確かにそこにある光 作:クルピウス
ライラット系にある自然豊かな環境を誇る惑星カタリナ。海洋もあり気候も穏やかで、惑星コーネリアに次いで、人類が入植できる可能性がある惑星であり、その先行段階としてコーネリア軍の軍事基地がある。今現在そこはDr.アンドルフ率いるアンドルフ軍との交戦における前線基地として使われ、ドーベル隊やバーナード隊などといった主要戦力が利用する。補給物資の確保、戦闘機などの整備、搭乗者である軍人たちの救護など、多くの役割を担っている。
今まさに飛び立っていく戦闘機を何度見送ったことだろうか。もちろん、還らなかった者も知っている。こんなこと早く終われば良いのにと常に思っていても、どちらかを負かすまでは終わらないし、きっと終われないのだろう。
人が死ぬのが怖いと思ったのはいつからだろうか。いや、それはたぶん正しい表現ではなくて。人を救えないことがどうしようもなく怖くなったのは、いつからだろう。
帰って来れたものの、負った傷に苦しんで逝った戦友を目の前で看取った時からだろうか。戦いに出ることが出来ないから、ここで見送ることしか出来ないし、ここで待つことしか出来ない。それなのに帰ってきたものを救えないのなら、自分の存在価値とは一体何なんだろうか。
「ゾロ」
少なくともアカデミーにいた頃は、こんなことを思いもしなかった。誰かの役に立ちたくて、医学に薬学にと無心で没頭できた。操縦は出来なくもない程度には下手だったし、銃器の扱いは出来ても格闘は弱くて。航空隊員にはどうやったってなれないとわかりきっていたから。
それが、どうだ。自分は人の役に立っているのかと自問する日々。戦えなくなった誰かの怪我を治し、傷を癒し、再び戦えるようにして、また苦しい戦場へと返す。だからこそ戦争に負けていないと言われればそうなのだが、果たしてそれはーーー
「ゾロ!」
「わぁっ!?」
急に目の前で大声を出されて、文字通り飛び上がる。バクバクとうるさい心臓の鼓動が鼓膜を震わせ、何事かと現実を直視した。
「もう、また何か考え事してたでしょ。」
「なんだ、ビルか……驚かせないでよ、ホントにびっくりしたんだから。」
「俺はただ声をかけただけだよ。暗い顔してさ。」
声の主はビル・グレイ。アカデミーの同期であり、現在はドーベル隊とバーナード隊の二部隊を指揮する優秀な指揮官だ。彼自身も航空戦闘機コーネリアファイターで戦場へ赴き、戦いながら指揮をするなんて無茶を始め、優しく人懐っこい性格で部下からの人望も篤い。こうして、何かありそうなところにもすぐ気付くほど周りに気を配っていて、それもまた彼の評価を上げているのだと思う。
「そんな、酷い顔してた?」
「してた。この世の終わりみたいな顔。」
「いくらなんでも、それは言いすぎじゃない?」
「そんなことない、本当にそういう顔してたんだから。」
そう言って、ビルは片手を僕の肩に乗せた。それから心配していると滲んでいる顔で微笑んでくる。
「大丈夫、俺たちはゾロのお陰で助かってるよ。」
ーーーだから、そうやって刃物を突き付けないでよ。
「……ありがとう。ごめん。」
「何に謝ってるんだよ。俺たちが安心して飛び回れるのも、ゾロたちがいてくれるお陰なんだ。それは間違ってないし、過大評価でもないよ。」
こんなに明るくていい人なのに、それを治して戦場へと送り出すことしか出来ない。死地が常にビルを飲み込もうと口を開けているのだとしたら。ああ、違う。そういう話じゃないのに。怪我をしても、戻ってくれば治してくれる人がいる。その安心感たるや、という話なのに。僕は、殺すために、治しているわけじゃないのに。
「ゾロは疲れてるんだよ。」
「え?」
「ほら、少し前にセクターYから帰還した部隊で医務室は大忙しだっただろ? 君も徹夜で働いたりして、寝れたとしても仮眠程度のものが数回。纏まって寝る時間もとれてなかっただろうし。」
「なんでビルがそんなことーーー」
「ちゃんと聞いてるよ、いろんな所で君が頑張ってること。粗方のことは片付いたってのもね。」
そう言ってビルは僕の肩に乗せた手に力を込め、くるりと僕の身体を反転させる。そのまま両肩を押さえられ、ビルに押されるがまま前進することに。
「ちょっと、ビル、僕はこれから療養室にーーー」
「医療班長が嘆いてたよ。ゾロは働き者で技術もあるのに、医者の不養生を体現しすぎだって。彼からの申し付けで、君をこれから部屋に閉じ込めて寝かせます。今日は丸々休みなさい、だってさ。」
「それは」
「彼からの命令だよ。」
「ーーーわかったよ。もう、自分で歩くから。」
連れられたのは休憩室。簡易ベッドが四台と四人がけのテーブルがあるだけの部屋だ。ドンと背中を押されて部屋に押し込められた後、ビルも入ってきてガチャリと施錠する。
「ゾロにはここでゆっくり寝てもらいます。」
「え」
「俺もここで寝ます。」
「ビルはさすがに、自分の部屋の方が……」
「それがわかってるなら、俺がここで寝る理由もわかるよね?」
「……はい。」
つまりは、起きてこないようにするための監視役だ。目覚ましを鳴らせるようなものは全て外され、簡易ベッドの上へ雑に倒される。
「お休み、ゾロ。」
「うん。おやすみ、ビル。」
疲労していた身体はすぐに眠りに落ちたようで、電気を消してから数刻しか経っていないにも関わらず、寝息が聞こえてくる。やつれた狐の顔は今にも死にそうな形相だったし、軍に入ってからというものの、ゾロのネガティブがだんだん深く堕ちていく。
少なくともアカデミーにいたころは将来への不安が多かったはずだ。テストの成績は良いし、実技に関しては苦手だったようだが平均点には到達している。ゾロの周りにいたのが、操縦の点が高い俺やフォックスだったから、劣等感を刺激してしまったのかもしれないが、間違いなく下手ではなかった。もちろん、それを下手だと思うことはあったみたいだが、それでも学業に関しては前向きな顔をしていたと思う。
フォックスが独立し、俺とゾロは二人で軍に入隊して、俺は航空部隊に、ゾロは医療班にそれぞれ配属された。ゾロは手先が器用だったし、軍医達もそれを褒めてはいろいろな技術を教え込んだ。勤勉な性格だから、ゾロもそれをしっかり飲み込んでいて、今の医療班はより多くの命を助けていることが数字に現れている。
ただ、いつだったか。ゾロが顔面蒼白になって医務室から出てきて、どうしたのかと思って声をかけたら、びくりと全身を震わせて走り去ったことがあった。何かがあったに違いないと医務室を覗いてみたが、中の様子は普段と変わらず忙しないだけの日常だったように思う。
その後のゾロは今みたいに、自分を追い詰めるように働くことが多くなった。もちろん、大きな船団が帰ってくれば、その人数分のバイタルチェックなどの仕事が入るから、忙しくなるのはわかるのだが、それ以外でも時間を切り詰めて働いている。こうして誰かが働きかけないと、毎日何かしらの業務や勉学に勤しむのだ。
ああ、このままでは危ないとわかっているのに、俺はこんなことしか出来ないなんて。