『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』 作:シキセ
部屋に入った。
苑子に頼んでいた料理が机の上に並んでいた。帝都の宿でも上等に入る宿——符侯の滞在先として手配された部屋だ。白米、汁物、焼き魚、煮物、漬物、蒸した豆腐。質素な見立てで選ばせたが、それでも小夜の育ちには不釣り合いな膳だった。
小夜が部屋に入り、机の上を見て——止まった。
「……」
「座れ」
「……取引の対価が、これほどとは聞いていませんでした」
「惣菜二品とは言わないと言っただろう」
「……確かに言いました」
小夜が座った。
膳に手をつける前に、一秒だけ間を置いた——それから、静かに食べ始めた。
最初は暗殺者らしい慎重さで、一口ずつ。だがしばらくすると手が速くなった。汁物を飲み、焼き魚をほぐし、煮物を三口で片付けた。白米が空になった頃には音が出ていた。
「……」
「情報は食後に聞く」
「……はい」
五分ほどで膳が空になった。
小夜が茶を一口飲んで、「ごちそうさまでした」と言った。声が少しだけ柔らかかった。
「神廟の続きを聞かせてもらおうか」
「はい」小夜が膝の上で手を組んだ。「三の門の詰め所は、夜の四ツから六ツの間、当番が二人に減ります。残りは内廷の巡回に割かれている。裏手の用水路側は無人になります」
「用水路から入れるか」
「符闘ができるなら。陰属性の縮地符があれば水面を渡れます」
「符士でない者は」
「無理です。深さが三丈はある」
「お前は入ったか」
「……一度だけ下見をしました」
俺は小夜の隣に移った。
小夜が警戒した——が、何も動かなかった。
「地図を描いてもらおうか」
「……紙と筆があれば」
俺は机から紙を出した。小夜に渡した。その時、指が触れた。
ほんの一瞬。
「っ……」
小夜が固まった。
「どうした」
「……何でもありません」
だが顔が赤かった。
俺は小夜の肩に手を置いた。
「っ……!」
「……な、なにを」
「肩だ」
「離してください」
「なぜ」
「……手が——あなたの手が——なんか……っ」
「なんか」
「あつい……っ」
俺は陽の気を流した。
意図的ではなかった——いや、少しだけ意図的だった。陰属性の使い手は、陽の気に対して通常の何倍も鋭敏に反応する。符闘の理屈ではなく、霊体の構造としてそうなっている。
「ぁっ……!」
小夜が手から紙を取り落とした。
「取引にこういう……こういう要素は——含まれていませんでした……っ」
「そうか」
「取引の範囲を明確にする必要があります……っ 私は情報提供をしに来ただけで——」
「小夜」
「な……なんですか」
「ヨモツイクサは今、帝都で何を目論んでいる」
小夜が顔を上げた。目が潤んでいた。
「……それを聞くのが、本当の目的ですか」
「そのひとつだ」
「……答えたら、手を離してくれますか」
「答えてから考える」
小夜が少しの間、俺を見た。陰の符士らしい、剣のような目だった。それが、また俺の手の温度に揺れた。
「……大符闘祭の混乱に乗じて——符帝家本邸の地下貯蔵庫を狙っています。原符の在庫と、帝国発行の高レアリティ符を盗み出すのが目的です」
「いつだ」
「大会決勝の夜。警護が競技場に集中する隙を使います」
「仲間の数は」
「……私を含めて五名です」
「お前は何をする役だ」
「……見張りです」
「見張り」
「下っ端です。私は」
俺は陽の気をもう少し強めた。
「ひぁっ……!」
小夜が体を震わせた。
「さっきより——強い……っ なんで……っ こんなに……体が……っ」
「陰属性は陽の気の対の属性だ。符闘では相殺するが——体に流れると増幅する」
「そんな話は聞いていません……っ」
「知らなかったか」
「っ……知らなかった……っ のに……これは——不公平です……っ」
