銀河売春国リリシア転生者掲示板 作:サキュバス星人
これ欲望の霧潜った時の覚醒イベントのせいであってイベント当時はLv6だわ
となると前話の内容ちょっと矛盾が出てるけどこれも性エネルギーってやつの仕業なんだ
許さねえぞ……殺してやる……殺してやるぞコンティンティンジェンシー
あ、幕間です
(ゲームの本筋とは関係)ないです
(掲示板の方も更新)ありますあります
「一から……そうですね、二百か、三百か……」
リリシア最高の頭脳とされ傍若無人でおよそあらゆる科学と研究に関して非常に身勝手なことで知られるアルビオン・ローダー研究部門部長にも、敬愛する人物はいる。
国母シエラ・リリス――奔放で気まぐれなサキュバスたちを社会として統一し、文化と風俗を育て、歴史を作り上げ、宇宙へと足をかけた偉人。今でこそ首相の座を元国防大臣に譲り、評議員の一人に収まっているが、実情は未だに国家の支配者だ。
そして、リリシアを影から支配する転生者たちのリーダーでもあり、高度な超能力者でもある。
「それが答えになります、アルちゃん」
花がほころぶような微笑みをもって、シエラはアルビオンを迎え入れた。
彼女の執務室は整理されており、それでいて物に溢れていた。大量のファイルとコンピューターにはリリシア統一国家のすべてが収められていると言っても過言ではないのだろう。欲望結晶の白い輝きが部屋を荘厳に照らし出していた。
唯一広々としているのは、部屋の端に設けられた小さな応接スペースだけだ。ソファ二つと机が一つ、それだけの空間。
「全部読まれてたってこと?」
アルビオンは無遠慮に対面に腰掛けた。
「ふふ……もっと先でしょうね」
シエラはテレキネシスでティーセットを並べると、慣れた手つきで紅茶を淹れ始めた。大抵のサキュバスはこれに精液を入れたりするが、シエラを始めとした転生者は食事と性をまとめることをあまり好まない。代わりに、角砂糖の詰まった大入りボトルが置かれた。
「あらゆるパターンを女史は想定していて、どの分岐を選ぶか試した……いえ、どうなるかを我々に委ねることこそが女史の試みだった。そう私は受け取りました」
「続けて」
「女史はアヤパナ信徒、禁欲者です」
シエラは胸元から性愛教団の経典を取り出し、開いた。
「性に非ざるものの神アヤパナ、性愛教団においては邪神であり異端信仰ですが……その教徒は、当然性を否定し禁欲しなくてはなりません」
「ん」
この短い首肯が、「それは知っているから早く本題に入って」という言葉の端的な省略であることを、シエラは長い付き合いから知っていた。くすりと微笑み、空のティーカップを手に取る。
「女史の信仰の深さは本物です。一般に市井に紛れるアヤパナ教徒のような、口先だけ、態度だけの禁欲ではなく、本当に快楽を否定・拒絶して生活しています。
……ああ、ここでいう禁欲とは性欲に限る話ですよ。アヤパナは非性の女神ですから、性ならざる欲望……例えば浪費や窃盗を咎めるわけではありません。思い返してみてください、女史の横領は教会を通し融資という形を経て民間団体から得た金銭です。直接的に性から得られた金銭ではないでしょう?」
アルビオンは腕を組み、口元を押さえた。押し上げられた胸は肘窩に流れ、腕は谷間を通ってもう片方の胸にのしかかる。
伸びた人差し指で唇をもてあそび、それからアルビオンは首を傾げた。
「物質主義的な信仰ってこと?」
「いえ、そういうわけではありません」
「リリシアで性にかかわらずに生活するのは難しいと思うけど」
「だからこそ意味があるのです。『かつて』の時代なら、ただ性を切り離すのは難しいことではなかったでしょう? と、まあ……アヤパナの教義についてはひとまず脇に置きましょうか」
ひとりでに傾いたティーポットが、美しい琥珀色のアーチを描く。シエラはそれを念動力で一捻りしてループを描き、カップに注ぎ入れた。
「さて、禁性欲者であり性快楽の否定者でもあるスネイル女史ですが、彼女も一人のサキュバス。事実としてサキュバスの体は快楽に敏感に作られています」
アルビオンはおとがいをわずかに引いた。
「うん。女史の身体構造はサキュバスだと断言できる。脂肪分にまで快楽神経がびっしり詰まっていて、下手をすれば歩くだけで快楽を覚える種だ。僕らリリシアン・サキュバスとは多少の差異がある……例えばふたなりではなく女性だとかね」
