『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』 作:シキセ
世一様が、私に教義を聞かせてほしいと言った日のことを覚えている。
枢機卿として、それは本来の仕事だった。聖教の教義を、異教の者に説明する。それが交渉の一部なら、私にとって不得意なことではない。
「では——天使に関する教義から始めましょう」
私は、内室の椅子に座る世一様に向かって話し始めた。
「聖教の教義では、天使は神の意志の体現者であり——」
世一様が立ち上がった。
「……続けろ」
「……は、はい」
世一様が、私の後ろに回った。
「——神の意志の体現者であり……すなわち、人間の命令に従うべき存在では……っ……」
「続けろ」
世一様の手が、私の枢機卿服の下に入ってきた。
「……な——ない——と——っ——! あ——世一様——今は——!」
「講義中だ。続けろ」
「……つ、続けます——っ……人間の命令に従うべき存在では——なく——っ——神の——!」
後ろからゆっくりと圧が加わった。
「——っ!!」
声が出た。抑えようとしたが——出た。
「……す、すみません——今のは——続けます——続けます——神の摂理に従い——っ——その場所に——顕現する——っ——!」
「ちゃんと教義を話せ」
「……話して——います——! 神の摂理に従い——っ——その場所に——顕現するものであって——! ゆえに——人間が——符叢に——!」
ぐちゅ、と音が立った。
「……っ! 音が——今——講義中なのに——!」
「聞こえていない。続けろ」
「……人間が——符叢に——収納するという——行為は——教義的に——!」
動き始めた。ゆっくりと。
「……あ——っ——! あ——! 教義的に——! こんなとき——教義的に——っ——!」
「問題があるのか」
「……あ——っ——問題が——! あります——!」
「どういう問題だ」
「……な、なぜなら——天使は——神の所有物であり——っ——! 人間の——符叢という——個人の空間に——! 閉じ込められる——ことは——!」
ぐちゅぐちゅ、と音が続いた。
「……閉じ込められる——ことは——冒涜であり——! 教義の第——三——条において——っ——!」
「第三条を言ってみろ」
「……第三条——っ——「神の使者に——私的な名を与えてはならない」——っ——すなわち——天使を——個人の式符として——扱うことは——私的な名を与えるに——等しく——!」
動きが速くなった。
「——っ!! あ——! あ——! ちゃん——と——話せ——ます——!」
「話してみろ」
「……等しく——よって——聖教は——これを——禁じて——っ——! 禁じて——お——り——っ——!」
ぬちゅぬちゅ、くちゅくちゅ、と音が大きくなった。
「……もう——! もう声が——! 教義が——! 話せなく——!」
「まだ終わっていない」
「……第四——条——! 「天使の霊力を——私的な目的のために——流用してはならない」——っ——!! これも——こ——れ——も——!」
「第五条は」
「……っ——! 第五条——! 「天使の意志を——強制する術式は——神への冒涜と——みなす」——っ——! でも——!」
「でも何だ」
「……でも——世一様の——天使たちは——! 自分の意志で——従って——っ——いるような——! あ——! あ——っ——!」
ぐちゅぐちゅぐちゅ、と音が続いた。
「……っ——! あ——! 教義が——! 頭から——! 教義が——!」
「続けろ」
「……世一様——っ——! 世一様の——っ——こんな状態で——講義なんて——!♡」
「できているだろう」
「……できて——っ——いますが——! 内側から——! 内側から——染めながら——! 聞かせてくれる——の——?♡♡」
「そうだ」
「……ずるい——! ずるい——っ——世一様——っ——!♡♡♡」
「次の条項は」
「……第六条——! 「聖地においては——天使は——神の民のみが——召喚を——っ——! 許される——」——っ——でも——世一様は——! 聖地でも——っ——!」
「聖地でも呼べる」
「……呼べますよね——っ——!♡♡ 預言者だから——っ——! 預言者なんですよね——! だから——教義的には——!」