「符闘に不公平はない」
「これは符闘じゃない……っ あなたは——最初からこのつもりで——」
「最初は神廟の情報が目的だった」
「嘘です……っ」
「半分は本当だ」
小夜の体が崩れた。支えられなくなって、俺の肩に額をつけた。
「っ……離れてください……っ こういう取引は——聞いていない……っ」
「聞いていないなら、今聞け」
「今から言われても——もう……体が……っ」
小夜を寝台に押し倒した。
「や……っ 待って……っ これは——任務じゃない……っ」
「そうだ」
「取引でもない……っ これは——これは……っ 明らかに——」
「計略だ」
小夜が止まった。
「……知っていてやっているんですか」
「当然だ」
「……なぜ私なんですか」
「有能だからだ」
小夜がまた止まった。今度は長かった。
「……有能」
「ヨモツイクサで下っ端扱いされているが、お前の陰符の練度は見張り役に置くには惜しい。一晩で神廟の詳細を把握して、俺の素性を調べようとして、殺気の立て方を知っている。食い物に釣られるという弱点を除けば、相当の素質だ」
小夜が俺を見た。複雑な顔だった。
「……褒めながら落とそうとしている」
「そうだ」
「……ずるい」
「ずるい方が有能だ」
小夜が「……そうですね」と言った。声が少し小さくなった。
俺は小夜の着物の帯を解いた。
「っ……! ちょっと——待ってください——本当に——これは——」
「慣れているか」
「……慣れていません」
「そうか」
「……あの——」
「処女か」
「っ……い、言わなくていいです——そういうことを言う必要は——」
「聞いた」
「……はい」
小夜が目を逸らした。耳が赤かった。暗殺者の凄みが全部どこかに行った顔だ。
着物の帯を外した。
小夜の体が素直だった。陰属性の感受性が高い。陽の気に触れると、防御という概念が消える。着物を外すと、細い体が震えていた。武器を隠すような体格ではなかった。鍛えているが、線が細い。
「見ないでください……っ」
「見る」
「見ないでください……っ♡ ——あなたが見ると——意識してしまう……っ♡」
「それでいい」
首筋に唇を当てて、陽の気を流した。
「ひっ……!♡ ——そこ……っ♡ 首が——なんで首が——っ♡」
「陰の気が集まる場所だ」
「知識として言われても——今は——っ♡ 聞こえない……っ♡ あなたは——ずるい……っ♡」
首から鎖骨、胸の谷間へ順に陽の気を落とした。触れるたびに陰の気が刺激される。体内の気の流れが乱れ、熱に変わる。
「ぁあっ……!♡ ——続けないでください……っ♡ それは——どこに向かっているんですか……っ♡」
「腹の奥だ」
「腹の奥に向かわれると困ります……っ♡ 私は陰属性で——そこが——っ♡♡」
手のひらを小夜の腹に当てた。軽く押しながら陽の気を深く沈めた。
「ぁっ……!!♡ ——奥が……っ♡ 奥から——何か——っ♡♡」
「出せ」
「出せって——何を——っ♡ 世一さん——何を——っ♡♡♡」
気の圧を一段上げた。
「やっ……!!♡♡ ——だめ……っ♡ それは——っ♡ 体が——下から——っ♡♡♡」
小夜の腰が大きく浮いた。细い体が弧を描いた。寝台のシーツが濡れた。
「あっ……!!!♡♡♡ ——出て……っ♡ 出てる……!♡ 世一さん——何をしたんですか——っ♡♡♡」
「潮だ」
「……潮……っ♡ そんな——こんなことに——なるんですか……っ♡」
「陰の気が陽の気に圧されると、奥から溢れる」
「そんな話——聞いていない……っ♡ 教えてくれなかったじゃないですか……っ♡」
「知らせる理由がなかった」
「あります……!♡ ——こんなことになるなら——っ♡ 先に言って……っ♡」
小夜が両手で顔を覆った。耳まで赤かった。
間を置かなかった。
「っ——まだやるんですか……っ♡」
「まだだ」
