※この作品はR-18です。

『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』   作:シキセ

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第六十話 守る家

翌朝、苑子が執務室に来た。

 

「申し上げます」

 

「言え」

 

「大符闘祭の正式な日程通知が、符帝家より届きました」

 

苑子が文書を机に置いた。

 

受け取った。符帝家の紋が刻まれた封蝋。日付を確認した。

 

「一か月後か」

 

「はい。符侯としての出席が義務付けられております」

 

「格付けの話はどうなっている」

 

「……申し上げます」苑子が続けた。「星宮家は昨年の大符闘祭を欠場しています。帝国の格付け制度では、欠場は最下位と同扱いとなります。今年の成績次第では——家格の降格が確定します」

 

「降格するとどうなる」

 

「名門符家から中堅符家へ格が落ちます。格が落ちれば——符帝家が星宮領に直接介入できる口実が生まれます。徴税率の見直し、軍事符士の駐留要求、最悪の場合は家伝式符の追加接収。今年を逃せば、遠海領の実権が符帝家に食い込まれます」

 

机の上の文書を見た。

 

「回復の条件は」

 

「……名門符家の上位三位以内に入ること、と記されています」

 

「名門符家は十五家だ。符帝家と親符家は別枠として、残りが十二家か」

 

「はい。その十二家から三位以内——実質、帝国の符闘実力者の頂点圏に入ることを意味します」

 

「符帝家は星宮家が苦しいと踏んで今年を設定してきたか」

 

「……おそらく。聖教圏への出向で英稟様が半年近く遠海を空けていました。その間の格付けポイントの消化もできていません。符帝家は——こちらのブランクをわかった上で、今年に絞ってきたと思われます」

 

俺は文書を閉じた。

 

(生まれて四日の子が、二人いる)

 

朔と澄が継ぐ家を、外から削らせるわけにはいかない。俺の名を上げるための大会なら、降りる手もある。だがこれは——家を守るための大会だ。降りる札が、最初からない。

 

「英稟を呼べ」

 

 

────

 

 

英稟を執務室に呼んだのは、それから半刻後だった。

 

苑子から文書を渡した。英稟が読んだ。読み終えた。

 

「……一か月後、ですか」

 

「そうだ」

 

「……承知しました」英稟が文書を置いた。「格付けの条件については——覚悟はしていました」

 

「大符闘祭に出たことはあるか」

 

「二回あります。最初は先代当主の名代として。次は正式に当主として」

 

「成績は」

 

「最初は一回戦負けです。先代が病で倒れた年に、急遽代理で出ました。七耀陣もなく、経験もなかった」英稟が少し間を置いた。「次は——ベスト八です。七耀陣があった年です」

 

「今年は七耀陣がある」

 

「……はい」

 

「甕星の状態は」

 

「問題ありません」英稟の声が、わずかに変わった。「訓練は続けています。盛り場の夜以来——盤面の見え方が変わりました。余計なものが入っていない。今の方が、強いと思います」

 

盛り場の夜——英稟は三戦連続で符士を破った。七日間の調教で積み上がったものが符闘の精度として出てきた夜だった。あの時英稟が出していた盤面が、確かにそういうものだった。

 

「上を取る気があるか」

 

英稟が少しの間、黙った。

 

「……上位三位以内、という条件でしたが」

 

「それを聞いているんじゃない。上を取る気があるかと聞いている」

 

英稟の目が、変わった。

 

「……あります」

 

「どこまで」

 

「……一位を」

 

「俺も出る」

 

「……世一様も参加されるんですか」

 

「出席義務がある。出るなら戦う」

 

英稟がしばらく俺を見ていた。

 

符侯が正式に大符闘祭に立つ——それが帝国内でどういう意味を持つか、英稟は計算していた。

 

「……他の名門符家は、世一様の出場を警戒するでしょう」

 

「そうなるな」

 

「符帝家も動くかもしれません」

 

「動くだろう」

 

英稟がまた少し黙った。

 

「……楽しそうですね」

 

「そうか」

 

「……はい。世一様の顔が——そういう顔をしています」

 

俺は答えなかった。

 

英稟が文書を手に取って立ち上がった。

 

