『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』 作:シキセ
数日後、セレスティーナが三人を連れてきた。
遠見の客間に通した。
三人が並んで立っていた。
イゾルデ——二十六歳。背が高く、修道衣の中に眼光があった。顔に緊張はなかった。代わりに——何かを計算している目があった。
フィデリア——二十三歳。地方司教家の出身という立ち姿をしていた。膝が少し固まっている。来る前に何を聞かされたのか——顔色に出ていた。
マリエンナ——十八歳。一番右端。目が大きく、ここに来てから一度も視線を逸らしていなかった。俺をまっすぐに見ていた。
「セレスティーナ、話はしたか」
「……はい。大筋は」
「大筋というのは」
「……世一様の代理人として聖都に常駐すること。天声派の改革を内側から動かすこと。定期的に遠見に通うこと——その三点です」
「それだけか」
セレスティーナが——少し間を置いた。
「……残りは、世一様から直接お聞きになるほうがいいと——判断しました」
イゾルデが——口を開いた。
「質問してもよろしいですか」
「言え」
「「定期的に遠見に通う」というのは——何をしに通うのでしょうか」
「俺が教育する」
「……「教育」、と言うのですか」
「そう言っている」
イゾルデが——一秒、俺を見た。
「……セレスティーナ師も——その「教育」を受けたのでしょうか」
セレスティーナが——静かに答えた。
「……はい。私も受けています」
イゾルデが——小さく息を吐いた。逃げる気配ではなかった。計算が終わった顔だった。
「……わかりました」
「先に、一つはっきりさせておく」
俺は三人を順に見た。
「代理人の職務と、『教育』は——別の契約だ。職務契約に、夜の話は一行も入らない。教育を断っても、代理人にはなれる。職を退いても、教育だけ続けたければ続けられる。……受けるかどうかは、契約に署名した後で、一人ずつ、自分で決めろ」
イゾルデの目が、わずかに見開かれた。
「……分けるのですか。その二つを」
「分ける。混ぜれば、どちらの選択も証言にならなくなる。——最近、法廷で習った」
セレスティーナが、目を伏せて小さく笑った。
フィデリアが——横で小さく震えた。しかし——口は閉じたままだった。
マリエンナが——手を挙げた。
「あの——」
「なんだ」
「……私は——最高法廷で、カエリエル様の光を直接受けました」
「知っている」
「……あれは——世一様の陽気と、同じものですか」
「似ている」
マリエンナが——ゆっくりとうなずいた。
「……なら——大丈夫だと思います」
────
面接は、一人ずつ行った。
イゾルデには、記録と論証を任せると告げた。
「最高法廷の記録の編纂と、神学的論証。お前は改竄十七件を写した目と、論争で負けない口を持っている。天声派の理論の背骨を、お前が書け」
「……論文で戦え、ということですね」
「そうだ」
「……得意分野です」
フィデリアには、地方と貴族家への交渉を任せた。
「反世一の説教は、地方から燃え始めている。地方聖堂と、聖堂に金を出す貴族家。お前は司教家の出だ。あの世界の帳簿と、義理の通し方を知っている」
「……父の代からの伝手が、使えます。……使って、いいのですね。ああいう——綺麗ではない伝手も」
「綺麗な伝手だけで回る教会なら、ダンテは五十年も保たなかった」
フィデリアが、初めて少しだけ笑った。
マリエンナには、天声を任せた。
「天使の証言を聞き取り、改変せずに記録する係だ。お前は法廷でカエリエルの光を直接受けた。天使の言葉を、政治の都合で切り貼りしない耳が要る」
「……私の耳で、いいのですか」
「お前の耳がいい。理屈で聞かない耳だからだ」
マリエンナが、胸の前で手を組んだ。祈りの形だった。
契約書は、三通に分けて作らせた。
イゾルデの分には「記録と論証」。フィデリアの分には「地方交渉」。マリエンナの分には「天声の聞き取りと記録」。職務、期間、待遇——そして、どの一通にも同じ一条を入れた。「本契約は、契約者の申し出によりいつでも解除できる。解除による不利益は生じない」。リタニアの三条件から引いた文言だった。