「少し——待ってください……っ♡ さっき——すごく——っ♡♡」
「待たない」
今度は指を使った。陽の気を指先に集中させて、小夜の体の奥の、陰の気の溜まり場を探した。
「ひぁっ……!♡♡ ——指が——っ♡ 世一さんの指が——熱い……っ♡♡」
「どこか」
「そこ……っ♡ そこです——っ♡ そこだけは——やめて……っ♡ そこを押されると——っ♡♡♡」
「なぜやめる」
「だって……っ♡ また——出てしまう……っ♡♡ さっきみたいに——また——っ♡♡♡」
「出せ」
「出せって——っ♡♡ 世一さんはそればかり——っ♡♡」
陽の気を一気に押し込んだ。
「やあっ……!!!♡♡♡ ——また……!♡ また出てる……!♡♡ 世一さん——出てる——っ♡♡♡ 何回出させる気ですか……!♡♡♡」
小夜の体が二度目の絶頂でのけ反った。寝台がまた濡れた。
「ぁ……っ♡ ——もう……っ♡ もう任務がどうとか——どうでもよくなってきた……っ♡」
「そうか」
「どうでもよくなってきたとは言いましたが——意図して言ったわけでは——」
「わかっている」
「……本当に、わかっていますか……っ♡」
「お前が取引と言い張りたいなら言い張れ」
小夜が「……意地悪です」と言った。声がかすれていた。
俺は小夜の体の向きを変えた。うつぶせにした。
「え——っ♡ ——何をするんですか——っ♡」
「背中から流す」
「背中から……っ♡」
背骨に沿って陽の気を走らせた。上から下へ。尾骨のあたりで留めた。
「ぁっ……!♡♡ ——それは——っ♡ 背中全体が——っ♡ なんで背中で——っ♡♡♡」
「陰の経路が背骨に沿って走っている」
「そんな説明より——っ♡ 止めてください……っ♡ 腰が——腰から——っ♡♡」
「出るか」
「出ます……っ♡ 出てしまいます——世一さん……っ♡ こんなに——こんなに何回も——っ♡♡♡」
小夜が枕を掴んだ。
「やっ……!!!♡♡♡ ——また……!♡♡ また——っ♡♡♡ 三回目——三回も——出て——っ♡♡♡」
小夜の体が震え続けた。しばらく動けなかった。
息が上がったまま、小夜が「……もう無理です」と言った。
「何が無理だ」
「全部が……っ♡ 体が——思い通りに動きません……っ♡ 最初の状態に——戻れないです……っ♡」
「戻れなくていい」
「戻れなくて——いいんですか……っ♡」
「今夜はまだ続く」
「えっ……!♡♡ ——待って……っ♡ さすがに……っ♡ 三回も——出したのに——まだ——」
「お前の陰の気が俺の陽の気に慣れるまでだ」
「慣れるまで——っ♡ 慣れたら終わりですか……っ♡」
「そうだ」
「……慣れなければ——ずっと続くんですか」
「そうだ」
小夜が「……それは計略としてかなり有効です」と言った。半分泣いていた。
仰向けに戻した。
「っ……♡」
今度は全身に同時に陽の気を流した。首から腹、背から腰、指先から足の先まで。
「ぁあああっ……!!!♡♡♡ ——全部——っ♡♡ 全部同時に——こんな——っ♡♡♡ 世一さん——っ♡ 世一さん……っ♡♡」
「呼べ」
「世一さん——っ♡♡ 世一さん——もう——っ♡ 全部——世一さんの——熱で——っ♡♡♡」
「行け」
「いきます……!♡♡♡ ——また——いく……!!!♡♡♡ 世一さん……っ♡♡♡ 私——もう——世一さんしか——っ♡♡♡♡」
四度目が来た。
今度は長かった。小夜の体が収まるまでに時間がかかった。
波が引いた後、小夜が動かなかった。
ただ「……世一さん」と言った。
「何だ」
「……戻れないです」
「どこへ」
「どこへも……っ♡ ——ヨモツイクサにも——さっきの自分にも——これより前には——もう——っ♡」
「そうだ」
小夜が目を閉じた。まだ体が小さく震えていた。
「……これは——取引ではありません」
「そうだ」
「……任務でもありません」
「そうだ」