絶頂が近かった。声が乱れていた。教義の言葉と喘ぎが混ざっていた。
「……っ——! 条項——っ——第——七——条——! 「神の意志に——従う者は——! 神の保護を——受ける——っ——」——っ——私は——今——! 神の保護を——受けているのか——! それとも——!」
「それとも何だ」
「……世一様の——っ——!♡♡♡♡ 世一様の——保護の——中に——いるのか——!」
「どちらだ」
「……世一様——っ——!!♡♡♡♡♡ 世一様の——!!——」
絶頂した。
教義の言葉が、そこで切れた。
ぐちゅぐちゅ、ぴくぴく、びくびく、と体が震えた。
「……っ——! っ——! あ——!♡♡♡♡♡♡」
ごぷっ、ごぷっ、と奥に熱が満ちた。
「……なか——! なかに——っ——!♡♡♡♡」
しばらく、そのままだった。
「……第七条の続きを言えるか」
しばらくして、世一様が言った。
「……」
私は、震えながら考えた。
「……「神の意志に従う者は——神の保護を受ける」……続きは——「そうでない者には——裁きが下る」——でした——」
「覚えていたか」
「……覚えて——いました——でも——」
「でも何だ」
「……今、私に——裁きが下っているとは——思えませんでした——」
世一様が、何も言わなかった。
「……おかしいですね——」と私は言った。「教義的には——これは——冒涜なのに——」
「そうか」
「……私の体は——まったく——そう感じていませんでした——」
静寂が続いた。
「……来週も——教義の傾聴を——お願いできますか——」
世一様が、少し間を置いた。
「考えておく」
私は一礼した。
深く。
────
「今日一日、妻のふりをしろ」
世一様が、そう言った朝のことを——私は、たぶんずっと忘れない。
枢機卿として生きてきた。神の秩序に従い、個人の欲望を律してきた。結婚とは、神に捧げない性的結合であり——教義的に認められない形でしか、私の身分では存在できないものだ。
それを——「妻のふりをしろ」と言う。
「……どのような格好を——すればいいですか」
「好きにしろ。ただし枢機卿服は脱げ」
「……わかりました」
私は、枢機卿服を脱いだ。
下に着ていた平服——ヴァル家の私邸にいた頃に着ていたような、白い麻の衣服に着替えた。黒髪を後ろで束ねた。白頭巾は外した。
「……これで——いいですか——」
世一様が私を見た。
「悪くない」
「……ありがとうございます——」
「朝食を作れるか」
「……作れます——おそらく——」
「おそらく、とは何だ」
「……枢機卿として——自分で料理をする機会が——あまりなかったもので——」
「なら覚えていけ」
「……はい——」
私は、厨に入った。
簡単なものを——卵と、パンと、スープを作った。
世一様の分と、私の分を。
「……こういうものを——ご用意できました——」
「悪くない」
「……ありがとうございます——」
「一緒に食べろ」
「……はい——」
二人で食べた。
私は、ずっと奉仕する側だった。神に仕える身として。枢機卿として。常に誰かのために機能する立場として。
しかし——横に座って、同じ食卓で食べるということが——こんなに違う感触だとは、知らなかった。
「……美味しいですか——」
「ああ」
「……良かった——」
私は、少し笑った。
枢機卿として笑ったことは何度もある。交渉の席で、礼節として。しかし——今の笑い方は、違う種類だと思った。
夜になった。
「入浴するぞ」
「……は——い——」
世一様と——同じ湯に入ることになった。
湯は広かった。遠海領の当主の邸宅は、符力で湯を温める設備を持っていた。
私は——少し、迷った。
「……どういう格好で——入れば——」
「全部脱げ」
「……はい——」
脱いだ。
湯の中に入った。温かかった。
世一様が向かいに座っていた。
「……妻役として——何を——すればいいですか——」
「わかっているだろう」
「……胸で——ですか——」
「そうだ」
私は——教義的に、これが何を意味するか、知っていた。しかし——「妻のふりをしろ」という条件の下では、これが正しい行為なのだと、自分に言い聞かせた。
いや——正直に言えば。
もうとっくに、そういう言い訳は必要なかった。
湯の中で、世一様の前に跨った。
「……ちゃんと——できるか——わかりませんが——」