「ええ、そうですね。だから女史の所作は優雅で緩慢であり、活動の多くをサイキックで代替しています。風に吹かれることすら避け、肉の揺れを抑え、可能な限り快楽を得ないように振る舞う。しかし……ときに衣擦れすら快楽になる体では、限度がありますよね?」
シエラはたっぷりとミルクを入れ、ティースプーンにかき混ぜさせながら、アルビオンの瞳を覗き込んだ。
「『かつて』……聖職者たちは姦淫を禁じられましたが、それは聖職者であるから強姦されないという魔法の力ではありませんでした。」
「……あ、そうか」
そこまで言われてようやくアルビオンは得心した。
「主体的にそれをしてはならないというルールは、受動的に……意思に反して強制されることを止められない。つまり誘い受け? 『あくまで自分は教義を守っています』、という体裁か」
納得したことで落ち着いたアルビオンは、ティーカップを手に取ると、角砂糖を鷲掴みにして放り込んで、サイキックでミキサーのようにかき混ぜ始めた。
「今回の選択ではそうなった、ということです。つまりは……民意、いえ、天意に委ねたということですね」
「天意、ねえ」
「これが処刑の方向に流れ、首を落とすなり焼くなり串刺しにするなりして処刑したとして、女史は死なないでしょう。高位のサイキッカーとはそういうものです。精神的構造が物質的構造に先立つ存在、物理法則からはみ出した存在……」
カップを傾け唇を湿らせると、シエラは微笑んだ。
「死だろうと、退去だろうと、我々が彼女を受け入れず、あくまで否定したのなら、彼女は黙ってここを去ったのでしょう。また別の宇宙へ向かうのかもしれませんし、この宇宙にあらたな居場所を探すのかも知れません。私は、彼女がその未来を受け入れがたいと感じていてくれたら、と願うばかりですけれど……」
紅茶というより紅茶風味の砂糖ペーストになったそれをティースプーンで口に含む。口当たりは当然ざらついていた。アルビオンは満足げにスプーンを振り、そしてシエラに向けた。
「僕らは今回受容と平等をもって女史を受け入れた。だから女史は平等性を受け入れ、義務として性をこなすことを受容するようになった、そういう結末になった。女史としては、全てなあなあにして元鞘でもよかったし、もっと発展的な結末でもよかった、受け入れられないとしても問題はなかった。だから逆に、リリシアが何を選びどう扱うのかを測った……うん、理屈は分かった」
カップを置き、角砂糖をそのまま口に放り込んで噛み砕くと、アルビオンは首を傾げた。
「でもどうして、天運に身を任せたんだろう? 受け入れるのを待つよりいいやり方がいくらでもあって、それをできる力があるのに」
それが果断なアルビオンには理解できない点だった。未来を想定できるならもっとも良いものを選べばよかったはずだ。出来ることは様々あった。アルビオンなら、もっとうまくリリシアに溶け込んだだろう。
シエラはすぐには答えず、窓の外をしばし見つめた。
「ではここで、アヤパナ信仰の話に戻りましょう。女史と出会った最初の話、覚えていますか?」
「理想主義は詰めていけば唯物論の鏡写しになるって話? 観念論だと有名な話だよね?」
「ええ。あれは非常に長々とした論説でしたが、しかし彼女の説法においては前座、理解を深めるための比喩にすぎません」
「僕は精神主義と物質主義の比喩と受け取ったけど」
シエラは微笑んでティーポットを傾けた。
「惜しいですね」
アルビオンは黙って肩をすくめた。
「理想主義は性欲の神アエランズフィ、唯物論は禁欲の神アヤパナを意味しています」
「へえ」
「アヤパナ信仰において、アヤパナはアエランズフィの裏面であるとされます」
「裏面? アヤパナって世界の終わりにアエランズフィを食い尽くす神だよね? ありふれた終末の神様だと思っていたけど」
軽く問いかけ、アルビオンは気づいた。シエラの目は笑っていない。
ただの前置きではない。これは核心だ。そして女史に関することだけではない。
「無地の布を黒く塗りつぶしても、無地の布にしかなりません」
アルビオンはカップを握ったまま、シエラの顔をじっと見つめた。
