第一章:誘惑の罠
「救難信号……?」
少女の声がコクピットに響く。
リューネ・ゾルダークは眉をひそめ
モニターに映し出される異常信号に目を凝らした
ヴァルシオーネのセンサーが捉えた微弱な電波パルスは
通常の救助要請とは明らかに違っていた
「でも……放っておくわけにはいかないね」
危険を感じながらも、彼女の心は既に決まっていた
操縦桿を握る指先に力が入る。
ヴァルシオーネのエンジンが唸りを上げ、銀河辺境の小惑星帯へ向けて針路を変えた
「誰もいないじゃない……」
無人の岩塊が連なる真空空間に潜む小さな秘密基地──そこが“あなた”の舞台だった
デブリに巧妙にカモフラージュされた入口が、リューネの目の前に姿を現す
外部モニターで確認しても人の気配はなく、静寂だけが漂っている
『やはり罠か』と直感が告げる
しかし通信機からは断続的にSOS信号が流れ続けている
「助けを求めているんだ……見殺しにはできないね!」
白いTシャツに汗が滲む。腰まで伸びた金髪が揺れる
リューネは覚悟を決め、ハッチを開いた
外に出た瞬間、微かな焦げ臭い匂いが鼻を刺した
軍事訓練で何度も嗅いだ火薬の残香に似ていた。背筋が凍る
息を潜めてゆっくりと進む。壁の隅々まで神経を尖らせるが──何も起こらない
居住区は小さく、すぐに全てを探索し終えた
「変ね…どこから信号を送ってたの?」
注意深く壁を観察すると小さなスイッチが見つかった
押すと壁が開き部屋が現れた
「さて…鬼が出るか蛇が出るか」
警戒しながら部屋を確認する、誰も居ない…
その時だった。突然、壁が閉じ天井から濃密な霧が噴き出した
「!!」
咄嗟に腕で顔を覆う。しかし遅すぎた
甘酸っぱい匂いとともに視界がぼやける
「睡眠ガス!」という言葉が脳裏を駆け巡ったときには、すでに膝から崩れ落ちていた
意識が薄れていく中で、遠くで何かが低く笑う音を聞いた気がした……
冷たい金属の床。耳鳴りのような真空の静寂
「うっ……」
頭痛と共に目覚めたリューネがまず感じたのは異様な圧迫感だった
手足が痺れている。そして──裸だった
剥き出しの肌が寒風に晒されているのに気付いた途端、羞恥心が沸騰した
「何これ……!?」
必死にもがくが、四肢は頑丈な枷に封じられている
彼女を両側から挟むように空いた四つの穴──
それぞれが左右の手首・足首を飲み込み拘束しており
まるで蜘蛛の巣に絡め取られた獲物のように宙に浮かされていた
「ほぅほぅ、ようやくお目覚めかい」
陰湿な声が響いた。薄暗がりから肥った影が現れる
ビール腹の醜悪な中年男──“あなた”だ
脂ぎった顔がいやらしい笑みを浮かべていた
「あんた……!」
怒りで震える瞳が“あなた”を見据える
屈辱に唇を噛むリューネに対し、“あなた”は悠然と近づいてくる
「驚いたやろ?ガスは予想外やったみたいやな」
「黙れ!この卑怯者!すぐ解放しな!」
鋭い眼光が射抜く
“あなた”は一瞬怯んだ
戦場で鍛え上げられた少女の威圧感は尋常ではない
しかしすぐに歪んだ微笑を取り戻す
「怖っ。でもな……もう手遅れやで?」
ぐっと顔を寄せると、彼女の大切なものを貶めるように囁いた
「お前は、わいの罠にかかったんや」
「ふざけんな!」怒鳴り声が空虚に吸い込まれていく
「おうおう、怖いやんけ」
“あなた”は肩をすくめ
「その状態で威勢のええことやな?」
ぐいっと髪を掴んだ
痛みに顔を歪めるリューネを見つめながら、呟く
「まずは最初の賭けに勝ったが…」
「ふざけるなっ!」
渾身の叫びが部屋に反響する
“あなた”は初めて後ずさりした
恐怖と興奮が入り混じった表情だ
「……リアルで見るとすごい迫力やな…めちゃめちゃ怖いやんけ」
震える指で額の汗を拭う
「しかし…ここまできたらやり切るしかないな……」
「お前を調教してわいのもんにしたる」
「わいがお前のご主人様の〇〇や、ようおぼえとくんやな」
リューネの瞳が極限まで開かれた
「何言ってるんだい!?クソ野郎!」
黙ったまま“あなた”が近づいてくる。少女の顎を汗が滑り落ちた