『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』 作:シキセ
夜、セレスティーナが自分から来た。
扉を叩く音は静かだった。入ってきた時の顔が——穏やかに見えたが、その奥に何かある。普段のセレスティーナなら、用件を先に言う。今夜は、それがなかった。
「どうした」
セレスティーナは、少しだけ間を置いてから答えた。
「……今夜は——私から——失礼してもいいですか」
セレスティーナが——深紅の枢機卿服の胸元に手をかけた。丁寧に脱いだ。畳んで、傍に置いた。いつもの、几帳面な所作だった。銀灰色の髪が、肩に落ちた。
下着だけになった彼女が、俺の前に立った。白い肌が、部屋の灯りに照らされていた。
「……来ていいですか」
「来い」
短く答えた。
セレスティーナが俺の隣に膝をついた。自分から——俺の手を取った。両手で、包み込むように。
「……触れてください、世一様」
「普段と違うな」
「……はい。今夜だけは」
「何かあったか」
「……世一様の隣にいたい、と思っただけです」
答えは、いつもより早く返ってきた。用意していた答えのように聞こえた。それ以上は、深く追及しなかった。
胸に触れた。セレスティーナが短く息を吸った。
「……っ……」
指の腹で、ゆっくりとなぞった。柔らかい膨らみが、手のひらの下で形を変えた。
「……っ……ん……」
先端に触れると、セレスティーナの肩が、小さく跳ねた。
「……そこは……っ……」
「嫌か」
「……いいえ——……もっと……」
下着をゆっくりと外した。白い肌が出た。三十を過ぎた体の重さがあった。胸は豊かだった。
「……世一様——」
「上になれ」
「……はい——」
セレスティーナが俺の上に跨がった。自分から位置を合わせた。ゆっくりと、沈んだ。
「……っ——! 深い——っ——」
腰が、少しずつ動き始めた。自分のリズムで。枢機卿の背骨は、この姿勢でも真っ直ぐだった。
「……世一様——っ——♡♡♡」
「声を出していい」
「……っ——! ありがとうございます——っ——!」
くちゅ、くちゅ、と音が立った。腰が大きく動いた。銀灰色の髪が乱れた。白い肌が汗で光り始めた。
「……気持ちいいです——っ——!♡♡♡♡」
胸を両手で包んだ。汗ばんだ肌が、指の下で震えた。
「……っ——両方——一緒に——っ——!♡♡♡」
先端を指の間で挟んで、軽く捻った。
「——っ!! そこ——弱い——です——っ——!♡♡♡♡」
「知っている」
「……っ——知って——いて——っ——!」
腰の動きが、少しずつ速くなった。膝が、シーツの上で滑る音がした。
「……っ——世一様——もっと——っ——強く——っ——」
「言われなくてもする」
腰を押し上げた。セレスティーナが背を反らした。
「——っ!!!!!!!!」
「奥まで届いているか」
「……届いています——! 世一様が——全部——っ——!!!!!!!!♡♡♡♡♡」
ぐちゅ、ぐちゅ、と音が続く。白蜜が溢れた。
「……もっと——っ——世一様——!!!!!!!!」
最奥まで押し込んだ。
「——あっ——ああっ——!!!!!!!!♡♡♡♡♡♡♡」
頂点に達した。体がびくびくと震えた。白蜜が大きく溢れた。
「……っ——! っ——! っ——!——」
ごぷっ、ごぷっ、と奥に流し込んだ。
「——あ——中が——熱い——っ——!♡♡♡」
セレスティーナが俺の胸に崩れ落ちた。
────
しばらく、二人とも動かなかった。荒い息だけが、部屋に満ちていた。
セレスティーナの銀灰色の髪が、俺の腕に張りついていた。汗の匂いと、いつもの香油の匂いが混じっていた。
「……重いですか」
「まだそこにいろ」
「……はい」
しばらくして、セレスティーナが言った。頬を俺の胸に当てたまま。
「カエリエルのことを——聞いてもいいですか」
「なんだ」
