『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』 作:シキセ
契約から十日も経たないうちに、聖都から最初の火の粉が飛んできた。
三通、同じ船で届いた。
一通目は、保守派の神学者連名の反論書だった。表題は長い。中身は一行に要約できた——「影響下の証言を教義資料と認めれば、聖典の権威が崩れる」。
二通目は、フィデリアの実家からの私信。中部の貴族家三家が、天声派系の聖堂への献金を止めた。地方の反世一説教に、金の裏付きがついたということだ。
三通目は、天声派の若い司祭からの依頼状だった。丁寧な文面で、こう頼んできていた。マリエンナ殿の記録されたカエリエル様のお言葉のうち、「教会も問わなかった」の一句を、説教では省かせていただきたい。信徒の動揺を招くため——。
俺は三通を、三人にそのまま渡した。
「対処しろ。やり方は任せる」
────
イゾルデは、書斎に三日籠もった。
出てきた時、紙の束を抱えていた。表題——『証言の有効性に関する神学的考察——第九条の判定手続きについて』。
「反論書への、反論です」
「読ませろ」
読んだ。保守派の論点を一つずつ引用し、一つずつ、教義の条文と最高法廷の記録で潰していた。感情の言葉が一つもなかった。最後の頁にだけ、署名の上に一行、注記があった。
『本稿の筆者は、符侯 式世一の陽気の影響下にある。読者はその前提で本稿の論証を検証されたい。検証に耐えない論証は、影響の有無にかかわらず、論証ではない』
「……自分から書くのか。これを」
「隠して暴かれれば、論文ごと死にます。先に晒せば、論証だけが残ります」
「いい。送れ」
イゾルデの論文は、聖都の神学院で写本が回された。保守派は再反論を試みて——二週間後、筆を置いた。反論するたびに、自分の言葉がイゾルデの引用で返ってくるからだ。論文で戦う女は、聖都に着任する前から、聖都で名前を知られ始めていた。
────
フィデリアは、書斎に籠もらなかった。
代わりに、手紙を十七通書いた。全部、宛先が違った。実家。父の盟友。母方の叔父。献金を止めた三家のうち、二家の当主夫人——。
「取引です」と、フィデリアは言った。「中部の貴族家が本当に欲しいのは、教義の正しさではありません。子弟の聖職就任の枠と、聖堂利権の保全です。戒律改正が通れば、庶子の聖職就任が正式になる。……三家とも、庶子を抱えています」
「つまり」
「天声派が勝った方が、あの家々は儲かる——それを、数字で書いて送りました」
「品がないな」
「品のある手紙は、父が捨てます。数字の書いてある手紙は、捨てません」
一月と経たず、三家のうち二家が献金を再開した。残る一家は沈黙したが、反世一説教への後援だけは、静かに引いた。
────
マリエンナは、手紙を書かなかった。
依頼状を持って、カエリエルのところへ行った。セレスティーナ立ち会いの下、原符の前で、依頼状を最初から最後まで、声に出して読み上げた。
それから、カエリエルの答えを、そのまま書き取った。
『省いてよい。ただし、省いたことを、省いた者の名前で記録に残すこと。私の言葉は、私が言った通りに、台帳に残ること。説教は人間のものだ。台帳は、千年のものだ』
マリエンナは、その言葉を一字も変えずに、依頼主へ送り返した。
若い司祭は、結局、一句も省かずに説教をしたという。「省いた者の名前で記録に残る」の一文が、どんな禁止よりも効いた。
「……改変するな、とは言われませんでした」とマリエンナは報告した。「カエリエル様は——省くことすら、その人の選択として記録に残せと。……天使の方が、私たちより、ずっと徹底しています」
「お前はどう思った」
「……私は一字も変えません。私の仕事は、耳ですから」
────
三通の火の粉は、三通りの水で消えた。
論文で。取引で。そのまま伝えることで。
同じやり方が、一つもなかった。それでよかった。同じやり方しかできない三人なら、三人いる意味がない。
その夜、労いに三人を部屋に呼んだ。
三人が揃った。
