確かにそこにある光 作:クルピウス
毒素に包まれた惑星ベノム。防衛衛星ボルスを、スターウルフを退けた上で陥落させ、ようやく辿り着いたアンドルフ軍の潜伏場所。
ただ、ボルスを突破したことでこちらの動きも察知されており、夥しい数の兵器によって消耗を余儀なくされたのはかなりの痛手だった。
幸いにも、ファルコ、スリッピー、ペッピーの三名は健在。体力的、精神的な消耗はもちろん、スリッピーは航空戦闘機アーウィンの片翼を折られ、ペッピーはレーザー砲を一門破壊されていた。ファルコ機がほぼ無傷なのはさすがの操縦技術と言えるだろう。
そして、俺の機体も万全だ。謎の遺跡で意味のわからない機械をぶち壊して、そいつの爆発の余波で少しだけ煽られたが、損傷はひとつもない。
遺跡のような場所を突破した場所は随分と開けた土地だった。何もないだだっ広い場所の中心とも言える場所に基地の一角がむき出しになっている。通路なのか排気口なのか、はたまた別の用途なのか。それでもアーウィンが入れる程度の広さは余裕でありそうだ。
「この場は頼んだ!俺が、全部終わらせてくる!」
この長い戦いも、ようやくここで終わらせることができる。目標達成の前に、なんだか気分が高揚しているように感じた。
「冗談じゃねぇ!」
ファルコの短い文句も。
「お前一人で背負うものじゃない!」
ペッピーの小言も。
「待って!オイラにも手伝わせてよ!」
スリッピーの献身も。
嬉しい声掛けではあったが、そうじゃないんだ。これは俺の仕事。俺の業。何度も何度もお前らを救えなかった俺が、やっとの思いで辿り着いた結末なんだ。ここまできて、お前らを失うような真似はしたくないんだ。
アンドルフ軍の開けた口の中に、アーウィンを宙返りさせて突っ込む。やいのやいの聞こえていた仲間の声が、通信を遮られて聞こえなくなった。
「待っていたぞ、スターフォックス」
通路は一本道で、ちょっとした邪魔が設置してある。アーウィンのチャージショットは性能が良くて、敵機を認識して自動追尾してくれるんだ。こんなの、これまでに潜り抜けた戦場に比べたら朝飯前だな。
「宇宙を支配するのはこの私。一人で私に逆らおうとするとは、なんとも愚かだ。父親と同じ末路を辿りたいのか?」
そこに響くアンドルフの声。しかし、それ以上に障害と呼べるようなものはなく、なんとも拍子抜けな基地の奥、これまた広い空間に辿り着いた。ドーム上の謎の空間に、電源が走り辺りが照らされる。
点火の音と共に、エンジンの加速する音が聞こえる。そこにいたのは、顔だけになり、頬の後ろからジェット噴射で飛び上がる、巨大なアンドルフの顔だった。同じく巨大な両手もジェット機構により浮かび上がる。
「おいおい、なんだよそれ……」
稀代の天才科学者Dr.アンドルフの末路とでも言うべきだろうか。その姿についつい言葉が漏れる。この毒素まみれの惑星を、自らを機械化することで無効化したのか?それとも、自らを機械化したから、この惑星を毒まみれに変えたのか?
