『神符大戦 ──世界大会決勝で負けて底辺に堕ちた男、TCGの勝敗が全てを決める異世界で美少女達を調教しながら盤面制圧を目指す──』 作:シキセ
表彰も、諸家への報告も、家格の始末も済んだ。星宮家当主としての仕事を、英稟は先に全部片づけた。
その上で——数日して、体が動くようになった頃、夜、英稟が来た。当主としてではなく、一人の女として来た顔だった。
ノックは一回だった。
「入れ」
扉が静かに開いた。英稟が符士装束のまま立っていた。外套は着ていない。手に何も持っていない。
「……世一様」
「治ってからにすると言わなかったか」
英稟が少しだけ眉を動かした。
「……完全に治られるまで、待つつもりでした」
「待てなかったのか」
「はい」
言い訳をしなかった。それだけ言って、英稟が部屋に入り、扉を閉めた。
「その前に一戦やる」
「……符闘、ですか」
「そうだ。今の俺を確かめろ。俺もお前のことを確かめる」
英稟が「……はい」と短く言った。
────
宿の中庭に結界を張った。
深夜だ。人の気配はない。符闘場の規模としては小さいが、それで十分だ。
英稟が符叢を手に俺の正面に立った。
「……以前と同じ顔をしていらっしゃいますね」
「そうか」
「……帝都に来る前も、傷を負われた後も——何も変わっていない」
「変わる理由がない」
英稟が「……そうですね」と言って、符叢を構えた。
「始めるぞ」
「——はい」
英稟の初手は、陰属性の場固めだった。一枚、二枚と、見覚えのある並べ方で式符が置かれていく。
(——初戦と同じ入りか)
初めてこの女と打った朝、同じ形を見た。陰を五枚揃えて天津甕星を使役式化する、星宮の家伝の型。あの朝、神は一度起きた。起きて、俺に雷を二度落として——禁鎖で五枚目を割られ、置物へ退化させられて終わった。
俺は手札を見た。ルクシエル。アルギメル。そして——禁鎖。
(同じ札まで揃っていやがる)
「ルクシエル、実体化」
黄金の光の中からルクシエルが顕現した。英稟の目が細くなった。
「……この組み合わせ」
「覚えているか」
「忘れたことは、ありません」
英稟の手は止まらない。三枚。四枚。あの夜と同じ速さで、陰が並んでいく。
(もう一枚で甕星が起きる。なら、ここで数を割る)
「禁鎖。陰属性一体を、強制霊体化」
鉄の鎖が夜気を裂いて、英稟の使役式へ絡みつく——寸前。
英稟の伏せが、返った。
「——陰結の楔。霊体化を、無効にします」
鎖が空を掴んだ。浅葱の狐を仕留めたのと同じ伏せ札が、今度は俺の禁鎖を食った。
(——これを待っていたのか)
顔を上げると、英稟がまっすぐ俺を見ていた。
「……初戦から今日まで、あの盤面を千回は並べ直しました。あの朝、せっかく起こした神を、あなたは禁鎖一枚で、ただの約定に戻してしまわれた。……今日は、割らせません」
五枚目が、置かれた。
約定の札が輝きを変え、紋様が夜気に浮かぶ。
「使役式化——天津甕星」
星の神が、夜の中庭に降りた。冷えた重量が結界の内側を満たす。初戦の朝に一度だけ見た顔が、今度は守りを立てた上で降りている。
(——面白くなってきた)
あの朝は二手で終わった神が、今夜は腰を据えて盤に居座っている。読み合いの相手として、ようやく格が揃った。口の端が緩みかけるのを抑えて、手を動かした。ルクシエルの効果で手札の陽を一枚割り、アルギメルを特殊実体化する。銀槌が夜空から降りて、天使二枚が神と向かい合った。
英稟は止まらなかった。早業——甕星の戦力を、手番の終わりまで倍加させる速攻の布石。浅葱を沈めた決め筋を、惜しげもなく俺に切ってきた。
倍加した神の一撃が来る。素通しにすれば、符叢を直に大きく抉られる。ルクシエルは戦闘に立てない。
「アルギメル。盾に立て」
銀槌の天使が正面に出た。神の一撃と銀槌が噛み合い、白光が弾けて——砕けたのは天使の方だった。倍加した神の重さは、受け切れる数字ではない。衝撃の余波が、右肩の奥で鈍く鳴った。
だが、天使は砕けても墓地には落ちない。光の粒に解けて、俺の符叢へ静かに還っていった。
「……天使を、捨て駒に」
「捨てていない。天使は砕けても符叢へ還る。直に貰って命運を削られるより、よほど安い」
「——では、同じ盾がまた降りる前に、削り切るだけです」
いい打ち筋だった。読まれる前提で、それでも最大値を通しに来る。大会を勝ち抜いた符闘が、俺の目の前で回っている。かつて俺の型を写すことしかできなかった頃の面影は、この盤面のどこにもない。
