※この作品はR-18です。

おっさんず、ダンジョン都市を攻略する   作:おっさん

6 / 6
おっさんず、仲間が増える。

「ふぅ……」

「ぶくぶく」

 

 昨日に比べて、朝のお風呂は静かでした。

瑞樹は単純にお風呂の心地よさに身を委ね、京助は死んだ魚のような目で、口元までお湯に沈んでいます。

 

「きょうちゃん、そこまで気にするなよ」

「……そう言うがな」

 

 未だ沈み込んでいる相方に、瑞樹は極めて軽く声をかけます。

 

「どうせ、そのうちしてたって……少しばかり、期待はしてただろ?」

「ぐっ……」

 

 同じオタク趣味を持つ「同士」であるがゆえの、残酷な指摘でした。

早いか遅いかの差でしかない、瑞樹自身、もし立場が逆なら、葛藤はあれど結局は流されていたと確信しています。

京助自身、心のどこかでそんな期待を抱いていた自覚があるだけに、その言葉は深く刺さりました。

 

「まぁ……俺の元の顔を知ってるから、きついのは分かるけどさ」

「言うな……!」

 

 ははは、と笑いながら瑞樹が撃ち込んだその言葉に、京助は顔を青ざめて耳を両手で塞いでしまいました。

 

「どうせなら、風呂上りにもう一度する?」

 

 瑞樹は悪戯っぽく、気軽に提案してみます。

瑞樹自身、京助に対して恋愛感情を抱いているわけではありません。

あくまで純粋な性欲と、好奇心に基づいた行動でした。

強いて言うなら、どうせ相手をするのなら、昔から馴染みのある京助がいいな、という程度の親愛の情はありました。

 

「……ッ」

 

 その言葉に、京助の体は正直に反応します。

元気に息吹いた「息子」が、不意に中身のおっさん――瑞樹の素顔を思い浮かべたことで萎み、またすぐさま元気がなくなっていきました。

 

「器用だな」

「……あれだ。その顔に慣れるまで待ってくれ。無理だ」

「酒でも飲む?」

「それは…………勿体ないだろ?」

「葛藤が長いな」

「……昨日の疲れが全部取れてるし、街で使える回復材としては、上位だろうしな」

「しょうがないな。楽しみは取っておくかな」

 

 力説する京助に、瑞樹は溜息を吐きつつも合わせることにしました。

どうせなら、悩みながら行うよりも、二人吐きて満足できる方がいいに決まっています。

そんな奇妙な「相棒」としての気遣いが、この歪な迷宮生活を少しだけ円滑にしていました。

 

 

 

 

 

☆★★☆☆★★☆

 

 

 

 

 

「それで今日は、どうする?」

「武器防具を見たいけど……この所持金じゃ、無理だよな」

「一クレドは、一円だっけ?」

「単位としてはそうらしい。昨日のドロップ品分を含め、……今の所持金は、二万千三十円(21030円)」

「……前世の方が持ってたね」

「それな」

 

 最初こそ、一万クレドがどの位か分かりませんでしたが、調べてみてビックリです。

まさか、二人合わせて、前世の自由に使えるお金(お小遣い)よりもなかったのです。

大の大人二人でこの金額は泣けてきました。

 

「ゴブリンの牙一つ百クレド、スライムの核一個五十クレド……」

「昨日の全部売って、二千五十クレドかー」

「……資産上限が一人、十万クレドだっけ?」

「そうみたいだ。レベルは二十、資産は十万クレド、武器防具は特になし」

「ギルドの上の宿屋代がタダで助かった」

「……味の薄い『栄養補給ペースト』もね」

 

 そう言って、瑞樹は舌をべーと出して、なるべく食いたくはないなと告げます。

街を歩きつつも、周りを見渡してみても、娯楽のごの字もありません。

時折、食べ物を売っているお店を見つけてるも、売ってるのは色とりどりのペーストされた何かです。

 

「街自体も特にこれといって……変わりないな」

「楽しみは、ダンジョンのみか」

「二層目に上がる基準は、五つのダンジョンの内、三つを踏破だったっけ?」

「そうだね。「おもちゃの迷路」「飢えた庭園」「鏡の広場」「鐘の鳴る塔」「忘却の回廊」の五つから三つクリア」

 

 特に代わり映えの無い街を二人は、歩き続けます。

どこまで続いているのか、どこまでもこの街並みなのか、少しだけ気になりました。

しかし――。

 

「よし、帰ろうか」

「そうなるよね」

「何の代わり映えもない!」

「最初の時ぐらい、ダンジョンに集中しろって事かな?」

「そうなんだろうな。娯楽とかそういうのは、慣れてから……か」

 

