※この作品はR-18です。

『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』   作:シキセ

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第三十七話 夜の牙、解き放つ

七日目の夜、俺は英稟に違うものを渡した。

 

布袋だった。

 

英稟が中を開けた。

 

「……これは」

 

「着替えろ」

 

英稟が袋の中身を出した。

 

深紅のドレスだった。肩が出て、背中が大きく開いている。丈はひざ丈だが脚のラインが浮く。符士の正装とは何もかもが違う。

 

英稟が俺を見た。

 

「……符士衣ではないんですか」

 

「そうだ」

 

「……盛り場、ですか」

 

「そうだ」

 

英稟が少し間を置いた。

 

「……このドレスで、符闘をするんですか」

 

「そうだ」

 

英稟が赤い布を手の中で確かめた。符士衣とは何もかもが逆の布だった。

 

「……正体を隠す、ということですか」

 

「顔を隠すんじゃない。名前を置いてくるんだ。今夜の英稟は星宮当主ではない。名もない符士だ」

 

英稟がしばらく布を見つめて、それから、ひとつだけ訊いた。

 

「……甕星を出せば、甕星流の術だと知れます。それでも、いいんですか」

 

「甕星流の術者が場末で腕試しをした——その程度に読まれてもかまわない。俺が消したいのは、術ではなく名前だ。『星宮英稟が賭け符闘で負けた』という記録が、どこにも残らなければいい。当主が符士衣も脱いでこんな場所に立つなど、この街の誰も本気にはしない」

 

「……わかりました」

 

「チョーカーはつけたままだ」

 

「……はい」

 

英稟が着替え始めた。俺は背を向けた。

 

しばらくして——

 

「……準備できました」

 

振り返った。

 

英稟が立っていた。

 

赤いドレスの中で、英稟の背骨は真っ直ぐだった。肩が出ている。首にチョーカーが見えている。素顔のままだった。隠すものは、何もなかった。

 

(悪くない)

 

「行くぞ」

 

────

 

遠海の夜の盛り場は、港に近い区画にある。

 

灯りが多い。人が多い。煙草の煙と酒の匂いが混じる路地に、符闘の賭け場が軒を並べている。正式な大会ではない。符士同士が金銭を賭けて盤面を競う、ある種の地下市場だ。遠海領内では非公認だが、俺が黙認している。腕試しの場として機能しているからだ。

 

英稟はそれを知っていた。遠海領の当主として。

 

しかし今夜は——知らない女として、ここに来ている。

 

「緊張しているか」

 

「……少し」

 

「するな」

 

「……するなと言われても」

 

「お前の甕星を、ここのどいつが止められる」

 

英稟が少し黙った。

 

「……そうですね」

 

声が、少し落ち着いた。

 

 

最初の相手は若い符士だった。二十代の男。符叢から炎系の使役式を数体展開してくる。

 

英稟が眼を細めた。

 

「…………」

 

甕星が出た。

 

静かに。

 

素早く。

 

相手の炎使役式の展開が終わる前に、甕星の陰属性の圧が場を制していた。

 

三手目で詰んでいた。

 

「——な」

 

若い符士が盤面を見た。

 

「……参りました」

 

英稟が符叢を収めた。何も言わなかった。

 

 

二戦目の相手は中堅の符士だった。三十代、符叢の構成が複層的だった。炎と土の複合属性。堅い盤面を作るタイプ。

 

英稟が一手目から手番を刻んだ。

 

俺は横で見ていた。

 

(動きが——昨日と違う)

 

余計な考えが入っていない。盤面だけを見ている。甕星の動線を先に引いて、相手の展開を全て誘導してから一気に刈り取る流れだった。

 

訓練場で七日間、俺の符叢と戦い続けた英稟の盤面だった。

 

「……参りました」

 

五手目で相手が倒れた。

 

英稟が符叢を収めた。今度も何も言わなかった——しかし、チョーカーに触れる指が、かすかに動いた。

 

(感じている)

 

勝利の感触を。

 

 

三戦目の相手は年配の符士だった。白髪交じり。盛り場の古株で、賭け符闘の場では顔が知られている。周りが少し固唾を飲んだ。

 

「嬢ちゃん、あの人に挑むのか。やめといた方が——」

 

英稟が視線を向けた。

 

素顔の、まっすぐな視線だった。

 

しかし——男は言葉を止めた。何かを感じたのだろう。この目の奥にあるものを。

 

「……始めましょう」

 

英稟が符叢を開いた。

 

