あ。
見つけちゃった。
戦闘が終わったばっかの戦場。
血のにおい。そこら中に転がってる鎧と死体。
俺はいつも戦闘が終わると死体を探して回る。
荷物持ちとか掃除とか、そういう雑用。
魔術師なのに前線じゃ役に立たないから。
今日も死体漁ってたら。
金色。
見えたんだよ、ポニーテール。
どくん、って心臓が嫌な音立てた。
嘘だろ。
お前、死ぬようなやつじゃないだろ。
俺の名前はクロード。
帝国軍所属、階級は……一番下。
陰キャ魔術師。友達ゼロ。趣味は一人で魔法研究。
なぜかコイツだけは、そんな俺に話しかけてきた。
『おーいクロード!今日も暗い顔してるな!』
『ほら、スープ。飲め飲め。お前いつも食わないだろ』
『え?役立たず?はは、誰が言ったんだそれ。ぶっ飛ばしてやろうか?』
男かよって感じの。
いや、見た目はめちゃくちゃ女。
金髪ロングのポニテ。
青い目。
鎧の上からでもわかるデカい胸。
顔も綺麗だと思う。
でも口調が脳筋。
貴族ってわけでもないのに、やたらと正義感つよい。
弱いやつ見ると放っとけないタイプ。
俺みたいな根暗で陰気な魔術師にも……。
で、今。
アリシアは冷たくなってた。
胸のあたりに剣が突き刺さった跡。
鎧、ぼろぼろ。
血が固まって、金髪が赤黒く染まってる。
「……おい」
声かけてみる。
返事ない。
わかってる。死んでるって、わかってる。
「ばかだなお前。一人で突っ込んだんだろ。知ってる。お前そういうやつだからさ……」
味方の何人もが倒されて、それでもコイツだけは前に進んで。
かっこよかった。
うん、かっこよかったよ。
でも、死んだ。
「……くそ」
周りを見る。
他の兵士たちはみんな死体漁りに夢中だ。
俺がここにいることを誰も気にしてない。
チャンス、って思った自分がいる。
最低だな、俺。
でも。
アリシアの身体を、ここに置いていくのも嫌だ。
野ざらしにして、烏につつかれるとか、ありえない。
俺は腕を伸ばして、彼女の身体を持ち上げた。
重い。
鎧のせいもあるけど、人の身体ってこんなに重いんだな。
生きてる時は、もっと軽そうに見えたのに。
「……運ぶぞ」
死人に話しかける俺。
もうおかしいのかもしれない。
戦場からちょっと離れた場所に、廃教会があった。
前に偵察で見つけてた。
屋根は半分崩れてるけど、隠れるには十分。
アリシアを床に寝かせる。
鎧がガチャガチャうるさい。
ちょっとイラっとして、外した。
チェストプレート、ショルダーガード、ガントレット……。
全部外したら下はボロボロの布と、包帯と、傷。
無数の傷。
古いやつも、新しいやつも、たくさん。
「……お前も、がんばってたんだな」
知らなかった。
いつも笑ってたから。
弱いとこ、全然見せなかったから。
俺は静かに彼女の身体を床に横たえた。
床は冷たい石だけど、我慢してくれ。
それから水魔法を使った。
落ちこぼれ魔術師の俺にできることなんてこれくらいだ。
空気中の水分を集めて、彼女の身体をきれいにしていく。
血を落として。
汚れを拭いて。
髪をとかして。
金髪が、ちょっとずつ元の色を取り戻していく。
「……綺麗だ」
口に出てた。
死んでるのに。
目、閉じてるのに。
それでも、綺麗だと思った。
生前は絶対に言えなかった言葉が、今なら出てくる。
ああ、クズだな俺。
で、気付いた。
視界の端っこに、彼女の胸。
……デカい。
いや、知ってたけど。
鎧越しでもわかってたけど。
こうして布越しだと、主張がすごいというか。
俺は一応、男で。
アリシアは一応、女で。
……いや、「一応」じゃないな。完全に女だ。おっぱいあるし。
どくん、どくん、心臓がうるさい。
「ばかやろう、俺。死んだやつ相手に、なに考えてるんだ」
わかってる。
最低だってわかってる。
でも。
でも、アリシア。
お前、俺に優しくしすぎたんだよ。
『クロードの魔法すごい!お前は役に立ってるんだから!もっと自信もて!』
あんなこと言われて。
あんなに笑いかけられて。
何も思わないわけ、ないじゃないか。
──俺は多分、この時もうおかしかったんだと思う。
右手を伸ばして。
彼女の髪に触れて。
それから、頬に。
冷たい。
当たり前だ、死んでるんだから。
でも、柔らかい。
生前、一度も触れたことなかった。
当然だ、俺なんかが触っていい相手じゃない。
アリシアは誰にでも優しい人気者で。
俺は誰からも相手にされない陰キャで。
だから。
だから、今なら。
「……ちょっとだけ」
俺は自分に言い訳して、彼女の唇に、自分の唇を押し当てた。
冷たい。
返事はない。
それだけで涙が出てきた。
「お前のせいだからな。お前が、優しくするから。期待して、調子に乗って、それで……」
死んでから好きだって言うとか。
ほんと、俺はどうしようもない。
口を離して、彼女の顔を見る。
何も変わらない。
笑ってもいないし、怒ってもいない。
ただ静かに、目を閉じてるだけ。
「アリシア」
「俺、お前にしていいか?」
生前は絶対にできなかったこと。
そもそも、言い出す勇気もなかったこと。
でも今は。
誰も見てないし。
アリシアも文句言わないし。
「いいよな?」
「お前、優しいから、許すよな?」
返事はない。
俺は、それを「はい」ってことにした。
震える手で、彼女の布に触れる。
包帯を外して。
傷だらけの肌が見えて。
それでもやっぱり、綺麗で。
「ありがとな、アリシア。最後に、俺のものになってくれて」
ああ、でも。
俺のものになるのは、これからだ。