セレスティーナが——三人を見渡した。
「……三人とも」
「……はい」三人が——声を揃えた。揃ってしまってから、互いに顔を見た。
「……これから——定期的に、遠見に通います」セレスティーナが静かに言った。「そのたびに——今夜と同じことが、あります」
「……「聖別」の——継続、というわけですね」イゾルデが——平静を取り戻した声で言った。ただし頬が赤いままだった。
「……そう——なりますね」
「……わかりました」
フィデリアが——目を拭いながら言った。
「……私は——聖都でちゃんと働けますか。こんな状態で——」
「働けます」セレスティーナが答えた。「私がそうでしたから」
「……師匠は——遠見に居ながら——聖都のことを考えられますか」
「……考えられます。ただ——」
「ただ」
「……考えながら——世一様のことも、考えています」
フィデリアが——また少し泣きそうな顔になった。
「……それは——」
「「繋がり」です」セレスティーナが静かに言った。
フィデリアが——俺を見た。
「……「代価ではない」と——言いましたね」
「そうだ」
「……今は——そう思います」
マリエンナが——静かに言った。
「……カエリエル様が——「そうです」と——言っていました」
三人が——また顔を見合わせた。
今度は笑った。
セレスティーナが——立ち上がった。
「……三人とも、よく聞いてください」
三人が——セレスティーナを見た。
「……世一様に仕えるということは——「受け取る」だけではありません。「差し出す」ことも覚えなければなりません」
「……差し出す——とは」イゾルデが聞いた。
「……見ていてください」
セレスティーナが——俺の前に、静かに膝をついた。
三人が——息を飲んだ。
「……師匠——」
「見ていなさい」セレスティーナが穏やかに言った。「これも——聖別の一部です」
セレスティーナの口が、俺のものを受け入れた。
三人が——黙った。
音だけが聞こえた。くちゅ、くちゅ、と——静かな、しかし明確な音が。
イゾルデが——視線を逸らしかけて、止めた。論客の目が、今度は分析ではなく——何か別のものを見ていた。
フィデリアが——唇を噛んだ。
マリエンナが——目を細めて、じっと見ていた。
「……師匠は——」フィデリアが小さく言った。「嫌じゃ——ないんですか」
セレスティーナは答えなかった。答える代わりに——目が、わずかに細くなった。
それだけで充分だった。
「……」
しばらくして、セレスティーナが顔を上げた。口元を手の甲で拭いた。
「……これが——奉仕の基本です」
「……基本——」イゾルデが繰り返した。
「……慣れると——自分からしたくなります」
「……師匠が?」
「……私が、そうです」
三人が——また黙った。
「……順番にやってみてください」
「——え」
「イゾルデから」
イゾルデが——一秒、固まった。論客が初めて言葉を失った顔をした。
「……わかりました」
イゾルデが——セレスティーナの隣に膝をついた。
「……どう——すれば」
「口で、受け入れるだけです。無理に深くしなくていい」
「……」
イゾルデが——ゆっくりと、口を開いた。
「——んっ——」
「舌を、少し使って」
「……っ——んん——っ——」
「そうです。力を抜いて——喉じゃなく、舌で感じて」
ぐちゅ、と——音が変わった。
イゾルデの目が——少し潤んだ。論証しながらではなく、体で覚えていた。
「……次。フィデリア」
フィデリアが——急いでイゾルデの隣に来た。
「……私は——」
「見ていたでしょう」
「……見ていましたが——」
「できます」
フィデリアが——唇を俺のものに当てた。
「——んっ——んんっ——」
「焦らなくていいです」
「——っ——でも——っ——」
「フィデリア——目を閉じなくていい」
「……え——?」
「世一様を——見ながら」
フィデリアが——潤んだ目を、俺に向けた。そのまま、口を動かした。
「——んんっ——!——っ——っ——」
涙が、一筋だれた。嫌で泣いているわけではなかった。
「次。マリエンナ」
マリエンナが——素直に膝をついた。