年配の符士が符叢を開いた。重厚な構成だった。水属性の高位使役式が複数。符叢の深みが違う。場数の重さがあった。

 

(ここで試す)

 

二戦、勝った。牙は戻りかけている。だが——本当に戻ったかどうかは、乱された時にしかわからない。

 

俺は、ポケットの中の操作機に指をかけた。

 

「甕星、具現」

 

甕星が降りた。陰属性の圧が盤面を覆った。

 

その瞬間、俺は出力を上げた。

 

「……っ」

 

英稟の肩が、微かに揺れた。声には出さなかった。だが、盤面を見る目の焦点が、一瞬だけぶれた。

 

年配の符士は、その一瞬を見逃さなかった。水属性の使役式が三体、同時に展開された。堅牢な結界が組まれていく。

 

「……くっ」

 

英稟の指先が止まった。プラグの振動が、腸の奥で存在を主張し続けていた。前には何も触れられていない。それでも、体の芯が疼いていた。

 

(考えろ。盤面だけを見ろ)

 

俺はさらに出力を上げた。

 

「——ぁ……っ」

 

小さな声が漏れた。年配の符士が、わずかに眉を上げた。しかし手は止めなかった。結界が完成に近づいていく。

 

英稟の甕星が、防戦に回った。押されていた。

 

(このままでは、崩れる)

 

俺は、それでも出力を下げなかった。

 

英稟の呼吸が、乱れていた。快感と焦りが同じ場所でせめぎ合っている顔だった。悔しさに歯を食いしばりながら、それでも腰の奥から込み上げる疼きを殺しきれない——その両方が、同時に顔に出ていた。

 

「……っ——それでも——」

 

英稟が、低く呟いた。

 

「私は——甕星流の——当主だ——っ」

 

甕星の陰属性が、一段、圧を増した。結界の隙間を、正確に見抜いていた。乱された集中の奥から、何かが突き抜けたのがわかった。

 

「……見える——っ」

 

英稟の目が、見開かれた。快感で潤んだまま、同時に、盤面の全てを見通す目だった。羞恥と屈服と、それでも折れない牙が、一つの顔の中に同居していた。

 

甕星が、結界の隙間へ一気に踏み込んだ。

 

八手目。

 

「……まいった」

 

年配の符士が頭を下げた。

 

周りが静かになった。

 

「あの人が……」「あの女、誰だ」「甕星を……三戦目で連続で」

 

英稟が俺の方を向いた。

 

紅潮した顔だった。汗が額に浮いていた。目が、濡れていた。泣きそうなのか、笑いそうなのか、それとも達したばかりの余韻なのか、判断できない顔だった。勝利の証と、快楽に堕ちた証が、同じ表情の中に混ざっていた。

 

(戻ってきた)

 

自分の牙の感触が。

 

だが、それ以上に——目の前の女から、目が離せなかった。

 

「行くぞ」

 

俺は英稟の手を引いた。宿まで、待てなかった。

 

────

 

港の近くに、小さな宿があった。

 

灯りの少ない路地の奥。目立たない外観。俺が事前に部屋を取っていた。

 

英稟が入り口で立ち止まった。

 

「……ホテル、ですか」

 

「そうだ」

 

「訓練場ではないんですか」

 

「今夜は違う」

 

英稟がしばらく黙っていた。

 

チョーカーに触れた。

 

「……どういう意味ですか」

 

「中に入ればわかる」

 

部屋は狭かった。窓から港の灯りが見える。ベッドがある。それだけの部屋だった。

 

扉が閉まりきる前に、英稟の体を壁に押し付けていた。

 

「……っ、世一様——」

 

英稟が息を呑んだ。名もない符士の顔が、驚きに変わっていく。頬が赤い。目がまだ——さっきの符闘の熱を持ったままだった。

 

いつもなら、条件を言う。今夜は何だと問い、答えさせ、確認してから触れる。今夜は、その手順を全部飛ばした。

 

赤いドレスの肩紐を、指で引き千切るように下ろした。

 

「……っ、乱暴——」

 

「黙れ」

 

唇を塞いだ。噛みつくような口づけだった。英稟が一瞬こわばって、それから、応えるように舌を絡めてきた。

 

三戦連続で崩された符士たちの顔と、快感に紅潮した英稟の顔が、まだ頭の中で重なっていた。それを、今すぐこの手で塗り替えたかった。

 

ドレスを乱暴に脱がせた。チョーカーだけが首に残った。

 