三人が、それぞれの契約書を読んだ。イゾルデは二度読んだ。フィデリアは一語ずつ指で追いながら、マリエンナは唇を小さく動かしながら。
三つの署名が、揃った。
「これで、お前たちは俺の代理人だ。……ここから先は、職務の外の話になる」
────
セレスティーナが、三人の前に立った。師の顔だった。
「……職務の外の話は、私から説明します。世一様——少し、外していただけますか」
「いいだろう」
俺は席を外した。四半刻ほどして、呼び戻された。
何をどこまで話したのかは、聞かなかった。ただ、戻った時——フィデリアの顔色は一段白く、イゾルデの目は一段冷静で、マリエンナは変わらず、まっすぐ俺を見ていた。
「……三人とも、残りました」とセレスティーナが言った。「陽気のこと。体のこと。戻れなくなること。……私の口から、全部話しました。その上で、です」
「一人ずつ聞く」
俺はイゾルデを見た。
「受けるか」
「……受けます。私の署名は、もう乾いていますから——これは職務とは別の、私の選択です」
フィデリアを見た。
「……受け、ます。……怖いですが——来る前から、わかっていて来ましたから」
マリエンナを見た。
「……お願いします」
三人に、順番に向き合った。
最初はイゾルデだった。頭が良い分——陽気が入るまでの間が長かった。受け入れようとしながら、分析しようとしていた。最終的に——分析するより先に、体が答えた。
「……っ——これが——「支配」の——」
「支配じゃない。陽気だ。俺の気が、お前の中に入っている」
イゾルデが——力が抜けたように、俺の手を握った。論客の目が——少し、消えていた。
「……区別が——つくように——なりたいと——思います——」
フィデリアは——最初から膝が笑っていた。来る前からこうなるとわかっていた気がする、と言い、わかっていても来た理由を「父のこと」と数えて——それだけか、と問うと「それだけ、ではないかもしれません」と小さく答えた。陽気が入ると、一番素直に崩れた。計算が溶けた後の顔は——意外に幼かった。
「……これが——代理人として働く——代価ですか——」
「代価という言い方は好きじゃない。——繋がりだ」
フィデリアが——また崩れた。
マリエンナは——予想より、静かだった。陽気が入った瞬間、目を閉じた。
「……天声——みたいです——。天声は——外から来ました。これは——内側に入ってくる感じが——します——」
「嫌か」
マリエンナが——目を開いた。
「……嫌ではありません——。最高法廷の時——カエリエル様が「この人の隣にいなさい」と——私にも言ってくれた気が、しました——」
三人が揃った。
セレスティーナが——部屋の端で三人を見ていた。
「……全員、受け入れました」
「見ていたか」
「……はい」
「どう見る」
セレスティーナが——少し考えた。
「……イゾルデは頭で折り合いをつけます。フィデリアは感情で。マリエンナは——信仰で受け入れます」
「三人で補い合えるか」
「……はい。交代で聖都にいれば——それぞれの得意な局面が使えます」
「お前が管理しろ」
「……わかりました」
「定期的に遠見に戻らせる。時期は俺が決める」
「……はい。彼女たちに伝えます」
俺はイゾルデたちを見た。
三人が——揃って、こちらを向いていた。
「お前たちは聖都で、天声派の改革を動かせ。セレスティーナの方針に従え。わからなければ聞け」
三人が——静かに聞いていた。
「ただし——俺の名前は出すな。教祖になるつもりはない」
イゾルデが——少し考えてから、口を開いた。
「……では、私たちは——何の名の下に動きますか」
「天使の言葉だ」
マリエンナが——静かにうなずいた。
「……わかりました」
イゾルデが——少し間を置いてから、また口を開いた。
「……一点。聖都で「陽気支配」の語をどう説明するかは、私たちの立場上——」
「「聖別」とでも言えばいい。秘蹟の解釈は教会人の得意とするところのはずだろう」
イゾルデが、目を細めた。セレスティーナが、口元だけで笑った。「……反論が出てきません」
