TSした転生女児、毒親のコネで違法なJr.アイドルになる・連載版 作:東口ゆゆ
違和感。
そう、最初に感じたのは違和感だった。
「今日もよろしくね、瑠璃ちゃん」
「よ、よろしくお願いします……」
母からのおつかいで、バックれた子の穴埋めのため、初めてアイドルのようなフリフリ衣装を着て撮影をしたのが二週間前。
即日口座に撮影料が入金され、それを確認した母はいつになく上機嫌だった。
産まれて初めて、母に連れられてちょっとお高い焼肉を食べに行くほどだ。
俺の意識は前世の成人男性としてものと、年相応の長谷川瑠璃としての意識が混在している。
そのせいで昔は色々あったのだが、今は落ち着いて日常生活を送れるくらいにはなっているのだ。
だが、成人男性としての自制心の反面、女児として撮影を無事終わらせ、母に褒められて純粋に喜ぶ気持ちも持ち合わせている。
だからこそ、この違和感に無意識に目を逸らし続けていたのかもしれない。
「……あの、今日の衣装って…………」
「ん、これかい? 今はこういうのが流行っててね。頼むよ。瑠璃ちゃんしかお願いできる子がいないんだ!」
更衣室に行く前、視察に来た金平社長が急遽コレも撮影に追加してくれないかと一着の衣装を俺に渡してきた。
それは、学校に通う子なら一度は袖を通したことがあるであろうもの。
スクール水着だった。
しかも、薄い。
学校指定の、ちゃんとした生地で縫製された泳ぎに使われる用途のものではなく、コスプレショップに売ってそうな、見かけだけ取り繕って本来のスペックを投げ捨てたような粗悪品。
「これ、着るんですか……」
「瑠璃ちゃんの写真はまだ掲載されてないけど、デモ品を見た上役の人達が気にいっちゃってね〜。ぜひお願いしたいってことなんだ……頼めるかな?」
「ぅ……」
金平社長が、その大きい手で俺の小さな肩を掴む。
威圧するような感じでもなく、顔は怖いが脅迫するようなものでもなく。
ただ、困ってるから助けてくれないかと。
あくまでも、こちらの意思に委ねるような持ち掛けに、社長の背景にある更に上の方からのお願いと聞いては断れるはずもなかった。
「着替えて、きます……」
「さすが瑠璃ちゃんだ! やっぱり、こういう素直な子が伸びるんだよなぁ!」
金平社長のご機嫌な笑い声を背にスクール水着を模した布切れをぎゅっと握り締め、いつもの更衣室へ。
「……これ、着なきゃダメかなぁ……」
今日はメイクさんが不在のため、自分で着替えないといけないらしい。
メイクは基本的に俺自身の素材を生かした超ナチュラルメイクだったので、メイクさん曰く「することがほぼない」とのことだったのでそれはいい。
だが。
「……どう見ても、“アレ”で使うようなやつだ……」
広げたスクール水着を改めて眺めると、やはり布が絶望的に薄い。
着心地を優先したものではないから生地も粗いし、なんなら防水加工すら施されてないあたり、下手をすればアダルトショップで投げ売りされてるのを買ってきたかのような出来栄えだった。
けれど、やらなければならない。
「着替えよ……」
渋々だが、意を決した俺は今日着てきた服を脱ぎ始める。
最近上機嫌な母が買ってくれた、白を基調とした水色のリボンが特徴的なセーラー服風のワンピースだったので、脱ぐのは簡単だった。
一枚脱げば、鏡に写されるのは女児らしからぬ、黒いローライズの紐で結ぶタイプのショーツ。
これも母が買ってくれたもので、お子さまらしい下着を着けようとすると「かわいくなーい」と言って捨てられるので、俺の家にある下着はこういうのしか置いてないのである。
「…………? なにか、視線が……?」
いそいそと着替えていると、ふと気付く。
視線のようか、粘つくような視線。
なんというか、値踏みされているような、品定めされているような。
今世に生まれ変わってから、ビジュアルの良さで人目を引きがちな俺は視線に敏感だったので気のせいではないはずだった。
けれど、辺りを見回しても誰もいない。当たり前だが。
「気のせい……?」
スクール水着もどきを着るのが嫌すぎて、ナーバスになってるのだろうと勝手に結論付けた。
あまりカメラマンや金平社長を待たせるのも悪いし、着替えるのに手間取ればその分撮影の時間が押す。
数回の撮影でおままごとのようなプロ意識が芽生えてきた俺は、手早くスクール水着を着用して撮影に挑むのだった。
⭐︎
「いいねいいねー! 今日の瑠璃ちゃん前回より格段にいいよー!」
「そ、そうですか……へへ……」
カシャッ、カシャッ。