 ずっと続く、同じ街並みに飽きて、二人は揃って戻る事に決めました。

結局、この散歩で得られたのは、ちょっとした気分転換と街を歩くのが無駄だという事だけでした。

 

 

 

 

 

 

☆★★☆☆★★☆

 

 

 

 

 

 

「結局は、ギルド内部で全部が済むと」

「道具屋も武器防具屋もあるしね」

 

 ギルドの酒場部分にある椅子に座り、二人はそういう結論になりました。

ギルドの一階部分には、ダンジョンに必要な物が全て揃っており、五つのダンジョンに向かう以外は、ここで全てが済みます。

 

「……でも、ギルドの宿屋を利用してる人が少ないな?」

「そういえば……結構、空室が多いよな」

 

 ギルド内部は、大きな吹き抜けとなっており、二階三階へと昇る人々が良く見えました。

しかし、その人もまばらで、とても全ての部屋が使われているように見えません。

その癖、一階の広間は人で溢れている状態で、不思議に思いえました。

 

「ん……五つのダンジョンは十階層もある。皆、近場に泊まって集中的に攻略をしてる」

「……なるほど」

「ほー……」

 

 不思議に思っていると、横から説明が飛んできました。

その事に、気を抜いていた二人は、特に気にならず相打ちを返します。

 

「……どなた?」

「……こんにちは」

「こんにちは」

 

 京助と瑞樹が声の主へと振り返ると、そこには見慣れない少女が佇んでいました。

 

 彼女は、顔を覆い隠すほどの長い銀髪を無造作に伸ばしており、手入れをしている気配は微塵もありません。

その頭上には場違いなほど本格的なゴーグルが鎮座し、角が二本生えています。

ベルトに下げた腰回りからは、見慣れた工具たちがガチャガチャと騒がしく顔を覗かせていました。

さらに目を引くのは、腰とお尻の付け根あたりから力強く生えた、立派なトカゲの尻尾です。

 

「……あっ、演習場で会った」

「ん……会った」

「……魔力切れを教えてくれた人?」

「そう……テトラ」

 

 テトラと名乗った少女は、京助たちの机に両手で掴まると、そのままひょいと顎をのせてきました。

彼女の目は爬虫類のように瞳孔が縦に細長く、虹彩は磨き上げられた琥珀のような色をしています。

そんな独特な眼差しで、彼女は京助をじろじろと興味深げに観察していました。

 

「そうか……この間は、ありがとうございました。俺は、京助といいます」

「俺は、瑞樹……魔術師をしてます」

「……僕、『機械師(マシンナリー)』」

「え?」

「ん?」

「武器……防具……もイケる」

 

 演習場の時のお礼と、自己紹介をしますが、話がどんどんと進んで行きます。

テトラは、腰にあるスパナなどを見せて、最低限の情報を京助達に伝えてきました。

 

「……レベル五」

「……もしかして、アピールしてる?」

「ん……」

「な、なるほど」

 

 話が見えず、少しばかり混乱していましたが、話の内容を整理し、相手の伝えようとしている事を瑞樹が当てました。

どうやら、テトラは、二人に売り込みをしていたようです。

その事に気付き、京助と瑞樹は、互いに顔を見合わせて「どうしようか?」と悩みました。

二人が初のダンジョンをクリアしたのは、昨日の事です。

仲間は欲しいと思っていましたが、こんなにも早く候補が現れるとは思ってもみませんでした。

 

「……いらない?」

「ちょっとだけ……相談させてください」

「……ん」

 

 しゅんとして去って行こうとしたテトラに、京助は待ったをかけます。

そして、少しだけ席を外すと、瑞樹と顔を突き合わせて相談し合いました。

 

「どうする?」

「急だと困るね……まぁ、『機械師(マシンナリー)』の職業がどういった物かは分かるけど」

「……サポート兼火力かな」

「装備を作れるのは、大きいね」

 

 オタクの二人であるからこそ、テトラの職業はおおよそ予測がつきます。

 

「お試しって事でいいんじゃないかな?可愛いし」

「いや……そこかよ」

「えー……仲良くなれるかは大事じゃないか」

「……ますます、俺の不審者っぶりに拍車がかかる!」

 

 テトラは、瑞樹よりも少し大きいぐらいで、喋り方や仕草は、少女そのものでした。

京助と瑞樹とテトラの三人で並ぶと、京助のおじさんは物凄く目立ちます。

それでも、折角相手から売り込みがあったのもあり、受け入れる方向で話が進みました。

 

「俺達は、まだレベル二で、昨日チュートリアルダンジョンを踏破した所だけど、いいかな?」

「……問題なし」

「それじゃ、よろしく」

「ん」

 