英稟をベッドに押し倒した。いつものように、ゆっくりとではなかった。

 

 

「あ——っ……」

 

指先が秘裂に触れた瞬間、英稟が短く声を上げた。

 

七日間、触れていなかった場所だった。

 

指をなぞるだけで——とろり、と蜜が溢れ出てきた。七日間分の渇きが、そこに凝縮されていた。

 

「ひぁ——っ♡……っ……」

 

「今夜のお前は、俺の全部が欲しいだろう」

 

「……っ……七日間……っ♡……ずっと……触れてもらえなくて……っ♡……裏を突かれるたびに……っ♡……前が……っ♡……こんなに……っ♡♡」

 

秘裂を指でそっと開くと、ぬちゅ、と音が立った。内側がもう、しとどに溢れていた。

 

問いも待たずに、先端を秘裂に押し当てた。

 

「……っ、待って——」

 

待たなかった。

 

一息に、奥まで沈めた。

 

ぐちゅっ、と、七日間焦らし続けた場所が、待ちわびたように俺を引き込んだ。

 

「……っ♡♡!……んぁっ……っ♡……!……はいって……っ♡……前に……っ♡……世一様が……っ♡♡……!」

 

後ろと違った。全く違った。英稟の内壁が——七日間の渇きで締め付けながら、俺を奥へ奥へと招いていた。

 

「……っ♡……ご主人様……っ♡……前……っ♡……前がっ……っ♡♡……やっと……っ♡……やっと……っ♡♡……!」

 

「戻ってきたな、お前の牙」

 

低く、耳元で言った。自分でも思っていなかった声音だった。

 

「今夜のお前は——あの画面の向こうにいた、俺が届かないと思っていたお前と、同じだった」

 

「……っ♡……世一様——っ♡」

 

「惚れ直した。……お前がお前を取り戻す顔を見て、惚れ直したんだ」

 

英稟の目が、大きく見開かれた。何か言おうとして、声にならなかった。

 

俺は腰を動かした。

 

くちゅくちゅ、と、七日間溜まった蜜が音を立てた。英稟の内壁が俺を締め上げながら、動くたびに引き留めようとする。

 

「……っ♡♡……あぁ……っ♡……こんなに濡れて……っ♡……恥ずかしい……っ♡♡」

 

「達け。全部俺に見せろ」

 

「……っ♡♡!!……い、いきます……っ♡……今すぐ……っ♡……ご主人様……っ♡……奥に……奥にきてください……っ♡♡!」

 

英稟が達した。

 

前で。

 

七日ぶりに、前で。

 

声が出なかった。声を出す余裕がなかった。内壁がぎゅうぎゅうと俺を締め上げながら、体が大きく波打ち、俺の背中に爪を立てて、チョーカーを首に感じながら、英稟は泣いた。

 

泣きながら達し続けた。

 

俺は最奥に押し込み、種を解き放った。

 

ごぷ、ごぷ、と——七日間待たせた末の精が、英稟の子宮の奥に注ぎ込まれていく。

 

「——っ♡♡♡……!!……熱い……っ♡……子宮が……っ♡♡……世一様の……っ♡♡……奥に……!!」

 

英稟が息を詰めた。

 

子宮の奥に、熱が広がっていく感触。七日間待ち続けた感触。

 

長い時間、英稟は動かなかった。

 

俺の胸の上で、息だけをしていた。

 

「……世一様」

 

「何だ」

 

「……ありがとうございます」

 

「礼を言うか」

 

「……言いたくて」

 

「さっきの言葉は、その場の勢いじゃない」

 

英稟が、顔を上げた。

 

「……本当に——惚れ直したのですか」

 

「二度は言わない」

 

英稟が小さく、笑った。

 

今度は確かに笑った声だった。

 

「……次も、勝ちます」

 

「それでいい」

 

窓の外に、港の灯りが見えていた。

 

チョーカーは——英稟の首に、まだついていた。

 

約束の通りなら、もう用済みの首輪だった。自分の判断で噛める犬になった時が、稽古の終わりだった。

 

それでも、英稟は外さなかった。

 

(完成した)

 

命令を聞く犬にもなれる。命令に噛みつく副将にもなれる。今夜のように、名もない一人の符士にもなれる。どの顔で符叢を開くかを、局面ごとに自分で選ぶ——そこまで含めての、この七日間だった。

 

首輪は俺が贈った。だが、外さないと決めたのは英稟だ。

 

星宮英稟が、符侯の正妻として戻ってきた。

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