岩場を抜けて、さらに北へ。
屍の塔らしき魔力の気配は強くなっている。もう遠くない。山の稜線がくっきり見えて、空気が薄くて冷たい。
「もうすぐかな」
俺は隣を歩くアリシアに話しかけた。返事はない。もう慣れた。
そのときだった。
風向きが変わって、臭いがした。血の臭い。それも新鮮なやつじゃない。何日か経った、甘ったるい腐臭だ。
「村……」
小高い丘から見下ろすと、十軒ほどの小さな集落があった。煙は上がっていない。人の気配もない。あるのは、カラスの群れだけだ。
俺はアリシアの外套を直して、フードが深くかかるようにした。
「様子が妙だな……」
死体の彼女を連れて、俺はゆっくりと村に近づいた。
門は壊されていた。柵は倒され、井戸のそばには男の死体が転がっている。腹を抉られて、目を見開いたまま死んでいた。農民だろう。手には鍬を握ったままだ。
「三日か四日、ってところか」
死体の状態からそう判断した。野党はもう去った後だ。村には静けさだけが残っている。カラスが俺たちを見て、警戒したように飛び立った。
通りを進む。死体があちこちに転がっていた。老人、女、子供。全員が斬られたり、刺されて死んでいる。女たちの死体はスカートがまくられていて、何をされたかは一目でわかった。
俺は足を止めなかった。
どいつもこいつも、アリシアみたいじゃない。ただの肉塊だ。俺が気にする価値はない。
でも物資は欲しい。野党が残したものがあるかもしれないし、村の蓄えが手に入れば旅が楽になる。
「少し漁るぞ」
アリシアは俺の後ろを歩き続ける。死体だらけの通りを、まるで気にしていない。当たり前だ。彼女も死体だから。
俺は一軒ずつ家を覗いていった。どこも荒らされている。食料はほとんど持ち去られていた。金になりそうなものもない。くそ、貧しい村だ。
最後の一軒。村はずれの、小さな家だ。他よりは多少、形が残っている。ドアは半開きだった。
押し開けると、むっとする臭いが鼻をついた。血と汗と、あともうひとつ。精液の臭いだ。
室内は薄暗い。机が倒れて、食器が散乱している。そして、部屋の隅に、彼女はいた。
若い娘だった。
村娘らしい粗末な服を着ていたが、今はその服も引き裂かれて、ほとんど裸に近い。彼女は仰向けに倒れていて、脚を無理やり広げられた姿勢のまま硬直していた。顔は恐怖で歪んで、涙の跡がこびりついている。首には手で絞められたような青黒い痣があった。
そして股の間からは、血が固まって黒く染みを作っていた。何度もやられたんだろう、太ももの内側は白く濁った液体の跡で汚れている。腹の上にも、胸の上にも、顔にも。精液まみれだった。
俺は彼女の死体をじっと見つめた。
かわいそうに、と思う自分がどこかにいた。でもそれは小さくて、遠くて、すぐに消えた。
その代わりに、別の感情がむくむくと湧いてくる。
「お前も、好きにされたのか」
呟く。
何度も何度も、知らない男たちに。たぶん一人じゃない。十人か、二十人か。順番に、好き放題に、嫌がる彼女を押さえつけて。
怖かっただろう。痛かっただろう。死にたくなかっただろう。
でも。
それでも。
俺の目は、彼女の股の間の血の跡と、白く濁った精液の跡から離せなかった。
どくん、と心臓が跳ねる。
これは興奮だ。
「はは」
笑いがこぼれた。最低だ。わかってる。でも仕方ない。俺はもうとっくに、まともじゃないんだ。
「なあ、アリシア」
俺は後ろに立つ彼女に話しかける。
「お前はよかったよな。俺で。俺一人で。こんな風に、大勢の奴らにめちゃくちゃにされなくて。最後に触ったのが俺で、今も俺だけで」
アリシアは何も言わない。目を閉じて、静かに立っているだけだ。
俺は村娘の死体にもう一度視線を落とした。
彼女の胸は小さくて、アリシアとは全然違う。身体も華奢で、鎧なんて着たことないんだろう。畑仕事で日焼けした肌と、無骨な手。
でも、若い。死んで数日経っているのに、腐敗はまだ進んでいない。空気が乾燥してるからか、それとも単に死んで間もないからか。
「お前、名前はあるのか」
返事はない。当たり前だ。
俺はしゃがみ込んだ。彼女の顔をまじまじと見る。恐怖の表情が固定されて、かわいそうなくらい歪んでいた。でも、目鼻立ちは悪くない。生きていればそれなりに可愛かったのかもしれない。
「怖かったよな。痛かったよな」
俺は彼女の冷たい頬に触れた。
「でも、もう痛くないだろ。もう怖くない。だってもう死んでるから」
娘の顔にかかった髪を払ってやる。茶色い、ぱさついた髪だ。
アリシアみたいな絹みたいな金髪じゃない。でも、俺の手は自然と彼女の身体の方を向いていた。
「お前も、かわいそうだけど、でもこうなったらもう同じだ。生きてようが死んでようが、関係ないんだよ。大事なのは、綺麗かどうか、それだけだ」
