ。奥の奥まで満ちた感触に、彼女は翼を震わせ、涙の滲んだ目で俺を見上げてくる。
白金の翼が、ゆっくりと、二人の周りを覆っていった。羽の内側に閉じ込められた瞬間、外界の音が、ふっと消える。世界の中心に、俺たち二人だけが取り残されたような静けさだった。あの調律の夜、初めて味わった感覚——それが、封印の向こうから、そのまま帰ってきていた。
「世一様……っ♡——いっぱい……っ——あなたで、いっぱい……っ♡」
突くたびに、白金の光が脈を打った。魔力が二人の境界を溶かし、魂の空洞を、奥の奥まで満たしていく。ルクシエルは腰を俺に預け、律動に合わせて甘い声を上げながら、自分からも腰を動かし始めた。
「んっ、んっ、んっ……っ♡——世一様……っ——もっと、もっと……奥まで……っ♡」
脚を絡め、俺の背を引き寄せる。奥をこじ開けるように突き上げると、ルクシエルの喉から、抑えきれない声が漏れ出てくる。翼が大きく広がり、ばさ、ばさと羽ばたく。
「ぁああっ♡——んっ、くっ、や……やぁっ——また……また、いく……っ♡——世一様の、せいで……っ……♡」
また、達かせた。白金の蜜が溢れ、内壁がぎゅうっと締まる。そのまま奥を叩くと、
「ぁ、ぁ、ぁ——っ♡——許して……でも、もっと……っ——矛盾して……ます……っ♡」
白金の瞳が、霞んでいく。俺はルクシエルの腰をつかみ直し、最奥へ押し込んだ。
「全部、注いでやる。受け取れ、ルクシエル」
「はいっ♡——ください……っ——あなたの精気を……魔力を……ぜんぶ、私に——ぁああああっ♡——!!」
最奥で、解き放った。白金の光が、爆ぜるように翼の内側を満たした。ルクシエルが、翼の先まで震わせ、注がれる熱を、魂ごと受け止めていた。
「……ぁ……っ♡——あたたかい……世一様の、ぜんぶが……私の奥に……満ちて……っ♡」
余韻の中で、ルクシエルが、俺の体をそっと引き剥がした。
「……最後まで、私が」
白金の指が、俺のものに、そっと触れた。唇が近づき——余韻の滲みを、丁寧に、丁寧に、舌先で拭い取っていく。
「封印のあいだの、ぶんまで……いただきます、ね♡」
ルクシエルが舌先を動かしながら、白金の瞳だけを上げて俺を見た。
「……なにか、仰りたいことがございます?」
「——ああ」
俺は天井を仰いで、腕を頭の下に組んだ。
「二国を手に入れた」
「……存じておりますよ♡」ルクシエルが、口元を動かしながら、静かに応えた。「符叢の内から——ずっと、見ておりました。早雲の当主も、星宮の当主も、あなたが一つひとつ積み上げていくのを」
「符帝家が符侯の位を出した。古式の領主号だ。名目じゃない——二領の符闘と外交の決定権を、俺に委ねるという内容だった」
ルクシエルの動きが、一瞬、止まった。
「……本当に」囁くような声だった。「どこまでいかれるおつもりですか、世一様」
「まだ先がある」
しばらく沈黙が落ちた。ルクシエルの奉仕が、続く。
「——英稟か、冬子の、どちらかを孕ませる。近いうちに」
今度は止まらなかった。ただ、白金の瞳が、ほんのわずか細くなった。
「……どちらを?」
「まだ決めていない」
英稟は星宮家の当主だ。甕星流の陰の術式を系譜に持ち、帝国精鋭の武を束ねる女。その腹に子が宿れば、星宮の家中は俺の血を宗家筋として受け入れる。二国の結束が、一世代先まで——形になる。
冬子は早雲家の当主だ。母方に倉橋家の星読みの血を引く女で、三年前から俺を星の中に見ていた。その力が俺の子に受け継がれれば、次の代への手札として、これ以上のものはない。
「どちらも、意味がある」
「……そうですね♡」ルクシエルが、仕上げをしながら、静かに言った。「英稟は外を固める。冬子は先を読む。どちらも——あなたにとって、必要な力です♡」
「お前はどう思う」
口元を離し、ルクシエルが首を傾けた。白金の瞳が、俺をまっすぐに映す。
「……私には、子は宿せません。あなたの血を継ぐことも、できません。そのことを語る資格が、私にあるとは思っておりません」
「それでも聞いている」
ルクシエルは、しばらく沈黙した。
「……冬子さんが、先かな、と」
「理由は」
「あの方の倉橋の星読みは——もう、世一様の符叢に響いています。その力を受け継ぐ子が生まれれば、あなたの盤面は、一世代先まで見通せる」一拍。「英稟さんは——もう少し後でも。あの方は外交の駒として、まだ動かせる場面が残っているように思います♡」
俺は、しばらく考えた。
「……参考にする」
「それだけでよろしいのですか?」
「お前に決めさせるつもりはない」
「……ふふ」ルクシエルが、ほんわかと笑った。「分かっております♡ 世一様は、いつでも——ご自分で決める方ですから」
お掃除が終わると、ルクシエルは俺の胸元に頬を預け、翼を折りたたんで、ふわりと目を細めた。
「……満ち足りました」
俺もルクシエルの胸に頬を預けた。白金の光が、ゆっくりと、凪いでいく。
胸の奥の空洞は——消えていた。
(満たされている)
「……もう少し、付き合え」
「……はい♡」
俺はルクシエルを抱えて立ち上がり、浴室へ向かった。宿の浴室は小さいが、湯は通っている。湯栓を開くと、白い湯気が立ち昇った。
「浴室、ですか?」ルクシエルが、小首を傾けた。「……嬉しいです♡ 封印のあいだに——一番、恋しかったのは、こういう時間なのです。日常の、なにげない」
「お前がそういうものを恋しいと思うとは、知らなかった」
「あら。私も、惜しむものくらいは、あります♡」
湯が満ちるのを待ちながら、ルクシエルを浴槽の縁に座らせた。白金の翼が、湯気の中でゆらゆらと揺れる。俺は両手で彼女の頬を包み、ゆっくりと口付けた。さっきと違う——急かすものが、もう、何もない。
「ゆっくり、いくぞ」
「……はい。ゆっくり、感じさせてくださいませ」