※この作品はR-18です。

『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』   作:シキセ

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第四十八話 三旗、卓を囲む

翌日の夜、三人を呼んだ。

 

内室ではない。執務室の隣の、円卓のある部屋だった。

 

円卓は、遠海の先代が外つ国の商人から買ったものだと聞いている。上座のない卓だ。誰が主人か分からなくなる——そう言って、先代は一度も使わなかったらしい。倉から出させて、磨かせた。今夜の用途には、上座のない卓の方が、いい。

 

リタニア——ヴァンシュタイン家の碩学。茶髪に丸眼鏡。手帳と羽ペンを胸に抱えている。

 

セレスティーナ——聖教の神使監察枢機卿。深紅の枢機卿服。背骨の通った所作。

 

エリナ——遠海と個別契約を結んだばかりの騎士。白い騎士服の胸元に、署名したての契約書の写しを携えていた。

 

三人が部屋に入り、互いの存在を認めた瞬間——それぞれの顔が、わずかに変わった。似た立場にある者同士だと、本人たちが一番よくわかっていた。

 

「座れ」

 

俺は円卓を示した。

 

三人が、顔を見合わせた。並んで膝をつく場を、予想していた顔だった。

 

「卓に、だ」

 

三人が席に着いた。ヴァンダリアの観測者。聖教の枢機卿。マギニアを出た騎士。円卓に、三つの国の出が着いた。

 

「先に言っておく。国の名前は、捨てなくていい」

 

三人が、俺を見た。

 

「リタニアはヴァンダリアの碩学のままでいい。セレスティーナは聖教の枢機卿のままでいい。エリナは——マギニアで鍛えた騎士のままでいい。俺が欲しいのは、同じ方を向いた三本の旗じゃない。同じ卓に着ける、三つの違う目だ」

 

沈黙があった。

 

最初に口を開いたのは、リタニアだった。

 

「……確認します。私たちに、何をさせたいのですか」

 

「聖教の問題は、これから大きくなる。ダンテは引いていない。次は聖都で、天使の意志を巡る争いになる。その時に要るものを、三人で作ってもらう」

 

俺は、卓の上のリタニアの手帳を目で示した。

 

「リタニア。お前はあの三条件を仕上げろ。拒否しても罰がないこと。時間を置いて繰り返されること。本人の言葉で語られること。——誰が使っても同じ結果の出る手続きに磨け」

 

リタニアが、少し首を傾げた。

 

「……その三条件は、天使の意志を尊重するための手続きに見えます。ヴァンダリアの流儀では——ありませんが」

 

「尊重してやる気はない。手続きの穴を潰すためだ。強要された証言は、後で覆る。今、ダンテに一つでも突かれる隙を残せば、聖都の全部がひっくり返る。誰が突いても崩れない証言だけが、武器になる。お前の担当は、証言の再現性と記録だ」

 

「……なるほど。倫理ではなく、証拠能力の話ですね」リタニアの目に、光が入った。「手続きの標準化——それは、学術院でも成し得ていない仕事です」

 

「セレスティーナ。お前はその手続きを、教義と法に接続しろ。リタニアの三条件が、聖教の条文の中で効力を持つように。第九条を潰すんじゃない。第九条が要求する『判定』の中身を、書き換えろ」

 

セレスティーナが、ゆっくりと頷いた。

 

「……潰さずに、中身を。——ええ。条文は、そのやり方の方が強い」

 

「エリナ。お前は証言者を守れ。天使が何を選んでも、選んだ後に罰されない場を作る。教会側を選ぶ天使が出ても——守れ」

 

エリナが、顔を上げた。

 

「……教会側を選んだ天使まで守るのは——俺様への忠義、ということですか」

 

「忠義でやらせるつもりはない。一体でも『選んだせいで罰された』天使が出れば、残りの証言は全部、脅されて出た言葉だと疑われる。ダンテはそこを突いてくる。だから守る。お前の契約の二条目と、同じ理屈だ」

 

エリナが——少しの間、黙った。それから、深く頷いた。

 

「……その役目なら、旗の使い道があります」

 

リタニアが、小さく手を挙げた。

 

「一点。この卓の手続きは、世一様ご自身にも適用します。偏りは隠さず記録し、それでも機能することを示す——それしかありません」

 

「いいだろう。俺も載せろ」

 

リタニアの羽ペンが、走った。

 