「カエリエルは誰に祝福を向けた。天使が認めた事実がお前たちの根拠だ。なら俺がお前たちに何をしようと——同じ根拠で認められる。違うか」
フィデリアが小声で呟いた。「……それは——詭弁では——」
「詭弁でも信徒に届けば教義になる。それがお前たちの歴史だろう」
「……そうだと——思います」
「マリエンナ」イゾルデが眉を寄せた。「あなたまで——」
「でも——私も、そう思ってしまっています」
セレスティーナが——また小さく笑った。
「……まあ」
「なんだ」
「……世一様が、神学的に正しいかどうかは——私にも判断がつきません。ただ——」
「ただ」
「……反論が、出てきません」
俺は四人を見た。
「反論が出ないなら——終わりだ」
「……何が——」
押し倒した。
「——っ——」
四人分の息が、同時に乱れた。
「「聖別」の続きをしてやる」
イゾルデが——苦笑いのような顔で、天井を見上げた。
「……論点を——すり替えています——」
「お前が言った。秘蹟の解釈は得意なんだろう」
「……得意と——好き、は——別です——っ——」
「そうか」
「——あ——っ——」
論客の声が——少し、崩れた。
セレスティーナが、三人の前に膝をついた。
穏やかな顔だった。先生の顔だった。
「……落ち着いて聞いてください」
三人が——それぞれの体勢のまま、セレスティーナを見た。
「……今から、世一様に処女を捧げます。三人とも、同じ日に」
「……っ——」フィデリアが息を飲んだ。
「……わかって——います」イゾルデが静かに言った。しかし声が——少し、震えていた。
「……怖い、ですか」
誰も答えなかった。
セレスティーナが——少し笑った。
「……私も、そうでした。でも——」
「「でも」——何ですか」マリエンナが聞いた。
「……終わった後に、怖かったことを思い出せなくなります」
三人が——黙った。
「……それが怖いのかもしれません——」イゾルデが呟いた。
「そうですね」セレスティーナはうなずいた。「私もそう思いました」
「……師匠は——今も、そう思いますか」
セレスティーナが——少し間を置いた。
「……もう思いません」
「——」
「それが答えです」
俺はセレスティーナを見た。
「先に教えるな」
「……申し訳ありません」
「順番に呼ぶ。お前は隣にいろ」
「……はい」
最初にイゾルデを呼んだ。
「来い」
「……はい」
イゾルデが——立ち上がった。膝が一度震えたが、倒れなかった。論客の矜持が、足だけは真っ直ぐにさせていた。
横にセレスティーナが座った。
「……イゾルデ。深呼吸して」
「……してい——ます——」
「もう一度」
「……」
イゾルデが——静かに息を吸った。
「世一様の陽気を、体で受け入れることに——理屈は要りません。論証しようとしないで」
「……それが——一番、難しい——」
「わかります」
俺はイゾルデの顎を持ち上げた。切れ長の目が——まっすぐ、俺を見た。
「……論証——しようとしないで、とは言われましたが——」
「なんだ」
「……これは——何ですか——」
「聖別だ」
「……」
「今さら聞くな」
イゾルデが——一瞬、苦笑いの形になった。次の瞬間——息が、止まった。
「——っ——」
「力を抜いて」セレスティーナの声が聞こえた。「イゾルデ——世一様の気が入っています。本能が「異物」として弾こうとする。私もそうでした。……逆らわず、受け取るだけでいい」
イゾルデの体が——ゆっくりと、ほどけていった。
「——あ——」
「そうです」
「——あ、あ——これ——」
「わかりますか」
「……わかります——わかります、が——論——証——できません——っ——」
「しなくていいです」
「——っ、ん——!」
イゾルデが——目を閉じた。論客の目が——閉じると、年齢より幼く見えた。
しばらくして——目を開いた。
「……」
「どうだ」
長い沈黙があった。
「……怖かったことを——思い出せません」
「そうか」
「……師匠が言った通りでした」イゾルデがセレスティーナを見た。「悔しいですが——」
「……悔しいと思っている間は、まだ大丈夫です」セレスティーナが静かに笑った。「最初はみんな、そうです」
次にフィデリアを呼んだ。
フィデリアは——呼ばれる前から、既に立っていた。