手札には、二枚目の禁鎖がある。数を割る最短の答えだ。
だが、あの伏せが一枚きりだと決める根拠がない。千回並べ直したと言う女が、初戦の敗因を塞ぐ札を一枚しか差していない——そう読むのは、読みではなく願望だ。二枚目の禁鎖が二枚目の伏せに食われれば、手番を丸ごと捨てた上で、神の返しを素で浴びる。裏目が深すぎる。
なら、伏せの守備範囲の外から裁けばいい。あの札が封じるのは霊体化だ。破壊は、止められない。
「お前が千回並べ直したのは、初戦の俺だろう」
手札の陽を四枚、まとめて代償に置く。重い。重いが、この女に出し惜しみは要らない。
「約定——天裁」
白光が中庭を満たした。
場に出た全ての式符を、等しく裁いて破壊する。役目を終えた俺の禁鎖も、英稟の陰の並びも——全部だ。天の裁きに、敵味方の区別はない。
光が引いた後、盤面に立っているのは二つだけだった。破壊されない黄金鎖の天使と、破壊されない星の神。
だが、神の足元は消えていた。五枚あった陰の式符が、裁きで残らず砕けている。数が、割れた。
「——楔は、破壊には届かないだろう」
天津甕星から、光が抜けた。星の神が、音もなく約定へ還っていく。英稟の目が見開かれたまま、還っていく神を追った。霊体化は封じた。破壊からは守れない。千回の並べ直しは、禁鎖という答えだけを塞いでいた。
「アルギメル」
破壊された天使は、墓地ではなく符叢へ還る。ルクシエルの効果で手札の陽を一枚割り、還ったばかりの銀槌を、符叢からもう一度引きずり出した。裁きを終えた天裁自身も光に溶けて、俺の符叢へ還っていく。
二度目の銀槌が夜空から降りて、遮るもののない盤面を砕いた。英稟の符叢が、最後の一枚まで削り切れた。
手は抜かなかった。天裁は、初戦では抜かずに勝てた札だ。今夜は抜いた。この女を相手に温存で勝つのは、もう侮辱の域に入る。
「……また、届きませんでした」
「初戦より三手長く保った。俺に天裁を切らせた。初戦では要らなかった札だ。……数えておけ」
「……はい。数えます」
声に涙の気配はなかった。悔しさを静かに噛みしめる気配だけが、夜気に残った。
結界が弾けた。
英稟の身体が一時的に固定された。敗北ペナルティだ。
「……っ」
俺はゆっくりと近づいた。
「覚えているか、英稟。最初に俺と符闘したとき——お前はこの状態で俺に言った」
英稟の目が潤んでいた。
「……覚えています」
「何と言った」
「……『殺すなら早く殺せ』と言いました」
「そうだ」
俺は英稟の腕を取り、中庭の石壁へと押し当てた。
「……っ——世一様——」
「格付けは終わった。次は約束だ」
「……はい」
英稟の声が低くなった。
俺は英稟の符士装束の後ろから裾を捲り上げた。
「……っ——ここは——外——です——」
「声を抑えろ」
「……っ♡ は——い——」
英稟の腰を両手で掴んだ。
ずぷり……。
「——っ♡♡!」
「声を抑えろ」
「……っ♡ すみ——ません——でも——っ♡♡」
「抑えろ」
英稟が唇を噛んだ。喉の奥で声を殺している。それでも、壁に押し付けられた肩が小刻みに震えている。
俺は腰を動かし始めた。
ぐちゅ……ぐちゅ……。
「……っ♡ ん——っ♡」
符闘の結界の残滓がまだ漂っている夜の庭で、英稟の身体が石壁に押し付けられたまま揺れている。
「……っ♡ 世一様——っ♡♡」
「声が出ている」
「……だって——こんな場所で——世一様に——っ♡♡♡」
「お前が望んだ約束だ」
「……はい——っ♡ 望みました——っ♡♡」
ぐちゅぐちゅ……くちゅ……。
英稟が壁に額を押し付けながら、小さく震えている。符士としての矜持が、外で犯されるという状況の中でどこかへ消えている。
「……っ♡♡ 世一様——もっと——深く——っ♡♡♡」
「欲しいか」
「……はい——っ♡ 欲しいです——奥まで——っ♡♡♡」
俺は腰の動きを深くした。
「……ひぁ——っ♡♡!」
英稟の足先が浮いた。
「……っ♡♡ だめ——外で——達きそうで——っ♡♡♡」
「達くか」
「……達きます——っ♡ 世一様——なかに——っ♡♡♡ お願いします——種を——っ♡♡♡」
「わかった」
「……っ♡♡ 世一様——っ♡♡♡ お願いします——っ♡♡♡」
俺は英稟の腰を引き寄せ、最奥へと押し込んだ。
「——っ♡♡♡!」
英稟が声を上げた。壁を両手で押さえながら、全身を震わせた。