一度だけ、卓が割れかけた。

 

「教会に残ると答えた天使は、どうなります」とエリナが言った。「あの倉に、戻すのですか」

 

「今の教会に、他の置き場がありません」とセレスティーナが言った。

 

「なら、牢と牢の間の選択です」

 

「だから、倉の側を変えます。時間はかかります。それでも『残る』を、尊重できますか」

 

エリナが、長く黙ってから頷いた。

 

「……改修計画に、期限だけは切ってください」

 

「入れましょう」

 

最後に、リタニアがエリナへ一言だけ確かめた。「護衛は、証言の中身が世一様に不利でも守りますか」

 

「守ります。偽証を裁くのは法廷の仕事で、私の仕事ではありません」

 

リタニアが、手帳に書きつけた。「定義として採用します」

 

会議は、夜半まで続いた。三人は、最後まで同じ結論には至らなかった。それでも、三条件を共通の物差しにすることには、三人とも署名した。

 

リタニアの手帳の頁に、三つの署名が並んだ。ヴァンシュタイン家の角ばった署名。枢機卿の流麗な署名。騎士の、力の入りすぎた署名。

 

────

 

散会の後、三人は別々の順で部屋を出た。

 

エリナが最初に立った。扉の前で振り返って、「……訓練場を、お借りしても」と聞いた。

 

「今からか」

 

「扉の前に立つ役目なら——立ち方から、鍛え直しておきたいので」

 

「使え」

 

エリナが一礼して、出ていった。廊下の足音が、途中から駆け足になった。

 

リタニアは、卓に残って手帳を清書していた。声をかけると、顔も上げずに答えた。

 

「……今夜の議事録を、三通作ります。三人が同じものを持つべきなので」

 

「俺の分は」

 

「……四通でした。訂正します」

 

羽ペンの音が、また続いた。この女の几帳面さは、武器の手入れに似ている。研いだ刃を数えるように、リタニアは今夜の言葉を一つずつ、頁に納めていった。

 

「学術院では、こういう会議は開けなかったか」

 

リタニアの手が、一瞬止まった。

 

「……開けませんでした。あそこでは、卓に着く前に序列が決まっています。誰が先に発言していいか、誰の言葉を記録に残すか——それも、序列の外にいる者には決められません」

 

「今夜は誰が決めた」

 

「世一様が。ですが——決めた後、誰も口を挟みませんでした。それが、学術院との違いです」

 

リタニアが、羽ペンを置いた。

 

「……碩学の家名は、捨てません。ですが、ここでの肩書きは、また別に欲しいと思いました。ヴァンシュタインの娘ではなく、この卓に着いた記録係として」

 

「もう着いている」

 

「……ええ。今、気づきました」

 

リタニアが、久しぶりに顔を上げて、わずかに笑った。それから、また手帳に向き直った。

 

セレスティーナは、最後まで残った。灯りの油を足して、俺の向かいに座り直した。

 

「……一つだけ、卓に出さなかった話があります」

 

「言え」

 

「私の立場です。教会の不作為を告発する神使監察が、告発される側の——世一様の女である。この事実は、審理のどこかで、必ず突かれます。隠せば、そこから全部が崩れます」

 

「どうする」

 

「隠しません。突かれる前に、私の口から言います。リタニア殿の『偏りごと記録する』と、同じ理屈です。……ただ、言った後に場がどう転ぶかまでは、読み切れません。そこだけは——賭けになります」

 

「賭けろ。負けたら俺が拾う」

 

セレスティーナが、目を細めた。

 

「……拾うと、簡単に仰いますが。神使監察の失脚は、聖教の統治体系そのものに穴を開けます。拾うとは、その穴の分まで背負うという意味です」

 

「知っている。それでも拾う」

 

「……分かっていて、仰るのですね」

 

「お前が賭けに出るなら、俺の方が先に腹を括っていないと釣り合わない」

 

セレスティーナが、少し笑った。

 

「……そういうところですよ、世一様」

 

「何がだ」

 

「なんでもありません。おやすみなさいませ」

 

灯りが、一つずつ消えていった。

 

────

 

部屋に戻ると、ルクシエルが窓辺に顕現していた。

 

「……聞いていたのか」

 

「はい。符叢の中まで、よく通る声の方々でしたので♡」

 

「どう思った」

 

ルクシエルは、少しの間、夜の海を見ていた。

 