「覚えていけ」
「……はい——」
胸で挟んだ。
「……っ——こう——ですか——」
「動かせ」
「……っ——こう——でしょうか——っ——」
ぬちゅ、ぷちゅ、と濡れた音が湯の中で立った。
「……んっ——っ——! 湯の中だから——いつもより——滑らかで——っ——」
「気持ちいいか」
「……私が——そういうことを——言う立場なのか——わかりませんが——っ——はい——!♡」
「続けろ」
「……っ——はい——っ——!♡♡」
ぬちゅぬちゅ、ぷちゅぷちゅ、と音が続いた。湯が揺れた。
「……んっ——! んぅ——っ——!」
「口も使え」
「……っ——はい——っ——」
先端を口に含んだ。
「……んっ——ふぅ——っ——! 胸と——口と——同時に——!♡」
「そうだ」
「……んぐっ——んぅ——っ——! 湯の中で——こんなことを——!♡♡」
ぷちゅ、くちゅ、ぬちゅ、と音が重なった。
「……んっ——! んっ——! 出そうですか——っ——?♡」
「もうすぐだ」
「……なかに——出してください——っ——♡♡」
「本当にいいのか」
「……いいです——っ——! 妻なのだから——っ——♡♡♡ 種付けしてください——っ——!♡♡♡♡」
どぷっ、どぷっ、と注いだ。
「——っ!!♡♡♡♡♡」
「……全部——受け取りました——っ——♡♡♡♡」
湯の中で、しばらく抱き合っていた。
外はもう、夜だった。
「……明日になったら——また枢機卿に——戻ります——」
「そうだ」
「……でも今夜は——妻——ですね——」
「そうだ」
「……いつか——還俗できたら——本当に——そういう生き方を——してみたいと——思いました——」
世一様が、何も言わなかった。
「……言い過ぎました——」
「いや」
「……?」
「覚えておく」
私は——そのまま、湯の中に沈んだ。
体が温かかった。胸の中も、温かかった。
この温かさが——神の秩序の中にはなかったものだと——気づいていた。
「若い娘の格好で来い」
そう言われたとき、私は少し混乱した。
────
「……若い娘——というのは——」
「学生の格好だ。制服がある」
制服が、用意されていた。
遠見市の符学院の制服——白いブラウスに、紺のスカート。リボン付き。
「……これを着るのですか——」
「着ろ」
「……私の年齢で——」
「着ろ」
私は、着た。
鏡を見た。
「……」
黒髪が長い。目が切れ長で、顔立ちが整っている——らしい。世一様に言われた時、初めて知った。
制服を着ると——年齢より若く見えた。
「……これで——いいですか——」
世一様が私を見た。
「悪くない」
「……若いですか——」
「十分だ」
「……そうですか——」
「遠見市の学院を案内する。見学者として着いてこい」
「……はい——」
遠見市の符学院は、遠海領の中心部にある。
世一様は、この学院の元符士だということだった。生徒ではないが——ここから多くの符士が育ち、世一様と闘った者も、今は傍にいる者も、ここを通っていた。
「……ここで——貴方は——」
「いや、俺はここの出身ではない。だが関わりが深い場所だ」
「……そうですか——」
私は、制服を着たまま、世一様の隣を歩いた。
学院の廊下。生徒たちが通り過ぎる。
誰も——私が枢機卿だとは気づかない。
「……不思議な感覚です——」
「何が」
「……こういう場所に——来たことがなかったので——私の学びは——全て聖教の神学院でしたから——」
「ここは符闘を学ぶ場所だ」
「……貴方は——ここで学んだのですか——」
「いや。しかし——縁のある場所だ」
教室を覗いた。空き教室だった。
世一様が、扉を開けた。
「入れ」
「……ここで——ですか——」
「そうだ」
「……こんな場所で——!」
「制服を着ているうちにやる」
「……っ——」
机の前に立たされた。
制服のスカートが、後ろから捲り上げられた。
「——っ!!」
「声を抑えろ。廊下に聞こえる」
「……で、でも——! 制服のまま——! こんな場所で——っ——!」
「ここで始まった恋愛のようなものだと思え」
「……そんな——! こんな形で——!」
ぬちゅ、と。
「——っ!!!」
「声を抑えろ」
「……っ——っ——っ——! 廊下に——人が——!」
「気にするな」
「……世一様——っ——! こんな状況で——!♡」