「……なんと呼べばいいんですか」
「好きに呼べ」
小夜が少しの間、黙った。
「……世一さんの——ものに——なりました」
「わかっている」
「……わかっていたんですか」
「最初からそのつもりだった」
小夜が「……もっと早く言ってください」と言った。声が弱かった。
「言ったら来なかった」
「……それは——そうですね」
────
深夜になった。
小夜が俺の横に崩れていた。息を整えながら、天井を見ていた。
しばらく黙っていた。
「……食い物で落ちて、陽の気で落ちて——暗殺者として、いいところが全然ないですね」
「自分でそこまで言うとは思わなかった」
「正直に言うよりしょうがないじゃないですか。全部——顔に出てしまうんです、この体が」
「それがお前だ」
「……慰めになっていないです」
「慰めていない」
小夜が小さく笑った。ほんの一瞬だったが、確かに笑った。
「……仕事を与えてもらえますか」
「何の話だ」
「このまま宿に置いてもらえるなら——働きます。ヨモツイクサの計画は全部話します。帝国神廟の内部情報も継続で入れます。陰属性の縮地と情報収集なら、役に立てます」
「それは取引か」
小夜が少し考えた。
「……取引ではないと思います」
「なぜ」
「取引なら対等な立場が必要です。今の私にあなたと対等な立場はない」
「では何だ」
「……忠誠、という言葉は大げさですが」小夜がゆっくりと言った。「世一さんの——下で、働く——という話だと思います」
「その話は、大会が終わってからだ」
小夜が「……え」と顔を上げた。
「今のお前は、行き場をなくした直後だ。行き場のない人間の『働きます』は、条件を確かめない。それでは雇う側が得をしすぎる」
「……得をすれば、いいじゃないですか」
「安く買った駒は、安く扱う癖がつく。俺はお前を高く使いたい。だから——大会が終わって、頭が冷えてから、条件を並べて話す。それまでは、取引のままでいい。情報には対価を払う。飯も出す」
小夜が、少しの間、俺を見ていた。
「……変な人ですね、世一さんは」
「そうか」
「……ヨモツイクサでは、条件の話なんて、一度もされたことがなかったです」
「そうだろうな」
小夜が天井を見たまま、少しの間、何も言わなかった。
それから、「肉串——また食べていいですか」と言った。
「苑子に言え」
「……苑子さん、怖そうですが」
「慣れろ」
小夜が「……はい」と言った。
────
「風呂に入れ」
小夜が起き上がった。
「……今からですか」
「そうだ」
「……一緒に、ですか」
「そうだ」
小夜が少しの間、俺を見た。
「……断れますか」
「断れない」
「……では参ります」
────
湯は苑子が毎夜張らせている。
脱衣所で小夜が着物を抱えたまま止まった。俺の前で着替えることに、今さら気づいたような顔だった。
「さっき全部——見られていたのに——なぜ今更……っ」
「早くしろ」
「……はい」
湯船に入った。小夜が対面に座った。湯気の中で、小夜の陰の気が薄まっていた。陽の気の多い環境では陰属性の符士は素のままになる。仮面が溶ける。
小夜が黙っていた。
「何か言いたそうだな」
「……言いたいことはあります」
「言え」
「……世一さんは、私を口先三寸で宿に連れ込んで、陽の気で快楽漬けにして、今は風呂に一緒に入っています。計略のプロセスとして、非常に完成されています」
「そうか」
「……褒めているわけではありません。ただ——事実確認です」
俺は小夜の隣に移った。
「っ……近い、です」
「そうだ」
「また何か——するんですか」
「する」
「……何を」
俺は小夜の顎を取った。顔を向けた。
「え……っ——」
唇に触れた。
「——っ」
小夜が固まった。
触れただけだった。陽の気は流していない。
「……キス、ですか」
「そうだ」
「……何のために」