顔をぶんぶん振って、余計な思考を取り払う。そうだ、これが最終決戦。油断していられない。
アーウィンの飛行性能をこれでもかと言うほど酷使して、その拳を避け、レーザー砲を浴びせる。さすがは天才科学者、アーウィンのレーザーをことごとく無効化され、ダメージが入る様子はない。
「そこか!」
その巨大な手のひらの中心部に露出した機械。予想は当たり、そこにだけレーザーの拡散機構が備わっていないようだ。
右からの大振り、左からの平手打ち、顔面がアーウィンを飲み込もうと口を開いて強く吸引する。それらを順調に、時には間一髪で避けながら、着実に攻撃を続ける。
やがて音を立てて、左手が爆発しながら落ちていく。続いて右手。痛みに呻くようにするアンドルフに、何故だか勝ちを確信した。
「どうした、アンドルフ!図体がでかくても、攻撃できなきゃ意味ないよな!」
煽りながらレーザー砲を打ち込むが、お互いにダメージを与えられない泥試合となっていた。あちらは吸い込みながら、岩などを吸い寄せる。当然こちらは避けながら攻撃するが、その皮膚の前にレーザーは拡散してダメージは与えられない。
「なら、こいつはどうだ!」
残り少ない爆薬を、アンドルフのでかい口に打ち出した。狙いどおり、アンドルフはそれを吸い込み、その口内で爆発が発生する。それでも仕留めるまではいかないようだ。
「もう一発、食らえ!」
再び、その口内で爆発が起きる。口が、頬が、その皮膚が焼き払われていき、機械でできた剥き出しの頭蓋と、光る目玉のようなライトだけが残る。ああそうか、ここまでくればもうわかる。
「弱点は、その目だろ!」
アーウィンへと急速に迫り、噛みつくように口を動かすアンドルフの横をすり抜け、Uターンして狙いを定める。唯一、その頭蓋の内部へと繋がる場所へ。
「これで終わりだ!アンドルフ!」
最後の爆弾が、アンドルフの眼球部分へと撃ち出される。これまでに磨いた操縦技術、そして射撃技術が、寸分違わずその眼光に爆弾を突き刺した。
顔面の装甲が爆発しながら、アンドルフは地へ落ちていく。バリバリと回路をショートさせながら、アンドルフは大爆発する。その爆風に煽られながら、アーウィンは速度を上げ、一直線の通路を駆け抜ける。
上空へと進む道中、目を凝らして良く見れば、その先にはひゅんひゅんと飛び回る敵機の群れ。しかし、それを迎撃する音はなく、通信の回復していないアーウィンから声をかける。
「ペッピー、スリッピー、ファルコ!応答してくれ!みんな!」
信じられないといった顔でアクセルをさらに強く、アーウィンは加速した。爆風の援護に乗った最高速で突っ切る。地上へ、空中へと躍り出た今、通信ができないはずがない。
「ペッピー!スリッピー!ファルコ!」
呼び掛けても応答はない。群がる敵機をレーザーで撃ち落としながら、周囲をぐるぐると回遊するように飛び回り、通信を試みる。
「応答してくれ!みんな!」
必死の呼びかけもむなしく、返事は得られない。ピピピと通信網の連絡音が入り、急いで受信する。
「グレートフォックスより、緊急通信。応答せよ。繰り返す、応答せよ。」
それは母艦グレートフォックスにいるロボット、ナウスからの通信だ。周囲の状況が一切わからない今、それらを常に受信できるナウスこそ、現状を一番把握できている。一縷の希望とも呼べる存在だった。
「ナウス!ナウス、みんなはどうなってる?」
「フォックスさん。ペッピー機、スリッピー機、ファルコ機はーーー」
「三機とも撃墜。至急戦線を離脱し、グレートフォックスに帰還してください。」
その返答に、目の前が真っ暗になった。
「クソッ、クソッ!!!やっと……やっと倒せたのに!」
フォックスの様子がおかしい。目を覚ましては、壁やらベッドやらを素手で叩きつけ、怨みがましく……いや、悔しそうに……怒って……そんな形容し難い様相で、叫んでいる。何しろ難しいのはそれが余りにも突発的だと言うことだ。日頃から鬱憤がたまっているようだとか、何かしら兆候があったのなら、こちらとしてもそうなった原因がわかりやすいし、改善に繋げていけるだろう。資金難とはいえ、依頼も全く途切れているわけではない。
「どうしたんだ、フォックス。そこまで荒れるとはお前さんらしくもない。」
「ああ、ペッピー。ちょっと、その……夢見が悪かっただけさ。そんなに煩かったか、ごめん。気を付けるよ。」
「そうか?今はファルコもスリッピーも自室にいるから良かったが……何かあったら相談するんだぞ?」
「わかってるよ、ペッピー。心配してくれてありがとな。でも本当に夢見が悪かっただけなんだ。もう少し、だったのに。」
フォックスは儂に向かって、時折なんとも言えない顔をした。だが、いつもと変わらん様子を装う姿に、儂も何も言えなかった。