 こうして、三人目のパーティーメンバーが早々に入る事となりました。

 

「……ステータス」

「瑞樹以外の人の見るのは、初めてだ」

「どれどれ」

 

 

名前:テトラ

性別:女性(元・男性)

年齢:十二歳相当(元・五十七歳)

種族:竜人族(幼体)

職業:機械師(マシンナリー)Lv五(5)

ステータス(才能):技術七割、筋力二割、魔力一割

スキル(パッシブ):『工匠の瞳(クラフト・アイ)』『機械修理(メンテナンス)』

スキル(アクティブ):『即時換装(クイック・チェンジ)』『機構制御(メカニック・コントロール)』『竜尾の重石(ドラゴ・アンカー)』

持ち物:『多機能魔導銃(ギア・ガンナー)』、携帯用工具一式、防具一式(革)

所持金:五百クレド

 

「……」

「わーぉ」

「?」

 

 京助は、ステータスを見た瞬間、「また性転換(TS)!」と思い、頭を机にぶつけました。

瑞樹は、自分以外にも性転換(TS)者が居るとは思わず、素直に驚きます。

何よりも、驚いたのは――。

 

「またもや、おっさん!」

「……長生き」

「……俺みたいな人多いのかな?」

 

 年齢が、京助と瑞樹よりも上だったことです。

 

「……?」

「あぁ……ほら、俺のステータスを見て、性別の欄が元男でしょ?それに、驚いてね」

「……」

 

 二人が何に驚いているのか分からず、テトラが首を傾げました。

京助は発狂している為に、瑞樹が、どうしてこうなったかを教えます。

 

「別に普通……大抵の人、あべこべ」

「え?」

「は?」

「京助……珍しい。皆、転生すると若返る。若くてカッコいい姿(カワイイ姿)で、別の人生行くのが普通」

「……まじで?」

 

 テトラの口から語られた事実は、二人にとって衝撃でした。

この世界に流れてくる「転生者」の多くは、若く美しい姿で再出発を果たすのが通例らしく。

それに対して、おっさんの姿を維持している京助のような存在は、むしろ珍しい分類に入るとのことです。

さらに驚くべきは、冒険者の大半がテトラと同じように「性別が反転」しているという点でありました。

 

「まぁ……よく考えれば、皆若くいたいし、美男美女になりたいよね」

「……俺が少数派?」

「ん……珍しい」

 

 京助は、ショックのあまり、机に頭をぶつけます。

今まで、少しだけ見ていたエルフの女性の方々も元は、男性である可能性が出てきたからです。

もう「可愛ければOK」の精神で行くしかないのでは?と、京助は思い始めました。

 

「通りで、転生する時に見た顔が、一人もいない訳だ」

「あー……そう言えば、服装こそ日本人って人は何人か見たけど、あの白い空間で見た覚えのある人がいなかったね」

 

 ここまでの話で、二人は一つの疑問が解けました。

あの白い空間で、一つ目の選択肢の輪廻に戻る選択肢をした人は、数人のお年寄りだけです。

他の何十人といた他の人々は、京助達と同じくこの世界への転生を選びました。

しかし、この世界に来てから、彼等の顔を見た事がなかったのです。

流石に全員とはいきませんが、エルフ耳の女性の近くで騒いでいた比較的若い人々の顔は覚えてました。

その彼等が、見当たらないのは、タイミングが合わないだけかと思っていましたが、顔が変わっていれば気付けない筈です。

 

「テトラは、何で性転換(TS)したの?」

「ん……?」

 

 一つの疑問が解けて、瑞樹は、テトラに疑問を投げかけます。

自分以外の人は、どのような思いで性転換(TS)したのかが、気になったのです。

 

「ん……前世、男」

「うん」

「だから……次、女」

「……うん?」

「……ん」

 

 テトラはそれ以上の言葉を継ごうとしません。

あまりに簡潔すぎるその答えに、瑞樹は拍子抜けして言葉を詰まらせました。

 

「え、それだけ?」

 

 そのやり取りを見ていた京助は、ふと納得したように苦笑しました。

 

「あー……まあ、価値観の違いだろうな」

「なるほど……言われてみれば、そうか」

「?」

 

 京助は、テトラが理性よりも直感や本能に従うタイプなのだと理解しました。

理屈をこねくり回し、あれこれと思案しがちな地球の日本人とは違い、彼女のような感性の持ち主にとっては、「男として一生を終えたなら、次は女」といった具合に、非常に割り切った選択なのかもしれないと思いました。

忌避感や葛藤が希薄であるからこそ、この世界では性別を変えて再出発する冒険者が多いのだと理解します。

 