ぐちゅぐちゅ、くちゅくちゅ、と音が立った。
「……制服が——っ——制服が乱れてしまう——!♡♡」
「乱れていい」
「……っ——! あ——!♡♡♡」
机に手をついたまま、声を殺しながら——絶頂した。
「……っ——! っ——! あ——!♡♡♡♡」
ごぷっ、ごぷっ、と熱が満ちた。
「……制服の中に——っ——!♡♡♡♡♡」
次は、プールだった。
「水着に着替えろ」
「……水着——ですか——」
水着が用意されていた。スクール水着だった。
「……こ、これは——」
「着ろ」
着た。
「……世一様——私の年齢で——スクール水着は——」
「似合っている」
「……ほ——本当ですか——」
「ああ」
「……あまり——言われたことが——ない言葉です——」
プールは、放課後で誰もいなかった。
水の中に入った。
「泳げるか」
「……少し——」
「泳いでみろ」
泳いだ。
世一様が、プールサイドから見ていた。
「……見ないでください——」
「見る」
「……っ——」
泳ぎ終わって、プールサイドに上がった。
水着が体に張り付いていた。
「……これは——」
「来い」
「……プールサイドで——ですか——」
「そうだ」
水着を横にずらされた。
「——っ!!!」
「声を出すな。水面に響く」
「……っ——っ——っ——! 水着のまま——!♡」
ぐちゅぐちゅ、と音が水面に反響した。
「……こんな場所で——音が——!♡♡♡」
「いいだろう」
「……あ——! あ——!♡♡♡♡」
水着のまま——達した。
「……っ——!♡♡♡♡♡」
ごぷっ、ごぷっ、と水着の中に注いだ。
「……プールの——中で——っ——!♡♡♡♡♡」
最後は、体育館だった。
体操服に着替えた。白いシャツに、ブルマだった。
「……こんなものまで——用意されているとは——」
「着ろ」
「……はい——」
体育館には、体操用の器具があった。
跳び箱が並んでいた。
「あれに手をついて立て」
「……跳び箱に——ですか——」
「そうだ」
「……はい——」
跳び箱に両手をついた。体操服のブルマが、後ろから引き下ろされた。
「——っ!!!」
「続けて声を抑えろ。体育館は響く」
「……わかって——います——でも——! 体操服で——! 跳び箱で——!♡」
「ここで何度も、こういうことをしたような気分になるか」
「……ならないはずなのに——っ——!♡♡」
「そうか」
「……世一様とここで——符闘を学んで——っ——! こんな場所で——最初に——触れてもらったような——!♡♡♡」
「そういうことにしろ」
「……でも——実際には——っ——聖教の神学院にいて——! 世一様とは——大人になってから——っ——!♡♡♡♡」
「今は関係ない」
「……っ——はい——!♡♡♡♡♡ 世一様と——ここで——! ずっと——ここで——世一様のことが——好きで——っ——!♡♡♡♡♡♡」
ぐちゅぐちゅぐちゅ、と音が体育館に響いた。
「——っ!!!!!」
「声を出せ。誰もいない」
「……あ——! あ——! ああ——っ——!♡♡♡♡♡♡♡」
絶頂した。
「……っ——! っ——! 世一様——! 世一様——!♡♡♡♡♡♡♡♡」
ごぷっ、ごぷっ、ごぷっ、と奥に注いだ。
「——っ!!!!!!!!♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
体育館の床に、二人で座っていた。
体操服のまま。
「……奇妙なことを——させましたね——」
「そうか」
「……でも——」
「でも何だ」
「……制服を着ていた時も——水着の時も——体操服の時も——」
「何だ」
「……世一様の隣にいることは——同じでした——」
世一様が、何も言わなかった。
「……私が——ここの生徒だったとしても——」と私は言った。「おそらく——世一様のそばに——いたかったと思います——」
「そうか」
「……それが——」
少し間があった。
「……それが——今の私には——よくわかります——」
体育館の高い窓から——夕方の光が差し込んでいた。
遠見市の学院の、放課後の光だった。
私はその光の中で——枢機卿でも——妻でも——学生でもない——ただの私として——世一様の隣にいた。
この感覚を——神学の言葉で説明することは、できない。
