※この作品はR-18です。

『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』   作:シキセ

77 / 118
第六十二話 二つの盤面

大符闘祭の開幕は、三日目だった。

 

最初の二日間は選手登録と抽選、それから一次予選が行われた。中堅符家と独立符士の一次予選は、会場の外れに設けられた副会場でやっていた。英稟が「覗きに行きましょうか」と言った。苑子が「時間の無駄です」と言った。英稟が「はい」と言って従った。

 

抽選の結果、俺は親符家グループの第一試合から始まることになった。

 

対戦相手は、桔白家の当主だった。

 

壮年の男だ。大符闘祭の常連で、親符家グループでは毎年上位に食い込む実力者という話だった。苑子が名簿の写しを机に置いた。

 

「七光陣という家伝式符をお持ちです。七体の陽で陣を組み、場の陰属性使役式を根こそぎ霊体化させる——陰殺しの陣です。親符家グループの常連対策として名高いものですが、今年は、符侯様の出場が決まってから、宿に籠もって陣の調整をしていたと聞きました」

 

「狙いは俺か」

 

「はい。……エーデルガルト様は、陰です。色衣ごと、正面から狩る備えかと」

 

「知っている。まともに受ければ、着ている札ごと剥がされる」

 

「対策は」

 

「陣は七体揃って初めて立つ。揃うまでは、ただの並びだ。——数える勝負なら、負けない」

 

苑子が一拍だけ黙って、頷いた。

 

「……手番勘定は、確かに世一様の領分です」

 

英稟グループの初戦の相手は、北疆道の若い女符士だった。二十代前半。名前を見ても俺には顔が思い出せない符家だった。

 

「倉橋家は」

 

英稟が組み合わせ表を出した。

 

「……私とは反対のブロックです。最速で準決勝で当たる可能性があります」

 

「そこまで上がってくるか」

 

「倉橋は来ます」英稟の声に感情はなかった。「そういう符家です」

 

開幕の日、皇京の大符闘会場は満員だった。

 

符家の当主・代表が顔を揃えている。観覧席の上段には符帝家の紋が掲げられていたが、符帝本人の姿はなかった。大会期間中は最終日にしか現れないという話だった。

 

俺は親符家グループの待機室にいた。

 

八名が揃っている。互いに顔は知っているが、話す者は少ない。総当たり戦だ。今日いた全員と、いずれ当たる。

 

一人、若い男が声をかけてきた。

 

「符侯様」

 

振り返った。

 

二十代半ばの男だ。清潔な符士装束を着ている。笑顔が作りもののように整っていた。

 

「はじめまして。宵月家の者です。今年から当主を継ぎました」

 

「そうか」

 

「お噂はかねがね。符侯様が今年ご出場されると知って——楽しみにしておりました」

 

「試合を楽しみにするのは良いことだ」

 

男が少し笑い方を変えた。

 

「符帝家から、符侯様への伝言を預かっております」

 

俺は男を見た。

 

「符帝が伝言を使うのか」

 

「……直接ではございません。ただ——」男が声を落とした。「ご無理をなさらなくて良い、と。親符家グループの成績は、どんな結果でも符帝家は問いません、と」

 

俺は何も言わなかった。

 

「符侯様の遠海での功績は——符帝家も高く評価しております。今大会を、負担なくお楽しみいただければ、と」

 

退けという意味だ。

 

帝国神廟の最奥に何かある。世一が大会に出ると知ってから、この伝言が来た。

 

「……受け取った」

 

「はい」

 

「返事は試合でする」

 

男の笑顔が、ほんの一瞬、止まった。

 

それから元に戻った。

 

「……楽しみにしております」

 

男が戻った。苑子が隣に来た。

 

「聞いていました」

 

「わかっている」

 

「……宵月家は、符帝家の息がかかっています。親符家の中では最も近い位置にいる符家です」

 

「そうだろう」

 

「戦略を変えますか」

 

「変えない」

 

苑子がしばらく黙っていた。

 

「……承知しました」

 

────

 

その夜、苑子が予選の名簿を持ってきた。

 

「……気になることが、いくつかあります」

 

「言え」

 

「独立符士枠の登録番号に、欠番が三つ。抽選の前に消えた番号です。事務の綴じ間違いかもしれませんが——」

 

「他には」

 

「棄権者が例年より多い。しかも独立符士枠に偏っています。開幕前の棄権が、すでに七件」

 

「独立符士は路銀が続かない者も多い」

 

「……はい。ですが、七件のうち四件は、宿の記録の上ではまだ帝都にいます」

 

俺は名簿を受け取った。

 

「それと——会場警備の顔ぶれが、少し妙です。神廟の警備に立っていたはずの符士が、大会会場の警備に回されています。浅葱様が、顔を覚えていました」

 

「神廟の警備を薄くして、大会に回したか」

 

「命令書の類は、確認できていません。ただ——」苑子が声を落とした。「今日の場内の告知は、すべて『符帝陛下のご意向により』で始まっていました。六回、数えました。……符帝の御姿は、一度もありません」

 

観覧席の上段。符帝家の紋の下の席は、今日も空だった。

 

意向だけが場内を歩き回って、本人の声が、どこにもない。

 

(不在なのではない——のかもしれない)

 

命令の形式と、命令の主が、どこかで分岐している。符帝本人へ届く前に、命令系統が割れている——そういう構造がありうる。

 

まだ仮説だった。仮説のまま、覚えておくことにした。

 

第一試合の時間が来た。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。