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そうだった……。
これを忘れてたんだ。
「脱げそうって…どのあたりですか?」
分かってはいるが念のため聞いておこう。
「き…昨日の夜…撮ってもらった写真見てたんだけど…――
『あれ?雫たんてもっと胸デカくない?』
って思って…。それで今日ヌーブラを2枚重ねて盛ってきたら…胸のとこ破れそう」
「当たり前ですよ! 喜多川さんのサイズに合わせて作ってあるんですからヌーブラを入れる余裕なんてないですよ」
入れることは知っていたが、人用の衣装を作るのが初めてなうえ時間もなかったからヌーブラ2枚を想定して作るのは無理があった。
「あと…ハァッ…ウィッグの中もムレムレだし…ハァッ…衣装の中…ハッ…熱くて…ハッ…鬼ヤバ…死ぬ…」
「すみません、俺のせいです。とにかく早く涼しい場所に行きましょう!」
……――
…――
俺と喜多川さんは冷房が効いた建物の階段に座っていた。
コスプレイベントのおかげか人どおりはまったくと言っていいほどなかった。
ぢゅーーーーっ
「ぷはっ、はぁ~~~…っおいしい、ごじょー君ありがとー」
保冷バッグに入れて来ていた冷えたポカリスエットを渡して、ストローで飲んでもらっていた。
「いえ…更衣室まではいけそうですか?」
「ごめん無理…動けない」
「衣装の熱さ対策もするべきでしたね…すみません」
ポカリスエット同様に
「前髪あげてもらってもいいですか?」
そう言うと喜多川さんがウィッグの前髪部分を手で挙げて抑え、おでこが露わになる。
そこに【熱さめシート】を張り付けた。
「めっっ…ちゃ気持ちい~~~っ」
衣装による熱さもあるだろうが、ウィッグで蒸れていたこともあってより気持ちよさそうにしていた。
「あと首と脇の下…太い血管の通っているところを冷やしてください」
「うんー…」
「タオルです。汗拭いてください」
家で冷やしたタオルを保冷剤とその他冷えた物、冷やすものと一緒に保冷バッグに入れていたため冷たさを維持しているタオルを喜多川さんに渡す。
「サンキュー…」
冷やタオルを受け取ると腕など拭きやすい所から汗を拭きとっていく。
「冷えてて気持ちい~~…よく準備してたね」
「……なんだか熱くなりそうな気がして、もしも程度だったんですけど役に立ってよかったです」
衣装は薄くできないからせめてこれくらいはしたかった。
「うわ~~もう汗マジですごい…体育でもこんなにかかなくない? やっぱ黒ってハンパないね!」
ネクタイを引っ張って外すと、その勢いで胸が弾んだ。
その情欲を誘ってくる柔らかさを表した胸がヌーブラによって圧迫されているせいか、谷間は埋まっており汗の泉ができていた。
あの谷間に今すぐ顔を埋めて溜まった汗をすすりたい。
「他に何かできることないか調べます」
先ほどの欲望を振り払うようにスマホで検索をかける。
「サンキュー、熱中症とかガチで怖いから気を付けないとねー。対策してたごじょー君マジ天才」
「たまたまですけどね…あっ、ありました」
「ナニナニ? なんて書いてあったの?」
原作でも開いたであろうサイトを喜多川さんに見せた。
「マジか」
すると俺に背負向けて、ウィッグの後ろ髪を少しずらした。
「じゃあファスナー下ろしてくんない?」
「わかりました」
ジィー…
「はっ…すっごぉ~~~。背中開いただけで全然涼しい~…ってか汗でパンツグショグショなんだけどー、替えの下着持ってくればよかったー」
背中がすこしはだけた程度と言えるが涼しそうだった。
グショグショ…パンツ…いや、やめておこう。
「ごじょー君背中拭いてくれない?」
少し俺の方へ振り向くと渡していたタオルを渡そうとしていた。
「まだ冷やタオルはあるので持ってて大丈夫ですよ」
「マジ? 助かる~」
冷やタオルを取り出して喜多川さんの背中に当てる。
「はっ…♡ヤバ…っ♡ごじょー君…っ、もっと下の方もやって~」
肩甲骨あたりの背中に当てていたタオルをファスナーが開いたところまで下げる。
