※この作品はR-18です。

『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』   作:シキセ

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第六十一話 帝都へ

一か月は、速く過ぎた。

 

英稟の訓練は、早朝から始まって夜まで続いた。苑子が日程を組んで、律也が相手を買って出て、途中から浅葱も混じった。浅葱は名門符家グループに出場するため、こちらも準備があった。「同じ名門で上を争うことになりますね」と浅葱が言った。「よろしくお願いします、義兄上」と笑った。

 

朔と澄は、すでに表情が出てきていた。

 

冬子は授乳のたびに朔の顔の変化を日記に書いていた。雪はよく泣いた。嬉し泣きと心配泣きの区別がついていないようだった。英稟は昼の訓練の合間に一度だけ、澄の部屋を覗きに来た。世一が廊下から見ていた。英稟は三分で出た。

 

出発の朝、英稟が符叢を確認している時に世一が声をかけた。

 

「心残りはないか」

 

英稟がわずかに手を止めた。

 

「……澄が、今朝初めて声らしい声を出しました」

 

「そうか」

 

「……それだけです。心残りというほどではありません」

 

俺は英稟の横に立った。

 

「澄の声は、逃げない。戻ってきたら、また聞ける」

 

英稟が符叢の封を閉じた。

 

「……はい」

 

出発は十二名だった。世一・英稟・苑子・律也・浅葱——と、護衛の符士七名。冬子と雪は留守番だ。冬子は「星が出発前よりにぎやかです」と言った。「良いにぎやかさです」とも言っていた。

 

ルクシエルは馬車の天井から俺を見下ろしていた。

 

「……帝都は、嫌いなところです」

 

「なぜ」

 

「行ったことは、ないはずなのですが。近づくほど——鎖の感触を思い出すのです。理由は、自分でもわかりません」

 

「ヨハンナの縁か」

 

「……わかりません。でも、なんとなく、わかります。黄金の鎖の気配がする場所があるのです、帝都には」

 

「どこだ」

 

「……帝国神廟、だと思います。最奥に何か封じられているという話を、聞いたことがあります」

 

神廟。帝国の始まりを祀る建物。符皇の御霊を奉るとされている場所だ。

 

「封じられているとしたら何だ」

 

「わかりません」ルクシエルが首を振った。「でも——世一様が解いたように、誰かが誰かを、繋ぎ止めているものかもしれません」

 

馬車が揺れた。

 

「……行きたいですか」

 

「大符闘祭が終わったら、一度見てもいいかもしれない。優勝者には符帝家へ一つ要求を出せる慣習があると聞く。使えるなら、正規の手続きで入る」

 

ルクシエルが少しの間、黙っていた。

 

「……正直に、言います。行きたいです。そして——怖いです」

 

「怖いか」

 

「中にいるものが、私と同じ時代のものなら——私が忘れていることを、知っているかもしれません。それを知りたい。知るのが、怖い。……両方、本当です」

 

「無理に付き合わせるつもりはない」

 

「いいえ」ルクシエルが首を振った。「世一様を私の事情に引き込んでいるのは、私の方です。神廟に何かあれば、危ないのは世一様なのに——それでも、調べたい。……身勝手だと、わかっています」

 

「身勝手でいい。天使の身勝手は、千年ぶりだろう」

 

ルクシエルが、少しだけ笑った。

 

「……わかりました。一緒に行きます」

 

帝都まで、三日かかった。

 

 

――

 

 

帝都・皇京は、帝国の中心にある。

 

遠見市の三倍の規模があると聞いていた。実際に入ってみると、数字の意味がようやくわかった。道が太く、建物が高く、人の数が多い。符士の装いをした者が至る所にいた。大符闘祭の時期だけ、帝国中の実力者がここに集まる。

 

宿は苑子が事前に確保していた。名門符家向けの定宿で、早雲家も同じ宿に入った。

 

到着の夜、浅葱が部屋を訪ねてきた。

 

「お茶を持ってきました。義兄上は寝る前に甘いものが好きでしょう」

 

「知らん」

 

「私が知っているのです」と浅葱が言って、机に茶碗を置いた。「……苑子さんから、出発前の世一様の様子を伺いました。今度の大会——優勝の栄誉だけが目当てでは、ないのでしょう」

 

俺は茶を取った。

 

「帝国神廟に入りたい」

 

浅葱がわずかに眉を上げた。

 

「……随分と物騒ですね」

 

「物騒ではない。見るだけだ」

 

「最奥は関係者しか入れません。でも——」浅葱が考える顔をした。「大符闘祭の優勝者には、符帝家が礼として一つの要求を聞く慣習があります。建前上は」

 

「慣習か」

 

「断られても文句が言えない類のものです。ですが、慣習がある、ということは——前例がある、ということでもあります」

 

茶が温かかった。

 

「……優勝することが前提か」

 

「義兄上が優勝するものと思っていました」

 

浅葱が立ち上がった。

 

「明日から登録手続きです。英稟様の名門符家グループは——少し荒れそうな組み合わせになっていると、先に届いた情報で聞いています」

 

「誰が」

 

「倉橋家の代表が、今年も腕に覚えがある様子で。英稟様と当たれば、面白い試合になるかと」

 

浅葱が部屋を出た。

 

倉橋家——蒼東道の古い符家だ。星宮家とは歴史的に一度、領地を巡って揉めている。英稟はわかっているだろうが、確認しておく必要はある。

 

────

 

翌朝、英稟に一言だけ言った。

 

「倉橋が来るかもしれない」

 

英稟がわずかに目を細めた。

 

「……知っています」

 

「どうする」

 

「勝ちます」

 

それだけ言って、登録の列に進んだ。

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