そのあと、自宅に面接の結果が届いた。合格だったそうだ。
届いた用紙の中には、私の義体接続の適合度が書いてあった。総合的な評価がA+だった。
「精神状態」「肉体適合」の2つの分野にわたって、顕著な好適合性が見られ〜と、専門的な説明が書いてあった。要するに、気持ちのあり方が身体に縛られていないもので、この仕事にとても向いているとのことだ。褒められているのかいまいちわからなかった。
翌日、またその場所に向かった。同じ女性が出迎え同じ部屋に通された。
「いやー。逸材ですね。我々としては是非とも入っていただきたいですが、その意思はお変わりありませんか?」
「はい。仕事がないので」
「承知しました。では早速再接続しましょうか。シフト時間中は原則として接続状態で過ごしてもらうことになります」
「その……人間と対話してAIの維持に役立たせる、とのことなのですが……実際、どのくらい同じ生活を行うのでしょう……? 具体的な業務、つまり……」
「性交渉のことですか?」
「ええ、まあ、はい……」
「そうですねえ。基本的には、彼女たちに対する対話が仕事。気になるならやらなくてもいいのですが……」
「と、言うと……?」
「義体没入中だと、仕事を普通にこなしてる状態が普通なんです。そちらの方が無理なく自然にいる状態です。過ごしやすいと思います」
「なるほど……」
もう一度、ブースに入る。辺りが暗くなり青くぼんやりと光る。
前回よりストレスを感じなかった。体感時間もより一層短く接続が終わった。次に目を開けると、身体が作り変わっていた。
ところが目を覚ますと女性はいなかった。裸のままうろついて少し辺りを探してみたのだが、どこにもいなかった。流石にこのまま廊下に出るのは気恥ずかしかったので、外は確認していない。
それにしても、すごい身体のつくりだ。スリムで華奢な上体に対して、かっちりとした男受けしそうな腰つき。普通、どちらかがある人にはどちらかがない。人の身体というのはえてしてそういうものだが、セクサロイドのわたしには両方があるのだ。
鏡を見ると、うっとりとした表情で裸の自分のことを眺めている女の子が写っている。そのことに倒錯的な喜びを感じる。
そうしていたら、後ろから物音が聞こえて身体が一瞬跳ね上がった。
「わあ、かわいい。新人の娘だよね」
「えっ」
「大野さんから聞いたよ。大野さんちょっと急用で行かないといけないところができちゃって、あと新人の娘を頼むって」
「あなたは……」
「わたしはユイ。アリスの先輩だよ?」
ユイと名乗ったセクサロイドの女性は、明るい色の髪と背の高いすらっとした人でとても美しい。ただそれだけでなく、なんとなく男としての庇護欲を煽るような愛らしい一面もあった。
「今日からよろしくね!」
ユイはわたしの腕を掴み身体の細部を検分し始めた。みぞおちを指でなぞり、胸を後ろから掴む。
「ひゃ」
「ふーん。第五世代の最新型なんだぁ。感度がいいのね。それとも中身がいいのかしら」
「ちょっと……やめてくださいっ」
「こんなの、わたしたちの間じゃじゃれあいですらないのに」
ユイはけらけら笑って手を離した。
「触られるのって苦手?」
「苦手というか……急だったので」
「あっ、卑しいセクサロイドのセクハラだと思ってるんでしょ」
「違うんですか……?」
「失礼な娘!」
楽しそうに手をばたばたさせながら言った。
「うーん、ほら。これは本能だよ。本能って言ってもえっちなやつじゃないよ。安心行動って言うの」
耳慣れない専門用語だった。
「わからない? わたしたちは抱きしめたり……いいや、それだけじゃなく軽く身体の一部にちょっと手が触れ合ったりするだけで、安心できるの。それを安心行動とか、セーフティって呼んでるだけ。嫌なら無理にしないでいいけど……基本的には、身のため。自分たちのためのものだから」
「そんなものですか」
「そんなものだよ」
ユイはあっさりと言った。
「ほら、服」
ユイは手に持っていた衣服を手渡ししてきた。透明なビニール袋の中に折り畳まれて入っている。
「アリス用?」
うながされて、点線に沿って袋を破くと白ベースのワンピースが出てきた。柔らかな生地で、触れるとひんやりとしていた。
「アリスの制服だからね」
制服。
自分の服でも自分の名前でもない。ところが、アリスの制服と言われただけで、袖に腕を通したくなっていた。
「似合う似合う」
ユイは満足そうにうなづいた。
改めて、鏡を見る。
そこには、数分前まで裸で戸惑っていた少女ではなく、業務用の笑顔を身につけた店員らしい女の子が立っていた。
私という人が、衣服を隔てて奥に押し込まれたようだった。
「じゃあお店の中を案内するよ」
更衣室を出ると、廊下は思っていたより曲線的だった。壁が垂直で隔てられておらず、角は柔らかい何かで埋められていた。病院のようでも、スーパーのバックヤードのようでもあった。
奥に、休憩スペースらしきものがあって、そこにセクサロイドたちが集まって休んでいた。
集まって何かしていたわけでもないようだったが、身体の下で手を絡み合わせていたり、互いの背中をもたれ合わせていたり、どこか触れ合っていた。安心行動だろう。
「おはよう、ユイ。新人?」
「かわいい!」
口々に感想が交わされる。それについ赤くなってしまう。
「今日デビュー予定のアリスだよ」
好奇心や歓迎の視線。その中に混じって、同族の幼い子どもを見るようなじとっとした視線があることに気づいていた。