シャーレに遊びに行く、という言い方をすると、空崎ヒナは途端に二の足を踏んでしまう。お互い忙しい身であるのに、自分のせいでシャーレの先生の邪魔をするなんて何事か、と考えてしまうのである。
そんな彼女の考えを変えるのはやはり先生しかいない。
――遊びに来る、というのが気になるなら、ちょっと手伝いに行こう、みたいに思ってきてもらえると嬉しいかな。もちろん、疲れたところを無理に来てもらう必要はないけれど。
先生らしい、とヒナはその言葉を思い出すたびに、ちょっと体から余計な力が抜ける感じがする。そして、自分の体がほどほどに「疲れている」ということを実感させてきた時、それを目安にシャーレに行くようになっていた。そうすると少しだけ、調子がいい感じがして――ヒナを知る人間が見れば、彼女の足取りはどこか弾んでいるように見えただろう。
「これは、なに?」
そこに、自分の右腕である天雨アコがいたことには、別に驚かない。シャーレは当番制を採用していて、先生なりにコミュニケーションが必要だと思った生徒をピックアップしているらしいことは、容易に想像できた。
しかし、こればかりは予想外である。
自分の右腕である天雨アコが二人いた。二人とも、あの独特の脇がよく見えるだけでなく、横乳まで丸見えになっているアコらしい服を身にまとっていた。胸元にはカウベルが今日もピカピカと光っている。
一人目のアコは、リードをもって立っていた。だいぶ余裕のあるそれを手繰り寄せているのは、ほぼ真横に首輪をつけた相手が四つん這いになっているからだろう。
一人がリードを持っているなら、もう一人はもちろん四つん這いになっている。少し気になるのは、スカートの布地が膝に引っかかっていると、当然パンツが丸見えなのだが、そのパンツは気のせいか、内側から大きく盛り上がっているように見えたのである。
「ひ、ヒナっ!?」
「あ、ヒナ委員長!」
四つん這いになっていたアコは驚いたように声を上ずらせ、リードを持っているアコはなぜか誇らしげに腰に手を当てている。
「見てください!この男の情けない姿を!日頃生徒が何だとか言いながら、ちょっと四つん這いにさせてリードをつけて引きずり回してやったら、この通り私と瓜二つの姿で、パンツの下でテントを立ててるんです!」
「えっと……どういうこと?」
怒涛のように浴びせられる情報に、ヒナは少し瞬きをした。
「まず、その、四つん這いになっている方のアコは、先生なの?」
「はい!なぜかはわかりませんが、起きたらこうなっていたとかで!」
「で、あなたは先生を四つん這いにさせて、首輪をつけて、引きずり回していると」
「ええ!たまには犬のように扱われる気分を味合わせてやりたいと常々思っていましたから!」
「常々なのかたまになのかよくわからないけど……わかった」
ヒナは、ゆっくりと頷く。
「それで、テントを張ってる、というのは?」
「御覧の通りです!」
アコはリードを離すと、四つん這いになっているもう一人のアコの方に、後ろから駆け寄った。頼りない丈のスカートをめくりあげる。白い太腿と、むっちりとした尻が露わになる。そのまま、ずるっと勢いよく、ショーツを引きずり下ろした。
「なっ――」
さすがのヒナも、絶句して無意識に後ずさった。
ショーツは今、彼女の太腿に食い込んでいる。枷のように引っかかったそれが、倒錯的なエロスを醸し出していることに、アコ本人は気づいていない。
しかし、もっと直接的なセックスアピールが――というかセックスシンボルがそこにあった。馬のように大きく屹立したペニスが、重力に抗うように反り返り、己のへそ辺り目掛けて亀頭を向けていた。華奢な少女に過ぎない天雨アコの股間にそびえる男性器。その歪な組み合わせに、そして何より、勃起した男性器を見せつけられて、ヒナは怯んだ。
「本当に犬みたいです!ええ、発情したイヌです!女と見たら誰だって息を切らせて押し倒して、ハメ始めるんじゃないかって思うくらいブザマでみっともない――これが、あの先生です!」
「ううう……」
教え子に、勃起した自分の姿を見られて、先生は――というより、ペニスをぶら下げた、天雨アコにしか見えない少女は――項垂れる。
「ヒナ委員長。さあじっくり見てあげてください!これが本当に、尊敬に値する大人であるのかどうか!この男、こうやって言葉で責めると喜ぶんです!」
「ひ、ヒナ、見ないでぇっ……」
誇らしげなアコの顔。尻尾があればぶんぶんと振っているであろう、ご主人様に褒められたくて仕方がないと言わんばかりに輝いた顔。もう片方のアコは消沈していて、内股になって太腿と太腿の肉を擦り合わせているのに、ペニスはそのものが意志を持っているかのように、ビクビクと先端が震えている。
先生と呼ばれてあれだけ反応していた上に、所々の所作が先生を想起させる辺り、アコの言葉に嘘はないのだと思う。
それは、別にいい。問題は――
問題は、なんだろう。
意図せず先生のペニスを見てしまったことだろうか。勃起した男性器を見せつけられたことだろうか。
色々と、言いたいことはあるはずだった。
「アコ?」
「はい、委員長」
元気な声が返ってきた。ヒナはとりあえず、自分の額を軽く叩いた。
「あなた、先生に、その――辱めをまだ味合わせるつもり?」
「そうです!日頃の仕返しもかねて、パーッとやるつもりです!」
「そう。あなたにとって、先生は先生なのね?」
「どういうことでしょうか、委員長?」
少し、深呼吸。それから、ゆっくりと、口にする。
「……二人の姿はね、先生とアコ、二人を知っているつもりの私からしても……その、アコが、おちんちん、が生えたアコを引きずり回して、自慢しているようにしか見えないの」
アコが目をぱちくりさせた。四つん這いになっているもう一人のアコと顔を見合わせる。ペニスはまだ漲ったままだった。
「……あっ」
瞬間、ヒナの言葉を理解したアコの顔が真っ赤に染まる。
「なっ、なっ、なっ……!早く隠してください先生っ!」
「ちょ、うわっ!?」
慌てて先生に駆け寄ろうとして、四つん這いになっていたもう一人のアコこと先生に蹴躓き、二人が折り重なって倒れる。すぐに跳ね起きたアコは、
「その汚らしいものを立てるなぁ!」
と、言うなりペニスを根元からガッ、と蹴り上げた。仰向けにひっくり返っていた、ペニスを生やしたアコが激痛に白目を剥く。
その瞬間、びゅっ、と。蹴り飛ばされたペニスの先端から、弾丸のような白いものが噴き出して、蹴り飛ばしたアコに仕返しとばかりに降りかかった。胸に、スカートに、それから、顔に。
「こ、の、男はっ!」
アコの怒声が響いた。ヒナはぱちぱちと瞬きした。それから、顔を覆って蹲る。当分の間、アコの股間に生えた逸物が 、頭から消えることなさそうだった。