「苑子と日程を組みます。一か月、詰めます」

 

「頼む」

 

英稟が扉に向かった。

 

「……英稟」

 

英稟が振り返った。

 

「澄の名、悪くない」

 

英稟の耳が——ほんの少し、赤くなった。

 

「……雪が決めました」

 

「わかっている」

 

英稟が出て行った。

 

扉が閉まった。

 

朔と澄が産まれて四日目。

 

訓練が始まって五日目の夜だった。

 

英稟の動きを見ていた。

 

律也相手に三本取っていた。甕星を使わず、手符だけで組む練習だ。七耀陣がない状況で、どこまで手番を作れるか——その確認だろう。律也が第三本目に入ったところで英稟が場を閉じた。「もう一本」と律也が言った。「明日」と英稟が言った。

 

廊下を歩いて戻る英稟に声をかけた。

 

「来い」

 

英稟が止まった。

 

「……世一様の部屋、ですか」

 

「そうだ」

 

英稟が頷いた。何も聞かなかった。

 

────

 

部屋に入った。英稟が後ろ手に扉を閉めた。

 

月に一度は来ていた。ただし孕ませるつもりはなかった——アナルか、コンドームを使うかだった。終わった後、使い終わりのコンドームを英稟の周りに並べて「数えろ」と言ったことがある。英稟は黙って数えた。一度だけ、「……六つです」と言った声が、少し震えていた。

 

「今日の三本——わかっているか」

 

「……律也に一本取られました。五日前なら取られなかった場面でした」

 

「どこだ」

 

「実体化の踏み込みです。出るべき手番で、半手遅れました。甕星がいないと判断が鈍くなります」英稟の目が少し伏せられた。「まだ依存があります」

 

「正直だな」

 

「……指摘されるより先に言う方が——効率的です」

 

俺は英稟の顎を取った。顔を上げさせた。

 

「っ……」

 

「一か月で整えろ」

 

「……はい」

 

「整えたら——褒美をやる」

 

英稟の呼吸が、少し変わった。

 

「……何を」

 

「孕ませる」

 

英稟の目が、大きくなった。

 

「……え」

 

「大符闘祭で上位に入ったら——英稟を孕ませる。俺の子を産ませる」

 

英稟がしばらく動かなかった。

 

「……それは——命令ですか」

 

「条件だ」

 

「条件……」英稟が繰り返した。声が、かすかに揺れていた。「……承知しました、では——なく」

 

「なく?」

 

「……嬉しいです」英稟が、静かに言った。「命令だとしても嬉しいですが——条件と言われた方が、もっと——嬉しい」

 

英稟の耳が赤くなっていた。

 

それから——英稟が、居住まいを正した。

 

「……ですが、一つだけ、言わせてください」

 

「言え」

 

「一位は、星宮家のために取ります。家格のために。朔と澄が継ぐ家を、削らせないために。……約束は、その後で——星宮家の当主としてではなく、私個人として、改めて求めます」

 

「分けるのか」

 

「分けます。混ぜると——どちらも軽くなる気がするので」

 

(言うようになった)

 

役割を選んで引き受ける。あの七日間の稽古の続きを、英稟は自分で続けている。

 

「いいだろう。分けて受ける」

 

俺は英稟の帯を引いた。

 

「っ……」

 

「今夜は前払いだ」

 

「前払い——」英稟の息が乱れた。「……今夜は——孕ませてはいただけないんですか」

 

「大符闘祭が終わってからだ」

 

「……では今夜は」

 

「お前が欲しがるのを見る」

 

英稟の着物が落ちた。肌着一枚になった英稟を寝台に押し倒した。正面から上に乗った。

 

「ぁ……っ」

 

「実体化の判断が鈍いのは——甕星がいないからではない」

 

「……っ♡ 世一様……話しながら——」

 

「場が読めていない。相手の手番を二手先まで——見ていない。甕星はその穴を埋めていただけだ」

 

「……っ♡ わかってます……世一様……っ♡ 今は——続きを」

 

「符闘の話をしている」

 

「っ……!♡ ——わかってます……でも——世一様が上にいると——っ♡」

 