セレスティーナが、少し言葉を選ぶように間を置いた。
「……あの時——世一様の陽気に触れて、カエリエルが祝福した——あれは——」
「あいつが選んだことだ」
セレスティーナが少し間を置いた。
「……あの光景を、私は何度も思い返しています。神使監察の台帳にも、報告にも、書きようがない出来事でした」
「書けないなら書かなくていい」
「……いいえ。書けないことこそ、記録すべきなのかもしれません。書ける形にできないという事実そのものが、千年の不作為の証拠ですから」
「難しく考えるな」
「……難しく考えるのが、私の仕事です」
「今夜は休め」
セレスティーナが、小さく息を吐いた。
「……私は三十年——天使が何を考えているか、理解しようとしてきました」
「それで」
「……世一様は——一晩で、カエリエルに答えさせた」
「答えを与えたわけではない。ただ聞いたことがなかっただけだ」
セレスティーナが——静かに笑った。小さな声で。
「……そうですね」
「お前は、どう答える」
セレスティーナが、少し考えた。
「……問われれば、私は——今、ここにいたいと答えます」
「理由は」
「……理由まで問われると、少し困ります」
「困る理由を言え」
セレスティーナが、俺の胸に、そっと額を押し当てた。
「……理由を数え上げると、教義でも神学でもない言葉ばかりになるからです。神使監察としては——恥ずかしい答えです」
「恥じる必要は、何もない」
「……はい」
しばらく黙っていた。
「……世一様は、カエリエルに何を望んでいますか」
「望んでいない。あいつが望むことを、聞くだけだ」
「……それが——一番、難しいことなのですけれど」
「知っている。だから聞く」
「……三十年、私はそれができませんでした。天使の意志を聞く前に、教会の都合を先に置いてしまう。癖のようなものです」
「今は違うのか」
「……違うと、思いたいです。ただ——癖が完全に抜けたとは、まだ言えません」
「抜けなくていい。気づいて、その都度、正せばいい」
セレスティーナが、少し息を吐いた。
「……世一様の言葉は、時々、教義よりも簡潔です。簡潔なのに——教義よりも、腑に落ちます」
「教義は複雑にする理由があって複雑になっている。俺にはその理由がない」
「複雑にする理由、ですか」
「そうだ。教義は、大勢が同じ言葉を違う意味で使えるように作られている。曖昧さを残すことで、対立を先送りにする。俺には、先送りにする相手がいない。だから簡潔になる」
セレスティーナが、少し驚いた顔をした。
「……そこまで、教義を分析されたことは」
「分析はしていない。お前たちのやり取りを聞いていれば、自然とわかる」
「……観察力が高いのですね」
「盤面を読むのと、同じ技術だ」
「その技術で、私の何を読んでいますか」
俺はしばらく、答えなかった。
「今夜は、何かを隠している」
セレスティーナの体が、わずかに強張った。呼吸が、一瞬だけ止まったのがわかった。
「……何を——おっしゃっているのですか」
「隠しているものがあるなら、いずれ聞く。無理に今、聞き出すつもりはない」
セレスティーナが、俺の胸に顔を埋めた。声が、くぐもって聞こえた。
「……ありがとうございます」
「礼を言われる理由がわからない」
「……聞かないでいてくださること、それ自体に、です」
「聞けば、お前は答えるだろう。だが、答えを引き出すことと、お前が自分で言うことは、違う」
「……そうですね」
「お前が言いたくなった時に、言え。それまでは待つ」
セレスティーナは、それ以上何も言わなかった。ただ、しばらく、俺の胸に額を押し当てたままでいた。部屋の灯りが、天井にゆらゆらと影を落としていた。
しばらく黙っていた。
「……世一様」
「なんだ」
「……今夜は、これで失礼します」
セレスティーナが体を起こした。まだ夜は浅かった。いつもなら、朝までいる夜だった。
