※この作品はR-18です。

セクサロイドが安心する方法   作:carbon13

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初期接続②

 

 白い。

 

 目の前に何もなかった。

 

 かろうじて自分があるという感覚があった。

 

 手も足も頭も身体も、呼吸もない。

 

 ただ、意識は確かにある。

 

 それが揺らがないという確信さえ持てる。

 まるで、唯我論者のように。

 

 音の感覚も消えていったがその中でかえって明瞭になっている声があった。柔らかい女性のアナウンスである。

 

『同期率 15%』

『同期率 20%』

『同期率 25%』

 

 5%ごとにアナウンスしているので、割とうるさかった。

 

『同期率 30%』

 

 何か流れ込んでくる。

 

 知らない感覚。

 

 音でも視覚でもない。

 

 感覚があるという感覚である。

 

 このような感覚を味わったことはなかった。当たり前すぎて忘れていたのだろう。

 

 小さい頃、初めて感じたときはびっくりしたはずだ。この情報量は、擦れた大人の頭には厳しかった。

 

『50%』

 

 気がつけば、半分まで同期が済んでいた。

 

 そのとき、柔らかい布が肌に触れ合う感覚を得た。

 

 長い髪が頭に触れている。

 

 胸の前に何かがある。

 

 腰が軽く身体の重心が違う。

 

 身体が小さく頼りない。

 

 まだ自分の身体とは到底思えないが、感覚が始まっていた。

 

『70%』

 

 甘い。

 

 香りとも違う。

 

 全身で味わう甘さ、としか言いようがなかった。

 

 花のような、石鹸のような、嫌味のない優れた匂い。

 

 それが自分の感覚に入り込んでくる。

 

 それによって、肌の温度、心拍、呼吸が目覚め明るくなる。

 

 感覚が押し寄せてきた。

 

 手。腕。顔。足、胸。

 

 全ての神経が一斉に目覚めた。活動を始め、それぞれが「ここにいる」と主張するようだった。

 

『90%』

 

 とく。

 

 明瞭に心臓が鳴った。

 

 力を込めるとぴくぴくと指が動いた。

 

 重い瞼を開くととてつもなく眩しかった。

 

 最初に見えたのはブースの壁。

 

 次に、自分の艶やかな髪の毛が見えた。

 

 視線を少し動かすと女性が笑ってこちらを見ていた。

 

 思わず、反射的に笑い返した。

 

 その瞬間、胸の奥が少し落ち着いた。

 

『100% 同期完了。自己認識フェーズに移行します』

 

 細かい指先が自由に動く。白く小さく整いすぎた手。手を握ったり開いたりする。何の遅れもなく、元からそれが自分の身体だったようだ。

 

 女性が何か言っている。音は聞こえていたが上手くそれを認識できない。

 

 口パクしていることで、かろうじてしゃべっていることがわかった。

 

「……ござ……す……。ちょ……ですか?」

 

 わたしはそれをぼーっと見ていた。彼女が繰り返し同じ言葉を話してくれるので、だんだんと意味がわかってきた。

 

「おはようござい……。調子……ですか?」

 

 彼女は、挨拶をしてくれている。

 

「おはようございます……。調子はいかがですか?」

 

 間断に、呼びかけの名前があった。

 

「おはようございます、アリス。調子はいかがですか?」

 

「……アリス?」

 

「アリス。あなたはアリスです」

 

「わたしが……?」

 

「そうです。調子はいかがですか?」

 

 身体が動いた。

 

 女性が手を差し出したのに合わせて、自分も腕を前に出す。彼女の手のひらをがっちりと掴み、その勢いで起き上がった。

 

『自己認識フェーズ完了しました。当機の呼称はアリス』

 

「えっ……?」

 

 自分から出た声は、可愛らしい少女のものだった。

 

「自己認識まで完了したようですね。こちらをご覧ください」

 

 彼女は、反対側の壁を示した。そこには大きな鏡があって、他ならぬ自分の姿が写っていた。

 

 一糸纏わぬ姿の少女。幼さの残るややあどけない顔立ちの女の子が今は自分の身体だった。

 

 何も着てないのにシルクのように豪華な煌めきのある肌。亜麻色の髪の毛は人のそれより美しく靡いていた。

 胸は膨らみかけのよう。乳首が上向きにつんととんがっている。

 下腹部には元の身体にはなかった性器がついていた。

 

「あなたが寝ている間、いくつか検査をさせてもらいました。接続状態は極めて良好。適性が非常に高いです。……正直、すぐにでも現場に入って欲しいくらい」

 

「なんか身体が軽くなったみたい」

 

「人の身体と違って余計なものが入ってないからね。機能に即した効率的な身体なの」

 

 余計なもの。身体の目的は生きることであって、それに照らし合わせれば余計なものなどないはずだ。しかし、ここであえてそれを説明するのは、そうではない目的の身体があること、すなわちまさにこのいまのわたしの身体が、ある目的を達成するために存在していることを暗示しているのだ。

 

 それは、男性を楽しませ、セックスすることだ。

 

 そのことが少し脳裏によぎる。身体の下腹部が少し熱くなったような気がする。

 

 女性は、わたしの身体を眺め手元の用紙に色々と書き込んでいく。指示に従って、口を大きく開けたり、腕を動かしたりした。

 

「両手を上げて」

 

 両手を上げると、胸が丸見えになる。恥ずかしかった。

 

「自分の思う笑顔をやってみてください」

 

 女性がそう言うと、わたしは少し困ってほほえんだ。それに納得したのか、よかったのか、わからないがとにかく何か用紙に書き込んでいった。

 

「悲しい顔」

 

「怒った顔」

 

「欲しそうな顔」

 

 指示にはいまいちわからないものもあったがわたしは淡々と従った。

 

「うむうむ。良好ですね」

 

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