ヤンデレ魔族と没落貴族のヤバい生活♡~旦那様の体液が全部媚薬でごっくんしたらみんな狂ってイっちゃうんです~ 作:有のよいち
「わたし、ただのサキュバスじゃ……ないんです」
「……どういうこと?」
「ラズは……ハーフなんです」
「ハーフ?」
怖い。すごく怖い。でも、旦那様には言わなくちゃいけない。
だけど、幻滅されたらどうしよう。気持ちが悪いって、避けられたらどうしよう。嫌われちゃたら、私、捨てられちゃうのかな。
イヤ——。絶対、嫌だよ。ずっとお傍にいさせてほしい。離れるなんて、絶対ムリ。
だけど言わなきゃ。あまりに未熟な、もうひとりの私のことを——。
「ラズは、サキュバスと……バンパイアの、ハーフなんです」
「え?」
やっぱり、驚くよね。だって、魔族同士の混血でさえほぼありえないのに、サキュバスとバンパイアのハーフなんて他に誰もいないから。
人間にとってみれば、サキュバスもバンパイアも、どちらも敵のような存在。人間に淫らな夢を見させて精気を吸って殺すサキュバス。人間の血を吸って命を奪うバンパイア。
サキュバスってだけでも、嫌われて当然。
バンパイアってだけでも、嫌われて当然。
——どっちもだなんて。
顔色が変わっていく旦那様。ああ、もう私、いっしょにいられないのかな。こんな私、気味が悪いよね。すごく、怖いよね。
(嫌われちゃう……嫌われちゃうよぉ。いやだよ……やだあ!)
また涙が、今度はすごくいっぱい——止められない。
——でも、旦那様は。
「バンパイアのラズは、僕を受け入れてくれるかな?」
「……えっ?」
最初、何を言われたのか、分からなかった。絶対きらわれちゃうって、そうなるとしか思っていなかったから。私が旦那様に受け入れてもらえるか、そう心配するのが当然なのに。
(どうして旦那様は、私の方が受け入れるかどうかを聞いていらっしゃるの? 旦那様を拒否するなんてありえないのに……。私のことを心配してくださるなんて!)
「こわく……ないんですか? きもちわるく……ないんですか?」
「何を言ってるの? そんなふうに思うわけないよ。怖くないどころか、すごく可愛い。気持ち悪いなんて、誰かに言われたりしたの? ありえないから!」
旦那様、本気の目をしてる。とっても真っ直ぐで、とっても綺麗な目。私の大好きな、他にはどこにもない、金色に輝く旦那様の目。
「言われては……ないですけど。でも……でも、バンパイアの私は、全然可愛くないんです。きっと……旦那様も、怖いって思われます」
「バンパイアのラズ、見てみたいな。会って話してみたい。それに……もしサキュバスのラズと違うなら、僕は伝えなきゃいけないことがあるよ」
(見てみたい? 話してみたい? どうして? それに……)
「なにを……ですか?」
「言わなきゃ。バンパイアのラズにも、恋人になってくださいって!」
そんなの、うれしすぎて——。
サキュバスの私とバンパイアの私、どっちも私には違いない。だから、どっちも旦那様が好きで、愛してもらいたいって思ってることは間違いない。
でも、その受け止め方や感じ方は少し違うかもしれない。自分でもはっきりとは言葉にできないけれど。
「ちゃんと言いたい。今から会えないかな?」
「できますけど……」
「どうすれば会える?」
「……少しだけ、旦那様の血をいただければ」
そう答えたら、旦那様はふたつ返事で首筋を差し出してきた。「ここを噛むのかな?」って微笑みながら言ったりして。
私は首を縦に振った。
命令されるままに、旦那様の首元へ顔を近づけ、血を意識する。バンパイアの牙が自然と現れた。その牙で、一気に嚙みついた。
「うっ……」
旦那様が一瞬、顔を
ツノと尻尾が消えていく。力が漲ってくる。翼と胸が大きくなっていくのが分かる。それに、感度が異常なほど高まっていくのも——。
「エルヴェ様……」
「……初めまして、かな?」
顔をまともには見られなかった。貴方は優しい人だから、バンパイアの私を怖いと感じても、無理にでも受け入れて下さると思う。
でも、それも怖い。無理をさせてしまったら、いつか綻びが生まれて、取り返しのつかないことになる。エルヴェ様を手放すなんて冗談じゃない。
「どうですか、バンパイアの私は……」
すぐには返答がなかった。やはり、サキュバスの私とは別物——そう感じられているに違いない。
でも、答えは意外だった。
「……綺麗だ。すごく綺麗だよ、ラズ」
「え……。そんなこと……」
違う、違う。そんなことない。首を振って否定する。
「本当だよ。バンパイアの君は、とても綺麗だ。サキュバスのときのラズは少し幼く見えて可愛いに寄ってる感じ。バンパイアのときのラズは……可愛いを少し残した、綺麗に寄ってる感じ」
本気の目だ。本気でそう思ってるんだ。
鋭くて長い牙、血のように赤黒い不気味で大きな翼。声は少し低く、サキュバスのような愛らしさは欠片もない。この姿の私と出会った人間は、みな恐れおののく。汚らわしいものを見るかのような目をする。寄るな、来るなと、私を拒絶する。
人間だけじゃない。サキュバスとのハーフである私のことを、魔族ですら気色が悪いと避ける。関わるまいと、目線ひとつ合わせようとはしなかった。
それなのに、どうして貴方は——。
「綺麗だなんて……そんなの、ありえない」
「嘘じゃない。誓って、本心からそう思ってるよ。どうすれば信じてもらえる?」
清らかな光を放つ、その黄金の瞳。揺れることなく、私を捕えている。
心の奥底にずっとしまっておいた、バンパイアの私の夢。サキュバスのときのようには素直に表に出すことができなかった、私の本音。それが、思わず零れてしまった。
「バンパイアの私を抱いて。激しく愛して」
そう——バンパイアの私も、心は処女のまま。
体はサキュバスのときに満たせばいい、バンパイアの私はそれでいいと、自分に言い聞かせていた。お父様から受け継いだ誇り高き血を、淫欲などでは穢すまいと、自分に嘘をつき続けてきた。
バンパイアの私もまた、狂うほどの快楽をこの身に刻みたいと、そう思っているくせに。
そんな私に、醜いバンパイアの私に、エルヴェ様は——。
「その前に……。バンパイアのラズ、どうかお願いです。僕と付き合ってくれませんか。貴女のこと、だれよりも大切にしますから」