「もう一度する」
「え——っ」
今度は少し深く。唇を押しつけた。陽の気を一息だけ流した。
「んっ……!♡」
小夜の体が揺れた。
「っ……な——なんで——キスで——」
「唇から入る」
「唇から——陽の気が……っ♡ 直接——体の中に——」
「そうだ」
「そんなこと——っ♡ 事前に——言ってください……っ♡」
「言ったら構えた」
「構えます……っ♡ こういうことは——構えさせてください……っ♡」
俺はもう一度唇を重ねた。今度は長く。舌先で陽の気を流した。
「んぁっ……!♡ ——深い……っ♡ 口の中まで——陽の気が——っ♡♡」
小夜の肩が震えた。
「体が……っ♡ 口から——どんどん——入ってくる……っ♡ 世一さんの息が——熱くて——っ♡♡」
「まだだ」
「まだあるんですか……っ♡」
離した。
小夜が息をついた。唇が赤くなっていた。
「……さっきと——全然——違います」
「何が」
「陽の気が——唇から入ってくると——さっきみたいに——体の外から押されるんじゃなくて——っ♡ 内側から——広がる感じで——」
「そうだ」
「……それは——さっきより——効きます……っ♡」
「知っている」
小夜が「……また来ますか」と言った。
「来る」
「……来ますか」
同じことを繰り返した。
「……来るんですね」
「そうだ」
小夜が目を閉じた。
覚悟したような顔だったが——唇が少し開いていた。
口づけた。今度は陽の気を絶やさず、ゆっくりと流し続けた。
「んんっ……!♡♡ ——ずっと……っ♡ ずっと入ってくる……っ♡ 世一さん——息が——っ♡ 息が——熱くて——っ♡♡」
小夜が俺の腕を掴んだ。縋るような掴み方だった。
「っ……♡♡ 来ます……っ♡ キスで——来ます——これは——おかしい……っ♡♡」
「おかしくない」
「おかしいです……っ♡ キスで——こんなになるのは——っ♡ 普通じゃない……っ♡♡」
「お前の体がそうなった」
「私の体が——っ♡ そうなって——しまったから——これは——世一さんのせいです……っ♡♡♡」
「そうだ」
「世一さんのせいで——っ♡♡ いきそう——っ♡ キスだけで——いきそう——っ♡♡♡」
「行け」
「ひぁっ……!!!♡♡♡ ——いく……!♡ キスで——いく……!♡ 世一さん——っ♡♡♡ 口だけで——いってしまう——っ♡♡♡」
小夜が俺の腕に額をぶつけた。体が揺れた。湯面が揺れた。
しばらく、二人とも黙っていた。
湯気の中で、小夜が「……もうキスだけで、駄目になってしまいました」と言った。
「そうだ」
「……これは——意図してやったんですか」
「そうだ」
「……なぜキスで絶頂できるようにする必要があったんですか」
俺は少し考えた。
「必要というわけではなかった」
「……では——」
「できるかどうか、確かめたかった」
小夜が「……」と黙った。
しばらくして、「確かめた結果はどうでしたか」と言った。
「予想通りだった」
「……それは——私にとって良い結果だったんですか、悪い結果だったんですか」
「わからないか」
小夜が「……悪い結果ではない気がします」と言った。声が諦めたように穏やかだった。
「そうだ」
「……肉串を食べてから来るべきでした」
「満腹で来ても結果は同じだった」
「……そうですね」
小夜が静かに笑った。
────
翌朝、苑子に小夜のことを話した。
「……裏路地の少女、ですか」
「情報収集と陰符の運用で使う。食い物で釣れる。神廟の裏ルートを知っている」
「……弱点が大きすぎます」
「弱点が明確な手駒は扱いやすい」
苑子が「承知しました」と言った。承知していない顔だった。
「何だ」
「……何でもありません」
「言え」
「……この宿で、また女が一人増えるということを——確認したかっただけです」
「そうだ」
苑子が深く息を吐いた。
「……承知しました」