「……怖くはありません」
「わかっています」
「……でも——」マリエンナが一瞬、目を閉じた。「——カエリエル様に申し訳ない、と——思う気持ちが——」
「マリエンナ」セレスティーナが静かに言った。「カエリエルは——世一様に祝福を向けました」
「……はい」
「……それを覚えていれば、申し訳なくはないはずです」
マリエンナが——目を開けた。
「……そうですね」
「そうです」
マリエンナが——丁寧に、口を開いた。
「——っ——ん——」
天使の証人は——一番、丁寧に奉仕した。
「四人でやれ」
セレスティーナが——一瞬、目を見開いた。
「……四人——同時に、ですか」
「そうだ」
セレスティーナが——三人を見た。三人が——セレスティーナを見た。
「……わかりました」
四人が、俺の周りに集まった。
セレスティーナが中心に立って、三人に場所を示した。
「……イゾルデは右。フィデリアは左。マリエンナは——私と交代で」
「……はい」
四人の口と手が——それぞれの場所を探した。セレスティーナがイゾルデの手を取り、フィデリアの位置を直し、囁くように加減を教えていく。力の加減は世一様の息で分かる。深くなったら強く、浅くなったら緩めて——。
「……「呼びながら奉仕すると、より深く届く」——神学的には——」
「マリエンナ。今は神学より、体で覚えなさい」
「——はい——っ——世一様——っ——世一様——♡——」
四人の声と音が——混ざった。
ぐちゅ、くちゅ、ぬちゅ——と重なって、部屋に満ちた。
イゾルデが——しばらくして、顔を上げた。目が——完全に潤んでいた。
「……体で——覚えました——」
「そうか」
「——もう一度——してもいいですか——」
セレスティーナが——静かに笑った。
「……「慣れると自分からしたくなる」と——言いましたよね」
イゾルデが——少し赤くなった。
「……先ほどのお言葉を——こんなに早く——実証することになるとは——」
「論証より早く——体が答えましたね」
「——っ——その通りです——」
湯を張らせた。
星宮邸には、広い浴室があった。石造りの湯殿に、四人が入った。
セレスティーナが三人の髪を順番に洗った。先生として、丁寧に。
「……師匠——」フィデリアが湯の中で言った。「師匠が洗ってくれるとは——思いませんでした」
「……師匠ですから」
「……聖都にいた頃と——違います」
「何が」
「……師匠は聖都では——こういうことは——」
「しませんでした。でも——」セレスティーナがフィデリアの髪に指を通した。「世一様の女たちを整えることは——私の仕事です」
「……「女たち」——」イゾルデが繰り返した。「私たちは——今日から——」
「今日からです」
マリエンナが——湯の中で静かに言った。
「……師匠も——「世一様の女」ですか」
「……そうです」
「……師匠が——一番先輩、ですね」
「そうなります」
マリエンナが——少し考えた。
「……では——師匠は——私たちの先輩でもある、ということですか」
「……そうなりますね」
三人が——顔を見合わせた。
イゾルデが、ふと言った。
「……つまり私たちは、同じものを姉妹で分け合う——竿姉妹、ということになりますね。定義として正確です」
「——イゾルデ!」フィデリアが湯を跳ねさせた。「言い方——!」
「事実の記述です」
「事実でも——!」
マリエンナが、真面目な顔で頷いた。
「……竿姉妹。……覚えました」
「覚えなくていいです——!」
セレスティーナが——今夜三度目に、小さく笑った。
俺が湯に入った。
「——っ——」三人が同時に体を引いた。
「慌てるな」
「……世一様も——入られるんですか——」イゾルデが言った。
「何のための湯だ」
「……そう——ですが——」
セレスティーナが——俺の隣に移動した。自然な動作だった。三人がそれを見た。
「……師匠——」
「世一様の隣は——私の場所です」セレスティーナが静かに言った。「でも——今夜は、三人も覚えていきなさい」
「……覚える、とは——」
「世一様の体を——洗いながら、覚えるということです」