「そうそう…っ! んっ…あっそこ! そこっ♡気持ちい~♡あっ♡すごっ…♡っっああ~~~~~♡♡そこもっと…♡ンっ♡あっ…♡ああ~♡」
※冷やタオルで背中を拭いているだけです。
「背中もあらかた拭いたので次はお腹側を拭きますね」
少し下げていたファスナーをさらに下げた。
「ごじょー君⁈ 露出はイベント的にNGだし…」
「でもお腹が冷えるのは良くないですし、喜多川さんは衣装の構造的にできませんよね? それに喜多川さんの体に合わせて作っているので、もう少し下げないと腕を通す余裕がないんです」
「そっか……じゃあおねがい」
冷やしすぎてはいけないため冷やタオルではなく別で持ってきていた普通のタオルを使う。
ファスナーを下ろしたところから腕を入れてお腹側に回す。
腕が入る範囲で下腹部から下乳付近にかけてタオルで汗を拭いていく。
「あれ? 冷たくないんだ?」
「お腹は冷やしすぎてもいけないので普通のタオルを使ってます」
「なるほどね」
ある程度拭き終わったため衣装から腕を出した。
「そうだ」
「ん?」
「スカートの中ムレムレだったわ。ごじょー君タオルちょーだい」
そう言うと喜多川さんはスカート部分を大きくめくった。
「喜多川さん、みえますよ?」
「全然ヨユー。短パン履いてるし」
「…そうですか……」
先ほどの露出NGの発言から予想はしていたが、残念ながら原作と同じように露出はダメらしい。
くっ…NGでなければ喜多川さんの汗でグショグショになったパンツを拝めたかもしれないのに…!
でも、それは他の男性にもみられる危険性があるわけだから露出制限があってよかったかもしれない。
「あっ…喜多川さん、それ書いたんですか?」
「これ? やっぱ雫たんやるなら、これ書かなきゃ~みたいな?」
「流石ですね」
……――
…――
汗を拭き終わると衣装の補強を行った。
もちろん携帯裁縫セットも自前だ。
「これで補強は大丈夫だと思います」
「サンキュー」
「ですがミシンとは強度が違うので…」
「うん、今日はもう帰ろっか」
「そうですね、体調も心配ですし」
「あっ…ごめんごじょー君、もっかいだけ広場行っていいかな? 一瞬だけだから」
「喜多川さんが大丈夫ならいいですよ。少しくらいなら衣装も大丈夫だと思います」
「ありがと!」
……――
…――
俺と喜多川さんはもう一度広場に戻ってきていた。
「ん~? あっいたっ、すぐ見つかってよかった~~っ。カメラのおねえさん!」
「あっ…」
最後尾にならんでいた女性のカメラマンさんを見つけると喜多川さんは駆けていった。
あの人は確か…
原作を見てかわいいなとは思ってたけど、後々登場してくるとは思わなかったな~。
まあその分嬉しくもあったが。
「雫ちゃんの…」
「さっきは途中ですみませんでした。暑くてクラクラしちゃって…」
「ええっ!? 大丈夫なんですか?」
「一応もう帰る感じなんですけど、ハンパになっちゃって申し訳なかったんで、おねえさんとだけ最後に」
「ええぇ~っ! なんかすみませんっ…じゃあ日陰で1枚だけ」
「はいっ」
喜多川さんは日陰に移動し、雫たんになりきる。
「目線お願いします」
そしてシャッターを押そうとした瞬間、涼しさを感じさせる強い風が通っていった。
風によってスカートは舞い上がり、スカートで隠されていた下半身がさらけ出された。
露出対策で短パンは履いているが、太腿に書いてあった数を表す正の文字が晒された。
こう見ると短パンでも結構えっちだな。
「ああっ…」
カシャッカシャッ
驚きで口があいている伊藤さんは顔を赤くしながらシャッターを切った。
やばい、その顔可愛い。
「ヤバッ!」
「あああぁぁぁああのっ大丈夫です! 今のは消しますのでっ! 」
「ですよねっ、あたし全然カメラ見てなかったから…」
「ええっ⁉」
「ワンチャン撮り直しありですか?」
(そっちなんだ…)
とか絶対おもってるよなぁ。
――――――――――――――――――――――――
伊藤さんとの撮影を終えて、コスイベの広場を後にした俺たちは帰宅のために池袋駅から電車に乗っていた。
「座れてラッキーっ♪」
「すいててよかったですね」