「……来ました」
「待っていたのか」
「……待っていた、とは——違います——でも——」
「でも」
「……早く——終わらせたかったのかもしれません——」
セレスティーナが隣に座った。
「……フィデリア。先ほどのイゾルデを見ていましたか」
「……見ていました」
「怖いですか」
フィデリアが——少し考えた。
「……怖いのか——楽しみなのか——わかりません」
「正直ですね」
「……師匠に嘘をつく理由がありません」
「では——楽しみに、しておいてください」
「……そんな——」
俺はフィデリアの肩を引き寄せた。
「——っ——」
「「来る前からわかっていた」と言ったな」
「……言いました——」
「だったら驚くな」
「……わかっていることと——体が——同じかどうかは——っ——」
「違うか」
「——全然——っ——違います——!」
「そうか」
フィデリアが——俺の胸に額をぶつけるようにして、うずめた。
「……っ——んっ——あっ——」
「力を抜いて」セレスティーナの声がした。「フィデリア——今です。受け取って」
「……受け取る——ったって——」
「世一様が——中に来ます。それだけです」
「——あっ——っ、ん——!——っ——!」
フィデリアの声が——一段、跳ね上がった。
「……っ——ひっ——!——ああっ——!」
「フィデリア」
「——んっ、んんっ——あっ——あっ——!♡——」
「泣くな」
「……泣いて——ません——っ——泣いて——ない、です——!♡♡」
「目から出ているものは何だ」
「……知りません——!♡♡♡——あっ——あっ——これが——!」
「何だ」
「——『繋がり』——!♡♡♡——」
フィデリアが——俺の言葉を、体で覚えていた。
計算が溶けた後の顔で——泣きながら笑っていた。
最後にマリエンナを呼んだ。
マリエンナは——三人の中で、一番静かに来た。
「……参りました」
「怖いか」
「……少し」
「正直だな」
「……でも——」マリエンナが俺を見た。「セレスティーナ師が「怖かったことを思い出せなくなる」と言っていました。だから——」
「だから」
「……それを——信じます」
セレスティーナが——隣で、小さく息を吸った。
「……マリエンナ——」
「はい」
「……今から世一様が、あなたの中に来ます。抵抗しなくていいです。ただ——カエリエル様の光を受けた時のことを、思い出してみてください」
「……最高法廷の——」
「そうです。あの時、どんな感じでしたか」
マリエンナが——少し考えた。
「……外から——光が——降ってくる感じでした。体の中に、何かが満ちていく——」
「今から——それと似たものが来ます。ただ、外からではなく——」
「……内側から」
「そうです」
マリエンナが——静かに目を閉じた。
俺はマリエンナの頬に手を当てた。小さな顔だった。
「……世一様」
「なんだ」
「……カエリエル様は——天声は「外から来た」と言いました。でも——世一様は、内側に来る」
「そうだな」
「……どちらが——本当の啓示、だと思いますか」
俺は少し考えた。
「知らん」
マリエンナが——目を開けた。
「……正直なんですね」
「お前に嘘をつく理由がない」
「……師匠と同じことを言いました」
「そうか」
「——あ——」
マリエンナの体が——静かに傾いた。傾きながら——目を閉じなかった。
「——あ——っ——これ——」
「怖いか」
「——怖く——ない——です——」
「そうか」
「——でも——すごく——大きい——っ——」
「受け取れ」
「——はい——!——あ——っ——!」
「力を抜いて」セレスティーナの声がした。「——怖くないですか」
「——怖く——ない——!——でも——怖い——!♡♡——どちらかは——わかりません——!♡♡♡——あっ——あっ——!」
マリエンナが——目を見開いたまま、俺の肩を掴んだ。
信仰で受け取った体は——理屈より先に震えた。
「——あ——あっ——世一様——!♡♡——」
「何だ」
「——カエリエル様が——!♡♡♡——」
「何を言っている」
「——『そうです』って——言っています——!♡♡♡♡——」
俺は何も言わなかった。
マリエンナが——長い息を吐いた。