三人が——湯の中で、俺の周りに集まった。
イゾルデが——肩を。フィデリアが——腕を。マリエンナが——背中を。それぞれ手を当てて、洗い始めた。
マリエンナが——背中の古い傷を丁寧になぞって、小さく言った。
「……これも——覚えました。世一様の体の地図を——少し」
セレスティーナが——俺の髪を洗いながら、静かに笑った。
湯の中で、五人分の熱が混ざった。
湯から上がった。
部屋に戻った。
セレスティーナが三人を並べた。
「……次を教えます」
三人が——また息を飲んだ。
「……「次」——とは——」イゾルデが言った。
「並んで受けることです」
三人が——顔を見合わせた。
フィデリアが——小声で言った。
「……並んで——というのは——まさか——全員で——」
「そうです」
「——っ——」
「一人で受けるのと、姉妹弟子の目の前で受けるのは——別ものです。先に私がやります。見ていなさい」
セレスティーナが——四つん這いになった。先生の顔で、落ち着いていた。
三人が——声も出なかった。
「……師匠——」マリエンナが言った。「皆の前で——本当に——やるんですか——」
「……見られながら受けるのも——修練のうちです」セレスティーナが答えた。「覚えた方がいい」
「——な——」
「見ていなさい」
俺はセレスティーナの腰を引き寄せ、後ろから沈めた。
くちゅ、と——湿った音がした。
三人が——固まって見ていた。
「——んっ——ん——!——あ——!」
セレスティーナの背中が、一度大きく震えた。
「——ん——っ——ん——っ——」セレスティーナが——静かに、しかし確実に乱れていった。「——三人とも——見ていますか——」
「……見ています——」三人が声を揃えた。
「……恥ずかしく——ないのですか——」マリエンナが聞いた。
「——恥ずかしい——です——っ——でも——」
「でも——」
「——見られている——と——思うと——っ——余計に——体が——っ——ん——!」
「師匠——」イゾルデが——珍しく、分析でも論証でもない声で言った。「師匠の顔が——」
「——どう——ですか——っ——」
「……師匠らしく——ありません」
「——っ——当たり前——です——!——あっ——!♡——」
フィデリアが——俺を見た。
「……世一様——師匠が——」
「見ているだけでいいのか」
「——え——」
「順番だ」
フィデリアが——硬直した。
「——順——番——」
「来い」
「——っ——」フィデリアが、ゆっくり四つん這いになった。「……師匠——見ないで——」
「見ます」セレスティーナが——まだ乱れた息のまま言った。「そうしないと——指導できません」
ぐちゅ、と——また音がした。
「——ひぁっ——!——っ——!——なか——が——!♡——」
「世一様の気が——入ってきています。逃がそうとしないで」
「——逃がして——ない——のに——!♡♡——なんで——こんな——!」
「見られているからです。感じ方が——変わるでしょう」
「——師匠は——今——平気ですか——!♡♡」
「——っ——今は——平気では——ありませんが——」
「——じゃあ——おんなじじゃ——ないですか——!♡♡♡——」
セレスティーナが——笑った。乱れたまま、笑った。
「……おんなじ——ですね——」
イゾルデが——二人を見ながら、静かに言った。
「……私が——最後、ですね」
「そうです」
「……わかりました」
イゾルデが——フィデリアの隣に、静かに四つん這いになった。論客らしく、体勢を整えてから。
「……一点だけ——確認して——いいですか。これは——回数を重ねると——「自分からしたくなる」——のですか」
「セレスティーナに聞け」
セレスティーナが——乱れた息のまま答えた。
「——最初は——なりません——でも——三回——四回と——重ねると——っ——気がついたら——また——してほしいと——思っています——っ——!♡——」
イゾルデが——一秒、黙った。
「……わかりました。——よろしく——お願いします——」
ぐちゅ、と——三人目の音がした。