「ごじょー君、今日はお疲れ。ってかもう完全に夏だったよね~。対策持ってきてたごじょー君マジナイスすぎ~」
「はい、思い付きが役に立ってよかったです」
「帰ったらソッコーシャワー浴びるわ~~」
衣装の中に腕を入れた時に結構熱がこもっているのがわかった。
そして拭いたとはいえあれだけ汗をかいたのだからシャワーを浴びればとてもすっきりしそうだ。
「喜多川さん」
「ん?」
「ありがとうございました。色々ありましたが、いい経験になりました。俺、本当に楽しかったです…!」
「あたしも、ちょ~~楽しかったよ! ごじょー君ありがとっ!」
原作を知っていたから熱中症対策を持ってきてはいたが、そもそもコスイベに参加するならそういった気温等の対策グッズは持っていくべきだと思った。
衣装も次のコスイベ参加するものはそういった時期等にも配慮した作り方をしたい。
ただ、まだそこまでの技術がないためできるかはわからない。
「次のコス何しよっか?」
「…雫たんだけじゃないんですか?」
「そんなわけないじゃん、あたし一番好きなキャラ50人はいるから」
一番とは……。
ツッコミはしたが気持ちはよくわかる。
俺も二次のほうに箱推しとかいるし。
「どうしよっかな~~でも雫たんももっとやりたいし~。コスしたいの多すぎてマジ体いくつあっても足んね~みたいなっ!」
「…………」
「あっれ~? ごじょー君なんか嬉しそうだけど~~気のせーかなぁ?」
「…うん、これからまだ喜多川さんと衣装づくりできるって思うと嬉しいよ。だから、不束者ですが、これからもよろしくお願いします」
「…プッ…アハハハハ! うん、ヨロっ!」
「なら俺トルソー買います。ないとやりにくかったんで…」
「あっ、いーじゃんっ! 買おーよ! てかあたしが買うし! ネットで売ってるかな?」
「いえ、ここは俺が…」
「前も言ったけど、あたし手伝えること少ないんだし、こういう時はまかせてっ!」
「…分かりました。じゃあ、お願いします。」
「あっ、あった! これとかどうかな?…ん?」
俺は喜多川さんがネットでトルソーを探しているうちに瞼が重くなり、うつらうつらとしていた。
「眠かったら寝ていいよ、ごじょー君」
「あ…はい、すみません」
「ごじょー君のおかげでコスイベ超楽しかったなー。ってかみんなマジで楽しそうでヤバかったよね」
喜多川さんが俺に聞かせるように、けどどこか独り言のように今日楽しかったことを語っている。
「好きなことしてる人しかいないの最高すぎるし、あの空間にいるだけでめっちゃアガったもん。あたし基本趣味だったりーなんでもいいんだけど、好きなことして楽しんでる人めっちゃ好き。なんかキラキラしてるじゃん?」
俺は意識が深く落ち始めていて、喜多川さんの言っていることを一部聞きとれなかった。
「はあ~もっとイベント行きたいな~~っ。ってか他のレイヤーさんと全然写真撮れなかったからさー次絶対撮りまくろ~~」
だんだん視界もぼやけてきて喜多川さんの話も頭に入ってこなくなってきた。
「そういえば下の広場にいた【ナナカレ】のレオ様コスの人、めっちゃ美人だったよね! 加工無しであんなキレーってヤバくない?」
「…うん…」
「喜多川さん…とてもキレイだった……」
雫たんコスの喜多川さんが回らない頭に浮かびながら、朦朧とする意識の中、本音が口からでていた。
そしてそこで完全に瞼が落ち、眠りについた。
「あっ…」
『俺にとって“キレイ”は…特別なものに対する言葉になって…心から思った時でないと言えないと言いますか…』
「……えっ……えっ、えっ…ええぇ~~~~~~~…」
眠りについた俺はこの時、喜多川さんがどんな顔をしていたか見ることはできなかった。
天野 千歳(あまねさん)の性別をどうするか
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原作通り男
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女体化
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身体は女、精神は男