スクール水着もどきを着用しての撮影、思いの外順調だった。
ごわごわした決してイイものではない生地感に最初は眉を顰めたものの、撮影に入ってしまえば撮られることに集中するのであまり気にならない。
擦れて少し痛いが、我慢できないほどではない。
「ビジュがいい! 表情も完璧! こんな逸材はなかなかいないね!」
見学している金平社長もいつもよりご満悦だった。
数台のストロボと、窓もない密室の空間。空調を入れているとはいえ、様々なポージングを撮りながらの撮影はなかなか暑い。
「よし、ちょっと休憩しようか。スタッフは瑠璃ちゃんに水渡して!」
撮影したデータの確認をするのだろう。
一際の休憩を指示され、スタッフに促されるがままにパイプ椅子に腰かけると、一人の男性スタッフがカップに注がれた水を手渡してきた。
「瑠璃ちゃん、お疲れ様です。これどうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
スタッフの顔と名前をまだ覚えきれていない俺は、コミュ障を発揮して俯きながら水を受け取る。
んきゅっ、んきゅっ、んきゅ。
片手で持つには今の俺には少し大きめのカップを傾けて水を飲んでいると、ふと気づく。
水を手渡してきたスタッフがそのまま横に待機しており、なんだかその視線がやたら俺へ向けられていることに。
「……?」
見た目がいいのを自覚しているが、それにしたってチラッチラッと横目で盗み見るような素振りで疑問を持ったが、ふとその視線が俺の顔ではなく、その下……胸の部分に注がれているのに気づいた。
「あっ」
小さく呻く。自分の胸を目だけで見下ろすと、擦れて起き上がった、ぷっくりとした胸の突起物が、スクール水着の布越しに張り付くようにその存在を主張していた。
「…………」
ど、どうしよう。
明らかにスタッフの視線は俺の布切れ一枚奥に隠れた乳首に注がれている。
だからといって、今更気づいた素振りをして胸元を隠すにはあまりにも恥ずかしかった。
女児らしく、ささやかに膨らむ胸とその乳首だが、それでも羞恥の感情くらいはある。
「んきゅ、んきゅっ」
気まずくて小さな口で水を飲み続けるフリをしていても、隣に立つスタッフの視姦が止まる気配はない。
粘つくような、性の対象として見られていることに悪寒を感じるもどうすることもできず、気づいていないフリをして事を済ませるしかないと考えた時だった。
「あっ!」
「ぇあっ」
気もそぞろに水を飲んでいたからだろうか。
カップから手から滑り落ち、あろうことかそれをぶち撒けてしまった。
ばしゃっ!
「ぁあ……あぅ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
首から下にかけて、正面からまぁまぁな量の水を被った俺に慌てるスタッフ。
「だ、大丈夫です……水着なので……、まだ……」
そうは言っても、本来の水着の機能がない故に普通の服と変わらずペタッと生地が張り付いて少し気持ち悪い。
「どうしたんだ? ……おおっ! 素晴らしいね瑠璃ちゃん、やっぱりキミは僕が見込んだモデルだ!」
「へっ?」
騒ぎを聞きつけた金平社長が、濡れネズミのように水を被った俺を見て感動の声をあげていた。
「そう、もう一歩欲しいと思っていたところだったんだ。せっかく上の連中が気に入ってくれたんだ、ここでもう一押しほしいとね!」
「あ、あの……言ってることがよく……」
わからない。と言い終えるより早く、金平社長が動いた。
「カメラマン! 撮影再開だ! この瑠璃ちゃんを見てくれたまえ! イイ素材になるだろう。衣装が乾く前に、今のありのままの瑠璃ちゃんをフィルムに納めるんだ!」
「なるほど、さすがは金平社長。慧眼をお持ちでいらっしゃる」
「えっ、えっ!?」
金平社長に優しく手を引っ張られると、スタッフから離れてさっきまで撮影していたストロボの中央に一人立たされた。
「じゃあ今の状況を活かして、もう少し大胆にいこうか! 瑠璃ちゃん、座って足開いてくれるかい?」
「え……は、はい……」
状況もよく飲み込めないまま、言われるがままその場に尻餅をついて足を開く。
カメラマンのレンズが、小気味よくシャッターを切り始めた。
「…………あ、あの……近く、ないですか……?」
「ん? これからアップ多めだからね。さっきまでは雰囲気重視だったけど、休憩明けてからは瑠璃ちゃんの素材を思いっきり出すための撮影する予定だったんだよ!」