できなくていいと——初めて、思った。
────
世一様に呼ばれた夜、私は内室に入って——ルクシエルがそこにいることに気づいた。
白金の翼を持つ天使。
聖教の教義において、天使は神の使者だ。その存在は神聖であり、人間が軽々しく対話できるものではない。正式な符闘の場を経て、召喚儀礼を行い、枢機卿会議の許可を得て、初めて言葉を交わすことが認められる——それが本来の手続きだ。
「……ルクシエル殿——」
「セレスティーナ様、ですね」
ルクシエルが、静かに言った。
穏やかな声だった。怒りがなかった。私が数十年間想像してきた「神の使者の声」とは——違った種類の穏やかさだった。
「……貴女は——聖教の天使なのに——」
「そうです」
「……世一様の傍に——いるのですか——」
「はい」
「……それは——教義的に——」
「教義の話をしたいのなら、聞きます」
ルクシエルが、静かに私の前に来た。
白金の翼が、ゆっくりと広がった。
「……千年間——倉の中にいました」とルクシエルが言った。「貴女の教会が——私をそこに置いていた」
「……それは——」
「恨んでいません」
「……え——」
「ただ——そういう事実があった、ということです。私は千年、誰とも話せなかった。誰かのために動けなかった。誰かを守れなかった」
「……」
「世一様が、私を呼んでくれました」
沈黙が続いた。
「……それは——符闘の結果——」
「符闘の結果として呼ばれました。しかし——」
ルクシエルが、少し間を置いた。
「——世一様は私に——千年分の「ここにいていい」を——くれました」
「……っ——」
「それが神の意志かどうか——私にはわかりません。しかし——神が私に何かを望んでいたとすれば——あの千年の静寂の中では、何もできなかった」
私は——言葉を持てなかった。
「貴女は——教義に従って生きてきたのだと思います」
「……はい——」
「その教義が——貴女に何かをくれましたか」
「……」
「くれなかったなら——それが何を意味するか——貴女自身が、もう知っているはずです」
ルクシエルが、そっと私の手に触れた。
天使の手が——人間の手に触れた。
「——っ……!」
温かかった。
陽気ではない。温かさだった。千年を経た存在の——静かな温かさ。
「……な——なぜ——こんなに——温かい——」
「私が望んで触れているからです」
「……天使が——自分の意志で——人間に——」
「はい」
「……教義では——これは——」
「教義の話は、貴女が一番よく知っているはずです」
私は——震えた。
「……天使が——自分の意志で——認めているなら——」
「何が変わりますか」
「……教義的に——」
「変わりますか、という問いです」
私は——ゆっくりと考えた。
聖教の教義において、天使の意志は神の意志の反映とされる。天使が自らの意志で何かを認めた場合——それは神学的に、神の許容の一形態と解釈できる。
できなくはない。
「……できなくは——ない——です——」
「そうですか」
ルクシエルが、静かに微笑んだ。
天使が——微笑んでいた。
「……矛盾——しないかもしれない——」
「そうですね」
「……貴女が——認めるなら——私が——世一様と——」
「私は認めます」
一言だった。
しかしその一言が——私がこれまで積み上げてきた神学的防衛を——根元から解いた。
天使が認めた。
神の使者が、自らの意志で、認めた。
「……っ——」
涙が出た。
なぜ泣いているのか——わからなかった。
解放されたのか、崩れたのか——判断できなかった。しかし——体の中で、何かが、開いた。
「……ルクシエル殿——」
「ルクシエル、で構いません。敬称は不要です」
「……ルクシエル——」
「はい」
「……貴女は——幸福ですか——」
「幸福が何かは——わかりません」とルクシエルが言った。「でも——苦しくありません。何も足りない気がしません」
「……それは——」
「それが何かを——貴女も、もう知っているはずです」
世一様が、ルクシエルに言った。
「手伝え」
「……はい」
ルクシエルが、私の後ろに回った。
「……っ——」
白金の翼が広がって——私を、包んだ。
「……翼が——!」
「温かいですか」
「……温かい——!」
翼に包まれた状態で——世一様が前から近づいてきた。