「——っ——!——あ——!」
「力——」
「——抜いています——!——あ——!——これは——!」
「なんだ」
「——論——証——できません——!♡——」
「しなくていい」
「——っ——しなく——ていい——っ——では——なぜ——これほど——!♡♡——あっ——!」
三人が横に並んで——それぞれ乱れていた。セレスティーナが端から三人を見渡した。
「——三人とも——声を——合わせてみなさい——」
「——え——」
「——世一様の——名前を——っ——」
三人が——顔を見合わせた。
「「世一様——」」
声が——三つ、重なった。
「続けろ」
「「——世一様——っ——」」
また重なった。
「「——世一様——!——」」
三度目で——揃った。
「「——あっ——!——あっ——!——世一様——!♡♡——」」
セレスティーナが——横で、小さく目を閉じた。
「——こうすると——っ——気持ちが——揃います——っ——」
「「——っ——!——んっ——!——世一様——!♡♡♡——」」
四人の声が——重なった。
俺は三人の腰を——順番に、深く押した。
「「「——ひぁっ——!!——っ——!!」」」
三人が——同時に、大きく揺れた。
セレスティーナが——端で、静かに息を吸った。
「——今——」
「今だ」
「「「——あっ——!——あっ——!——あっ——!♡♡♡♡——」」」
三人が——同時に、声を上げた。
ばらばらな声が——一瞬、完全に重なった。
「「「——世一様——っ——!!♡♡♡♡♡——」」」
部屋が——揺れた気がした。
「もう一つ教えておく」
三人が——息の乱れたまま、俺を見た。
「……まだ——あるんですか——」フィデリアが言った。
「聖都に常駐する時——お前たちは二人でいることになる」
「……はい」
「俺はいない」
三人が——少し黙った。
「……」
「その間のことを教えておく」
イゾルデが——何かを察した顔になった。
「……「その間のこと」——とは——」
「互いで——できるようにしておけ」
沈黙があった。
フィデリアが——隣のイゾルデを見た。イゾルデが——フィデリアを見た。二人が——同時にマリエンナを見た。マリエンナが——首を傾けた。
「……互いで——というのは——」
「セレスティーナ」
「……はい」
「教えろ」
セレスティーナが——三人を見渡した。
「……わかりました」
「姉様——」イゾルデが言った。「それは——」
「私も——最初は——知りませんでした」セレスティーナが静かに言った。「でも——覚えていた方がいい。聖都で二人でいる夜に——世一様のことを思いながら——互いで満たせる方が——」
「——互いで——満たす——」フィデリアが繰り返した。
「そうです」
「……姉様は——誰かと——そういうことを——」
「今夜——皆さんと——します」
三人が——また黙った。
マリエンナが——静かに言った。
「……カエリエル様が——何も言いません」
「……それは——」
「——「言わない」ということは——止めない、ということだと——思います」
セレスティーナが——少し笑った。
「……マリエンナの解釈は——独特ですね」
「……慣れました」イゾルデが言った。
「では——始めます」セレスティーナが三人の前に座った。「まず——互いの体を——触れることから」
「……触れる——とは——どこを——」
「世一様に触れられて——気持ち良かった場所を——覚えていますか」
三人が——少し赤くなった。
「……覚えています」
「そこを——相手に——してあげればいい。それだけです」
「……簡単に言いますが——」イゾルデが言った。
「簡単です。難しく考えないで」
「……論証しないで——という意味ですね」
「そうです」
イゾルデが——フィデリアの方を向いた。
「……では——フィデリア——」
「——え——っ——なんで私から——」
「論点を決める時は先手を取る主義なので」
「——それが論点ですか——っ——」
セレスティーナが——イゾルデの手を取って、フィデリアの肩に当てた。
「力を入れないで。ただ——触れるだけ」