そう言いながらシャッターを切るのをやめないカメラマンだったが、レンズが明らかに俺の顔ではなくその下に向いてるのが素人目にもわかった。
「っ……!」
勢いに負けてスタッフにチラ見されていたのを忘れていたのだ。
そのまま撮影を続けるということは、当然それもデータとして残すわけで。
だが、それだけではなかった。
金平社長が、今すぐに撮影再開した意味を自分の身体を見下ろしてようやく理解した。
安物の薄いスクール水着がカップの水で濡れた結果、ほとんど裸と変わらないくらいぺったりと、肌に張り付いているのだ。
当然、さっきよりも乳首は存在の主張をより大きくし、ぷっくりと浮かび上がっている。
「ぁ、……あの……」
たまらず、静止の声を出すも恥ずかしさが先行して大きな声が出ない。
パシャッ、パシャッ。
聞こえていないのか、俺の声を無視してそのまま撮影が続いていく。
「ぅ、うぅ……」
よくよく見れば、胸元だけではない。
おへそも、更にその下。
女の子の象徴とも呼べる未開拓の領域も、薄いスクール水着と水の効果によってピッタリ張り付いてその形を想像できるほど鮮明にしていた。
「いいねいいね。もうちょっと近寄りたいから、四つん這いになってお尻をこっちに向けてくれるかい?」
「えっ!?」
ただでさえ恥ずかしいのに、それ以上のポージングを望まれたことに対して戸惑いを見せてしまう。
それに、今は特に水に濡れて下半身がピッタリ張り付いていて、女児とは思えないほど扇情的な状態なのだ。
そんな状況でお尻をドアップで撮影された日には、全世界に自分の痴態をお届けすることになってしまう。
「それは、さすがにちょっと……」
「ん〜。困ったなぁ……次の撮影も控えてるから、なるべくスムーズに済ませたいんだけどな…… 」
やんわりと拒絶の意を示すと、カメラマンが顔を上げて困った顔をしていた。
「ひょっとして、恥ずかしい?」
「は、はい……」
ズバリ言い当てられたが、話の流れ的に察するものがあるのだろう。
もしくはこの手の状況に慣れているのか。
「ハハハ、大丈夫だよ。今撮ってるデータは写真集として売り出すものじゃなくて、お偉いさんに提出する宣材写真みたいなものだから」
「やっぱり、最近はどこまでできてどこからがNGをお偉いさんは知りたがってるし、瑠璃ちゃんみたいに恥ずかしいから嫌って子も多いんだよ」
「でもね? これはチャンスでもあるんだよ。他の子が嫌がってることを率先してこなすことができる子なんてレアだし、お偉いさんもそういう子をやっぱり“使いたい”と思うよね」
「あ、あぅあうぁ……」
捲し立てるように現状を説明してくれるカメラマン。
その熱意に下心などなく、ただただイイものを撮影したい情熱を駆られたような言葉に口を挟む余裕などなかった。
「だからさ、ホラ。難しく考えなくていいから、とりあえず撮影してみようか。実際に撮ってみてやっぱり嫌だったら僕たちも諦めるからさ」
「う、うぅ……はぃ……」
俺の悪い癖だった。
前世からロクな社会人経験もなく、意思も弱いから自分の感情を置き去りに捲し立てられるとそれが正しいのかと誤認してしまって、流されてしまう。
「じゃ、時間もないし早くポージングお願いしていいかな? 大丈夫、ちゃんとイイもの撮るよ!」
「は、はいぃ……」
言われるがままに、流されるがままに。
床に四つん這いになって、カメラのレンズに小ぶりなお尻を晒す。
未だ水が滴るスクール水着もどきと、白い小さな果実が、無音に近い室内の中でシャッター音を響かせる度になんだか取り返しのつかないことをしているような気持ちになっていた。
「いいね。もっと挑発するようにできるかな? お尻振ってみたりさ」
「は、はず……恥ずかしい、です……」
産まれてから十年、こんなポーズをとったことなんてあるわけないし、しかも多数の大人がいる状況で挑発するようになんてもっとない。
顔から火が出そうなほど恥ずかしいとはこのことだった。
「っ……うぅ……」
しかも、感覚でわかる。
水に濡れたスクール水着もどきがお尻に食い込んで、クロッチの位置が少しズレている。
けれど、自分で見れるワケもなくただただ女の子として一番大事なところが見えないようになってるのを祈るしかない。
「…………凄いね。逸材だ」
お尻を突き出す。ただそれだけの行為のはずなのに、いつしかカメラマンも声を発することなく無言でシャッターを切っていた。
一部始終を見ていた金平社長が、ポツリと呟く。
どうしようもなく、粘ついた視線が、ここにいる大人全員から注がれてる違和感を拭うことができなかった。