※この作品はR-18です。

結構仲の良かった女騎士の遺体を戦場で発見したとき   作:うお

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14.黒騎士には勝てない

黒騎士のいる門まで、再び足を運んだ。

 

あれから二日かけて平原を迂回し、慎重に近づいたのだ。

 

門から三百メートルほど離れた骨の丘の影に身を潜めて、俺は鑑定魔道具を取り出した。レンズ越しに、あの黒い甲冑を見据える。

 

「頼むぞ、ちゃんと表示してくれ」

 

レンズの表面に、光の文字が浮かび上がる。俺は息を呑んで、それを読んだ。

 

『黒騎士デュラハルト / 上級アンデッド(デスナイト) / LV.54 / 魔力値:1270 / 主:腐敗女王ゼーレン』

 

『ステータス:HP 4200 / MP 980 / STR 410 / VIT 530 / INT 85 / AGI 180 / DEX 210』

 

『スキル:大剣術(極)、暗黒斬撃(上級)、不死再生(上級)、威圧(中級)、門番の誓約(固有)』

 

『弱点:主からの魔力供給断絶、聖属性魔法 / 状態:門番(永続的警戒) / 装備:呪われた黒騎士の大剣、黒曜石の全身鎧』

 

『備考:生前は名のある騎士だったが、死後腐敗女王に拾われ配下となった。門番の誓約により、この門を通過しようとする者を無差別に排除する。戦闘能力は生前を遥かに凌駕する。』

 

「は?」

 

声が裏返った。

 

レベル五十四。四千二百の体力。筋力四百十。なんだこの化物は。生前のアリシアだってレベル三十一だったんだぞ。

 

おまけに大剣術が極だと。極だぞ。達人ってレベルじゃない、人間の領域を超えてる。いや、人間じゃないけど……。

 

「無理だ」

 

俺はレンズを下ろして、改めて黒騎士を肉眼で見た。門の前に直立不動で立つ漆黒の巨体。

 

兜の奥で赤い光が揺らめいている。こいつを正面から倒すなんて、今の俺にできるわけがない。

 

「でも、いつかは倒さないと先に進めないんだよな」

 

黒騎士の主、「腐敗女王ゼーレン」。聞いたことのない名前だった。禁書にも出てこなかったはずだ。塔の主なのか、それとも別の階層に存在する何かなのか。

 

いずれにせよ、この黒騎士を従わせている時点で、とんでもない相手であることは間違いない。

 

「腐敗女王、か。趣味の悪い名前だな」

 

俺は眉をひそめた。でも今は深く考えても仕方ない。まずは目の前の黒騎士に勝つ方法を見つけることだ。

 

「撤退だ、アリシア。まだこいつには挑めない」

 

俺たちは音を立てないように注意しながら、門から離れた。黒騎士は微動だにしなかった。

 

こちらの気配を察知しているのかもしれないが、門から離れる分には追ってこない。門番としての役割に忠実なのだろう。

 

十分に距離を取ったところで、俺は立ち止まった。

 

「さて、どうするか」

 

黒騎士に勝つためには少なくとも三つ課題がある。

 

一つ目は攻撃力だ。俺の風刃はスケルトンには効いたが、あの黒騎士にはまず通らない。

 

装甲が厚すぎる。もっと強力な攻撃手段が必要だった。死霊術の中に防御を貫通するような術式はないだろうか。

 

二つ目は防御力だ。今の俺は素の人間と変わらない。あの大剣の一振りで即死する。

 

アリシアに盾になってもらうわけにはいかない。彼女だって今は生きている時よりずっと脆いのだ。

 

三つ目は再生を止める手段だ。レンズの情報によると、黒騎士には「不死再生」のスキルがある。弱点として「主からの魔力供給断絶」とあったが、どうやって断絶すればいいのかわからない。

 

「とにかくもっと強くならないと。この平原に、使えるものはまだあるはずだ」

 

俺は地図を広げた。黒い木はすでに見つけた。黒騎士の門もわかった。穴も見つけた。でも、まだ見ていない場所がたくさんある。

 

地図の端の方には、別の記号もいくつか書き込まれている。崩れた塔のマーク、何かの生き物らしき落書き、それから「泣き声」とだけ書かれたメモ。

 

「全部回ってみるか。何か一つくらい、役に立つものがあるだろ」

 

俺はまず、崩れた塔のマークがついた場所に向かうことにした。地図によれば、ここから北東に歩いて数時間の距離だ。

 