「……千年前に、あの卓があれば——と、思いました」

 

声から、蜜が抜けていた。

 

「……世一様に、茶屋の女性のことを伺ってから、ずっと考えていました。あの方が——白陽様だったのだと。私の鎖を選んだ、もう一人の方だったのだと」

 

ルクシエルが、静かに続けた。

 

「白陽様とヨハンナ様は、私を守るために鎖を選びました。それは、今も感謝しています。……ですが、鎖を選ぶ前に、私自身に『どうしたいか』と聞いた手は——ありませんでした。決めたのは、私を想う二人で、決められたのは私でした。今日の卓は、三人とも、書く前に問うと決めていた。それだけのことに——千年、かかりました」

 

「今からでは遅いか」

 

「遅くありません。私が保証します♡ ……天使は、千年待てる生き物ですから」

 

俺は、ルクシエルの手を取った。

 

「……世一様?」

 

「今、聞いておく。お前はどうしたい」

 

ルクシエルの目が、丸くなった。それから、ゆっくりと笑みに変わった。

 

「……ずるい聞き方です。今それを聞かれたら——答えは、一つしかありません」

 

ルクシエルが、自分から俺の首に腕を回した。

 

「今夜は、私から。……いいですか」

 

「好きにしろ」

 

ルクシエルの唇が、俺の首筋に落ちた。

 

「……っ♡」

 

顕現した体が、俺の膝の上に跨る。黄金の髪が、灯りの下で流れた。

 

「千年、待たされる側でした。……今夜くらいは、自分から動く側に回っても——罰は当たらないはずです♡」

 

ルクシエルの手が、俺の服の合わせを開いていく。焦らすような、けれど迷いのない指の運びだった。

 

「……硬く、なっていますね」

 

「お前が煽るからだ」

 

「ええ、煽っています♡ ……今夜は、それが役目ですから」

 

前を寛げると、ルクシエルが腰を落とした。自分の下着を、自分の手でずらして。

 

「——っ♡♡」

 

先端が、蜜口に触れた。

 

「入れますね。……私から」

 

ゆっくりと、腰を沈めた。

 

「——っ!!♡♡♡♡」

 

「……っ——奥まで——入ってきます——っ——世一様の——っ♡♡♡♡♡」

 

最奥まで、迎え入れた。

 

「——っ!!!♡♡♡♡♡」

 

「……千年、鎖に繋がれていましたが。こんなに満たされたのは——初めてです♡」

 

ルクシエルが、自分から腰を揺らし始めた。

 

「……っ——ぁ——! 自分で——動くの——っ——初めて——ですが——っ♡♡♡♡♡」

 

「筋がいいな」

 

「天使ですので♡ ……何でも、すぐに覚えます」

 

腰の動きが、次第に速くなっていく。

 

「——っ!!♡♡♡♡♡♡」

 

「……っ——世一様——っ——奥に——当たって——っ——そこ——好き——です——っ♡♡♡♡♡♡」

 

俺は下から、腰を突き上げた。

 

「——っ!!!♡♡♡♡♡♡♡」

 

「……ひぁ——っ! それ——っ——ずるい——です——っ——私が動く側のはずが——っ♡♡♡♡♡♡♡」

 

「文句があるなら止めるが」

 

「……っ——ありません——続けて——ください——っ♡♡♡♡♡」

 

二人の動きが、噛み合っていく。

 

「——っ!!!!♡♡♡♡♡♡♡」

 

「……っ——いく——っ——千年分——一気に——っ——来ます——っ♡♡♡♡♡♡♡♡」

 

「出すぞ」

 

「……中に——ください——っ——鎖の代わりに——それを——っ♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

 

深く、注いだ。

 

「——っ!!!!!!♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

 

「……っ——熱い——っ——世一様の——全部——奥で——受けて——ます——っ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」

 

ルクシエルが、俺の胸に頽れた。金色の髪が、汗で頬に張り付いていた。

 

「……どうだった」

 

「幸せでした。今度は——誰にも、聞かれなくても言えます」

 

ルクシエルが、顔を上げて笑った。

 

「白陽様にも、ヨハンナ様にも——感謝はしています。ですが今夜のこれは、あの二人が決めたことじゃありません。私が、自分で選びました」

 

窓の外に、遠海の夜が続いていた。

 

卓の上の灯りが一つ、三本の旗の代わりに立っていた。

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