イゾルデが——ゆっくりと、フィデリアの肩から首筋へ指を滑らせた。
「——っ——」フィデリアが——小さく震えた。「イゾルデの指——冷たい——でも——嫌じゃない——っ——」
セレスティーナが——二人の様子を見ながら、マリエンナの手を取った。
「……マリエンナは——見ているだけでなく——」
「……はい」
「——こちら」
セレスティーナがマリエンナの手を、自分の髪に当てた。
「……え——」
「髪を——梳いてください。ゆっくり」
「……こう——ですか——」
「そうです。力を入れないで——ただ通すだけ」
マリエンナが——セレスティーナの銀灰色の髪に、指を通した。
「……師匠の髪——きれいですね——」
「……ありがとうございます」
「——なんか——こういうのって——聖教だと——「姉妹の愛」とか言いそうで——」
セレスティーナが——目を細めた。
「……「竿の姉妹」という言い方もありますが——」
「——竿——」マリエンナが繰り返した。「……それは——世一様の——」
「そうです」
「——では——私たちは——」
「同じ方に仕えているという意味では——姉妹です」
マリエンナが——また少し考えた。
「……カエリエルも——同じ方に仕えています」
「——天使も含めますか——」
「……含めてもいいですか」
「……世一様が決めることですね」
俺は黙っていた。
「「含める」——ということで——」マリエンナが言った。
「勝手に決めるな」
「——すみません——っ——」
フィデリアが——イゾルデの指に震えながら言った。
「——ね——姉様——次を——教えて——ください——っ——」
「次は——口を使います」セレスティーナがフィデリアとイゾルデの方に向き直った。「世一様に——したことを——相手に——してあげればいい」
「フィデリア——首筋に——口を当ててみて」
フィデリアが——イゾルデの首筋に、唇を寄せた。
「——っ——ちょっと——っ——」イゾルデが——珍しく、素の声を出した。
「——イゾルデが——驚いてる——っ——」フィデリアが笑った。
「——驚いて——いません——っ——ただ——」
「ただ」
「——予測——して——いなかっただけ——です——っ——」
「論客が——予測できなかった——!」
「——っ——もう少し——丁寧に——っ——やって——ください——!♡——」
「丁寧に——と言うのなら——こう——?」
「——そこは——っ——!♡♡——」
セレスティーナが——二人を見ながら、マリエンナに言った。
「……見て——覚えましたか」
「……覚えました」
「では——あなたも」
「……誰に——」
セレスティーナが——自分の首筋を向けた。
「——え——」
「師匠に——しろということですか——」
「……姉として——教えます」
マリエンナが——セレスティーナの首筋に、唇を当てた。
「——っ——」セレスティーナが——小さく息を飲んだ。
「……師匠——」
「……「姉様」です——今は——」
「——姉様——大丈夫ですか——」
「……大丈夫——ではありません——が——続けて——」
「——はい——っ——」
くちゅ、と——静かな音がした。
セレスティーナが——目を閉じた。
しばらくして——俺を見た。
「……世一様——」
「なんだ」
「……三人には——互いで——できるようになってもらいましたが——」
「そうだな」
「……私は——どうすれば——」
「お前は俺が相手だ」
セレスティーナが——目を細めた。
「……ありがとうございます——」
フィデリアが——イゾルデの首筋から顔を上げて言った。
「——ずるい——です——姉様——!——」
「「ずるい」というのは——何がですか」
「——世一様が——姉様だけ——!——」
「私は——先輩ですから」
「——っ——!——」
「聖都でも——使える技術を——身につけましたね」セレスティーナが穏やかに言った。「聖都での夜——世一様のことを思いながら——互いでやりなさい」
「……やり——ます」イゾルデが——赤い顔で、落ち着こうとしながら言った。「でも——」
「でも」
「——世一様の方が——いい——と——思います——」