俺は英稟の首筋に唇を当てた。陽の気を流した。

 

「ひっ……!♡ ——そこは……っ♡ 世一様……首が——っ♡」

 

「実体化の判断基準を言え。動きながら答えろ」

 

「っ……♡ 相手の——場の密度が——高い時は——実体化を控えて——っ♡ 霊体化で間合いを取って——っ♡ 低い時は——実体化で押す——っ♡♡」

 

「正しい」

 

「……っ♡ 正解でしたか……世一様——っ♡」

 

「そうだ」

 

英稟の体を仰向けにした。腰を押さえた。自身を押し当てた。

 

「ぁっ……!♡ ——世一様……入って——くる——っ♡」

 

「来い」

 

ゆっくりと押し込んだ。英稟の背中がしなった。

 

「ひぁっ……!!♡ ——奥に……っ♡ 世一様の——奥まで——っ♡」

 

「符闘の話は終わりか」

 

「っ……♡ ——終わりじゃないですが——今は——世一様の事しか——っ♡」

 

「それでいい」

 

腰を動かした。英稟が声を上げた。

 

「ぁっ……っ♡ あっ……っ♡ 世一様……っ♡ また——こんなに——深く——っ♡♡」

 

「七耀陣も甕星も揃った。勝てるか」

 

「……勝てます……っ♡ 勝って——みせます——世一様……っ♡」

 

「どこまで」

 

「一位まで——っ♡ 宣言した通り——一位を——っ♡♡」

 

「その先に何がある」

 

英稟が少しの間、声を詰めた——それから、腰を動かしながら答えた。

 

「……っ♡ 世一様が——孕ませてくださる——っ♡♡」

 

「そうだ」

 

腰を速めた。英稟の細い指がシーツを掴んだ。

 

「ぁあっ……!♡ ——来ます……っ♡ 世一様……いきます——一位を取って——世一様の子を——っ♡♡」

 

「行け」

 

「あっ……!!♡♡ いく……!♡ 世一様……っ♡♡♡」

 

英稟が全身を震わせて達した。

 

外に放った。

 

英稟が余韻の中で息を整えながら、「……今夜は——外、ですか」と言った。

 

「大符闘祭が終わってからだ」

 

「……わかりました」

 

英稟が静かに目を閉じた。しばらく間があった。

 

「……まだ、いますか」

 

「まだいる」

 

英稟が目を開けた。

 

────

 

続きは英稟に上に乗らせた。

 

「……自分で動け」

 

「っ……♡ ——自分で、ですか」

 

「そうだ」

 

英稟がゆっくりと腰を下ろした。俺のものを自分の中に収めながら、息を詰めた。

 

「ぁ……っ♡ ——自分で——入れると——角度が——っ♡ 違って見える……っ♡」

 

「動け」

 

「……はい……っ♡」

 

英稟が、慎重に腰を動かし始めた。最初は小さく。次第に、自分の感じる場所を探すように、角度を変えた。

 

「ぁっ……っ♡ ——ここ……っ♡ ここが——世一様に当たって——っ♡♡」

 

「止まるな」

 

「止まりません……っ♡ ——でも——世一様が何もしないのは——っ♡ 少し——寂しい……っ♡」

 

「寂しいか」

 

「……っ♡ ——はい……っ♡ 世一様の手が——欲しいです……っ♡」

 

「言えたな」

 

「……っ♡ 最近——言えるように——なってきました……っ♡」

 

俺は英稟の腰に手を当てた。動きを少しだけ誘導した。

 

「っ……!♡ ——世一様の手があると——また——角度が——っ♡♡」

 

「そこか」

 

「そこです……っ♡ 世一様……そこが——っ♡ 深くて——奥が——っ♡♡」

 

「来るか」

 

「来ます……っ♡ ——自分で動いて——世一様の手で——来ます……っ♡♡」

 

俺は英稟の腰を引き込んだ。英稟が声を上げた。

 

「あっ……!♡ ——いきます……!♡ 世一様……っ♡ 自分で——動いて——いく……!!♡♡」

 

英稟が腰を深く沈め、全身を震わせて達した。

 

また外に放った。

 

英稟が俺の上に崩れた。肩で息をしていた。

 