「まぁ……いいか。人それぞれだよね、うん」

「……雑」

「いいだろ、これ以上深く考えても答えなんて出ないんだし」

「ん」

 

 どんな姿で生きるにせよ、それは個人の自由。

瑞樹は納得したように肩をすくめ、話題を現実的な方向へと切り替えました。

 

「テトラは、武器を作れるって言ってたけど、予算と材料はどれぐらい必要?」

「ん……材質により違う。木材なら、木材費だけ。鉄製なら、材料と溶鉱炉の使用料とかで一万クレド」

「……鉄は高いな」

「まぁ、現世よりは安いと思うけどね」

「機械化するなら、もっと高い」

「機械化?」

「……これ「魔導銃」」

 

 テトラは誇らしげに、背中から巨大な武器を取り出しました。

それは、ただの銃ではありませんでした。

無骨なスナイパーライフルをベースに、精巧な歯車や導管が複雑に絡み合い、SF映画から飛び出してきたかのような異様な迫力を放っています。

 

「かっこいいな」

「俺は持てそうにないな」

「むふー……」

 

 男のロマンを具現化したような、その重厚かつ緻密なデザイン。

京助と瑞樹が目を輝かせて武器に見入っていると、テトラは尻尾を機嫌よさそうに揺らし、まるで自分の子供を褒められた親のように満足げに胸を張りました

 

「こんな事も出来るのか。ロケットパンチとか打てる籠手作れるかな?」

「作れる」

「機械的な杖もいいよね」

「……重いだけだと思う」

 

 京助と瑞樹は、テトラに詰め寄る様に話しかけていきます。

中年おじさんにとって、こういった武器は大好きです。

刀とかでも興奮してしまうほどに、武器にロマンを持つお年頃でした。

 

「ちなみに、これは作るのにお幾ら?」

「……五万?」

「高い!」

「……これでも安い。機械化するの大変。失敗する可能性が高い」

「……もしかして、素材集めて、多額のお金を払ったうえで……運?」

「そう」

「あー……なるほど」

 

 出来れば、機械化した武器等が欲しいなと思いましたが、二人は内容を聞いて苦い顔をしました。

つまり、目の前の強そうな武器は、材料とお金が必要なガチャ仕様なのです。

一%……あるいは、それ以下の可能性にかけて、お金をじゃぶじゃぶと使うアレです。

 

「……テトラの所持金が少ない理由は、それか」

「ん」

「ちなみに……どのぐらいの確率?」

「……分からない」

「あー……闇だな」

「闇だね」

 

 提供割合の明確化など異世界にある訳もなく、まさに闇そのものでした。

京助と瑞樹は、名残惜しく思うものの諦める事にします

 

「とりあえず……木材で昆(こん)って作れる?」

「よゆー」

「俺の方も、昆(こん)の様な杖をお願い」

「……木材買いに行こう」

 

 この世界の様々な事情を知り、ちょっと複雑な気持ちになりながらも、新しい仲間と共に、最初の武器を手に入れるべく、京助達は席を後にしました。




【機構適合試行(通称:武器ガチャ)】とは
機械師(マシンナリー)が製作する装備の中でも、「魔導機構(ブースターや変形ギミック)」を組み込む際に発生する、極めて不確定なプロセスを指します。
※呼び名を名付けたのは、日本からやって来た転生者です。

仕組み:
ベースとなる武器を製作した後、精密な魔導回路を組み込み、最後に「適合」を行います。この時、「噛み合うか」がランダムに判定されます。

結果の格差:

大成功: 持ち主の魔力回路と完全に同期し、性能が限界突破する。専用の固有スキルが発現することも。

成功: 想定通りのギミックが動作する。

失敗: ギミックが作動しない(ただの鉄塊になる)、あるいは暴発して武器が自壊する。

なぜ「闇」なのか:
成功率は明記されておらず、どれだけ熟練の機械師が作っても、最終的には「神のいたずら」のような運に左右されます。費用は前払いであり、失敗しても「材料費と溶鉱炉使用料」は一切返金されません。

「一発逆転」を夢見る中毒者たち:
「おい聞いたか? あの新人がただの剣をガチャにかけて、大当たりを引き当てたらしいぞ!」
「マジかよ……俺も今の剣、次のダンジョンで稼いだらガチャるんだ。成功すればランクが二つは上がるしな!」

地獄を見た「負け組」たち
「……もう二度とやるか。三ヶ月かけて貯めた金が、カチリとも言わない鉄の棒になったんだぞ」
「俺は五回挑戦して、五回とも自壊した。機械師(マシンナリー)なんて、冒険者の夢を食い物にするペテン師だ!」
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