「それが——わかれば——十分です」
「——え——」
「聖都で——互いでやりながら——世一様のことを思い続けることが——遠見に戻ってくる理由になります」
三人が——静かになった。
「……よく——できた仕組みですね——」イゾルデが言った。
「……世一様が——決めたことですから」
「——世一様が——こんなに——計算して——」
「計算ではない」
三人が——俺を見た。
「……では——なんですか」
「そういうものだ」
三人が——また顔を見合わせた。
セレスティーナだけが——少し笑った。
「……「そういうもの」——が——一番——始末に負えません」
「わかりますか——三人とも」
三人が——ゆっくりと、うなずいた。
「「「——わかります——」」」
朝になった。
四人が——横に並んで寝ていた。
セレスティーナが一番端。その隣にイゾルデ。フィデリア。マリエンナ。
俺は少し離れたところから、四人を見た。
イゾルデが——目を開けた。
「……おはようございます」
「起きていたのか」
「……考えていました」
「何を」
「……聖都に戻ったら——まず戒律改正の論点整理をします。次に枢機卿会議の各派への個別接触。その前に——フィデリアの父の地区から始めた方が、基盤が作りやすい——」
俺は何も言わなかった。
「……論点が——頭に入ってきます。なぜかは——わかりません」
「そうか」
「……昨夜——論証できなかった時より——今の方が——頭が動きます」
「そういうものだ」
「……「聖別」の——効果、ですか」
「呼び方はお前が決めろ」
イゾルデが——少し笑った。論客の目に、昨夜なかったものが混じっていた。
フィデリアが——寝返りを打って、目を開けた。
「……あ——朝——」
「そうだ」
「……師匠——」フィデリアがセレスティーナを見た。「おはようございます——」
「……おはようございます」セレスティーナが静かに答えた。
「……師匠——一つ聞いてもいいですか」
「何ですか」
「……遠海に——来るのは——どのくらいの頻度になりますか」
「世一様が——決めます」
「……でも——師匠としては——」
セレスティーナが——少し間を置いた。
「……月に一度——では——足りないと思います」
フィデリアが——また泣きそうな顔になった。
「——なんで——そんなに——正直に——」
「嘘をつく理由がありません」
マリエンナが——目を開けていた。いつから起きていたのか、わからなかった。
「……カエリエル様が——昨夜——ずっと、何か言っていました」
「何を言っていた」
「……「よくできました」、と——」
三人が——静かに笑った。
セレスティーナが——目を細めた。
「……カエリエルらしい」
「——姉様は——遠見で——幸せですか」
セレスティーナが——俺を見た。
「……幸せかどうかは——わかりません」
「では——」
「……ただ——世一様の隣がいいと——思っています」
「それで——十分ですか」
「……十分です」
四人が——しばらく、黙って天井を見た。
窓の外が——明るくなっていた。
フィデリアが——小さく言った。
「……聖都——頑張ります」
「当たり前だ」
「……世一様に——また——呼んでもらえるように——」
「働けば呼ぶ」
フィデリアが——また少し泣きそうな顔になった。今度は——笑いながらだった。
「……その言葉だけで——十分です」
イゾルデが——起き上がった。
「……では——論点整理から始めます。フィデリア、父君への連絡は今日中に——」
「——まだ朝ですよ——」
「朝から動いた方が早い」
「——っ——姉様——」フィデリアがセレスティーナに訴えた。
セレスティーナが——静かに笑った。
「……イゾルデの言う通りです。動ける時に動きなさい」
「——姉様まで——!」
マリエンナが——静かに起き上がった。
「……カエリエル様が——「早く行きなさい」と言っています」
「——マリエンナも——!」
三人が——動き始めた。
俺は黙って見ていた。
四人の女が——それぞれの顔で、朝の中にいた。
昨夜と——同じ顔ではなかった。
三人が——部屋を出た。