俺は彼女の引き裂かれた服を完全に取り除いた。やせっぽちの鎖骨、小さな乳房、あばらのうっすら浮いた胸元。傷だらけだ。抵抗したんだろう、腕には掴まれた跡がくっきり残っている。
「よく頑張ったな」
俺は言って、彼女の乳首に触れた。死後硬直は解けている。冷たくて、でも柔らかくて、ちゃんと女の身体だった。
「なあ、アリシア。俺さ、今すごく思ってるんだ。お前だけじゃなくて、この娘も綺麗だって。最低かな。でもさ、死んでるから、綺麗なんだよ。生きてたらきっと、俺なんか見向きもしない。でも死んでるから、俺の好きにできる」
俺は立ち上がって、自分のローブを脱いだ。もう勃っていた。
「ちょっとだけだ。ちょっとだけ、この娘と遊んでいく。嫉妬するか、アリシア」
もちろん返事はない。
俺は村娘の脚を広げた。硬直は解けているから、力を入れればちゃんと開く。
乾いた血の跡と、固まった精液の痕。膣口は少し開いていて、中は暗くてよく見えない。
「荒らされてるな、お前の中。でも構わない。俺はそんなの気にしないから」
俺は彼女の中に自分のモノをあてがった。乾いている。死体に挿れるのは、ちょっと力がいる。
でもアリシアで慣れている。ぐっと腰を押し込むと、ずぶり、と亀頭が入った。
「あ」
声が出た。アリシアとは違う感触。もっと狭い。それに、乱暴にやられたせいか、中が少し傷ついている。その傷のざらつきが、逆に俺を刺激する。
「お前、きついな。若いからかな」
腰を奥まで入れる。娘の小さな身体が揺れた。
「アリシア、見てるか。俺は今、別の女を抱いてるぞ。でも気にしないよな、お前は死んでるし、嫉妬もしない。それがいいんだ。お前のそういうとこが、俺は好きなんだよ」
俺は腰を振り始めた。乾いた肉同士がこすれる感触。それがむしろ、生きた女よりずっと扇情的だった。死体は抵抗しない。嫌がらない。拒まない。全部を受け入れてくれる。
「お前も村娘も、アリシアも、みんな同じだ。死んでるから俺のものだ」
部屋の中に俺の荒い息だけが響く。アリシアは入り口のところでじっと立っている。
外套を被って、顔は見えない。でも俺にはわかる。彼女は俺を見ている。見ていてくれている。
「アリシア、アリシア、やっぱりお前が一番だ。でもこの娘も、悪くない。お前がいなかったら、この娘を連れてったかもしれないな。でも俺にはお前がいる。俺が欲しいのはお前だけだ」
俺は村娘の中で射精した。どくどくと熱いものが、彼女の死んだ胎内に流れ込んでいく。
「は、は」
息を整えながら、俺は自分のモノを抜いた。精液が、彼女の膣口からとろりと溢れ出す。野党のものと、俺のものが混ざって、どろどろだ。
俺は立ち上がって、服を着た。
「ありがとうな、名前も知らない娘さん。お前のおかげで、ちょっとすっきりした」
俺は彼女の顔にかかった髪をもう一度払ってやって、それから近くに落ちていた布をかけてやった。顔だけは隠してやる。せめてもの情けだ。
「行くぞ、アリシア」
彼女は俺の声に従って、くるりと向きを変えた。
家を出る。外は相変わらず静かで、風だけが吹いている。カラスが一羽、屋根の上で俺たちを見下ろしていた。
「俺はさ、死体が好きなんだと思う」
通りを歩きながら、アリシアに話しかける。
「生きてる女はダメだ。俺を見ないし、俺に期待しないし、俺を拒む。でも死体は違う。全部受け入れてくれる。お前がそうだったから俺はこうなったんだ。お前のせいだぞ、アリシア。お前が死んで、でも俺の前から消えなくて、俺を受け入れ続けてくれるから」
彼女は歩く。無言で、ただ俺の隣を。
「でもそれでいい。俺はお前がいればそれでいいし、たまにこうして別の死体と遊ぶのも悪くない。世界には死体がたくさんある。戦争も野党も、たくさん殺す。俺はそのおこぼれをもらうだけだ」
村の出口に着いた。倒れた門を跨いで、外に出る。
後ろを振り返ると、あの村はただの死体置き場だった。でも俺には、ちょっとした遊び場でもあった。
「悪くない寄り道だった」
俺は笑った。
「屍の塔に行く前に、いい気分転換になったよ」
山脈に向かって、また歩き出す。アリシアが後に続く。空は灰色で、風が冷たい。でも俺の身体はまだ熱かった。
「なあ、アリシア。屍の塔に何かを見つけたら、お前をもっとちゃんと動かせるようになるんだよな。そしたら、お前、俺に何て言ってくれる?怒るか?それとも、やっぱり笑ってくれるのか?」
もちろん返事はない。
でも、俺の隣で彼女が一歩、また一歩と歩いている。それだけで俺は満ち足りていた。
「まあ、どっちでもいい。お前が動いて、俺の隣にいてくれれば。それだけで俺は、世界で一番幸せなんだ」