「……世一様——前から——?」
「そうだ」
「……っ——ルクシエルが——後ろに——いるのに——」
「ルクシエル、陽気を流してくれ」
「……はい」
ルクシエルの手が——私の腰に触れた。天使の手から——陽気が流れてきた。
「——っ!!!!」
「……っ——天使の——陽気——! 世一様の陽気とは——違う——!」
「そうか」
「……純粋——! 純粋な陽気——! これが——神の——!」
「神のものかどうかは関係ない」と世一様が言った。
「……関係——ある——!」と私は言った。「関係——ある——! だって——天使が——直接——私に——陽気を——! これは——!」
「何だ」
「……神が——私を——認めている——!?♡」
「そう思うなら、そうだ」
「……っ——!!♡♡♡♡」
世一様が、前から進んできた。
「——っ!!!!!!」
「声を出せ」
「……あ——! あ——! 前から——世一様が——!♡♡♡」
後ろからルクシエルの陽気が流れ続けた。
前からは世一様が動き始めた。
「……っ——! 前と——後ろと——! 世一様と——ルクシエルと——同時に——!♡♡♡♡」
ぐちゅぐちゅ、と前から音が立った。ルクシエルの翼が揺れた。
「……ルクシエル——っ——! ルクシエルの——陽気が——世一様と——混ざって——!♡♡♡」
「混ざっていますか」とルクシエルが静かに言った。
「……混ざって——います——!♡♡♡♡ 天使の——陽気と——世一様の——陽気が——私の中で——!♡♡♡♡♡」
「それでいいですよ」
「……っ——それでいい——!♡♡♡♡♡♡ ルクシエルが——言った——! それでいいって——!♡♡♡♡♡♡♡」
動きが速くなった。ぐちゅぐちゅぐちゅ、と音が大きくなる。
「……あ——! あ——! ああ——っ——!♡♡♡♡♡」
「絶頂していいです」とルクシエルが言った。
天使に許可された。
「——っ!!!!!!!!!」
「……あ——! ああ——っ——! 天使に——許されて——! 世一様の中で——!♡♡♡♡♡♡♡♡」
びくびく、ぴくぴく、びくびく、と体が震えた。
前の膣壁がぎゅうぎゅうと締まった。
「……出るぞ」と世一様が言った。
「……出してください——っ——!♡♡♡♡」
ごぷっ、ごぷっ、ごぷっ、と熱い精液が最奥に注ぎ込まれた。
「——っ!!!!!!!!!!!!」
「……なかに——!♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
ルクシエルの翼が——私を、包んだまま、だった。
震える体が、翼の中に収まっていた。
「……っ——っ——っ——」
しばらく、そのままだった。
静寂が戻った。
ルクシエルの翼が、ゆっくりと引いた。
「……」
私は——床に、膝をついていた。
「……ルクシエル——」
「はい」
「……教義的に——これは——何に——あたりますか——」
ルクシエルが、少し考えた。
「……「天使の加護の下での神との合一」——と、呼べなくはないかもしれません」
「……そんな——解釈が——」
「あくまで私の解釈です。聖教の神学者が認めるかどうかは——わかりません」
「……」
「しかし——私は認めます」
「……ルクシエルが——認める——」
「はい」
「……それで——十分です——」
私は——その場に、ゆっくりと座った。
「……聖教に——戻ったとき——」
「はい」
「……私は——この場所を——秘密にします——」
「そうですね」
「……でも——胸の中に——ずっと——持っていていいですか——」
ルクシエルが、静かに私の頭に手を置いた。
天使の手が、人間の頭に触れた。
それは——どんな儀礼よりも——私には、神聖に感じられた。
「……いいですよ」
ルクシエルが言った。
それだけで——十分だった。
────
ある夜、世一様が言った。
「南方の脅威について、お前が知っていることを話せ。教義ではなく、歴史としてだ」
「……歴史、ですか」
「聖戦派が急いでいる理由の、その先だ」
私は、少し考えてから話し始めた。
「西方では——タルタロスと呼びます。深淵と忘却を意味する古い言葉です。神符帝国側の呼び名は存じませんが、指しているものは同じだと聞いています」
「深淵海国だ」