「……二回、外に出されました」

 

「大符闘祭が終わるまでだ」

 

「……わかっています」英稟が俺の胸に額をつけたまま言った。「……でも——二回とも——中に欲しかった」

 

「覚えておけ。それがモチベーションだ」

 

英稟が少しの間、黙っていた。それから「卑怯です」と言った。

 

「そうだ」

 

英稟が、くぐもった笑い声を立てた。ほんの短い、珍しい声だった。

 

────

 

「風呂に入る」と言った。

 

英稟が顔を上げた。

 

「……一緒に、ですか」

 

「そうだ。お前が背中を流せ」

 

「……承知しました」

 

湯は苑子が毎夜張らせている。脱衣所で英稟が俺の帯を解いた。手際がよかった。着物を丁寧に畳んだ。

 

「……その前に」

 

英稟がゆっくりと膝をついた。

 

「奉仕します」

 

「指示した覚えはないが」

 

「……夜伽に来たので」英稟が、俺を見上げながら言った。「世一様が言わなくてもするものだと——思っていました」

 

俺は答えなかった。

 

英稟が、手を当てた。

 

「っ……♡」

 

丁寧に、確かめるように。

 

「……世一様が——外に出されたので」英稟が言った。「こちらで——受け取ります」

 

英稟が口をつけた。

 

「っ……」

 

「んっ……♡ ——世一様の——味が……っ♡」

 

英稟は焦らなかった。符闘と同じだ——手番を急がず、確実に積み上げる。

 

「英稟」

 

「……んっ……♡」

 

「顔を上げろ」

 

英稟が少しだけ顔を上げた。口元が濡れていた。目が潤んでいた。

 

「……まだ、ですか」

 

「まだだ」

 

英稟が続けた。

 

しばらく後、英稟の喉が動いた。口を離した英稟が、ゆっくりと息を吐いた。

 

「……いただきました」

 

「そうか」

 

英稟が立ち上がった。乱れた髪を手でまとめながら「……風呂に参ります」と言った。

 

────

 

湯船に入った。英稟が背後から背中を流した。手が丁寧だった。

 

「……訓練の疲れはどうだ」

 

「問題ありません。律也が手加減をしないので——かえって調子が上がります」

 

「律也は手加減しないか」

 

「符闘では——まったく」英稟がタオルを動かしながら言った。「でも練習が終わると、『お疲れ様です』と言いながら水を持ってきます。矛盾しています」

 

「矛盾していない」

 

「……そうですか」

 

「符闘と日常は別だ。律也はそれを分けている」

 

英稟が少しの間、黙った。

 

「……そういえば——澄ちゃんが昨日、私の顔を見て笑いました」

 

「そうか」

 

「……笑ったのか——目の光の角度だったのか——判断がつかなかったんですが」英稟の手が少し止まった。「世一様は——どちらだと思いますか」

 

「笑ったんだろう」

 

「……そうですか」

 

英稟の手が再び動き始めた。少しだけ、力が柔らかくなった気がした。

 

背中が終わると、英稟が「私の方も——よろしいですか」と言った。

 

「いいだろう」

 

英稟が背を向けた。俺は英稟の背中を流した。白い、細い背中だ。符闘で鍛えられた体だが、肩の線は柔らかい。

 

英稟が「……こういうことは、あまりされたことがありません」と言った。

 

「誰かにか」

 

「誰かに——という意味ではなく。こういう時間が——そもそも」

 

「そうか」

 

「……悪くない、と思います」

 

英稟が静かに言った。

 

────

 

寝台に戻った。

 

英稟が横に入ってきた。自然な動作だった。迷いがなかった。

 

「消しますか」と英稟が燭台を指した。

 

「消せ」

 

部屋が暗くなった。

 

しばらく間があった。

 

「……世一様」

 

「何だ」

 

「一位を取ります」

 

「知っている」

 

「……宣言しておきたかったので」

 

英稟の声が、暗闇の中で落ち着いていた。

 

「もう寝ろ」

 

「……はい」

 

英稟の寝息が、少しずつ整っていった。

 

一か月後——符帝家の設定した盤面に、乗り込む。

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