「個とは他によってのみ定義しうる。存在の定義とは存在でないものの輪郭からしか得られない。『それしかない』なら、『ない』のと同じなのですよ。すべてが性に覆われたのなら、性とは非性です。アヤパナの示す世界の終わりと支配の逆転とはそのようなもの」
セックスが呼吸と同列に語られ、快楽から興奮と喜びが剥離した世界……それこそが、アエランズフィの失墜、性の終わり、滅びである。
ぱちりとウインクして、シエラは言った。
「あって当たり前のものには興奮しないでしょう?」
アルビオンは押し黙った。
「性に染まった世界では、あらたな非性が性の代替となるのでしょう。それは味覚かもしれませんし、聴覚かもしれません。美しさかもしれませんし、醜さかもしれません。我々の認知し得ない未知の感覚かもしれません。いずれにせよ、代替され生まれるポスト・セクシャリティがまた世界に広がり始めます」
殖えるという機能のための、動物的本能。
単なる肉の塊を、差異を持った個人により分けるための、原初の付加価値。
それが飽和し意味を失ったとしても、必要性は失われない。生物が生物である限り、性はなければならない。失われたなら代替されなければならない。
淘汰圧が働き、生態系は適応し、新たな性が選び出される――。
「そしてアヤパナは、かつてアエランズフィがそうしたように、新たに生まれたポスト・セクシャリティの神となる。初めは性行為に伴う興奮材料として。やがてそれは性エネルギーを生み出し、快楽を経由して人々に伝播し、全てを染め上げ……また非性への転換を起こし、今度はアエランズフィが主導する性の世界が始まる……そういう円環がずっと続いている、というのがアヤパナの教えの本質です。――そして、女史が受けた性神からの弾圧というものも、これです」
それはあまりに壮大な、宇宙を超えた規模の物語だった。神話にしてはありふれていて、そして極めて示唆的だった。
「定められた終わりと新たな始まりの神。思い当たるものがあるでしょう?」
「……円環の終わり……?」
シエラは答えず、カップを置いた。
「さてこれを、我々サキュバスに、リリシアという国に当てはめてみましょう」
「……僕らは脳機能のレベルで女体、いや同族の情報に興奮するようにできてる。目も耳も手も、かつての人類よりずっと。そして不老だ。代替わりしない。だから年代層を持たずに肥大化を繰り返す文化構造だ。……でも確かに、そういう変異が起きる可能性は否定できないね。つまり、僕らが長い生の中で、快楽に飽きるってことが」
「そうなったリリシアはどうなるでしょう?」
アルビオンは端正な曲線を描くおとがいを指で撫で、視線を彷徨わせた。
「活動に必要な脳内物質を性快楽なしで産出できない生態だから、そもそも僕らサキュバスは大部分が死ぬか……食事と同列の行為になるのかな。他の魔物娘が台頭するとして……基幹産業が娼婦で、愛液の抽出物である欲望結晶で繁栄する国家なんだから、娼婦が興奮しなくなれば結晶の産出が失われ、衰退する……ん、なるほど」
アルビオンは空のカップに角砂糖を放り込みながらシエラを見た。
「リリシアの興亡を宗教的な終末と対応させて見るわけか。神学的には面白い知見なのかもね」
彼女はただ微笑んで、ティーポットから紅茶を浮かせている。
「魔物娘は性の種族。中でも我々リリシアは、女史のお眼鏡にかなった。性により繁栄し、性により存続する。性があまりにも日常になっています。まだその逆転は起きていませんけれど……起き得ない事象ではない。彼女にとっては興味深い社会モデルでしょう」
「そういうことで納得しておいてあげる」
「あら」
空になったガラスの入れ物の横に、新たに角砂糖の詰まったそれを置いて、シエラは笑った。
宙に浮かぶ紅茶は琥珀色の球体となって、二人の間に浮かぶ。
「なら彼女は来る滅びを眺めるためにリリシアを選んだのかな?」
「さて、彼女の内心までは分かりませんが……私の答えは変わりませんよ」
それをそっとカップに収めて、シエラは窓の外に目を向けた。
リリシア首都イジャキュレーション――よじれた流線型、生体の意匠を持つ無機物群。天地を問わず人の行き交う摩天楼。快楽なくして生きられぬサキュバスたちの、終わりなき欲望のるつぼ。
それを築き上げた女は、けばけばしく淫猥なネオンライトを遠く眺めて、カップを傾けた。
「私は友を受け入れ、並んで歩くでしょう。それが、滅びの先だろうとも」