「行くぞ、アリシア。俺は諦めてないからな。むしろ、あの化物を見て逆に燃えてきた。お前を連れて、絶対にあの門を超えるんだ」

 

骨の平原を北東へ歩き出す。アリシアは黙って隣を歩いている。ステータスがわかってからというもの、彼女の一歩一歩が、今までよりも重みを持って感じられた。

 

この身体には確かに、生前の彼女の痕跡が刻まれている。魂はなくとも、器は本物だ。

 

「なあ、アリシア。お前の生前のステータス、すごかったな。筋力三百十二だぞ。俺の魔力値と比べても桁が違う。そんなすごい女が、なんで俺みたいなのに優しくしてくれたんだろうな」

 

彼女の手を握る。冷たい指が、俺の手の中でかすかに動いた。術式のせいだ。それ以上の意味はない。でも俺は、彼女が握り返してくれたんだと思うことにした。

 

「俺もお前を守るよ。もう死んでるけど、お前の身体がこれ以上傷つかないように守る。魂はなくても、身体だけは絶対に失わない。俺のものだし、俺が守る」

 

歩き続ける。灰色の空の下を、二人の足音だけがぺたぺたと響いていた。

 

「ところで、腐敗女王ゼーレンって誰なんだろうな。黒騎士を配下に置けるくらいだから、かなり高位の存在だとは思うけど。俺たちが目指すべき相手なのか、それとも避けるべき相手なのか。今のところは後者だろうな」

 

でも、いずれは関わることになるのかもしれない。この塔を攻略するということは、そういう存在と対峙することを意味しているはずだ。

 

「まあ、その時はその時だ。まずは目の前の課題からだな」

 

北東に歩き続けること二時間ほど。

 

前方に、崩れた塔が見えてきた。といっても屍の塔のような大規模なものではなく、せいぜい五メートルほどの小さな塔だ。

 

半分以上が崩れ落ちていて、基礎部分と一階部分の壁だけが残っている。周囲の骨は不自然に煤けていて、かつてここで火が使われた痕跡があった。

 

「ここが地図にあった崩れた塔か」

 

俺は慎重に近づいた。塔の内部には、誰かが野営した痕跡があった。焚き火の跡、破れた毛布、空の瓶がいくつか。それから、壁に文字が刻まれている。

 

『我は屍の塔の探索者なり。ここに記す。一階層の真の名は「万骨平原」。無限に続く死の大地。出口は黒騎士の門のみ。しかし黒騎士は死霊王の忠実なる僕。倒す術はただ一つ。同じ死霊術で対抗せよ。すなわち、自らの配下を鍛えよ。』

 

死霊王。また新しい名前が出てきた。腐敗女王ゼーレンとは別人なのか、同一なのか。わからないが、少なくとも黒騎士を倒すためのヒントは「自らの配下を鍛えよ」ということだ。

 

「配下か。俺の配下はアリシアだけだぞ」

 

俺は彼女を見た。

 

「でも確かに、お前がもっと強く動ければ、違うかもしれない。今のお前のステータスは生前よりずっと低い。でもこれって、俺の術式が未熟だからだよな。術式を強化すれば、お前のステータスも上がるのか?」

 

試してみる価値はある。いや、それだけじゃ足りないかもしれない。

 

もっと多くの配下を揃えるという手もある。この平原には死体が無数にある。使える死体を集めて、小さな軍団を作れば。

 

「よし、方針は決まった。アリシアを強化するのと、新しい配下を探すのと両方だ」

 

俺は壁の文字を指でなぞりながら、笑った。

 

「やれるだけのことはやってやる。黒騎士だけじゃない、腐敗女王だか死霊王だか知らないけど、塔の主にも喧嘩売ってやる。俺はアリシアに相応しい男になるって決めたんだ。誰にも邪魔はさせない」

 

アリシアは静かに俺の隣に立っている。俺は彼女の肩を抱いて、崩れた塔を後にした。

 

「さて、次のポイントに行くか。地図にはまだ『泣き声』ってのもあるしな」

 

俺たちは再び骨の平原を歩き出す。地平線の彼方に、黒い門と黒騎士の影が、かすかに見えた気がした。

 

今はまだ遠くから見ているだけだ。でもいつか、あそこに立って、あいつを倒して、俺は次の階層へ進むんだ。

 

「待ってろよ、黒騎士。俺のアリシアを、誰よりも強くしてやるからな」

 

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