ヤンデレ魔族と没落貴族のヤバい生活♡~旦那様の体液が全部媚薬でごっくんしたらみんな狂ってイっちゃうんです~ 作:有のよいち
幸せ。すっごく気持ち良かった。お母様も本気で狂っちゃってた。旦那様はやっぱり最高♡
満足していたからなのか、私は部屋に戻るまで気がつかなかった。お母様も気がついていなかったみたい。部屋に強い魔力をもった魔族がいる。でもそれは危険な相手ではなくて。
懐かしい魔力振。これって、もしかして——。
「おとう……さま?!」
影が動いた。同時に部屋の照明が一斉に灯った。見えたのは、すらりと高い背丈に大きく立派なマントを羽織ったバンパイア。鮮やかな真紅の瞳に、鋭く長い牙。
「久しいな、ラズ」
ヴィンセント=バナワース。吸血鬼の名家バナワース家最強のバンパイア。そして、大好きな私のお父様。結婚を機に家と縁を切り、今は家族とともに魔界の端の古城に住んでいる。
会うのは私が家出したとき以来、約90年ぶり。
「あなた……。いつの間に来ていたの?」
「……ついさっき着いたばかりだ」
たぶん、嘘。気配を消すのはお母様以上にとても上手。ひょっとしたら、母娘で乱れるより前に来ていたかもしれない。だとしたら——怒られるのかな。
「ラズ」
「……はい」
「元気そうだな。それに、良い出会いを得たと見える」
「あの……お怒りにならないのですか?」
身構えていると、お父様は歩み寄って私の頭を撫でてくれた。目尻を下げ、瞳を輝かせて。
「何を怒ることがある。むしろ嬉しいくらいだ。いかに幸せに過ごしているか、お前の目を見れば分かるさ」
「お父様……」
私をお叱りになったことなんて滅多に無い。でも、いかに旦那様が素晴らしい方といっても、人間族という点では魔族的に印象が良くないか。さすがに旦那様とのことは、叱られると思ってしまった。
「ねえ、あなた。何の用で来たの? まさか娘の淫らな姿を覗きに来たんじゃないでしょうね」
「馬鹿なことを言うな。ラズに誤解されたらどうしてくれる?」
お父様は私にひたすらお優しい。サキュバスのときも、バンパイアのときも。これまでずっと、ひどく未熟なバンパイアの私を助けてくれた。誰よりも心配してくれていた。お母様はお父様のことを子煩悩と言っていた。
お母様もそうだと思うけど、バンパイアの私とはあまり接していなかった。どう接したらいいか分からなかったんだと思う。ケンカも何回かしてしまっていたし。
コホンと咳ばらいをして、お父様が畏まった雰囲気で言った。
「しかるべき理由があって来た。ラズ、魔王様より召喚状が出ている」
私とお母様は凍り付いた。旦那様が眉をひそめて私を見た。場に居る全員が、事の重大性を理解していた。
「召喚状って……随分と大袈裟ね。ラズちゃんがエル君にデレデレしてるから?」
「リリス、はぐらかすな。淫魔にとって猛毒を持つ人間を連れているんだ。それに、その毒はバンパイアにも効果を示す疑いがある。捨て置けんのは当然だろう」
お母様の表情が曇った。もしかしてこれまでは、お母様が何か対策をしてくれていたのかな。私と旦那様がいっしょに居られるように、うまく話してくれていたのかもしれない。
でも、呼び出されたってことは——。
「お父様、参りましょう。召喚状を拒否することはできません」
姿勢を正し、手を差し出す。お父様は表情を変えず、召喚状を手渡した。
「確かにお受けいたしました」
「うむ。急ぎ魔王城へ向かえ」
本当は行きたくない。魔界に帰るのも嫌なのに、もしこれで旦那様と引き離されでもしたら、私は生きていけない。魔王様の命令次第では、私は逆らうかもしれない。
きっと私、旦那様を連れ去って逃げ出してしまう。
ううん、間違いなく、私はそうしてしまう。確かそれって、
そのとき、旦那様が——。
「
「ん? 人間のお主が魔王様に謁見を申し出ると言うのか?」
「はい。娘さんの問題は、私の問題でもありますから」
お父様は顎に手を添え、思案された。旦那様は毅然とした面持ちで返答を待った。
「それはならん。だが、魔界へは吾輩がお連れ致そう。毒の件でお達しがあるやも知れん。それを口実に連行するという対処で良ければ、だがな」
「それで構いません」
ふたりはしばらく見つめ会った。お互い一切視線を反らさなかった。お父様は笑った。
「ふむ。良い目をしているな。人間にしておくのが勿体ないくらいだ。……よかろう、エルヴェ殿。魔界をお見せ致そう」
自然に旦那様のお名前を呼んだ。旦那様も、当然知られているだろうと、聞き返すことはない。
とにかく、旦那様とそれほど離れずに居られるなら、私は何だっていい。このご恩、お父様にどう返そうかな。
「あのさぁ、あなた。淫魔だらけの街でエル君を守るのって、そう簡単じゃないわよ?」
「なぜだ? 私がついていれば問題なかろう」
「甘いわよ。淫魔にとって、エル君ってすっごくいい匂いがするのよ。何の対策もなしに連れてったら、間違いなく
お父様は眉をひそめた。お母様ですら旦那様には引き寄せられてしまうことを、お父様はご存じのはず。さっきまで浴室でしていたことだって、ばれているのかもしれないし。
「サキュバス全員が群がってくる、と?」
「そうよ! 半端じゃないんだから。ウチの娘たちだって放っておいたら危ないんだからね!」
「それは……さすがに困るな」
張り詰めていた場の雰囲気が変わった。お父様が放っていた魔力の緊張がほどけたんだ。
本気の困り顔をしてる。そうなると、ヴィンセント=バナワースは最強のバンパイアではなくなる。私たちだけの、いつものやさしいお父様になる。
お母様が笑い出すと、お父様は苦笑いした。私が笑い出すと、旦那様はほほえんだ。
「エルヴェ殿。そなたには悪いが、今すぐここを発たねばならん。朝食は吾輩が手配する。しばしの間、我が屋敷に滞在してもらうが、構わんな?」
「はい。お世話になります」
お父様が腕を広げると、大量のコウモリが現れた。すべてがお父様の使い魔だ。その中でもひときわ大きい二羽のコウモリが、旦那様を掴んで窓から飛び出した。他の使い魔がその周りを取り囲む。
私とお母様はその後を追った。