ドクドクと、英稟のなかへと流し込んだ。
「……あ——っ♡ なかに——来てる——っ♡♡」
「そうだ」
「……熱い——世一様のが——奥まで——っ♡♡♡」
英稟の腰がびくびくと震え続けた。しばらく、壁に身体を預けたまま動けなかった。
────
部屋に戻った。
ベッドに英稟を横たえた。符士装束が乱れている。直さないまま、俺は覆い被さった。
「……世一様」
「なんだ」
「……また、犯してください」
「懇願するのか」
「……はい。約束の続きを——お願いします」
英稟が自分で足を広げた。
俺は押し込んだ。
ずぷり……。
「……っ♡ は——い——っ♡♡」
「声はいい。ここは部屋だ」
「……はい——っ♡ 声——出します——っ♡♡」
俺は腰を動かし始めた。
ぐちゅ……ぐちゅ……ぐちゅ……。
「……っ♡ ん——っ♡ 世一様——っ♡♡」
「言え」
「……孕ませてください——っ♡ 世一様の子を——っ♡♡♡」
「もっとだ」
「……っ♡♡ お腹の中に——世一様の種を——いっぱいにして——っ♡♡♡ 星宮英稟を——孕ませてください——っ♡♡♡」
絶頂させた。
英稟が「——っ♡♡♡!」と声を上げて、全身を震わせた。
「……もう一度言え」
「……っ♡ まだ——続けるんですか——っ♡♡」
「孕ませるための条件だ」
「……っ♡♡ わかりました——っ♡ 孕ませてください——世一様——っ♡♡♡ もっと——もっと奥まで——世一様の子を——っ♡♡♡」
腰を深くした。
「……ひぁ——っ♡♡!」
「もう一回」
「……っ♡♡♡ 孕ませてください——お願いします——っ♡♡♡ 星宮英稟に——世一様の子を——っ♡♡♡」
何度も絶頂させた。英稟が「孕ませてください」と言うたびに動きを深くした。英稟の声が完全に乱れ、何度目かわからなくなったころ、英稟が「……世一様——もう——限界で——っ♡♡♡」と言った。
「もう一回言え」
「……っ♡♡♡ 孕ませてください——っ♡♡♡ 世一様の子を——星宮に——っ♡♡♡ お願いします——っ♡♡♡」
俺は英稟の最奥へ向けて出した。
「——っ♡♡♡!!」
英稟の腰が浮いて、全身が細かく引き攣るように震えた。
しばらく、動けなかった。
英稟が静かになってから、目を閉じたまま言った。
「……感じます」
「何をだ」
「……奥に——世一様のが——広がっている——感じが——します——っ♡」
「そうか」
「……来た、かもしれません」
「早い」
「……はい——でも——感じるので」
英稟が目を開けた。目が潤んでいた。
「……ありがとうございます、世一様」
「今夜は制御を解いた」
英稟が「……え」と目を開けた。
「陽の気だ。これまで抑えていた。今夜は解いた」
英稟がしばらく黙った。
「……知りませんでした」
「知る必要がなかった」
「……でも——今夜は、解いたのですね」
「そうだ」
英稟が「……はい」と言った。声が柔らかくなっていた。
────
湯船に湯を張った。
英稟が一緒に浸かった。俺の腕の中に収まるように背中を預けた。
「……気持ちいいですね」
「そうだな」
しばらく、何も言わなかった。
英稟が「……奉仕しても、いいですか」と言った。
「湯の中でか」
「……はい。以前にもしました」
「好きにしろ」
英稟が俺の手の下に手を重ね、ゆっくりと動かし始めた。
「……世一様」
「なんだ」
「……帝都に来て、思ったのですが——以前より、周りが世一様を見る目が変わっています」
「そうか」
「……神廟の件もあります。符帝からの書簡もあります。——遠見は、以前より確かな場所になっています」
「そう見えるか」
「……はい。帝国の中で、世一様の立場は確かなものになっています。そう感じます」
俺は英稟の肩を引き寄せた。
「……待たせた」
英稟が「……え」と動きを止めた。
「最初の妻として、待たせた。孕ませるまでに時間がかかった」
英稟が少しの間、黙った。
「……世一様が——そんなことを言われるとは——思いませんでした」
「そうか」
「……嬉しいです」
英稟がまた動き始めた。
「……遠見に帰ったら——落ち着けますね」
「しばらくはな」
(しばらくは——そのつもりだった)
「……澄に、また会えます」
「そうだな」
「……冬子さんも、朔を連れて待っています」
「ああ」
英稟が「……良い家になりましたね、遠見は」と言った。
「そうだな」
湯の温もりの中で、英稟の動きは静かに続いた。