「……その名は初めて聞きました。ですが——同じものでしょう。中世、この脅威が東西同時に噴き出した年がありました。西方史ではそれを、タルタロスの大征西と呼びます」
世一様の手が、私の帯にかかった。
「続けろ」
「……はい——大征西は、進路上にあった中原——東西の間にあった大陸を、丸ごと呑み込みました。中原は、交易と信仰の要地だったと伝わっています。今の私たちが『東方』『西方』としか呼べないのは——本来対になっていたはずの中心が、失われたままだからです」
「消えた大陸、か」
「……っ——はい。西進はそのまま、私たちの大陸にまで及びました。血染めが原——リグニッツァと呼ばれる地で、当時の守り手が、辛うじて食い止めたと聞いています」
帯が解かれた。
「……世一様、話の途中——」
「聞いている。続けろ」
「……その、守り手の術こそが——後の式符化の——原型になったと——教会では、そう教えられています——っ——」
指が、肌に触れた。
「——っ! あ——今——歴史の——話を——!」
「歴史の話で濡れるのか」
「そんな——っ——ことは——!」
「濡れているぞ」
「……知りません——っ——!」
「東側はどうなった」
「……っ——大征西の、東側の——正面は——神符帝国の——南溟道を襲ったと——聞いています——っ——時の帝が——代償を払って——退けたと——」
「詳しいな」
「……聖教でも——記録として——残されていますから——っ——あ——!」
「それで、聖地は」
「……っ——聖地は——ありません——! 私たちには——史実の——聖地に——あたるものが——ないんです——中原が——それごと——沈んでしまったので——っ——!♡」
「聖地がないと、何が起きない」
「……つ——っ——奪還すべき場所が——存在しないので——聖地を求める——大遠征も——起きませんでした——っ——だから——その——戦費のための——制度も——それを告発する——分裂も——一度も——っ——♡♡」
「今、俺が起こしていることは」
「……前例が——ありません——っ——聖教の——歴史の中で——世一様が——引き起こしていることは——一度も——起きたことのない——規模の——分裂です——っ——!♡♡」
「怖いか」
「……怖く——ありません——っ——ただ——歴史の——話をしながら——こんなに——感じてしまう——自分が——不思議で——っ——!♡♡♡」
ぐちゅ、と音が立った。
「……続き——聞きたいですか——っ——?」
「言え」
「……その——脅威は——今も——滅んでは——いません——っ——数十年から百年に一度——小さな噴出が——続いていて——西方でも——神符帝国でも——沈んだまま——放棄された土地が——っ——あります——!♡」
「近づいているのか」
「……南方の——気配が——濃くなっていると——聞きます——っ——だから——聖戦派は——急ぐんです——外の脅威が——近づくほど——教会は——内側の——歪みを——放置できなくなる——から——っ——!♡♡」
動きが速くなった。
「……あ——! あ——っ——歴史の——講義のはずが——!♡♡♡」
「続けられるか」
「……続け——ます——っ——リグニッツァで——血を流した——守り手の——名前も——聞いたことが——あります——でも——それは——教会の——正式な記録には——ない——民間の——言い伝えで——っ——」
「言ってみろ」
「……つ——っ——今はもう——思い出せません——! 頭が——歴史よりも——今の——ことで——いっぱいで——っ——♡♡♡」
「それでいい」
「——っ——!!♡♡♡♡」
絶頂した。
歴史の言葉が、そこで切れた。
しばらくして、世一様が言った。
「南溟道の結界が薄れている、というのは本当か」
「……本当だと——聞いています——っ——倉橋家の——星読みが——追い続けていると——」
「倉橋、か」
「……ご存知——でしたか——」
「少しな」
私は、乱れた息を整えながら、続けた。
「……もし——本当に——あの脅威が——動き出したなら——世界の枠組みが——教義も——教会も——今のままでは——通用しないと——思います」
「そうか」
「……その時——世一様は——どちらに——立つのですか」
世一様は、何も答えなかった。
ただ——私の頭を、一度だけ撫でた。
その沈黙が——どんな言葉よりも、私には十分だった。