「戻るのか」
「……明日の下読みが、残っています」
嘘ではないのだろう。ただ——理由が、いつもより一つ多い気がした。
「何の下読みだ」
セレスティーナが、一瞬、止まった。
「……教義解釈の——古い文献です。天声派の理論固めに、必要なものです」
「読み終わったら教えろ」
「……はい。必ず」
「今夜は、戻らなくていい」
セレスティーナが、少し止まった。
「……ここに、いても」
「そう言っている」
「……はい」
セレスティーナが、服を着直さないまま、隣に横たわった。銀灰色の髪が、枕の上に広がった。
「今夜、ありがとうございました」
「何にだ」
「……全部、です」
いつもの答えだった。だが、いつもより一拍、長く俺を見てから、目を閉じた。
────
セレスティーナが隣で眠った後も、俺はしばらく眠れなかった。
理由を、うまく言葉にできなかった。セレスティーナの態度に、何か異常があったわけではない。むしろ、いつも通りだった。それが、逆に引っかかった。
いつも通りすぎる夜というものは、たいてい、何かを隠している夜だ。
(考えすぎか)
三国の使節、聖戦決議、ダンテの動向——この数か月、火種はいくらでもあった。セレスティーナが何かを抱えていたとして、それが新しい火種だとは限らない。古い火種が、まだくすぶっているだけかもしれない。
盤面を思い浮かべた。
聖戦決議は保留のまま。セレスティーナが教義の手続きで抑え続けている。ダンテの盤面は、依然として合理的で、隙が見えない。だが、隙のなさそのものが、逆に不気味だった。あの男は、五十年かけて一つの信念を育ててきた。そういう男が、手続きで抑えられたまま、ただ黙っているとは思えなかった。
(何か、まだ見えていない手がある)
考えすぎかもしれない。だが、考えすぎで済むなら、それでよかった。
セレスティーナが今夜言った「今、ここにいたい」という言葉を、もう一度思い出した。理由を聞かれると困る、と彼女は言った。教義でも神学でもない言葉ばかりになるから、と。
(その困り方も、いつもと違ったな)
いつものセレスティーナなら、困っても、最後には筋道を立てて説明する。今夜は、筋道を立てないまま、困った顔だけを見せて終わった。
小さな違和感が、いくつも積み重なっていた。一つ一つは、取るに足らない。だが、積み重なれば、形になる。
思い返せば、この数か月、セレスティーナは常に、手順を先に示してから動く女だった。聖戦決議を抑える時も、天使の意志確認の三条件を立てる時も、必ず道筋を口にしてから手を動かした。今夜のように、理由も告げず、ただ隣にいたいとだけ言う夜は、これまでになかった。
(何か、区切りをつけようとしているような)
区切り、という言葉が、なぜか頭に浮かんだ。何のための区切りなのか、それはわからなかった。
(明日、聞くか)
いや——今、聞いても、はぐらかされるだけだろう。何かがあるとして、それが形になって表れるまで、待つしかない。
セレスティーナは、聞かれたくないことを、隠すのがうまい女ではなかった。むしろ、隠し事をすれば、いずれ自分から白状するたちの女だ。三十年、教義と手続きの中で生きてきた分だけ、嘘には向いていない。
(それなら、待てば済む話だ)
そう結論づけて、目を閉じた。
眠気が、少しずつ落ちてきた。隣で、セレスティーナの寝息が規則正しく続いていた。
横顔を見た。灯りを落とした部屋の暗がりの中でも、枢機卿の背骨は眠りの中でもわずかに真っ直ぐだった。三十年、教義と手続きで生きてきた女の癖が、寝顔にまで染み付いている。銀灰色の髪が、枕の上で緩く広がり、呼吸のたびにかすかに揺れていた。
指先で、その髪に軽く触れた。セレスティーナは動かなかった。深く眠っている顔だった。
(今夜くらいは、何も考えずに眠ればいい)
その規則正しさに、いつの間にか誘われるように、俺も眠りに落ちていた。